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渡り烏の異世界渡航  作者: JINGoo
大陸動乱編
43/58

別視点 イジスタリウス帝国上層部会議

葉巻の煙が燻る中、駒を置いては手に取り弄っては戻し、幾つかの会話の後に駒を動かす。


「西方諸国連合軍の新兵器の解析はどうなんだ」

「地方遠征中の第五師団を呼び戻すんだ。国境警備を強化しろ」

「塩が足りない?何やってんの!中立国へ交渉団を出せ」

「第一師団も動かすべきだろう」

「補給品の準備はどうなんだ、できているのか」


議場は踊り、されど進まず。やいのやいのと高級官僚や軍部司令、補給大隊管理部に諜報部顧問。この国の上層部が勢揃いしているにも関わらず、決定的な策が上がる事は無い。


「決めた」


その一声に場の全員が固唾を飲んだ。


「我々イジスタリウス帝国は、先の国境侵犯を宣戦布告と取る。よって、これより厳戒態勢に移る」


高級な刺繍の入ったマントを翻し、一人の青年がそう宣言した。この国、イジスタリウス帝国皇帝、アル・クロムナード・ウェル・イジスタリウスの一声で、大陸に新たな戦乱の火を灯す事になった。


・・・・・・・・・


「あーしんど!」


寝台に体を投げ打ってゴロゴロと転がる。高級な羽毛をふんだんに用いた柔らかにその行いを受け止めてくれる。この帝室は無駄に広いがこのベッドさえあれば半分や四分の一の広さでも帝室と呼んでも構わない程に皇帝はこのベッドが気に入っていた。


「クロムナード陛下、そのようなはしたない行いはお辞め下さい」

「いいではないかレミル、会議は疲れるのだ。正直、早く終わらせたいから宣言したのだからな」

「はぁ・・・陛下」

「わかっている」


皇帝を嗜めるのは皇帝の数少ない腹心の一人であり、唯一の親友とも言える存在、レミル・フェイ・ノートリアである。幼少の頃よりクロムナードと共に過ごし、一貴族としても頭角を現したレミルはクロムナード自信の人事で皇室専属御伽衆として情報収集の指揮を執りクロムナードの為に尽くしていた。


「もうそろそろお客人がいらっしゃいます。身だしなみを整えておいてくださいね」

「うむ」


レミルが部屋を出たのを確認し姿見で身なりを確認する。今回対応するのは自分よりも上位の相手である。服装や身だしなみによくない所があるのは好ましくない。まぁ目下の相手でも当たり前の事なのだが。皇帝が手をパンパンと叩けば部屋の隅に待機していた使用人が駆け付け、服装を整え始める。


「あの方は甘味が好きな様だからな。上等な物を用意しておけ」


その言葉を聞いた使用人が部屋を出て行った。菓子の用意をしに行ったのだろう。この間やって来た時にはクッキー等の焼き菓子よりもクリームや果物を使った生菓子を好んで食べていた、今回の用意はそれを参考に生菓子を大目に用意させる。


「西征は以前より決まっていた事、今回の事件はきっかけと大義名分を貰ったと思っておくべきか」


服装が整ったので小さめの円卓に着いて客人を待つ。先々代の皇帝が重用したらしいこの由緒正しき円卓も今では無駄を削り一人から四人程で席に着くのにちょうどよい物になっている。元は帝室直属十四聖騎士隊だとか言うのを招集する際に使用したそうだが、今や存在しない部隊への設備など宝の持ち腐れでしかない。ならば別の事に再利用するまでといった所だ。


「失礼いたします」

「どうした?」

「皇帝陛下にお目通り願いたいとおっしゃる客人の方が」

「通せ」

「は?」

「早くその客人を通すのだ。命じておいた菓子類も運び込め」

「はっ仰せのままに」


侍従が一礼し、部屋から出ていく。暫くして黒衣の男性が入ってきて許可も求めずに皇帝の向かいの席に座る。その男性が荘厳な兜を脱ぎ机の上に置くのを合図に皇帝は卓上のベルを鳴らすとドアの向こう側に待機していた料理人や侍従達が命令していた通りの生菓子が大量に積まれたワゴンを押して入ってくる。

卓上に乗りきらない程用意されたそれらは半分程がワゴンに積まれたままになってしまった。


「うむ」


男が満足気とも不安気とも取れない表情で一度頷くと腰に下げていた手のひらより二回りほど大きい箱を手に持ち開けると生菓子の半数程を詰め込んでいく。


「さて、ノーチラス殿。事前の連絡があったとはいえ、このように急に訪問されては菓子の用意もままならない」


クロムナードが頬杖をついて菓子を少しつまみながら本題の前の軽い質問をする。


「頼んだ覚えは無いが」

「こちらが用意した菓子を貴君がいつも食い尽くすわ余ればその箱に詰め込んで持って行くわでな。袖の下のつもりで用意していたのに何時の間にかこちらの料理人や菓子職人が維持を張る羽目になったわけだ」

「それは・・・すまなかったな」


そうは言ってもノーチラスは菓子を箱に詰める手を止める事は無かった。むしろその速度が上がった。


「西方諸国の新兵装に関する事だ」


ノーチラスが箱に詰める手を止めたかと思うと今度は菓子を自分の口に運びながら本題に入った。


「あの爆発する矢の事か。それならばこちらでも調べが進んでいる。なんでもエルフの刻印術式が使われているとか魔導防核を貫通させるために弾頭のなんだったか・・・風防?それに魔力干渉力の低い物質を使っているとか無理な設計だから専用の弓が必要だろうとか・・・」

「それではない」


クロムナードが目を瞬かせる。爆発する矢に関しては技術屋が対抗策を考えていた。引力だったか斥力だったかを応用して敵の投射物を反射し味方の投射物を加速させるという力場を作るという物だった。

しかしその開発中の魔術具に関しては力場面積に対して消費魔力量が多すぎるという欠陥があったが、それでも無いよりはマシと言う判断を下し、開発を続けさせていた。


「西方諸国、特にスヴェラニカ王国は勇者の力を量産する技術を確立させようとしている様だ」

「なんだと!?」


勇者とは。過去に存在した者であり魔王とされる者を倒す為にスヴェラニカ王国から旅立ったとされている。四百年程前の伝承であり、過去に有った文化革命と称する焚書を是とする動乱によりイジスタリウス帝国にあった資料の大半が失われ久しいものであった。

故にクロムナードはその伝承を口伝でしか聞いたことが無い為、レミルに伝承の収集を命じていた。残念ながら成果は思わしくなかったが数少ない情報の中に勇者の能力と思われる記述があったのだ。


「勇者の力と言うと・・・時間を巻き戻すという・・・」

「そうだ。勇者は短時間ではあるが自らの意志で時間の巻き戻りをする力を持っていた」

「それを量産できると?」

「できる訳がないだろう」


ノーチラスはそう断言すると兜を被り椅子を引いて立ち上がった。


「力の量産はできずとも新兵器はそれだけではない。矢だけに気を取られるな」


それを言い残すと背を向けて部屋から出て行った。

彼はいつもこうだ。突然やって来たかと思うと菓子を大量に食べた代わりにと言わんばかりに情報を提供してくる。最初は怪しい情報屋の売り込みかと思っていたが今の所全ての情報がまるで見てきたかのように一致している。

中には国家機密と言える程の情報もあったくらいだ。


「新兵器は矢だけではない・・・か。力の量産の件に関しても調べはしておくべきだろう」


レミルを呼ぼうかとも思ったがあいつはあいつで忙しい。今も大陸の各地域から来る情報の整理を主にやっているが、その量は膨大と言ってもいいのだ。今新しい仕事をさせれば過労で倒れてしまうかもしれない。


「こういう時に腹心が少ないのが響くな」


席から立ち上がり、大きい窓の前にある執務机の引き出しをあける。人事部から送られて来ていた秘書係推薦の書類がみっちりと入っている。

どれもこれも政変の際に皇室派にも貴族議会派にもつかなかった中立派の貴族の子息達だ。これを機に自分達の地位を少しでも上げておきたいのだろう。人事部が袖の下でも受け取ったのだろう。明らかに能力不足の者も幾つか混じっている。


「馬鹿共が」


この様な些事に貴重なクスサビからの輸入品である紙を使うなど余りにも勿体ないと思いながらも国家の人事に関する書類だ。容易に捨てる事も出来ないでの焼却せざるを得ない。

なんとも勿体ない事だと思いつつもパラパラと書類を流し見する。


「ふむ・・・ふむ・・・」


貴族とは言ってもこのイジスタリウス帝国では貴族間での位階は無い。無いが、家の大きさに財産の保有量、抱える私兵や使用人の数などで勢力が決まり、そこから派閥が出来ていく形だ。

この書類の山もある意味でその派閥間でのいさかいという物だ。自らの親族が皇帝の懐刀になったとなれば否が応でも発言力が高まるからだ。


「・・・ん?」


帝国では推薦書類には極力緻密な肖像画を描くのが規則となっているのでこの人事書類にもそれに則って金に物を言わせた誇張された肖像画が描かれていたが、最後の一枚の書類を見て一瞬固まってしまった。


「これは・・・片耳のエルフ・・・?」


そこにはまるで子供の落書きの様な・・・というか子供の落書きよりもひどいものだった。

その他に目についたのが左耳がエルフの特徴的な耳のそれが描かれていたのだが右耳が描かれていなかったのだ。


「性格に難あり、されど能力は高し・・・か」


エルフと言うのは武闘派という印象が強い。秘書仕事や情報戦を任せられるとは思えない・・・と言うのは偏見なのだろう。

経歴は二百年程前にエルフの国であるカーウッテ公国で生まれ、学院と呼ばれる教育機関にて上の中と中の上当たりの成績をうろうろしていた様だ。二十年で学院を卒業。


「二十年?あぁ、エルフだからか」


帝国には正規の教育機関は軍属の教導隊しかない。一応民間で基礎知識の教育の為の修道院があるが規模はエルフの学院のそれとは段違いに小さい。

それにエルフは平均でも人間の二、三倍に近い寿命を生きる。それ故教育に掛けられる時間も多い。


「金回りが良いのはうらやましい事だ」


このエルフは学院を卒業後何をするでも無く各国を放浪していた様だ。百数年も旅をしていたというのなら確かに経験は豊富だろう。

面白みはあるが採用するかどうかは微妙な所なので保留の判を押しておく。

最後に名前の欄を見る


「ジィ・パムルラルねぇ・・・」


書類の束を執務机に置いて重石を置いておく。


「はぁ・・・眠いな」


寝台に体を投げ打ってその感触を楽しみながら皇帝は意識を手放していった。

最近どうにも暑いですね。暑すぎて朝から部屋に猫を連れ込んでクーラーをつけるようになりました。

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