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錬成するなら先ずはレベル上げ

 カイルに依頼の傷薬を届ける為に酒場に行くと、丁度仕事帰りのカイルに出会した。仲間の冒険者と一緒に酒場で夕飯を食べようとしたのだろうが、一昨日見た時より汚れや怪我が目立つ。


「あれ、マルちゃん」

「カイルさん! ご注文の品、届けに来ました」


 いそいそと鞄から傷薬を渡すと、カイルは驚いたような顔をして傷薬を受けとる。見慣れた傷薬を手にし、カイルは感心したように驚く。


「こんなに早く持ってきてくれるなんて、すごいねマルちゃん」


 褒められることになれていないマルは照れくさそうに笑う。その場面を一人の男が見ていた。


「ほう、本当に錬金術師なんだな」

「ジャッカル」


 ジャッカルと呼ばれたこの男は、カイルと同じパーティーで前衛で活躍する剣士。優男風なのはカイルと変わりないが、無駄な筋肉を付けていないだけで百戦錬磨なみの雰囲気を漂わせる。この世界には珍しい黒色の髪に青色の瞳。整った顔立ちは、女性冒険者に人気らしい。


「錬金術師の卵と聞いてどんな奴なのかと思えばまだ子供。しかし仕事は早い」


 品定めするかのようにマルを頭から爪先まで眺める。その目に一瞬圧され足が一歩下がるマルに、カイルがジャッカルは怖くはないと教えてくれた。

 人を観察するのが趣味らしい。


「悪い奴じゃないよ。寧ろパーティーでは皆を守ってくれる頼れる奴なんだ。口はたまにキツいけどね。これで甘い言葉の1つでも言えたら女の子が寄ってくるのに」

「余計なお世話だ。女等に寄られても鬱陶しいだけで害にしかならない」


 ばっさりと言い切るジャッカルに苦笑いしか出ない。女性嫌いなのであろうか?


「卵。お前は装飾品は作れるか?」

「え、装飾品は……まだ作れません」

「使えん卵だ」


 使えないと言われ落ち込むマルをカイルは宥める。

 装飾品を作るには錬成しなければならない。それには魔力が必要となる。薬の調合をするには魔力を必ずしも必要されるわけではなく、知識と技術さえあれば一般の者にも作れるだろう。

 しかし魔力を使って調合すれば品質を高めることが出来、より高い効果を望める。魔力による調合は精密度を求められ、錬金術師にしか出来ないとされているのだ。

 何故ならば、魔力を扱うのは危険が伴うからである。一歩間違えれば待っているのは死。その為師の下で学んだ錬金術師以外が、魔力を使っての調合、錬成は国の法律で禁止されている。

 魔力を使っての作業はレベル5以上からと定められ、今のマルでは錬成をすることが出来ないのだ。


「もうちょっとでレベルが上がると思うので、そしたら錬成出来ます。その時は装飾品を作りたいと……」


 マルの師匠の課題の中に『装飾品3品以上錬成』というものがある。早い段階でレベルを5まで上げ、装飾品を錬成しなければ今月中に課題を達成出来ないだろう。兎に角レベルを上げないことには作ることも出来ない。


「……俺が欲しいのはガントレット。今使っているのが少しガタが来てな。直すのもいいが、この際新調しようと思っていたんだが。今この村の加治師が街に出稼ぎに出て不在中なんだ」


 加治師とは主に武器や防具を製産、修理をする職業であり、冒険者にとってなくてはならない職業だ。


「出稼ぎ?」

「この村に滞在している冒険者の数は精々二・三十人。そんなにすぐに壊れる訳じゃないから、加治屋を活用する機会は少ないんだ。生計を立てる為に調理用の包丁とかも扱ってたんだけど、それだけじゃ食べていけないみたいでさ。だから街に作った武器や防具を売りに行ってるんだよ」


 タザム村の近辺には、物珍しいものがある訳でもダンジョンがある訳でもない。至って普通であり平和なのだ。それは決して悪いことではないのだが、人が行き交わない村での商売は難しい。多くの富と名声を求めるなら、都会へと行くべきだろう。


「カイルさん達もいつか街に移り住もうと考えているんですか?」

「いつかはね。ただ今の俺達が行っても返り討ちに合うのが関の山。此処でしっかり実力を付けてから行くつもりだよ」


 タザム村の近辺のモンスターは比較的レベルが低く、平均レベル20前後。駆け出しの冒険者にとってはうってつけである。


「卵。お前のレベルが上がり、ガントレットが作れるようになったら頼もう」

「その時はよろしくお願いします」


 カイルから傷薬の代金を貰い、手のひらに乗せられた銅貨を見つめる。初めて自分で稼いだのだ。それも錬金術師の卵として作った薬で。それはどれほどの喜びであろうか。

 銅貨を握り締め、満面の笑みで喜ぶマルをカイルは微笑ましげに見ていた。マルの喜ぶ姿を嘗ての自分と重ね懐かしんでいるのか、それとも……


「お前ロリコンだったのか」

「ぶっ! はあ!? ちが、ちげぇよっ!」


 ボソリと呟いたジャッカルの言葉はマルに届かず、銅貨を握ったまま謎の躍りを始めた。ホッと息を吐きジャッカルを睨む。


「なに馬鹿なこと言ってんだよ。俺はただ彼女が昔の自分を見てるみたいで、助けになりたいだけだ」

「どうだかな。あまり甘やかしてばかりだと、卵の為にはならんぞ」

「それはそうだけどさ……。最初ぐらいはいいじゃないか」


 独り立ちして初めて知る世間の厳しさ。時には苦しい事や悲しい事もあるだろう。それを経験して人は強くなっていく。いくら駆け出しの女の子といえど、助けてばかりいては本人の成長にはならない。苦難を乗り越えるのも、またひとつの修行なのだ。



 カイル達と別れ、早くレベルを上げようと、持っているイタ草を全て使いきるまで傷薬を作り続ける。味を付けてみたりと工夫しながら。

 そしてついに、


「………レベルが上がってる。そうだ本!」


 鏡の前に映る自分。鑑定眼鏡を使えば視界に映る人物のレベルを見ることが出来る。しかしこれを他人に使うことは褒められたことではなく、嫌悪される行為。勝手に自分の能力を見られることを良しとする者はいないだろう。

 レベルが上がったことを確認し、慌てて初級錬金術師の本を取り出す。以前は薄っすらとしか読めなかった頁が、今ははっきりと読めるのだ。それは即ち、マルのレベルが上がっているという証拠。


「やった……やった、やったぁー! ついにレベル5になったー!」


 カイルに初めて傷薬を売ってから2日。タザム村に来て5日目の朝のことだった。

 読めなかった頁も読めるようになり、今は10頁まではっきりと読める。そこには薬ではない、装飾品のレシピが載っていた。


「銅の腕輪」


 初級中の初級、銅の腕輪。ジャッカルに頼まれたガントレットを作れるようになるには、まだまだ先のようだ。

 然れど、銅の腕輪を作るのに必要なレベルは5。これを作れば、傷薬より多くの経験値を得ることが出来るだろう。

 早速作ろうと、必要な素材の項目を見てマルは固まる。


「必要な物……銅。え、銅?」


 困惑しているが当たり前である。

 銅のみで錬成して出来るお手軽の物。しかしそこが問題だった。


「どうしよう……銅なんてないよ」


 マルが持っている素材の中には銅はない。つまり店で買うか採掘しなければならないのだ。

 節約したい今、自分で素材を採掘しに行くしか他ならない。銅が何処で取れるのか、酒場のマスターに聞きに行くことにした。


「銅? それならカブリネ洞窟だな。あそこは奥に行くほど強いモンスターが出るから気を付けろ。途中に看板が立てられているから、それ以上奥には絶対行くなよ」


 カブリネ洞窟の道順をメモ帳に書き記し、銅を採掘するに必要なつるはしは師匠から貰ったことを思い出す。ヒナサギ草原に持っていった持ち物を踏まえ、銅を持ち帰るとなるとかなりの重量になりそうだ。


「しかしカブリネ洞窟か。手前の方はレベルが低いと言えど、モンスターはモンスター。お嬢ちゃんだけじゃなぁ……採掘に行くなら冒険者を護衛に付けな」


 洞窟の中はモンスターの住か。スライムより強いモンスターが何体もいるのだ。さすがにマル一人だけで行かせる訳にはいかないと、冒険者ギルドに行くよう進める。

 カブリネ洞窟の入り口付近の護衛なら、それほど費用も取られないだろうと言われ、マルは初めて冒険者ギルドへと足を踏み入れることにした。





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