5作ると腹が減る・・・みたいな?
「ありがとう!アガマさん!」
子供達の礼を全身で受け止める。
どうやらトネリコはこの地域の気候と魔力でしか育たず、希少価値が高い上にしっかりとした木材で、高級住宅の基礎や柱、調度品になり、特に質の高いトネリコは数が少なく、それこそ小国や島が買える位の値段で取引されるそうだ。
つまり結構一大事だったわけだ。
「まぁ気にすんな。お前がレイラインをどうにかできなくても一時的な処置位はできたからな。その場でなんとかできれば言うこと無しだがなかなかできることじゃない。普通は近くの国境騎士団か隣国の魔術導師に依頼がだされるんだ」
・・・とまぁ、そんな大事なのにぽっと出の俺にやらせたらしい。まぁ、結果よければなんとやら。できたんだから深くは考えないでおこう。
「そうそう。聞きそびれたがアガマ。お前の力はどういうものだ?」
帰りの荷馬車のなかでハヴェルがそんな事を口にする。
「いや、言いたくないなら言わなくてもいいんだ。ただ、魔物使いとしては手持ちの魔物がどういうことができるのか、ある程度把握しとかなきゃならない」
ふむ・・・確かにその通りだ。確かに自分が使う手札の効果は知っておきたい。
この世界での力とは、どうやら固有の物で、少なくとも同じ能力は無いそうだ。それもオベリスクの知識に入っていた。
ただ、例外はある事にはあるようだ。例えば他者の力を吸収するようなタイプの力の場合は少なからず劣化はするものの相手の力を奪い取り、行使する事ができるらしい。
「いつかお前が何かをするために隠しておきたいのなら深くは聞かないつもりでいる」
ハヴェルは数少ない・・・と言うか現状唯一信頼できる人間だ。裏切る理由は無い。
だが勇者。てめぇは駄目だ。
「一部だけ教える。こちらも隠し玉をもっておきたいからな。それで問題は無いか?」
「あぁ。構わない」
別に勇者に反逆したいわけではないが、何かあったときの奥の手は用意しておきたい。
・・・だとしてもどう説明したものか・・・。
俺の力はどうやら色々なものを作る代わりに魔力、もしくは他のエネルギーを消費すると言うもので魔力自体も作れない事は無いが増えるわけはなく、むしろ減るのでやる必要がない。どのみち代償が空腹と言うのもなんとも虚しい力だろうか。
「あー・・・まぁ・・・色々作れる・・・的な?作ると腹が減る・・・みたいな?」
「ほほう。なかなかに面白い力だな。その力であのオベリスクをどうにかしたわけか」
「まぁ、そんな所・・・かな?」
「歯切れが悪いな。ま、言えないなら言えないでいいさ」
ハヴェルが見切りのいい奴で助かった。代償有りとは言え、実体の有るものは大半が作り出せると知られればどう利用されるのかわかったもんじゃない。
それに隠し玉の事もある。オベリスクから吸い出した何か。詳しく解析をするには展開する必要があるのだが・・・。規模からしてどうにも不穏なものだ。できれば使う機会が来ない事を祈ろう。
「そうだ。レヒドへの土産として去年取れたトネリコの実をいくつか貰ったんだが・・・食べるか?」
「良いのか?」
トネリコ自体が貴重なのにその実ともなるとそれこそとても貴重なものじゃないのだろうか。
「あんまり有りすぎても俺とレヒドじゃ食いきれんからな。代償が空腹なら多少腹一杯にしてても問題は無いんじゃ無いかと思ってな」
そう言ってハヴェルは今乗っている荷馬車の後ろにあるもう一つの荷馬車に向けて顎をしゃくる。
「荷馬車一台分。二人で一日一個食っても何ヵ月かかるかわからん。なら、捨てるよりも有効活用出来ればなと思ってな」
「他の魔物にはやらなくていいのか?」
「魔物は基本的に空腹を感じないんだ。アガマが少し例外なだけさ」
魔物が空腹を感じないって言うのなら俺には集ってカニバリしてたクレイヴはどうして俺を食ってたんだ?
「魔物は空気中や水中、地中に溶け込んだ魔力を吸収して生存しているんだ。中にはレイラインに直接取り付く奴もいるがな。そして生物は少なからず魔力を持っている。飯を食わなくても生きてはいけるが、飯の方が魔力の吸収効率が良いようでな」
ははーん。それで俺が食われてたわけか。納得のいく説明どうも。
「じゃあ俺の空腹は?」
「問題はそこだ。もしお前の力の代償が本当に空腹なら食事が必要になる。だが、食事から得られる魔力を代償としているなら代用は結構効きやすい。例えば・・・そう、トネリコの実とかな」
「あれだけの量を食うのか?」
山積みになっている実を見てすこし辟易する。腹のなかで魔力変換されるとしてもあれだけの量を食うのは少々どころかかなりきつい。
「トネリコの実は普通に食っても旨いし料理しても旨い。そんな万能食材みたいなもんだが、その実体はレイラインからトネリコの幹が吸い上げた魔力をたっぷり含んだ物でな。回復薬や魔力回復薬の素材にも使われる、正に万能の実だな」
それはまた凄いものを大量に貰ったもんだ。それであの村々は大丈夫なのだろうか。それとも、こう言うときのために大量にとってあるのだろうか。
「トネリコ酒何てものもあるし、それに漬けたトネリコの実をつまみに一杯やるのも最高でな。これだけあれば暫くは困ることはないな」
「そんな凄いものをこんなに貰ってよかったのか?」
「気にするな。俺達は出来ることをやって双方納得・・・いや、こっちが得してるな。まぁ、正当な報酬はもらったんだ。そもそもレイラインが滞ればあそこではトネリコが育たない。それをなんとかしたんだ。村人にしてみれば嬉しさも底を抜けるぜ」
ハヴェルの陽気な声が通り道の森に消える。俺の認識ではレイラインを封印していたオベリスクを吸収して色々得た上でほんのちょっと頑張っただけだ。流石に魔力を使いすぎたからと、終わった後にあの村で食事に招待されたりした。
まさに至れり尽くせりだった。
「これで温泉なんてあればなぁ・・・」
「何なら掘るか?」
「いや、やっぱいいや」
そういえばこっちに来てからゆっくりできてないなぁ。