47スレイトリオン改二でいい
「よーしよし・・・いい子だ・・・そう・・・そのままそのまま・・・へっへっへっ・・・」
第三格納庫区画の中では一人の変態がスレイトリオンの前に座って光る板を弄繰り回していた。
そしてそれに連動するように鋼材等の資材が空中に浮き、形を変えてはスレイトリオンに独りでに組み込まれていく。
「・・・その変態じみた言動はどうにかならないのか」
「変態とは失敬な!紳士と呼びたまえ!メカニック紳士だ!」
「普通のメカニックで良いじゃねぇか、変態メカニック」
その変態は藤村立木だ。
液晶タブレットと化した鉄板を弄りだしたかと思えばご覧の有様だ。
「ただ術式を組み込んだだけじゃぁ余剰の魔力は揮発しちまうからな・・・サブの魔力プールをこう上手い具合に組み込んで・・・へっへっへっ・・・じゅるり」
「やっぱ変態じゃねぇか」
変態だが、腕は確かなのが少し腹立たしい。
変態の事は思考の外にできるだけ放り出して、こちらの作業を再開する。肩部ポッドランチャーの代わりだ。
全開のテルミットとナパームの混合爆導索は試験無しの実戦投入でなんとかうまくいったが、試験をしなかったのではなくできなかったのだ。
材料が少ないというのもあるが、実は鳥糯同士がくっつく事を防止する為にポッドランチャー内部は水で満たされていたのだ。
内容物保護の為にも海水ではなく真水で無ければいけない為、整備性はお世辞云々以前に良いとは言えない。外装も含めてのサイズが人が悠々二人は入れる程度の容積なので、構造を理解していても魔力で作るにはかなりの魔力を消耗するだろう。
マルチプルランチャーの方は腰部にそのまま懸架されたままなのでスレイトリオンごと立木が改修している。
「へぇ~・・・こりゃまた形状記憶合金みたいなもんまで・・・メグファインも腕を上げたもんだな」
「そういやもう一人はどうしたんだ?」
「もう一人?・・・あぁ、ヒウスの事か」
「あまりの変態さに逃げられたか?」
「馬鹿野郎、こちとら四百年近い付き合いだぞ。この性格なんざとうの昔に熟知されてらぁな」
「四百年って・・・何年生きてんだよ」
「ん?んー・・・ざっと五百年位かな。こっちに来てからだけど」
「五百年って事は二人目なのか?」
ハヴェルの言っていた事を思い出す。確か最初の一人目が千年前で二人目が五百年前、そして三人目が二百五十年前だったか。
「俺の後に来たのが春とお前だ」
「じゃあ一人目は誰だ?流石に千年も経てば死んでるのか?」
いくらなんでも千年も生きてるならまともではいられないだろう。体は生きていられる何かがあったとしても心は人なのだから。
「一人目は・・・ノーチラスだ」
「あいつが一人目なのかうぉっと!」
思わず手に持っていた部品を取り落とす所だった。そりゃあまぁ確かにロケットエンジンだとかニュートライナーだとかの事はあったが・・・、そう言われればそうなのかもしれない。
「ヤー↑ヤー↓ヤー↑ヤー↓ヤー↑!おっすおーっす!呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!皆大好きヴァルヴェスちゃんでぇーっす!」
「うわでた」
突然前触れも無しに出現したそいつは右手には紙袋を、左手には大鎌を持っていた。
「我らが主より差し入れでござーい」
「これはこれは・・・」
ヴァルヴェスが立木に紙袋を渡している。中身は山吹色のお菓子とか言うんじゃあるまいな。
「山吹色の概念合金でございます」
「ふっふっふっ・・・お主もワルよのう・・・」
「へっへっへっ・・・お代官様こそ・・・」
残念ながら山吹色は山吹色でもお菓子では無かったようだ。
なんなんだ山吹色の概念合金って。
「あ、これはそっちの搾りかすにです」
そう言ってヴァルヴェスはこっちに薄い長方形の箱を放り投げて来た。
「搾りかすたぁなんだ搾りかすたぁ」
「アーカフックでしたっけ?なんか有名なやつらしいですよ」
「なんだよアーカフックって」
しぶしぶ長方形の箱を開けると、そこには知る人ぞ知る所ではない有名な、餅をこしあんで包んだ銘菓が入っていた。地元のマーケティングが甘いせいで別の場所の銘菓に思われているがそんなこたぁ断じてない。俺も大好きなあの赤い福だ。
放り投げられたせいでぐちゃぐちゃだったが。
「おいコラぐっちゃぐちゃじゃねぇか!」
「私しーらない」
そう言い残すとヴァルヴェスは消えてしまった。台風の様な奴とはああいう奴の事を言うのだろう。
突然現れては散々っぱらその場をひっかきまわしてあっという間に居なくなる。正直会いたくはない。
「概念合金・・・これさえあれば・・・へっへっへっ・・・じゅるりぺろぺろ」
「なんだよその概念合金って。超合金何某か?」
立木が先程からまるで変態の様に撫でまわしている黄色い塊だ。
「む、そうだな・・・例えば鉄にアルミの様にふるまえと念じたらアルミになると思うか?」
「なるわけないだろ」
「そう、なるわけがない。だがそれを可能にせしめるのがこの概念合金だ」
「なんだそりゃ。魔法かよ」
「そう、魔法だ。この合金に所定の手順で斯くあるべしと刻むとそのようにふるまう。それがこの概念合金だ」
「つまり、この合金は壊れないと刻めば壊れなくなるのか?」
「イグザクトリー!その通りだ兄弟!」
つまりこれを使えば絶対に破壊されないパーツを作る事ができるわけだ。
「じゃあそれは何処に使うんだ?コックピット周りの装甲か?」
「いや俺のコレクションだが?何を言っているんだ」
これがギャグマンガだったらズコーっと滑って「使わんのかい!」って突っ込んでるところだった危ない危
「使わんのかい!」
「ノリが良いのは好きだぜ兄弟!」
くそっ!突っ込んでしまった!
「んっんっん~何もこれを使わないだけで概念合金を使わないってわけじゃぁないぜ兄弟!」
「は?」
「今ここにある資材の一部を概念合金に変換してるからそいつを使う。絶対壊れねぇ外装だけじゃねぇ。魔導術フュージョンシステムだってどこまでも改良の余地はあるんだ!さっさとやっちまおうぜ!」
「お、おう」
とまあ、そんなこんなでヴァルヴェスが来たり変態が興奮したりしたが、スレイトリオンの更なる改装が完了した。
外装は以前と打って変わって、角ばった直線の多い形状だ。この形状は概念合金を用いた事により、絶対に壊れないし、空気抵抗を受けないし、驚く程軽い外装としての概念を構築する事でできた形状だ。元々の流線形の多いボディから大幅に変わったので、最早元々のスレイトリオンの面影はまるでない。
腰部マルチプルランチャーは合体させずとも使用可能になり、消費魔力も抑えられた。
背部の魔導ブースターは少々小型化され、出力が下がった物の、全身に増設された小出力の魔導ブースターによって機動力は上がっている上に、立木の改良によりマルチプルランチャー同様低燃費化に成功している。
そして一番の変更点が、変形が可能になった事だ。背部バックパックには魔導ブースターの小型化によって空いたスペースに翼状に変形するバインダーが装備されている。変形時にはバックパックが膝のあたりまで稼働した後展開し、エンテ翼機の様な形状になる。肩部にはオプション武装を装備するハードポイントとシールドバインダーが増設されており、これも変形時にはカナードとして機能する。
コックピットには特に手を加えた。以前までは前と左右の三面モニターだったが、概念合金の採用によって全天周モニターにすることができた。これにより高速機動時のGを軽減する事ができる。その上魔導術フュージョンシステムの接続ケーブルを廃止し、専用の専用のヘッドギアを装着する事によって接続が可能になった。まるでエヴァン〇リオンみたいだぁ。
「フッフッフッ・・・名付けるならば・・・新生スレイトリオンZ!」
「リフティングボディじゃない、不採用」
「クソッ!じゃあスレイトリオンDXだ!」
「そんな御大層な名前つける程強力な火器積んでないだろ、不採用」
「じゃ、じゃあXスレイトリオンだ!」
「このスレイトリオン凄いよぉ!流石ラインデインのお兄さぁん!・・・でもないので不採用だ。スレイトリオン改二でいい」
「そっけない名前だな」
シンプルな方が分かりやすくていい。それにあんまりにも長いと覚えられないし多分噛む。
「あ、そうだ。俺の事は立木じゃなくてメカマスターファントムって呼んでくれよな!」
「なんで?立木じゃダメなのか?」
「魔王を名乗ってた時に立木って名乗ってたからな。色々と不味いんだ」
「だからってメカマスターファントムはどうなんだよ。もっとシンプルな方がいいだろ」
「んじゃあファントム爺さんでどうだ」
「長い。トムじいだ」
「小鬼じゃ・・・小鬼がおる・・・」
「一文字違うぞ」
「そうだったか」
くだらない会話をしつつも手を止めない。
肩部ハードポイントに装着する武装を用意しなければならないのだ。
状況によって武装をアセンブルできるのはとてもいい。カスタムメカゲームの醍醐味だ。
まずは単純明快な実体シールドだ。シールドとは言っても軽量級の機体であるスレイトリオンにあまり重い装備を付ける訳にもいかない。ので、精々上腕部をカバーできる程度の面積のシールドだ。
そして次はナパームロケットだ。左右それぞれ三発ずつの合計六発搭載可能だ。ただ、まだ中身を作れていないので、魔力に余裕ができた時に中身を詰めておこう。
次に先程スレイトリオンの改修を終えて暇を持て余していた立木が手慰みに作った魔導術式ジャミング装置で、名前はスーパーイージス・オブ・アルキメンデスだそうだ。俺が天狗の面をつけていたら危うくビンタをかました後に「名前が長い!」と言うところだった。
まぁ長いのでメンデスシステムでいいだろ。
そして最後は追加の増設魔導ブースターだ。基部の二軸関節を基点にして半円状の範囲に稼働するのでより機動力の向上が期待できる。
「あのテルミットとナパームの爆導索は作らないのか?」
「見てたのか。・・・材料も魔力も無いんだよ。鳥糯もあんまり使うとネズミ捕りができない」
「ネズミ捕りなら簡単なトラップが作れるぞ。粘着シートよりも効率の良いやつな」
「じゃあ勝手に作っといてくれ。皆も喜ぶだろ。俺は艦橋に行ってくる。キャルレッジは第七格納区画に居ると思うぞ」
「お、じゃあそっちにも挨拶にいかねぇとなぁ!あ、そうだ。これ付けとけ」
立木からスレイトリオン改二に搭乗する際に装着するヘッドギアを渡され、振り向く事も無く俺は格納庫を後にした。立木の作った機体をキャルレッジが保有していたのだから多分キャルレッジとも知り合いなのだろう。後は勝手に仲良くしてくれと言う奴だ。
渡されたヘッドギアを装着し、えっちらおっちら歩いて艦橋に上がると何やら騒がしかった。
「これは・・・面倒な事になったな・・・」
険しい顔をして外を見ているレミルの視線を追うと、その先にはムータスーイ島があった。俺と立木がスレイトリオンを改修している間に結構近づいた様だ。目を凝らせばかなり細かい所までよく見える。
特にゼイルロン領を示す旗の立っている大きな建物を旗を持った五つの集団が包囲しているのとか、その建物に時折閃光が迸ると小規模な爆発が起きている事とか。
「失態だ。まさかこれ程の群領が太陽の元を望んでいたというのか」
驚いて振り向いてしまった。声の主はサン・サルソサンさんだ。流暢に大陸の言語を操っている。
「詳細な情報を教えて貰えますか?これでは状況がかなり変わってくる」
キャルレッジも大陸語でサン・サルソサンに質問をしている。
いや、確かサン・サルソサンは大陸の言語を聞き取る事はできたはずだ。だがその位で直ぐに流暢に別の言語を話す事ができるだろうか。多分誰だってむりだろう。
ならば原因は別にあると考えるべきだ。俺が艦橋を降りてから戻ってくるまでに何かが起こったのだろう。
・・・まぁ意思疎通はできそうだし問題ないか。ヨシ!




