表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渡り烏の異世界渡航  作者: JINGoo
大陸動乱編
47/58

39慈悲?・・・あぁ知ってるぞ

早めに終わらせたいです

「随分と・・・その・・・」

「彼にはひどい事をしてしまったな」

「え?えぇ・・・」


尋問していた捕虜は結局心が壊れてしまいひたすらに笑うだけの肉塊となってしまったので捕虜を集めている部屋の真ん中に置いておいた。

それはもうあっという間にべらべらと別の捕虜達が喋り始めた。


どうやらルカ教の偉い人と西方諸国連邦の偉い人達の指示でこの城砦にいる者共を襲撃し、捕虜とせよとの命令を受けて来たらしい。

平和的解決とか宣っていたの何だったのだろうか。


「では、私は前線へ向かいます」

「あぁ、現地で第三師団の偉いさんあたりに情報を貰ってきてくれ」


レゴラウスとサーレイフラが馬で前線へ向かっていった。

即興偵察機が戻ってくるまで暇なのだが、流石にこれ以上尋問をするのも良心が痛む。アイルネの顔が少し引き攣っているというのもあるが、彼らがこれ以上に必要そうな情報を持っていなかったのだ。もはや用済みと言っても過言ではないが、肉盾として使えるかもしれない。使える手札は多い方が良いのだ。


「さて、少し散らかったし掃除をするとしようか」


拷問で使い血濡れになった部屋は磁性粘体擬きに空気に接触した血液を求める様に設定して放してある。これで細かい指示を出す必要が無いのだ。

なのでこちらは戦闘で散らかった部屋を片付ける事になった。


「隊長は・・・その・・・慈悲と言う物をご存知で?」

「慈悲?・・・あぁ知ってるぞ。尊大で傲岸に不遜な連中がふんぞり返って下々の者達に与える物だろう?それがどうした?」

「・・・いえ、なんでも」


アイルネは人が好過ぎる嫌いがあるのかもしれない。別段仲が良くも悪くもなかった人間共に与える慈悲など無いだろうに。


・・・人間共?


「あれ?なんだこの・・・違和感・・・」


頭を捻るが分からない。一体何に、何故違和感を感じたのだろうか。何か、大切な何かを忘れている気がする。

だが結局分からずに時間が過ぎて行き、放っていた偵察機が一機を除いて帰って来た。丁度円柱の周囲をスイングバイする軌道で飛ばした奴だ。


「偵察映像を開示・・・」


一機が単に遅れているというだけなら問題はそこまでないのだが仮に何者かに撃ち落とされたとなれば飛行する軌道を読まれてこちらの位置がバレた可能性もある。

それを調べる為にも帰って来た四機の偵察機の記録映像を四つ同時に空中投影して確認する。

映像が軌道の折り返し地点に差し掛かった所で激しい閃光が瞬いた後に切れた。どうやら撮影術式が焼き切れたようだ。保存領域は無事だったので見る事が出来たが、全ての偵察機の映像がこれでは何が起こったのかわからない。


「何者かの妨害か?なんにせよ一つは撃墜されたと見て間違いないかな」


確認の為に今度は速度を上げた偵察機を組む。フレームが持つかどうかは分からないが先程の偵察機の三分の一程の速さで帰ってくる公算だ。

偵察機を飛ばし手持ちの支給品望遠単眼鏡で観測を続ける。


「そんなに飛ばして帰還時の軌道を読まれたらこちらの位置が露見するのでは?」

「安心したまえアイルネ君。今回飛ばしたやつはあの円柱の傍を通過した後は第三師団の本部へ向かう軌道を取る」

「それは・・・」

「我々は何も知らない、正体不明の飛行物体がそのような軌道を取っただけだ。いいね?」

「・・・」


アイルネは黙り込んでしまった。これは黙認したという事でいいのか。まぁ見ていた以上第三師団にバレたら共犯だ。一緒に道連れにしよう。


そんなこんなで偵察機もとい謎の飛行物体が円柱の近くを通過していった。

謎の飛行物体が円柱との最接近点に差し掛かったその時一閃の如き光が迸った。


「うおっ!」


それ程眩しくは無かったものの単眼鏡越しなので少し驚いた。魔力装甲から本体への網膜情報は途中でシャットアウトやら減光やら増幅やらできるものの光の速さに反応できるだけの反射速度は無い。

つまり暗視や強い光の中で活動するのならともかく急に強い光量でぶつけられればびっくりもするし最悪本体の網膜が焼かれる。この辺は要改良だ。


それはそれとして閃光が走った後に偵察機が煙を拭きながら円柱付近に墜落した。そしてその近くを良く観察してみると最初に飛ばした偵察機の残骸と思われる物が落ちていた。

やはり撃墜されたとみて間違いないだろう。


「隊長!この声は一体・・・」

「どうしたアイルネ君」

「いえ、先程から妙な・・・初老位の男性の声が頭に響いているんです」

「なんて言ってる?」

「ええ・・・その・・・死ね・・・と」


言葉を終えかけた所でなんの前触れもなくアイルネが消えた。

音も光も無くただ消失した。

夢か、はたまた場を和ませようとしたアイルネの冗談かマジックか。

それならば直前に不穏なセリフを吐く必要は無いだろう。

状況確認の為に捕虜の居る部屋を通り物資輸送指揮に使っていた会議室に向かう。因みにだが捕虜も消失していた。残っていたのは彼らを縛っていたロープだけだ。


「どういう事だ」


監視窓のある部屋に行き戦場となっていた場所を見る。


人がゴミの様だ!


ん゛ん゛!


人が居なかった。

先程まで争い、あるいは未知の柱に驚き、あるいは伝令に右往左往していた軍人達が一人の例外も無く消えていた。

状況が不明だがこれでは補給ハブの維持どころか戦線の維持も困難であろう。

つまるところ後退だ。あの柱を中心に消失が起こったとするならば俺よりもほんの少し柱に近かったアイルネが消えたのでその位の範囲が影響範囲と考えるべきだろう。幸いにも城砦の厩舎に繋いでいた馬は消失していなかったので馬を使い帝都に戻る。


・・・・・・・・・


時を進めて凡そ二時間後。前線消失の第一報が届いた帝都司令室では喧噪が場を支配していた。


「まずは前線の再構築であろう!戦死者の確認はそのあとだ!」

「敵の新兵器だろうか。対策は第四技研がしたのではなかったのか!」

「補充兵を出すにも訓練不足の新兵まで出さねば前線の再構築などできん!」

「前線指揮官は何をしていた!」


軍事官僚から政治将校。果ては兵廠の監督官までもが司令室に詰め込まれ議論と言う体裁の上で激しい喧噪を繰り広げた。

そしてその最中に人の寄り付かぬ場所があった。

頭を抱えて机に突っ伏した皇帝陛下の周囲だ。


「クソッ・・・何故だ・・・何故・・・このような・・・!」


うわ言の様に同じことを繰り返し絶望した顔で机に倒れ込んだ皇帝陛下にすり寄れると考える者は此処には居なかった。その余裕がなかったのだ。

普段は利権を拡張し勢力を増す事ばかり考えていた官僚達が出世の為に戦線後方に送り出した子息達まで消失したとなれば誰もそれ以上の欲など出せない。


「ノーチラス・・・」


・・・・・・・・・


馬を休憩させつつ丸一日走ったらなんとか帝都だ。いや実際走ってみたら国境から近すぎじゃないか?

門衛に馬を預けて事情を説明する。皇帝陛下に直にとはいかないだろうが取り合えずの第一報にはなるだろう。


「・・・それは・・・その、小官では持て余すので衛兵連隊へ報告をお願いします」


そういわれてしまった。

まぁそうだろう。いきなり「前線が消失したので丸一日馬で走って来た」と聞いても臆病者が大法螺でも吹いているとしか思えないからまずまともには取り合わないだろう。

かと言って真実の情報であれば一門衛でしかない彼の責任だ。

ならば偉い人に責任を丸投げしてしまおうという事だ。そういう事の為に偉い立場に居るのだから精々胃を痛めれば良いという事だろう。


促されるままに衛兵連隊の隊舎へ行き受付の指示通りに報告書を提出する。

誇張も虚偽も一切なしのちゃんとした報告書だ。これが受理されなければ俺は敵前逃亡で軍法裁判だろうか。


「アガマ様、奥の応接室へどうぞ」


受付嬢に呼ばれた。どうやら何かまずかったらしい。


「アガマです、入ります」


応接室のドアを開けると衛兵連隊隊長、憲兵将校、そしてキャルレッジの豪華三連星だ。ジェットストリームアタックを掛けられてしまう。キャルレッジ以外とは初対面だが重要人物と言えば重要人物なので多少は知っている。


「報告書は読ませてもらった。仔細は第一報と合致する所が多いがこの柱とはなんだ」


口を開いたのはキャルレッジだ。


「記載した通り戦場の中央から大地を割って生えた柱であります。柱が生えた暫く後に部下が消失したので恐らく柱を中心として消失が起こったと推測されます」


虚偽も虚飾も誇張もない当たり障りのない回答だ。キャルレッジと一対一ならともかくこの場には衛兵連隊の隊長と憲兵将校が居る。食客扱いではあるが多少なり軍人らしい振る舞いを心掛けねばなるまい。


「柱の事に関しては第一報には無かった。バッファ砦から北方左翼戦線までは相当な距離があるが第二報にあった北中央南それぞれで起きた消失の範囲を考えるとバッファ砦もその範囲に入っている」

「ではなぜこいつは無事なのだ!まさかスパイではあるまいな!」


憲兵将校のハゲが口を開いた。


「元よりこ奴は西方から来た身元不明と言うではないか!そのような得体のしれない奴に軍籍を与えた上にあまつさえ軍事機密を扱う実験小隊を任せるなど!」

「貴様!皇帝陛下の決定に異を唱えるつもりか!」

「平民上がりの衛兵風情が!黙っていろ!」


どうやら衛兵連隊の隊長と憲兵将校のハゲは仲が悪いようだ。


「事の顛末は報告書に書いた通りです。自分が五体満足な理由はわかりませんが、少なくとも確実な情報として前線は崩壊しました。が、西方連合側の前線も消失したと思われるので補給線の伸びているあちら側の方が体制を立て直すのは時間がかかるでしょう。今は時が命です」

「ハッ!これだから素人は!兵士が畑から採れるとでも思っているのか!」


ハゲがすかさず反論をぶつけてくる。

確かにその通りだ。畑から兵士が採れるのはどっかの赤い国だけで十分だ。

だが、攻めるにせよ守るにせよ時間が惜しいのに変わりは無い。今言い争っている一分一秒でさえ惜しい位だ。


「では私が出よう」

「キャルレッジ卿!?」


衛兵連隊の隊長が驚いた顔をする。


「私の力であれば戦線を一つ支えるなど造作もない事。今までは帝都の護りをおろそかにできないが故に動かす事が叶わなかったが西方諸国連合の戦線も乱れている今こそ迅速に戦線を再構築し押し戻す事が重要である」

「し、しかし・・・」

「衛兵連隊としてはキャルレッジ卿の宝具の威力は抑止力としてこそ効果を発揮する物。故に卿が前線へ行くというのは反対させて頂きたい」

「そ、そうだ!卿は帝都を守らねばならぬ!近衛騎士団の副団長として帝都を守る義務が卿にはあるのだ!」


ハゲは喚くのが好きな様だ。

どうにもキャルレッジの宝具とやらが中央両翼いずれかの戦線を支えるに足る戦力らしい。


「いくら我がイジスタリウス帝国を狙う西方諸国が多いとは言えこの様な事態である。前線が崩壊し国境空白地帯において互いに大きく戦力の喪失があった今、連合であり集合体としての国力に勝る西方諸国連合の方が戦力の立て直しが速いのは明白である。よって我が帝国は一刻でも早く、前線を構築する必要がある」

「それは分かっている。だがたとえ衛兵や近衛から半数以上抽出したとしても二方面の戦線を支えるに足らぬ。たとえキャルレッジ卿が宝具を出した所で他の戦線が崩壊してしまえば意味が無い。かと言って戦線を減らしてしまえば隙間が多くなる。そうなれば戦力に勝る西方諸国連合がいずれ間隙を突く」

「連隊長貴様!我が帝国が敗北すると言いたいのか!」

「そうは言わぬ!だが戦力が足りぬ事は事実だ!」


話がややこしくなってきた。衛兵連隊の隊長とハゲが相当中が悪いのが分かったがキャルレッジはこの二人と仲が良いのだろうか悪いのだろうか。

連隊長の方はどうにも戦線を後退させた方が良いと考えている様だ。ハゲは知らん。

であるならば考えのありそうな連隊長の援護が必要だろう。


「一つ、意見具申があります」

「なんだ貴様、まだ居たのか」

「ええ。退出の許可は頂いておりませんので」

「ではさっさと退出したまえ。此処からは将校の仕事だ」


ハゲが追い出そうとしてくる。どうにもこのハゲは俺の事が嫌いらしい。


「ですから意見具申です。現状の戦力のままに短期間で問題を解決できる方法があります」

「そんな方法など!」

「将校殿!・・・聞かせて貰おうか」


流石連隊長殿。やかましいハゲを抑えてくれた。


「では。まず戦力の問題でありますが、これは如何ともなりません。ので、戦線を下げます」

「貴様!我らが帝国の領土に西方の蛮族の土を付けるつもりか!」

「話は最後まで聞いていただきたい。まず戦線を帝都近傍第三周衛星都市の付近まで下げます。もちろん現地住民には避難していただきます。次にキャルレッジ卿」

「なんだ」

「卿のその宝具と言うのはどの程度規模の戦線をどの程度の時間維持する事が出来ますか」

「そうだな・・・全力を出せば敵軍の先鋒を挫き中備えまで穿つ事ができるだろう。ただ全力を出せばその分長くは持つまい。程々にであれば精々中備えを抑える程度か」

「そうですか」


第三周衛星都市は帝都と本来の戦線の半分程の距離にある都市だ。一応城砦化はされている物の難攻不落とは言い難い。だが西方に向けて南北に伸びる山脈がある。行軍できる規模の街道は丁度三本。


「では、軍を南北で二分します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ