別視点 勇者一行(仮)
ちょっと長くなりました
なんだこのクレイヴ。
第一印象はそれだった。クレイヴという魔物はこの時期繁殖期の直後で子供が育ち初めて気が立っている事が多い。
だが、ここまで集まるのは何か大きな理由が無ければまずあり得ない事だ。
カー カー カー
だが、目の前に有るのはクレイヴの山だった。大量のクレイヴが一ヶ所に集まり、肉を食いちぎる音や咀嚼する音が聞こえる。
「なにあれー!」
どうやらカアリが山の中に何かを見つけた様だ。彼女は見たいものを見ると言う凄まじい力を持っている。多少の制限は有るものの大体の物は見る事ができるらしい。例えば服や壁なんか簡単に透視できるらしい。
「クレイヴが共食いしてる」
カアリの言葉にベルフェが山に突っ込んで回りのクレイヴを掃討していく。
「ウルベも手伝え!」
迷信をよく信じているベルフェが病気や感染症を運ぶと言われているクレイヴの山に突っ込むのは相当な覚悟が要っただろうに。これも愛のなせる技か。
「おいこらウルベぇ!また余計なこと考えてないだろうなぁ!」
ベルフェ。僕は勘の良いガキは嫌いだよ。
という訳でちょっとクレイヴを見る。どうやら集られている奴はまだ生きている様だ。
「全部殺すのも面倒だし、何より間違えて対象まで殺しちゃったら元も子もないし」
何せベルフェの力は広範囲に雷を飛ばす人間避雷針だからこう言う局面で使えないのが非常に不便でならない。
その点僕の力は同じ広範囲タイプとは言っても対象の選択ができる。
この場合は・・・。まぁ僕達に敵対しているモノで良いだろう。
この力の欠点は非常に目が疲れるって所だ。何せ使っている間は目を開きっぱなしにしなきゃならない。
カー カー カー
ほとんどのクレイヴが俺達の脅威に気付き逃げていく。
「おい」
ベルフェが例のモノに話しかける。どうやら本当にクレイヴ同士で共食いしていたらしい。
クレイヴは基本的に共食いをしない。あくまで基本的にではあるもののそうそう見れるものではない。
「おい!」
ベルフェの呼び掛けを無視して何かを食べている。共食いされていたにしては傷一つ無い体をしている。
あれだけの数のクレイヴに集られていながら傷一つ無いとはおかしい。
「おいこら何とか言いやがれ」
(ぐぇ!)
ベルフェが例のクレイヴの首を掴んだとたんに思念が流れ込んでくる。どうやらあのクレイヴは意思、それもとても強い物を持っているようだ。
「あ、こらー!」
カアリが抗議しに行った。これでなかなかにツンデレなベルフェもなんとかなるだろう。
「こいつ俺を無視して何か食ってやがったからよぉ・・・仕方ねぇだろ?」
「仕方なくない!」
それにしても寒くなってきた。おかしいな。この辺りはあまり寒くなる事はないのに。
「このクレイヴは私が見つけたの!だから私の!」
「回りのクレイヴ追い払ったのは俺だろ!?」
ちょっと嫌な予感がする。もしかしたら親が戻ってくるのかもしれない。
それとなく二人に注意しておこう。
「五月蝿いぞ二人とも。あんまり大声出してると親が戻ってくるぞ」
まずい。すっごい眠い。力を使いすぎたか?少し目も痛いし。早く帰りたい。
「そのクレイヴもってさっさと帰るぞ」
「はいはーい」
「へいへい撤収撤収」
う~ん辛い。やっぱり力を使いすぎたようだ。眠気を堪える為に集中する。
「おっと」
ベルフェがクレイヴから手を離す。どうやら我に帰ったようだ。
(やっと放したなこいつ!)
また思念が流れ込んでくる。どうやら怒ってはいるようだが我々に敵対する気では無いようだ。
それにしてもなんだ?ショウガッコウ?アニメ?カラテ?わからない。こいつは何を言ってるんだ?
「相変わらず何から何まで適当だなお前は」
それとなく相槌を打っておこう。会話に混ざらねば俺がボッチだと思われかねない。
「いやクレイヴっつったら病気を運ぶとか言われてるし長く触ってるのもなんかあれでな」
「なにその言い草ー!ちゃんと洗えば大丈夫だよ!」
魔物を洗うってのも変なもんだが。まぁ、しっかり洗えば少なくとも感染症とかの心配はしなくてもいいだろう。
「首掴まれて苦しかったよねー。大変だったねー」
「まじかよこいつ・・・クレイヴ撫でて良い笑顔してやがる」
ベルフェは相変わらず腫れ物を扱うようにクレイヴを見る。カアリはクレイヴを胸に抱き寄せて撫でている。少しばかり羨ましいが、まぁ仕方ない。俺がやるとベルフェに殴られる。
「・・・はぁ。ほら、さっさと帰るぞ」
・・・なんかクレイヴがすっごいこっち見てる。なにこいつ?
やめろよ。哀れみの目でこっち見んなよ睨み返すぞ。
(お?なんだ?こっち睨みやがって。なんか文句あっかこら?)
こいつ・・・俺の力をなんともないかの如く受け流しやがった。
これはプライドが傷つけられた。すっごい傷ついた。
当のクレイヴには自覚が無いらしいがこれは文句を言う権利は有るのではないだろうか。
「・・・大有りだよ」
「ん?なになに?どったの?」
カアリが言葉狩りをしてくる。やだこの娘怖い!おじさんそんな娘に育てた覚えありません!そもそも育てた覚えがありません!
「いや、なんでもない」
ここは無難に返そう。下手に詮索されても説明のしようがない。
・・・っと。どうやら思念を読まれて同様しているようだ。ソスウを数える?ソスウってなんだ?
(1、2、さぁ~ん)
「ブッフゥ」
しまった!不意を突かれた!ちょっとこれはまずい。
なにがまずいってカアリとベルフェに若干変な目で見られてる。めっちゃ恥ずかしい。
「ちょ!?どうしたのいきなり吹き出したりして!」
(かかったなぁ!アホが!)
くっ!この野郎!確信犯か!しかもまんまと乗せられた!
とにかく二人の目をなんとか誤魔化さねば俺が変な奴だと思われる。手遅れかも知らんが。
「・・・いや、なんでもない」
「珍しいな。思い出し笑いってやつか?」
「ま、まぁ。そんなところだ」
よし!なんとか誤魔化せたし持ち直せた。このクレイヴどうしてやろうか。流石に生かして返さぬって程でもないがいつまでも連れていく訳にもいかん。まして、こんなワケのわからん奴と暫く一緒なんぞゴメンだ。
ちょうど近くに魔物使いのハヴェルが居たはずた。あいつに預けとけば特に問題は無いはずだ。
とか思ってるとこのクレイヴ。どうやら俺を馬鹿にする算段を立てているようだ。備えねば。
「・・・」
(おっとぉ?緊張したなぁ?)
くっ!こいつ!またもやしてやられた!
うむ。かなり苛ついてきた。こうなったらあれだ。少なからずのリスクは有るが嫌がらせの為にちょっと仕返しをしても批判はされないだろう。
「ちょっと苛ついた。喋れるようにしてやる」
「なに?急にどしたの?」
「お?やんのかこら。こちとらこっちに生まれてこのかた死線を掻い潜れなかった猛者ぞ?それでもやんのかこら?」
内心大笑いの俺を見てクレイヴが捲し立てる。
フッ・・・勝ったな。
「・・・フッ」
「ぬぁんだぁ!?そん勝ち誇った顔はぁ!」
「えぇ・・・」
「おいおい・・・」
散々俺を弄ろうとした報いだな。せいぜい質問攻めなりに会うがいい。
「クレイヴが喋った・・・」
「勘弁してくれよ・・・」