4少しでかくなってないか?
目的地に到着した。
レヒドはハヴェルの所で留守番をしている。彼女はなんとハヴェルの孫らしい。ハヴェルの外見年齢は五十位だしおかしくは無いのかも知れないが、レヒドだって少なくとも二十に入る前の十代に見えなくもない。
「アガマ。余計なこと考えて口を開けっ放しにするのはオススメしないぞ」
「あぁ。すまない」
一応謝りはしたものの仕方がない。目の前の風景と言うか現実があまりにも現実離れしすぎているせいで現実逃避してしまっていたのだ。
目の前に広がるのは辺り一面の荒野・・・という訳でもない。むしろその方が現実的かもしれない。
「今回の俺達の仕事はこれをなんとかする事だ」
ハヴェルがこれと言ったのは今、俺の真正面にある実態の無いオベリスクのような何かだ。
正直オベリスクってだけなら納得できる。だがどうにもこの世界には質量保存の法則はあまりあてにできないらしい。物理法則はいわずもがな。
「アガマ。なんとかできそうか?」
「まじでこれをどうにかすんの?」
触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近づかず。されど虎穴に入らずば虎児を得るとも。一も二も無しにとにかく触ってみよう。見た感じ触れても問題は特に無さそうだし。
「んん!?」
「どうした!」
オベリスクから大量の情報が流れ込んでくる。全部を説明するのは難しいが、簡単に言うとこの世界の説明書の様なものらしい。あまり触れたくない物もあるが、この際気にしない。
「・・・」
「アガマ!大丈夫か!?」
ハヴェルが話しかけてくる。だが今手を離せば知識も情報も全て断片的な物になってしまう。
この情報と知識、それに混じった気持ち程度の何か。これは俺の命綱でもある。情報は現在のこの世界に関する世の中のほぼ全ての情報。
知識もやはり、この世界で定義されているあらゆる法則や、それに関する知識。
何かは・・・正直わからない。わからないけど受け取っておかなければならない。そんな気がした。
「おい、アガマ?お前・・・少しでかくなってないか?」
ハヴェルが言っている事はあながち間違いでもない。実際俺の体は一回り位大きくなった。元々が鴉より少し大きい位だったのが今は鳶位には大きくなった。って言うかパッと見黒い鳶だ。
「・・・ふぅ」
「大丈夫だったか?」
「あ、あぁ」
全てを吸いとりきるとオベリスクは溶けるように緩やかに消失した。これが何なのかは分からないが、まぁ転生ボーナス的なものだと考えよう。人これを思考放棄と呼ぶ。
「アガマ。体に問題は無いか?どこか調子が悪かったりしないか?」
「あぁ。特に問題はない。それどころか前より上調子な感じだ」
ハヴェルはかなり心配してくれているが、本当に心配なんて必要ない程に元気なものだ。むしろ力が溢れるほどにまでなっている。
今なら剣以外にも何か出せる気がする。
「ハヴェル。ちょっと退いていてくれ。試したい事がある」
「あぁ・・・無茶するなよ?」
さて。回りに人目は無し。オベリスクがあった場所にはそこだけ地の底まであるような穴が開いている。これをオベリスクの知識で塞いでみる。
できるかどうかなんて分からないが、机上では可能らしい。
「想像・・・創造・・・作れる物は創る。作れなくても造る。」
穴に向かって力を注いでいく。これもオベリスクの知識で得た力の使い方だ。
俺の力。作り造り創る。投影でも模造でもない。正真正銘をつくる力。
その力を使ってこれまたオベリスクの知識の中にあった補助の魔方陣と創造の魔方陣を大量に敷いていく。体が大きくなった分許容力も増えた。これなら起動するだけの魔力を産み出しても死にはしない。
「ちょっと・・・力加減が難しいなこれ」
流石に技量なんて言う実態の無い物は作りようがなかったから勘と破れかぶれで魔力を動かして魔方陣に流し込んでいく。
この上知識と情報をフル動員していなければ失敗は必然的だっただろう。
「魔方陣起動完了・・・空間創造魔法・・・開始」
大量の魔方陣をそれぞれうまい具合に噛み合わせて少しずつ動かして行く。
魔方陣の塊が通った後にはまるで元からそうだったと言うように地形が出来上がっていく。
「・・・っと。ハヴェルが言ってたのはこの辺りか」
事前説明でこのオベリスクがあった場所には元々レイライン。所謂竜脈の様なものが通っていたらしい。
それを突然現れたオベリスクが塞いでしまったそうだ。
つまりこの修復創造の過程でレイラインの修復も同時にこなさなけらばならない。
「俺は・・・別に医者ってわけでも・・・ないんだがな・・・」
集中を強める。レイラインがあった場所は魔方陣に対する反発があってなかなかに時間がかかりそうだ。
反発を減らすにはそれ用の魔方陣を用意すれば良いだけなのだが、いかんせん魔力が足りない。
「この調子だと丸一日・・・かかるか?」
レイラインさえ修復してしまえばそこから少し魔力を汲み取って追加の魔方陣を張ることもできなくはない。
だが、レイラインから魔力を汲み取ると言うことは少なからずレイライン末端に影響が出る。
今、俺の足元には行き場を失った魔力が膨れ上がっている。
それを割ってしまえば大量の魔力が放出されるが、あまり魔力を吸いすぎても逆に悪影響が出るそうだ。
「・・・仕方がない一部の魔方陣を落として反抵抗の魔方陣を敷いて速度を早めよう」
カンっと甲高い音が響き、外れた魔方陣が空に溶ける。
空いた穴に反抵抗の魔方陣を結構無理矢理にねじ込むと、一気に速度が上がる。
「結構変わるな。最初からこうしていれば良かったって事か。まぁ、要検証だな」
ねじ込んだ反抵抗を無理矢理補助に繋げる。これで効率は上がった。
使用変更から一時間ほどでレイラインの修復は完了した。
もちろん穴もふさぎきった。
「これを・・・一人でやったのか」
終わってからハヴェルに確認しに来てもらった。出来はかなり良いようだ。
「・・・まぁ、できたって事は力の使い方もわかったって事だな。僥倖僥倖」
レイラインも修復して土地も治した。これでこの件は一件落着といったところだろう。