36精々長生きしなよ兄弟
第四技研から隊舎に帰った頃には日が落ちかけていた。
自分の部屋に入り、あの後追加で渡された羊皮紙と欠片に関する羊皮紙を懐から取り出した。
「・・・まぁ戦争の方は上からの指示が無けりゃ前線に出る事は無いだろうし、先にこっちだな」
テセウスの短剣の欠片に関する報告書を開く。封蝋に触れると自然に封蝋が外れたので羊皮紙を開く。
まず材質に関する部分であるが、詳細はまだ解析が終了してないそうだ。ただ、欠片の割れ方から短剣の芯に表面とは別の素材が使われている可能性があるとの事だ。表面の部分は打ち方によって構成が変わる謎の金属で構成されていたそうだ。
そして表層の部分には刻印術式、それもかなり高度な物が刻まれていたそうだ。こちらも解析が進んでないらしいが、一応発火する類の物であるという事が辛うじて分かった程度だそうだ。
「まぁ、火属性とかその類なんだろうなって事はなんとなくわかってたけど」
テセウスと戦った時にかなりの回数魔力装甲を掠った攻撃があったがその時は発火しなかった。腕を切り飛ばされた時もだ。
そして村人だったと思われる対象に刺さったら発火した。この違いはなんだ?ただの発火の刻印では無いという事か。やはり欠片とは言え一部だけではメグファインでも解析は困難だったのだろうか。
「どーも」
「うぉあ!?」
急に後ろから声を掛けられて椅子から転げ落ちた。なんとか首を回して誰が声を掛けてきたのか確認しようとすると何時ぞや見たローブが視界に入った。
「あたた・・・」
「おいおい大丈夫かよ。急に転がって・・・気でも狂ったのか?」
そこに居たのはヒヌスだったかヒレカツだったかの片割れの・・・確かタッキーとかいう奴だった。
何とか立ち上がり構えを取る。
「おっとっと。そうカッカするんじゃないよ。何もあんたを取って食おうってわけじゃない」
「どうだか」
少し後ずさり武器になりそうなものを探す。セブは睡眠する必要があるようで今は寝ている。肝心な時に使い物にならねぇなこいつ。
他には・・・暖炉の火かき棒とか・・・壁掛けの模造刀くらいか。
「あーほら!これでいいだろ?」
タッキーだったかいう奴がローブを脱いで両手を上げて所謂ホールドアップされた格好をする。ローブの下に来ていたらしいボロボロのワイシャツとジーンズの様な服装をしている。顔立ちは少々日焼けが目立つがアジア系の物だ。少なくともイジスタリウスではヨーロッパ系の顔立ちが多いのでこの辺りの人間ではない事が分かる。
「わかったか?日本人だ。名前は藤村立木だ。出身は長野。好物は西京焼きだ」
「・・・鈴木 翔大だ。出身は三重。好物は揚げ物全般だ」
「へへっ、いやーあんたが物分かりが良くて助かった。春ん時はなかなか信じてもらえなくてなぁ」
「春?」
「そう。神無春。俺達と同じ日本人でこっちにやって来た三人目だ」
三人目と言うとクスサビを作ったっていう転生者か。クスサビの様子からして日本文化が好きな外国人の手によるものかと思ったが同じ日本人だったのか。
「まぁ春はもう逝っちまったが、それでも元々あの地にあったでかい歪を塞いでくれた」
「やっぱりもう死んでるのか」
「あぁ、なんにしても最期は幸せそうな顔してやがった」
「・・・いつまでも両手上げてないで座ったらどうだ」
「おおっとこりゃ失礼。信用を得られた様でなによりさ」
俺がさっきまで座っていた椅子に座りなおすと立木もどこからともなく取り出したキャンプとかのアウトドアで使う事の多い折りたたみ式の椅子を取り出して座り、これまたどこから取り出したのか一升瓶を机に置いた。
「打ち解けた所でま、一杯やろうぜ」
立木がお猪口を二つ用意して両方に酒を注ぐ。
「今日はまだやる事がある」
「固っ苦しいねぇ・・・酒入れれば多少いい考えも浮かぶかもしれないぜ」
構わず酒を進めてくる立木を尻目に大陸の地図と勢力図に地形図とその他使えそうな資料を資料室から探し出しては持ってくる。その間立木はお猪口の中身を煽っては注いで煽っては注いでを繰り返していた。
過去の西側諸国との武力衝突などの資料を見つけ執務室に戻ると立木が手のひらで長距離通信機の試作品を弄んでいた。
「おい」
「あ~ごめんごめん。・・・でも」
「でもなんだ」
「これじゃぁ使いもんにゃならないだろうねぇ~」
「なんだと?」
立木は試作品を弄ぶのを止めると親機のパーツをコツコツ指で叩いた。
「送受信に魔力波を使ってるっていってもこれじゃ精度がガタ落ちになるね。世の中はシンプルイズベストってやつでな。地球じゃそういう訳でもないだろうけどこっちの事魔術に関してはほとんど当てはまるわけさ。例えばこのちっちゃいのね。これ要らないわけね。で、ここにありますはなんとも不思議な種も仕掛けもあるただの糸。これをこうしてこうやって・・・」
立木がほとんど自分の世界に入り込んだ様に試作品に改造を施している。やっていることは高度過ぎて今の俺には理解できない事ばかりなのに最中の言動はまるで教育番組の某子供向けの工作番組の人みたいな口調なので画と釣り合っていないような違和感を感じる。
「ほいできた」
そう言って立木がこっちにペイッと放り投げてきたのは見た目は変わらない長距離通信機だ。手のひらでくるくる回して見ても何処も外見的には変わっていない。
「暇があればメグんとこにでも持ってってみなよ。デッドコピー品を作ってくれるだろうさ」
「メグってメグファインの事か?なんでデッドコピー品なんだ?」
聞いても立木はニコニコしながら両手を上げてパタパタと振るだけだ。これは幾ら聞いても答えないなと思い、立木が改造した長距離通信機・・・長いしマジカルスマートフォンを略してマジホとでも呼ぼう。そのマジホを机の端っこに置き、資料の整理に戻る。
「んじゃぁ俺は帰るな。」
立木がペンライトの様な物と短めの長靴の様な物を取り出しペンライトの様な物のスイッチと思われるボタンを押すと壁に穴が開きそこから飛び降りて行った。
「おいここ三階だ・・・ぞ・・・」
立木が飛び降りた瞬間穴が塞がったので窓を開けて下を見ようとすると長靴の様な物から噴射炎を出しながら某アメコミの某パワードスーツヒーローの如く飛翔していった。
「なんだったんだあいつは・・・」
・・・・・・・・・
「・・・ター・・・マスター・・・マスター・・・」
「ッハ!?」
「お目覚めですかマスター」
勢いよく上体を起こし頭を回して周囲を見る。執務室の寝台だ。声色とその声のした方向からドーフェルに膝枕でもされているのかと思ったが普通に寝台の横で立っていた。
「今どの位の時間帯だ?」
「朝餉を終えて大分経ちました。もう少しすれば昼餉の準備が始まるでしょう」
どう考えても寝すぎだろう。窓から空を見ると太陽が高く昇っていた。執務室の上には昨日資料室から引っ張り出した資料が残っていた。
「あー・・・朝飯の残りってなんかある?」
「朝餉はレゴラウスが、夕餉はサーレイフラが担当しています」
「・・・食糧庫になんかあったかなぁ・・・」
「保存食の類が幾つかあります。現在ハイルラとサーレイフラが買い出しに行っております」
致し方ない、適当に何か見繕って食べよう。そして夕飯までの間に資料の整理とあと。
「ドーフェル、これをメグファインの所に届けてくれるか?」
昨日立木が改造していったマジホをドーフェルに渡してメグファインのところまでお使いしてもらうとしよう。
「了解しました」
ドーフェルが梱包したマジホを受け取ると部屋を出て行った。
「さて・・・」
昨日引っ張り出した資料を閲覧する。この隊舎にあった古い資料だが多少なり使える物もあるかもしれない。パラパラと捲る、七百年程前にあったガバネデスベ平野での戦いだどか六百七十年程前のコンキュバイ峡谷からの敗走とか・・・戦争関係の資料、それも各勢力の布陣や戦術何かの資料が多い。過去の戦争での戦術分析や武装関係の研究資料が大半だ。
このイジスタリウス帝国の国としての歴史は長い様で九百年程前に西端の小国として建国され、その後周辺の国家を小国に似合わぬ勢力で併呑していった。時には敗北もあったようだが、敗走後の積極的な戦力研究と兵装の研究により挽回戦を行い勝利していったようだ。
「ぬー・・・ん。戦術研究家だったとかそういうわけでもないし・・・わからん・・・」
別の資料を手に取る。こっちは戦場でも簡単に用意ができる食料や薬草なんかの簡易一覧のようだ。加工法は常識であると言わんばかりに省かれ、似た物と間違えない様に特徴が精密にスケッチされている。ある発熱に効く薬草は類似した物で嘔吐や頭痛、眩暈に発疹などの症状の後に四肢から腐っていき死に至る毒草があるらしく間違えるなよ!絶対間違えるなよ!と念を押されている。
「ふむふむ・・・薬草・・・薬草ねぇ・・・確かに現地調達できるのならそれに越したことも無いか」
今俺が纏っている魔力装甲は損傷を受けた場合別の重要度の低い部位から魔力を回して修復を行う機能が付いている。もちろんドーフェルにも同様のアップデートを行っているが、これらの機能はあくまでも魔力装甲やドーフェルに対して機能するものであって俺の本体であるクレイヴに効くものではない。
一応魔力装甲の余剰空間に軍需品として支給されている簡易医療キットをねじ込んでいるが、そもそも人間用のキットが魔物であるクレイヴの体に効果があるのかも怪しい。
「でも自分で人体実験・・・いやこの場合は動物実験か?それはしたくないしなぁ・・・」
いっそ野生のクレイヴでも捕まえて実験でもするか?でも資料によるとクレイヴって大陸の東側にしか分布してないらしいんだよな。わざわざ捕獲しに西側まで行くのも面倒臭い。
「ノックしてもしもぉ~し」
隊舎の正面入り口の方からコンコンとノックの音と共にそんな声が聞こえた。ドーフェルは出払ってるしレゴラウスは・・・まぁどっかでランニングでもしてるんだろう。セレイムは・・・まだ第四技研か?客対応できる人間が居ないのは問題だな。
「はいはい、少々お待ちを」
ドアを開けるとマステヌさんが着用していた物と同じデザインのフード付き外套を着ている、声からして女性だろうか。聞き覚えが有るような。
「やぁやぁアガマ君私だよ」
そう言ってフードが捲られると見おぼえのある猫耳がぴょこんと飛び出た。
「久しぶりだね」
「あー・・・えー・・・っと・・・ツヴァルネノ・ネルネイア・・・さん?」
「ツヴァルネの!ネルネイア!」
・・・・・・・・・
「お待たせ。ミルクしかなかったけどいいかな?」
応接室にネルネイアさんを通して飲み物の用意をしていた俺はよくよく考えたら飲み物や食材を冷蔵する設備が無かったことに気が付いたので即興で冷却機能を持つ魔道具を作って急いで冷やしたのだ。
日も高くなってきているので冷たい飲み物の方が嬉しかろうと思った気遣いだ。生憎用意できる飲み物がミルクしかなかった。コーヒーは缶かインスタント、紅茶に至っては碌に飲んだことも無いのだ。俺に淹れられるわけがないだろう。
「・・・」
ネルネイアさんは無言でこちらを半眼で見ながら差し出したミルクを飲んでいる。
しかしマステヌさんといいネルネイアさんといい第四技研のスタッフは出かける時にあの外套を着なければならない様な決まりでもあるのかね。
「・・・昨日」
「はい?」
「昨日、この近辺よりある魔力波動が検知されました」
「はぁ」
「その魔力波動はメグファイン様の追っている方の一人の物と酷似していたそうです」
「はぁ」
「付きましてはその事に関する事情聴取とその方から何か受け取ってないか聞いてこいとメグファイン様から仰せつかっております」
つまり立木が派手に飛行していったせいで俺があいつと何らかの接触を持っていると踏んだメグファインが立木を捕まえるチャンスであると思っているのかもしれない。確かに会いはしたが連絡手段を持っているわけでも無い。まぁ確かにマジホを勝手に改造されたりはしたが。
「連絡手段は特に無いがメグファインに渡してやれと言われた物なら」
「それは今どこに?」
「少し前にドーフェルに第四技研に持って行かせたんだが・・・入れ違いになったみたいだな」
「そのようですね。では私はこれで。ミルク、ごちそうさまでした」
ネルネイアさんが立ち上がり手をひらひらとさせながらドアに手をかけた所で止まった。
「あぁそうそう。クレちゃんからこんなの預かってたよ」
ぽいっと放り投げられたそれは丸められた羊皮紙だった。封蝋が押されているがこれは確かキャルレッジの家紋だったはずだ。
「ちゃんと渡したからね~」
ネルネイアはまた手をひらひらさせて退出していった。
兎に角クレアスフェルからの手紙?親書?まぁ開封してみよう。
「え~何々?皇帝陛下が非公式にですが戦争状態を宣言したので早急に連絡を寄越されたし・・・・・・・・・・・・はぁ?」
台風がジェットストリームアタックを仕掛けてくる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
私が元気かどうかはさておき懐はとても寒いです。気温は暑いのにね。




