42こんな硬いって聞いてない!
献血で血を抜きながら書きました
「聞いてない!こんな硬いって聞いてない!」
手に持った丸鋸が火花を散らす中背中で受ける敵意と金属の衝突音がこれ程までに恐ろしいい中、急がねばならないのに丸鋸が先程から遅々としてすすんでくれない。
「壊せる方法が用意してあるって聞いたのにこんな物理的な上に時間の掛かる方法だって聞いてない!」
「泣き言言ってんじゃない!男だろう!?」
「存外アガマ殿は肝が据わっていないのだな」
方や金属製の盾と生身の拳の衝突とは思えない程重厚な音が響く。方やあらゆる方向から高速で襲い来る攻撃をいなす度に地面が大きく揺れる。
そんな中で守られながら火花を散らし続けるだけで進まない丸鋸を柱に押し付け続ける。
無防備な背中を猛獣二頭に見せながらの作業など冷や汗物では済まない恐怖があるものだ。
「大丈夫だ。抜けられたとしてもラインデインの装甲は破格。多少の攻撃ではびくともせん」
「そもそも、万が一にもこいつ等は通らせないよ」
方や黒衣の偉丈夫。方や銀髪の美少年?美少女?の両方から尋常でない敵意を向けられつつも五体満足で柱に丸鋸を当て続ける事ができているのはキャルレッジとシェーレが俺とラインデインの事を守っているからだ。
二人とも俺と同じようにロボットに乗っている。この大陸に現存しているロボットはこの三機しかない為、機体名はあっても機種名は無い。
キャルレッジは三機の中でもバランスの取れてがっしりとした機体であるシールブルスという機体に乗って、黒衣の偉丈夫の攻撃を捌いている。
シェーレは線の細い機体だ。三機の中でも特に機動性に秀でている上に特別な機構が備わっている為まるで人の範疇を超えたような曲芸じみた動きをする機体だ。スレイトリオンという名の機体に乗って銀髪の美少年だか美少女から繰り出される縦横無尽の攻撃をほぼ片手間で対応している。
「とはいっても・・・・なぁ」
依然丸鋸は遅々として進まない。ポンコツクソドリルの歌でも歌ってやろうかこのポンコツクソ丸鋸め。
心の中でグチを吐いているとスレイトリオンがとうとう銀髪をとらえた様だ。それに伴い黒衣の偉丈夫の動きも鈍くなりシールブルスに補足される。
「ようやく捕まえたよまったく・・・我ながら手癖の悪く育ってるもんだね」
「・・・」
シェーレが胸部のコックピットを開いて捕まえた銀髪に話しかけている。
「だがようやくだ。ようやく取り戻したよ」
「止めろ!」
今までだんまりだった黒衣の男が叫ぶ。
「嫌だね。お前の言う事を私が聞くとでも?」
そういうとシェーレは捉えていた銀髪を抱きかかえた。
まるで溶け合う様にシェーレと銀髪の境界があいまいになり、少しすればシェーレだけが残っていた。
「フフフ・・・これでお前の企みも終わりさ。ノーチラス!」
今まで丸鋸を頑なに拒んでいた柱が急にバターの様に切れ始めた。
これは好機と思い作業を進める。あっという間に柱の一周に切れ目が入る。
すると柱の天辺からまるで砂山の様に崩れ始める。
「本来の権能と力を取り戻した私に高々数百年借り物の力で威張ってた若造が叶う訳ないだろう」
シェーレの髪が根本から銀髪に染まっていく。それと同時にまるで後光の様に淡く体が光っている。
腰より少し上ほどまで伸びた銀髪に赤い髪飾りが映える。
「我が名はシェーレベレーネール!戦争と武勇を司る女神の名において!偽りの神ノーチラスを断罪する!」
シェーレベレーネールが赤い髪飾りを外して握り込むと光が溢れてたちまち大振りのハルバードへと形を変えていった。
戦斧は金色で所々に銀色の装飾が入っており、刃の部分はまるで赤い宝石の様に透き通っていた。
「神造神器ガンベイン・・・本来のこいつを振るうのは千年振りだ・・・」
「そんな所に隠し持っていたのか」
ノーチラスと呼ばれた黒衣の男がこともなげに自らを拘束していたシールブルスのマニピュレータを破壊すると、目で追う事も難しい程の速度でシェーレベレーネールに接近する。
ノーチラスが伸ばした右腕がシェーレベレーネールの持つガンベインに届こうとしたその時。
「我を何と心得る!身の程知らずが!」
シェーレベレーネールがまるで羽の様に軽やかにガンベインを振るうと、ノーチラスの姿が搔き消えた。
次の瞬間には水風船が弾けた様な音と共に地面に赤い水溜まりができていた。
「ヒエッ」
「フン!前回は不意を突かれ、半身を奪われたが。所詮は神を騙る愚者でしかないな」
ガンベインを髪飾りに戻したシェーレベレーネールがスレイトリオンのコックピットに戻っていく。
見るからにラスボスみたいな風体のノーチラスだったがなんだかんだあっさりとした幕引きだった。
「神と人との差が力の有無やその強さのみであるというのなら、神の存在などあろうとなかろうと同じ事」
ノーチラスの声がした。先程赤い水たまりができた場所から。
赤い水たまりは既に消えて、そこには二メートル程の土山ができていた。
その土山は見る間に大きくなっていき、スレイトリオンを超える程の大きさになった。
「星の箱舟は既に動いた。最早貴様等に未来など無い」
突然土山が内側から爆発した。スレイトリオンは回避し、シールブルスは盾で頭部を守っていた。
俺はと言うとあっけにとられ防御姿勢を取る事すらできなかったが、ラインデインの異常な頑強さのおかげでどこも破損する事はなかった。
流石ガチタンだ、なんともないぜ。
「次は命の船を奪えばいいだけだ」
爆発した土山の中から現れたのは流線形が多用されたスタイリッシュな人型ロボットだ。
全体的に黒や暗色のカラーリングが施されており、マニピュレーターは鋭利な槍の様に鋭く、爪先と踵には鉤爪の様な装備が付いている。
極めつけはバックパックに搭載された翼状の装備だ。
「このニュートライナーと共に、私は星の海を渡る」
おそらく機体の名称だろう。バックパックに搭載されていた直方体状のパーツが腰のあたりに接合されると展開してサブアームになった。
直後、翼状のバックパックから動き出した。まるで鳥の翼の様に大量にある小さなフィンから青い噴射炎を吐き出した。
「力を取り戻した所で貴様は所詮力押ししかできない脳筋だ」
スレイトリオンに急接近したニュートライナー。咄嗟にシェーレベレーネールは咄嗟にガンベインを機体サイズに合う大きさで顕現させ、左手に持ち、右から左へと横なぎに振るう。
ニュートライナーは意にも介さず新体操の様な動きでガンベインを躱し、スレイトリオンの懐へ潜り込んだ。
「ここは、俺の距離だ」
ガンベインを振りぬいたスレイトリオンの隙は大きい。もしも隙を無くせたとしても長物であるガンベインで懐に入られた無手のニュートライナーを相手にするのは難しい。
判断は早かった。
スレイトリオンはガンベインを手放して顕現を解いた。顕現を解かれたガンベインが光の粒子となってスレイトリオンの開いていた右手に集まっていった。
「ガンベインも私も、馬鹿の一つ覚えではない事を教えてやる」
ハルバードの形をしていたガンベインが光の粒子となってスレイトリオンの右手に集まり形どったのは、刀身が元と同じく赤い宝石の様に透き通った長剣だった。
ハルバードのガンベインを振りぬた勢いのまま右手に持った長剣のガンベインをニュートライナーに向けて薙ぎ払う。
「言っただろう。ここは、俺の距離だと」
ガンベインがニュートライナーの腰部を捉えたかと思った次の瞬間。
激しい金属音と共にガンベインは白羽取りされていた。ニュートライナーの左側のメインアームとサブアームによって。
「行き掛けの駄賃にこいつは頂いて行く」
まるで薄氷でも割るかの様にガンベインが刀身の中程から折れ、次第に光の粒子になっていく。
その粒子はスレイトリオンのコックピットや左手にではなく、ニュートライナーの右拳へと集まっていった。
粒子が形を定めると半透明の黒色をしたクローだった。
軽く慣らすように動かしたあと、ニュートライナーの右拳が手刀の形をとり、スレイトリオンの首を刎ねた。
直後、スレイトリオンは膝から崩れ落ちて動かなくなった。
「神の依り代を失ったが、最早事は誰にも止らられない。精々、最後の時を楽しんで過ごすんだな」
言うが早いか、ニュートライナーのバックパックが噴射炎を吐いて飛び去っていった。
後に残ったのは右腕マニピュレーターが吹き飛んだシーブルスと、武装であったガンベインを失い、首を刎ねられたスレイトリオン。そして無傷のラインデインだ。
突然の急展開に我を失っていたが意識を取り戻した俺は、仰向けに倒れたスレイトリオンをラインデインで支えて助け起こし、コックピットハッチを開いた。
中には首を抑えながらうずくまる灰色の髪になったシェーレベレーネールが居た。
「・・・私の首は・・・繋がっているか?」
「見た感じは・・・繋がってます」
「そうか」
とても大きなため息をついて、シェーレベレーネールはコックピットの中で大の字になる。
「また、してやられたのか」
「また千年待つのか?」
何時の間にか近づいてきていたシーブルスのコックピットからキャルレッジが顔をのぞかせる。
「ノーチラスは最後を楽しめと言っていた。今回があいつを抑える最後のチャンスだったんだ・・・あぁ、ランツェルフェイル様・・・不肖をお許しください」
まるで話についていけてないが、まとめるとこうだ。
千年前にノーチラスとシェーレベレーネールとの間に何らかの確執があり、シェーレベレーネールが半身を奪われた。
その際恐らくノーチラスは神性を得て神として動けるようになり、逆にシェーレベレーネールは神性を失い、人として生きざるをえなくなった。
だが先の戦闘で銀髪の子供を吸収したのか合体したのか、それで神性を取り戻した。そのおかげでガンベインとかいう武器を使えるようになったが、ノーチラスの操るニュートライナーに奪われ、スレイトリオンは首を刎ねられた。
ノーチラスは星の箱舟とか命の船とか言っていた。星の海は多分宇宙の事を指しているとしたら、ノーチラスは何らかの方法で惑星間か恒星間を航行できる手段を持っている事になる。
そして星の箱舟が動き出したと言った。
「あいつはこの大陸を燃やし尽くすつもりだ」
考えているとシェーレベレーネールが答えを出してくれた。
「おかしな話だと思っていたんだ。あの噴射以降、日時計がまるで進まなくなった。最初はあれだけの天変地異の如き事が起きたんだから最早驚く事は無いと思っていた。だが、各所から報告が上がればそれ程時間が経っていなくても気付く事だ」
キャルレッジはコンパスと手持ちの小さな日時計をとりだしすと、時間を見始めた。
「我々が第三周衛星都市の拠点を出てから少したりともすすんでいない」
時間が進んでいないという事はこの惑星の公転周期と自転周期がほぼ同一になっているという事だ。今丁度太陽は真上に来ている。今はまだそれほどではないが暫くすれば地表は酷暑になるだろう。
もしかたらこの馬鹿みたいにでかいロケットエンジンでこの星の自転速度を変えたのかもしれない。
「事は急を要する。最早東だ西だと争っている場合ではない」
「クスサビが吹き飛んだ今、東西の間で中立を守れる立場の第三国が無い。我々と西方諸国連合で何とかする事は難しいのではないだろうか」
「そこは人の善性を信じる他あるまい」
あれだけの規模のロケットエンジンを使って自転速度を変えただけだとしても、中世から良くて近世代程度の技術力であるイジスタリウス帝国では手に余る。
かといって、似たり寄ったりの西方諸国連合と協力したところで、出来ることなど祈る位だろう。
だが、祈ったところで現実はどうにもならない。
ならば今出来ることをするしかない。
「一つ、提案があります」
「何がある?言ってみてくれ」
無理難題であるのは自分が良く分かっている。何せ前世でもこんな状況は前例があるない以前の問題だ。
「この大陸と国土を捨てて海に出ます」




