7人に喋りたい事じゃないんだ
お酒は飲んだことないです
トネリコの実は万能の実でした。正直舐めてた。いや、物理的な意味でもね。
「おいおい、そんなにがっつかなくでも誰も取りはしねぇぞ」
「そうだよアガマ。ゆっくり味わって食べないとだめだよ」
実際そのとおりの正論を言われているのだがこれが止められない。なにせとても旨いから手が止まらないのだ。
今テーブルの上に広げられているのは正にトネリコフルコースだった。
ヤシの実程の大きさから何故それほど出てくるのか分からない程の油を用いて作られたトネリコの実を揚げた揚げナスの様な物。皮をすり潰して香りを出した物を鶏肉の様な物に混ぜて茹でたつくねみたいなもの。しっかりとした甘さを残しながらもさっぱりとした薬味に包まれたトネリコの刺身。絞った油から分離して蒸留し、調味料を加えられ、甘辛い照り焼きソースの様なものがかけられたステーキ。そこにハヴェルが十年ほど前からか漬けていたというトネリコの漬物と、トネリコ酒。
どれもこれも今まで味わったことの無い不思議な味わいだったが大変おいしくいただくことができた。
「トネリコの実・・・不思議な味わいだな」
「そうだろそうだろ~?」
ハヴェルは久しぶりに開けた酒を飲んで上機嫌のようだ。漬物もたくあんのような食感とトネリコ本来の油が乗って白身魚のようで日本酒に似たトネリコ酒がよく進む。
どうやって呑んでんのかって?コップ作って浮かせてんだよ。人型みたいに腕や手が無いからこういうときにはこの力がありがたい。
・・・そうだ。エグゾスケルトンみたいに腕を作り上げられないかな。今度実験してみよう。
「おぉ~うアガマ~?俺の酒はどうだぁ~?」
「美味いぞ?」
「そ~かそ~か~っはっはっはっはっはぁ」
呑みすぎだろハヴェル。俺はなんか変な分解のしかたをしてるのか酔えないみたいだ。酔えるハヴェルが少し羨ましくなった。
「アガマ~?お前なかなかに面白そうだよなぁ」
「そうか?」
「レイラインの修復に剣を作り出す力。それに転生者にしては珍しく魔力の扱いが良い」
「まるで見てきたみたいな言い方だな」
「人間五十年さ。これだけ生きてりゃいらない情報でも入ってくるってもんさ」
織田信長みたいなこと言い出したなこいつ。呑みすぎたもんでトリップでもしたのか?そのうち敦盛でも踊りだすのかね。それとも家臣とかに謀反されて焼き討ちされたりとか?
まぁ意味深な事についてはおいておこう。オベリスクの情報にも一介の魔物使いとしか表記されてないんだし警戒する理由も無い。
「じいちゃん寝ちゃったね」
レヒドがそんな事を呟く。おいおい急に静かになったと思ったらこのおっさん酔いつぶれちまったよ。後片付けどうすんだよ。糸使えばできなくはないけど皿の場所とかどうすんだよ。俺しらねぇぞ?
「アガマ!一緒に片付けよ!」
「お、おう」
レヒドはいろいろと知っていたらしい。孫だからなのか?いや、俺はばあちゃん家の食器配置なんて覚えてなかったぞ?このおっさんはしょっちゅう酔いつぶれてんのか?
「なあレヒド」
「なにアガマ」
あ、今の熟練夫婦の会話みたい。
「ハヴェルはいっつもこうなのか?」
「いっつもじゃないよ?たまになってるけど」
ええ子じゃ。ええ子がここにおる。こんな孫を持ててハヴェルは幸せ者だな。
「でもね。今日みたいに笑いながら飲んでる事は少ないんだ」
「そうなのか?」
「うん。いつもは悲しそうな顔してたり泣いてたりする」
んん!?これはずいぶんとヘビーな内容になるのでは?たとえば死んだおばあさんを悲しんでるとか、息子か娘なりが死んだのを悲しんでるとか。特にそれが自分の不注意によるものだったりしたら本人にとっては拭い切れない傷になって苦しめ続けるとか。
「じいちゃんね。二十年前の事件をきっかけに歳をとらなくなったって言ってた」
ほーらやっぱりヘビーな話だ。嫌なんだよなぁ重たい話。
「じいちゃんは昔は強い冒険者だったんだって。それで後衛の呪術師兼魔術師だったおばあちゃんと仲良くなってお父さんが生まれたんだ。」
あーこれはばあちゃんか親父さんが死んだりするタイプの流れだ。ネタバレすんなって?気にすんな。もしかしたら生きてるかもしれん。
「ギルドから依頼された豪龍討伐の為にカルゲヴィラル山を登ってた時におばあちゃんが足を滑らせて落ちかけたんだ」
あーおばあちゃん死にましたわーたすかりませんわー。
「ばあちゃんをじいちゃんが引き上げた時に豪龍が現れたんだ。背中を向けてたじいちゃんは気づくのが遅れて豪龍に弾き飛ばされたんだ」
んん?このままだとハヴェルも死んでる事になるよね。崖下に落っことされてるよね?おばあちゃんは言わずもがな豪龍に殺されENDかな?
「じいちゃんは弾き飛ばされた先で岩が胸に刺さって死んだ・・・はずだったんだよ」
ほらやっぱり!じゃあなに?ハヴェルはアンデットかなんかなの?これからはハヴェル!?殺されたんじゃ!?って弄ればいいの?やらないけど。
「でもじいちゃんは帰って来たんだよ。胸に大穴が開いた状態で一人で山を降りてきたんだよ」
「・・・どうやって?」
「分からない。じいちゃんも話そうとしないし私達もつらい話を聞きだしたいわけじゃない」
「・・・ちなみにおばあちゃんは?」
少し気が引けたが気になった事なので聞いておきたかった。もしそうならハヴェルには気を使ってやらなければならない。
「生きてたよ」
「・・・やっぱりそうか・・・は?」
「生きてた」
「マジ?」
「マジ」
おばあちゃん生きてたよ。でも過去形だよ。
「じいちゃんが落とされたあと豪龍を仇とか言って殴り殺したって。じいちゃんが生きてたって分かった後笑いながら話してたってお父さんが」
「後衛なのに?」
「うん」
うわぁおばあちゃんつよい。オベリスクの情報で豪龍について調べてみたところ・・・。べらぼうに強い。俺が逆立ちしようがなにしようが勝てる気のしないスペックを誇っていた。
「おばあちゃんは十年位前にガンって言う病気になってね」
「癌・・・それは医者からの宣告か?」
「じいちゃんが言ってたよ」
ハヴェル・・・お前、なんだかきな臭くなってきたな。お前は一体何者なんだ?何故癌を知っていた?何故それを見極める事ができた?何故、お前は生きていた?
これで一介の魔物使いだと?オベリスクの情報もいい加減だな。これからは信用しすぎないほうがいいかもしれんな。
「お話はここまでだよ。あんまりね、人に喋りたい事じゃないんだ」
「そうか・・・すまなかったな」
「いいんだよ。私は君のことが気に入ったから話したんだ」
レヒドは本当にいい子だ。こんな良い孫を持てたんだからさぞ幸せだろうな?
なぁ、ハヴェル?