40街道を一つ潰しても宜しいでしょうか
「軍を二分するだと!?」
ハゲが喚いた。
「それでは結局戦力が足らぬ!如何にこちらに地の利があるとしても西方諸国連合はこちらの五倍以上の戦力がある!一点突破されれば何処からか必ず崩れる!」
一点突破。確かにその方法もある。
だが論外だ。
山脈の街道は行軍できる規模とは言っても精々四頭引きの大型馬車が四台横に並べばいっぱいいっぱいだ。歩兵であれば十二人程の横隊でいっぱいになる。それもきっちりと肩をぶつける程に並んだ場合だ。戦闘を想定して行軍するのであれば五から六人程の横隊。馬車であれば二頭引きの中型で三台と言った所だろう。
おまけに街道には等間隔で三か所の関がある。関からは物見の為に山脈を伝う道が敷かれており高所から岩や矢を降らせる事ができる。関で足止めしつつの防衛であればかなりの時間持たせる事ができるだろう。
「二分に分けた軍にはそれぞれ南北の街道で関を使い防衛してもらいます。中央の街道はキャルレッジ卿に」
「構わぬが、それでは私が出た途端敵軍が撤退してしまうぞ」
「そうならない様に策はあります。卿には敵軍が関をすべて抜けて山脈を突破する寸前まで待機していただきます。敵軍が最後の関を抜けた所で卿にはその宝具を存分に振るっていただきます」
「それで南北はどうするのだ。まさか時間を稼ぐだけで良いなどと戯言は吐かぬだろうな」
連隊長の指摘が入る。確かにこのままでは南北の関は時間によって押し込まれる可能性が大きい。幾ら地の利があるとはいえ元々防衛として作られた関ではないのだ。物見用の道もそこまで太い物ではない。そのままでは陥落も時間の問題になるだろう。
「そこで提案です。街道を一つ潰しても宜しいでしょうか」
「き!貴様ァ!よりによって街道を潰すだとォ!?」
ハゲが茹でタコになった。
「北側の街道を二番目の関で潰します。物見の道を爆破して崖崩れを起こし、封鎖してしまいましょう」
「バカな!それでは戦後の物流をどうするつもりだ!」
「どうするもこうするも。この戦いに勝たねば戦後の物流も何も無いのです。であらばまずは勝つ事を考えるのが先でしょう」
「しかし!」
言葉に詰まるハゲ。
確かに切り立った山脈で爆破などすればかなりの規模での落石が起き、規模の大小は兎も角として街道は確実に封鎖できるだろう。代償は長期間に及ぶ北街道の封鎖と開通工事だ。
「第三周衛星都市付近での戦闘に成れば被害が出ます。被害が出れば家や職を失った人々が出ます。戦後の平和なんてものがあるのならその時に公費で戦災被害を被った方々に復興工事をしてもらいましょう」
このやり方であれば後の事は兎も角北街道に割り振る人員を減らせる。人員を減らせるという事は南街道の方へ余裕を持って戦力を回せるという事だ。
そしてここからがある意味この作戦のキモだ。
「ではキャルレッジ卿。貴殿には敵軍を文字通り殲滅していただきましょう」
・・・・・・・・・
所変わってここは西方諸国連合前線司令部。
「被害報告の詳細が出ました!」
「うむ!申せ!」
「はっ!先鋒騎馬隊は四千三十!先鋒軽歩兵隊は二万三千!中衛竜騎兵は三百七!後衛法撃隊は二十四!以上が行方不明であります!」
「・・・それは真か」
「はっ!」
「そうか・・・」
西方諸国連合右翼軍前線司令官ミョール・ミニョルグが天幕に備え付けられた椅子に深く腰を掛ける。
侵攻に際し先鋒の舳先を務めた騎馬隊と橋頭保の確保を担う歩兵隊が丸ごと行方不明。中衛と後衛の被害が少ないのはアレの影響の外に居たという事になるのだろう。
「イジスタリウスめ・・・珍妙な兵器をだしてきおってからに」
それもこれもあの柱が生えて来てからだ。
地鳴りがしたかと思えば地面から柱の様な建造物が生えてきて地面が割れてまず騎兵が地の底に落ちた。
次に何か光ったかと思えば柱に近かった兵士達が消滅したという。
初めは質の悪い冗談か何かだと思った。だが中央軍司令部と左翼軍司令部から同じ事象に関する伝令が来れば最早現実と思う他無い。
如何せんこの目で確かめようにも徒に兵士を突っ込ませて消滅させるわけにもいかない。
今は取り合えず消滅する範囲からほんの少し離れた所に線を引き、近寄らないようにするしかない。
「一体なんなのだ・・・あれは」
あれが生えてきてからは二進も三進もいかない。此方とイジスタリウス軍の間に壁の如く発生した消滅範囲は軍勢に混乱を生んだだけではなかった。
「まさか味方を巻き込んででも国土を防衛しようとするイジスタリウスの悪あがきか」
だとすれば早急にどうにかせざるを得ない。
いくら西方諸国が連合を組んだ所で所詮は集まり。指揮官級の人間であれば我慢の紐も長い物だが一部のガラの悪い兵士達はそうでもないだろう。
いずれこの軍は軋轢を生み溝が出来、分解するだろう。
そうなれば東への侵攻などできた物ではない。
だがイジスタリウスは違う。
あちらはこちらと比較して一枚岩であり兵の士気や忠誠も高いと聞く。そうであれば被害があったとしても立ち直りは早いだろう。あの柱の向こうで向こうにとって有利な地形で待ち構えられてしまえばこちらは攻めあぐねてしまう。
攻めあぐねてしまえば士気の低いこちらが不利だ。
連合軍という体裁を取った以上できる限りの短期決戦が望ましい。
「だからこそ新兵器も用意したというのに」
スヴェラニカ王国が持ち込んだ新たな武器。名前は確か爆筒矢とか言ったか。
製法は流石に広まっていないが。イジスタリウス軍の魔導防核を貫通する能力があると聞いていた。
だが実際にはそれらしい効果は無かった。
むしろ不発や暴発が多く、初戦ではむしろこちらの方が被害が多かった位だ。
「失礼します!」
天幕の入口の前で兵士が声を上げた。兜と階級章から伝令であろう。
「どうした」
「はっ!兵站部隊より伝令!後方より物資を搬送していた部隊が消息不明。捜索隊より西方に柱らしきものを確認!」
「なんだと!?」
兵士が机の上に置いてある地図に柱を模した駒を置いた。それも三つ。
「西方に三つ!?」
「はっ!恐らく搬送部隊は例の消失に巻き込まれた物と」
「イジスタリウスめ・・・一体どのようなカラクリで・・・」
「失礼します!」
「今度はなんだ!」
「はっ!北と南に同様の柱を確認!消失被害はありませんでしたが我々は半包囲されております!」
更に柱を模した駒が地図に置かれる。丁度正八角形の形を取る。消失範囲を考えれば半包囲所ではない。
「我々は・・・孤立したというのか!?」
・・・・・・・・・
「・・・う~ん・・・来ませんねぇ」
試験小隊という部下達が軒並み消滅してしまった俺は責任を取ると言う訳ではないが一人生き残った事が怪し過ぎる為南街道の最前線に配置となった。
あずかり知らぬ事とは言えまぁ状況が状況だし仕方ないと言えばまぁ仕方が無い。
「もしや中央街道へ一点集中したのでは?」
そう聞いてくれるのは同じ隊列に居る一般歩兵君Aだ。
「中央街道へ一点集中なら此方の思うつぼだし北街道へ一点集中だとしても徒労に終わるだけ。ならば明らかに罠である中央は避けて南北に分けるかになっても北は塞ぐから此処に一番戦力が集中すると思ったんだけどなぁ」
もしや北街道での作戦が失敗したとかではなかろうか。此方は南北どちらも山脈街道の中程で布陣しているので陣地転換にも時間がかかる。
「う~ん・・・そもそもこれは・・・攻めてきているんですかねぇ」
「それはどういう?」
「戦力の問題は向こうは時間が解決してくれるでしょうが時間ではどうにもできない事が一つあります。あの柱です」
「あぁ、確かに。あればかりはどうにもなりませんね」
柱の消失範囲が未だ健在なのかは不明である。なにしろ人間以外にはなんとも無いようであるし物理的に通り抜けできないというわけでも無い。どの程度近づけば消滅するのかは判明しているが人を突っ込ませて効果が持続しているのか確認するというわけにもいかない。
柱の消失範囲は向こうも確認してるだろうし迂回するにしても遅すぎる。
「おい!あれなんだ!」
隊列の中から声が上がる。
ざわめきが広がるが隊列が乱れる事は無い。
「斜め左の方!上だ!」
声につられて北西方面の空を見る。
そこに浮かぶのは青白い光の玉だった。
まるで二つ目の太陽の様にそこに存在するそれは時折放電するような光と共に少しずつ地上に近づいていく。
あの方向は確かクスサビがあるのだったか。
「報告!柱が伸びた!」
後方から伝令の声が聞こえた。それと同時に山脈の稜線からまるで光の玉を迎え入れるかの様に柱が伸びているのが見えた。
此処から見えるのは三本。内の日本は恐らくイジスタリウス軍の中央軍と南方軍を消失させた柱だろう。
だが北の柱が見えるには少し遠い。
だとすれば。
「柱が光の玉に向かって伸びている!その数八本!」
やはり柱は多数存在していた。
元より消失範囲が三つの丸で形成されているのだからその原因と思われる柱が三つあると考えるのは普通だ。
しかし中央の範囲だけが少し東寄りに位置していた。
それを顧みて更に柱が八本ある。恐らく線で結べば円か正八角形位になるのだろう。
地面が大きく揺れた。この星の大陸プレートがどうなっているのかは知らないが記録によれば地震はそれ程頻繁に起こっているわけでは無い。
「光の玉が!うわー!」
物見が叫んだ途端に鼓膜を貫く轟音が鳴り響いた。同時に光の玉が急速に落下し、恐らく地面に落ちた。
柱に囲まれた中央から青い炎が吹きあがる。突然の熱量と青い炎の噴射による強力な突風が起こり隊列に並んでいた兵士の何人かが吸い込まれていった。
「ひ、被害状況知らせー!」
前線指揮官が必死に声を張り上げているが隊列のパニックは収まらない。騒ぐ間にも青い炎に吸い込まれる兵士達。被害は減るどころか増える一方だ。
「退避だ!退避しろ!突風に飛ばされるな!」
俺も地面に腕を突っ込んで体を固定しなければ吹き飛ばされていたかもしれない。といか実際風に流されて体が浮いてしまっている。光と熱量から身を護る様に盾をかざした兵士が追い風に飛ばされていくのを横目に突風を耐える。
どれほど立っただろうか。体感では一時間以上は青い炎が噴射していたと思うが、実際はそれ程長くはなかったかもしれない。
「無事な兵士は負傷者の救助を優先しろ!伝令兵!偵察隊と共に馬を走らせて飛ばされた者達の捜索をしろ!各隊!余裕のできた隊は被害状況の報告!急げよ!」
前線指揮官の指示の元、兵士達が走り回る。兎に角負傷者を救助する為に飛ばされて転がった馬車や岩の瓦礫を撤去していく。恐らく半数以上の兵士が飛ばされてしまったのだろう。隊列も何もなく、無心で瓦礫の撤去と負傷者の後送を続ける。
その内日が傾いてくる。あれだけの事が起きたとしても西方諸国連合が攻めてこないとも限らないので必要最低限の戦力と物見を残し、軍の大半は負傷者を搬送して後方へ下がる事になった。
「しかしありゃ一体なんだったんだ」
「西方諸国連合の新兵器じゃないのか?」
「あんな規模の攻撃したら自分達も助からないだろ」
「それに爆心地はクスサビらしいじゃないか。あのあたりはもう焼野原じゃないのか?」
後退しつつ兵士達が話している。
しっかりと見えたわけでは無いがあれはただ炎が上がっただけではなかった。明らかに空に向いて指向性のある噴射炎だった。
どっかの国は軍艦に乗せる対空火炎放射器なんてもの作ってたらしいがまさか同じような物でもないだろう。
偶然の超常現象でもない限り何らかの目的をもって噴射された者と考えるべきだろう。
あの柱もどう見ても人工物だし。
「消失範囲がどうなってるのかわからん以上調査もできないしなぁ」




