41あれだけの事があっても死亡扱いではないのですか
「調査・・・ですか?」
山脈の関から第三周衛星都市に後退してきた俺に対して命令が出された。
「うむ。貴様は消失範囲の中に居たと思われるが五体満足で帰還した。恐らく次も大丈夫だろうとの判断だ」
机に肘を置き、申し訳なさそうな顔でこちらを見るのは帝国第二師団師団長のシェーレだ。
「確かに私は柱の近くに居ながら生存し、帰還しましたが、次も大丈夫である保証にはなりません。ましてあの炎が上がった後です。突風や炎自体が無いからと言って現地に熱はまだ残っているでしょう。はっきり言って困難です」
シェーレが眉間を抑える。頭を動かす度に赤い髪飾りが揺れる。
おもむろにシェーレは引き出しから紙束を取り出すと机の上に広げた。
「前回の消失と今回の炎で行方不明者がかなりの数に上った。その中には高級将校の子息なんかも居たそうだ」
「あれだけの事があっても死亡扱いではないのですか」
「彼らも自らの家族が生存しているかもしれないと、希望を捨てたくないのだろう」
机の上に広げられた紙束は行方不明者のリストだ。少し荒いが人相が分かる程度の肖像画と名前が大量に書かれてている。これを用意するのはさぞ大変だっただろう。
「あぁそれと」
「はい」
「キャルレッジが不服そうにしていたぞ。どうして私の出番が無いんだってな。出ても良いぞ」
いやそれは知らないが。
兎も角指令を拝命した以上やらねばならぬのが軍人の定め。調査と言うのであれば人手が欲しい所だが状況が状況であるため連れて行くなど言語道断である。
その点俺は食客扱いなのでイジスタリウスにとっては居ても居なくても変わらない存在だからぞんざいに扱えるのだろう。
「人を募ろうにもあんな事が立て続けで起こったわけだし・・・誰も行きたがらんよなぁ・・・仕方ねぇ。一人で行くか」
・・・・・・・・・
旧クスサビ国の上空に二つの影があった。
「ねぇねぇ!さっきの凄かったね!」
「危うく舟が台無しになる所だったよ・・・まったく」
辺りを睥睨する様に降りてくる二つの人影。
ノアとテセウスだ。
「ノーチラスも馬鹿な事したね」
「折角塞がってた歪を開いちゃうなんて」
ノアとテセウスが見下ろす大地。そこにあったはずのクスサビは無く、巨大なクレーターとなっていた。
否、クレーターと見るには明らかに人工的な構造物がある。
「あの柱、ただの柱じゃないよね」
「神性を犠牲にしたんだろうね」
柱から発生する巨大な対人結界が人の侵入を拒み、結界の中に居た人間は先程の炎の本流によって焼失した。
今この地に存在しているのはノアとテセウス、そして。
「今更出てきて何の用だ、外なる神よ」
クレーターの底から出現した黒衣の男と白髪の少年だ。
「何の用って?決まってるじゃないか」
「私たちの仕事をしに来たのよ」
テセウスが軽く腕を振るう。
それだけだ。ただそれだけの動作をしただけだ。
次の瞬間には柱が崩れた。
「貴方はやり過ぎた。そう、やり過ぎたのよ」
「僕たちの舟を・・・船を・・・台無しにするつもりかい?」
柱が崩壊する。もはや結界は意味をなさないだろう。
「お前らの目的など知った事では無い。俺は俺の目的の為に動く」
言うが早いか白髪の少年が消えた。
甲高い剣戟の音が響きテセウスが吹き飛ぶ。
「レーネール。テセウスの方を抑えておけ」
ノーチラスの指示につい先ほどまでテセウスの居た位置に居るレーネールと呼ばれた白髪の少年は頷いて消える。
次の瞬間にはまだ健在な柱に小さなクレーターができる。テセウスの吹き飛んで行った方の柱だ。
「いいのかい?たかが転生者風情が、僕と一対一になって。ガレットが足りない分あの柱も大分脆いみたいだよ?」
ノーチラスは無言で構える。武器は持っていない。徒手空拳だ。
「僕もいっぱしの神性だというのに・・・舐められたものだね」
ノアがまるで指揮者の様にタクトを振るう動きをすると何もない空はいつしか小さな船で埋め尽くされた。
ノアの動きが更に激しくなるとそれに呼応するように小船が動き出す。
ノーチラスを翻弄するように急旋回と急制動でフェイントを掛けつつ突撃していく。
・・・・・・・・・
「はぁ~え~らいこっちゃえ~らいこっちゃ」
調査の為に来てみれば関の物見からは柱が一つ崩れたと報告を受るし、丁度いいからそこから調査を始めようとすれば柱から向こうはクレーターになってるし、クレーターに啞然としてたら何かがクレーターの中で戦ってるし。
「こりゃぁ結構なしっちゃかめっちゃか具合だなぁ」
枯れ木の茂みの中から帝国支給品の望遠鏡で覗き見しているがあまりにも早すぎる動きを追い切れない。空を飛んで小さい船みたいなのを飛ばしてるのが少年っぽい奴でその小さい船みたいなのを拳で叩き落としてるのが黒衣の男・・・男だろうか?腰程までの長い白髪を三つ編みにしている。
「う~ん・・・状況がわからん以上下手にどっちかに加勢するなんてできないし。そもそも状況は五分五分だし・・・」
まずは状況を見極めよう。戦っている二人は置いておいて周囲の状況を望遠鏡で見ていく。今居る所に建っていた柱が一つ崩れているのと、向かい側の柱の中程に小さなクレーターがいくつか出来ている事。
そして。
「なぁんかやけに段々してるなあ」
クレーターに妙に均一に段差が出来ているのだ。
「クレーターってもっとこう・・・椀の底みたいになるんじゃなかったっけか」
更に注視するとクレーターの淵に地割れでできた溝がぴったり沿ってできている。
「これは・・・」
自分の足元にもある溝を覗き込むとクレーター側が溝の下に行くほどクレーターの中心に向かって抉れている。
「この間の噴射炎といいこの形といいこれは・・・ロケットエンジンとジンバルか!?」
確証は無いがそんな気がする。
だとしても何のためにこんなところにこんな馬鹿でかいロケットエンジンがあるんだ。
しかも噴射したという事は機能が生きているのだろうか。それならば一体誰が・・・。
「いやまぁどう考えても怪しいのはあそこで戦ってる奴等なんだがなぁ」
どちらとも何故戦っているのかは不明だし間に入って制止しようにも攻防が激し過ぎる。あの間に入ろうものなら瞬く間にネギトロめいた死体になるだろう
君子危うきに近寄らずという言葉もある。柱の内側が文字通り吹き飛んだ事も確認した。体裁としての調査は完了したのだ。面倒事が起こる前にさっさと退散するに限る。
崩れた柱を背にできるだけ音を立てない様に茂みをかき分けて行く。
・・・・・・・・・
「以上が調査の内容です」
机の上に置かれた簡素な報告書を前にシェーレは唸った。
「う~ん・・・そのなんだ・・・柱は調べられなかったのか?」
「私だって死にたくないです。次も無事であるとは限りませんので」
「一つ崩れてたんだろ?そこからなんとか」
「断面には空洞も入口もありませんでした。中身はみっちり詰まってるようですよ」
シェーレは頭を抱えた。
それはそうだろう。決死隊のつもりで送り込んだ鉄砲弾が現地でピースサインして観光気分で帰って来たのだ。頭も痛くなる。
確実に安全である保障も無いのだ。幾ら帝国にとっては居ても居なくても変わらない鉄砲弾でも俺にとってはたった一つしかない自分の命だ。
まぁ現世で二回目なわけだが。
「クレーターの中心で戦っていた者達の人相とか恰好とかももう少し見えたんじゃないのか?」
「体がブレる様に見える相手を注視できるとでも?あれだけ動き回られたら子供か大人かなんてわかりませんよ」
「ぐぬぬ・・・」
詰まる所成果はほぼゼロだ。
クスサビの国はクレーターと化し、西方諸国連合の軍は消滅。傍から見ればそれで全てだろう。
「・・・貴様は転生者だったのだろう?その観点から何かわからなかったのか」
「私が転生者だと知っていたのですか」
「キャルレッジ卿からな。で、どうだ?」
別に転生者である事を隠しては無いがかと言って触れ回ってるわけでも無い。キャルレッジには言った事あったっけか。
まぁ知ってるなら隠す必要も無いか。
「では・・・ロケットエンジンってご存知ですか?」
「ロケット・・・あぁ聞いたことがあるぞ」
シェーレが苦虫を嚙み潰した後にマーマイトをお茶請けにセンブリ茶を五杯くらい飲んだ様に渋い顔をしている。何か嫌な思い出でもあったのだろうか。
これは話を続けても良いのだろうか。
迷っているとシェーレが口を開いた。
「構うな、続けろ」
「はい。・・・そのロケットエンジンですが、私も実物を見た事があるわけでは無いので確定ではありませんが、それと酷似する構造の物がありました」
「それは・・・本当なのか?」
「はい」
とてつもなく渋い顔から少しずつ憎悪の混じった顔になっていく。
これは・・・やはりまずかったのでは。
「・・・それに関する対処は私とキャルレッジで行う。西方諸国連合軍が消滅した今、帝国の護りは近衛と衛兵に任せておける」
「わかりました」
「それと貴様にもしてもらいたい事がある」
嫌な予感がする。
「貴様には柱を破壊してもらう」
「そんな無茶な」
無理難題だ。中身が空洞ならともかくみっちり詰まってる直径が十メートル以上はありそうな柱を破壊なんて爆薬でも無いと無理だろう。しかも材質は見た感じ石や木材なんかじゃなく鉄やアルミでないにしろ金属質な物だった。
一本崩れていたのは恐らくあそこでの戦いで起こった余波かなんかだろう。そんなのを基準に考えられては困る。
「大丈夫だ。方法は用意できる」
突然立ち上がり手招きをするシェーレ。
正直嫌な予感しかしないから行きたくないしやりたくも無いが命令とあらば行かねばなるまい。
シェーレに直々に案内された場所は中央の関と第三周衛星都市の丁度間程にあるキャルレッジの天幕だ。
キャルレッジは貴族だし従僕とかも付いているのだろうが・・・天幕と言うにはかなり大きい。ちょっとした館サイズで二十メートルかそこいらの奥行と十五メートル程の幅、五メートルより少し高い位の大きさだ。
「キャルレッジ、入るぞ」
言うが早いかシェーレが天幕の中へと入っていくのでそれにならって自分も入っていく。
「返事位待ってから入れないのか貴様は」
「今更卿に気を遣う仲でもあるまい」
天幕に入ってすぐにキャルレッジが居た。つなぎの様な作業服を着てデスクの上で何やら機械部品の様な物を弄っている。
「それはそうと例の柱についてだ」
「何かわかったのか?」
「さっぱり。梨の礫さ」
キャルレッジとシェーレの会話を聞きながら天幕の中を見渡す。
天幕はその大きさに対して壁や仕切りなどなく所々に支柱としてか何本か柱が天井まで伸びている。
「さっぱりわからんのでこいつを使おうと思う」
「それは俺に消失範囲に入れという事か?」
キャルレッジとその従僕だけが使うには大きすぎる天幕はかなりの深さに掘り下げられており、手すりなどの安全処置が施されていた。あの短期間で施工するには重機でも無ければ不可能な規模だ。
「一番馬力のあるやつにアガマを乗せてやれば行けると思ってな」
「馬力のあるやつか・・・それだとあいつだな」
キャルレッジが指を指したのは掘り下げられた縦穴に収められたいくつかの物の一つだ。
「確か名前は・・・ラインデイン」
ラインデインと呼ばれたそれはこの世界には似つかわしくない程の機械的な部品や装甲版で作り上げられたロボットだった。
「足が付いて無いじゃないか」
「飾りとは言わんがね。あれの方が馬力が出る」
シェーレの言う通りラインデインには足が付いていなかった。代わりと言わんばかりに腰から下はまるで装甲車か戦車の様になっている。
「ガン〇ンク・・・いや雷〇か?」
人の形をした上半身に装甲車や戦車の様な下半身。まるで投影面積など知った事かと言わんばかりのそのフォルムは正にアーマー〇コアのそれだった。
ご丁寧に肩には何やら折りたたまれた砲身のような武器まで搭載されている。
「ただこれを使うと目立つぞ?」
「そこは私と卿でなんとかするのさ」
濃い緑色をメインに所々カーキ色や黒の入った迷彩塗装の程されたラインデインはまるで俺の出番はまだかと言っているかの様な堂々たる佇まいだ。
「ラインデインがそんなに気に入ったか」
「ええ、はい。まさかこれ程の物を実際に目にする機会があるとは思いませんでした」
「うむ。転生者だからか飲み込みも速いな」
やはりガチタンは神。装甲と火力が合わさればそれすなわち最強。橋頭保を作るのが難しいなら橋頭保で進撃できるようにすればいい。移動する砲兵陣地。正に戦場の神。
「戦闘する気満々の様だが・・・貴様には柱の破壊という重要な任務がある。よって、戦闘は貴様を護衛する俺とシェーレが担当するので貴様に戦闘の機会は今作戦では無い」
「・・・はい?」




