34ま、希望的観測だな
前回から短めになりますた
「しかし今日はえらい目にあったなぁ・・・」
完全に日が落ちて辺りが暗くなる中宿舎に戻って来た。何かと疲れたし早めに寝るとしよう。
・・・何故か寝台の布団代わりにしていた厚手の布が膨らんでいる。
「そこに居るのは誰だ?」
「んー?ご主人ー?おかえりなさいー・・・」
眠気眼でラッヘンが起き上がってくる。自由だなこいつ。
「そこは俺の寝台なんだが・・・」
「んー・・・この布・・・あったかいのー・・・」
言い終わる前にラッヘンは潜り込んでいく。
・・・仕方が無い、何処かの客間のソファで寝るか。
・・・・・・・・・
朝。日の登る方角に窓が向いている客間でカーテンを閉め忘れて寝たのならこうなる事は理解できる。
「・・・締め忘れた・・・二度寝しようかな・・」
高い山があるわけでもないので早朝の早い時間に日光によって起こされた俺は二度寝を決め込むが悩んでいた。元々一度寝ると意識を手放した直後に起こされでもしない限り最低でも一時間は起きないのだ。ここで二度寝すれば自立巡回させているドーフェル発見される。
・・・それはなんか情けないな。
断腸の思いで俺は客間を出て執務室に向かう。セレイムはまだ第四技研に居るのだろうか。
「今日こそは平穏な一日になるといいなぁ・・・」
そうぼやきながら執務室のドアを開けるとハイルラが箒をもって部屋を掃除していた。
「早いな」
「あ!おひゃ!お、おはようごじゃりましゅ!隊長!」
「そう慌てなくてもいいと思うんだけどなぁ・・・」
「しゅ、すみません」
「あーあー謝らなくてもいい。掃除お疲れさん」
掃除の邪魔をするといけないので執務室を後にする。そういえばシェーレからの頼み事以外に特に依頼や任務なんかは暫くは無かったはずだし・・・暫くはゆっくりできるだろう。
この世界に来てから何かとわたわたしていたしたまにはほのぼのするのもいいだろう。
「今日は良い天気になりそうだぁ・・・」
空八雲二くらいの割合だ。異常気象でもない限り雨が降る事はそうそう無いだろう。
「そういや・・・元の世界と経過時間は一緒なのかな・・・」
ふと思った事を口にする。この世界に生れ落ちてからそこそこの日数が経っている。経過時間が一緒ならもう俺の墓が建ってる頃だろうか・・・。
そう思うと途端に懐かしく感じる。
「ご主人?」
木陰に座り込んでぼーっと空を眺めていると不意にラッヘンの顔が視界に入る。
「どうした?」
「なんか遠く見てたから」
後ろから俺の顔を覗き込んでいたラッヘンが俺の隣に同じように座る。
「そうだな・・・元の世界に帰れたらとか・・・考えてたな」
「元の世界?」
「そうですよー。このアガマとかいうコンチクショウは色々あってこの世界にやって来た異世界の人間ですよー」
なんだこの説明口調は。
「はいどうも!皆大好きヴァルヴェスちゃんですよ!」
「大っ嫌いだ!ヴァーカ!」
いつの間にか背後に居たヴァルヴェスに唾を吐くかの様に叫ぶ。こいつが出てくると碌な事が無い。
只でさえこの所色々あって疲れてるって言うのにまたコイツに達磨にされたりすんのかとか思うと気が滅入る。
「まぁまぁ落ち着きなさいって。今日は君を細切れにするつもりでやって来たわけじゃぁないから」
「じゃあなんだってんだよ」
「我らが主。最高にして至高の存在からの伝言です。イジスタリウス上層部に動きあり、です。確かに伝えましたからね」
そう言うとすぐにヴァルヴェスは空間を切り裂いてその隙間に消えて行った。
イジスタリウスの上層部に動きありだって?そりゃ動かない上層部はただの無能だろうが。せめてどういう動きがあるのか位は教えてくれたっていいじゃないか。
「ご主人・・・帰りたいの?」
「んぁ?まぁ・・・そうだな。帰れるのなら帰りたいけど・・・体が残ってるとは思えんしなぁ」
元の世界に戻れたとして土の中に埋まってたスケルトンでしたーとかは勘弁願いたいが、そもそも日本は火葬だ。死んだ人間は炉で骨にした後骨壺に詰められる。
つまり元の世界に戻れたとして時間の流れが一緒なら窮屈な壺の中で生き返る事になるだろう。
そうなったら考えるのを止めるまである。
「ま、希望的観測だな」
ヴァルヴェスが居た以外はほのぼのとした時間だった。気が付けばそろそろ日もそこそこ高くなっている。朝飯の時間だ。
この隊舎では朝食と夕食は持ち回りの当番制だ。昼飯は各自何処かで食べてくるか弁当なりを用意する事になっている。今日は・・・レゴラウスだ。
そうだ、アイルネの抜けた当番をレゴラウスが率先して引き受けたんだ。小隊長の不始末は副長である自分の不始末でもあるとか言って強引に。
ま、まぁちゃんとした食材を使う様に言っておいたしこの間の森での串焼きも味は悪くなかった。大丈夫だ、多分大丈夫だ。きっと恐らくメイビー・・・。
「配膳が終わりました!さあ召し上がれ!」
食堂の卓に並べられた皿の上には謎の植物や焦げた肉の塊の丸焼きばかりが並べられていた。
徐に肉の丸焼きを二つに切ると中はレアと言うのも烏滸がましい程生焼けだった。
「レゴラウス・・・これは?」
「何分焚火が無いので少々手こずりましたが食べられない物ではありません」
「そう言う問題じゃないと思うんだよなぁ・・・」
謎の植物を切ってみると玉葱の様な構造をしている。案の定中心に行けば行くほど生焼けである。
一体どんな育ち方をすればこんな料理が作れるのだ・・・。
「な・・・生焼け・・・」
ハイルラが肉の塊を切った後に絶句した。いつの間にか居たサーレイフラは顔を青くしながら無言で口に運んでは咀嚼もそこそこに飲み込むを繰り返している。
これは迅速な対処が必要だろう。
「レゴラウス」
「ハッ!」
「昼飯は全員で街中のそこそこ良い店に行く。これは隊長命令だ」
「了解しました!」
これで多少は料理と言う文化に触れてくれるといいのだが。
「さて、本日の予定だが。特に任務や依頼も無い為各自自由行動とする。昼前には隊舎の前に戻っている様に。昼飯が終わった後も即時解散で自由行動だ。次の任務がいつ来るか分からんからこの間の疲れは取れる時にしっかり取っておくように。以上だ」
先日の調査で疲れた体をしっかりと休めて次に備える様にと付け加えて食堂を後にする。
レゴラウスの手料理?食べたさ。残したら勿体ないしな。
俺の場合は魔力装甲で味覚を感じてるのだから味覚をカットして食べた後魔力装甲内に臨時の調理スペースを作って消化できる位に調理した後本体で食べるのだ。まぁできる調理なんて水煮か炒めるかしか今の所は無いが。
さて、本当に本日は用が無い。色々と今まで忙しかったが暇が過ぎると言うのも困りものだ。これが休みでも仕事を欲してしまう社畜の性というものか。
「どっかにピクニックにでも丁度いい場所でも無いかね」
執務室にある地図を広げて眺める。だが待って欲しい、ピクニックの前にやる事があるのではないだろうか。
そう、通信装置の改良である。前回の森の調査の際に使った物は片側からの通信機能が無く緊急性に欠けた物で謂わば欠陥品と言っても過言ではない。
ならば次に似たような事になった時に使える様に相互通信を可能にし携帯性の向上も目指さなければならない。
「一旦地図を仕舞って・・・」
机の上を整理しそれとなく精密工具を用意する。何故か倉庫の端っこの方で埃を被っていた物を発掘した。別に使うつもりがあるわけでは無いがあれば雰囲気が出るだろうと思って用意した。
まず前回の通信機を用意する。拳大の大きさと持ちにくさも相まって取り回しがクッソ悪い一品だ。誰だこんな欠陥品を作ったのは。俺か。
この通信機は簡易と言う事で親機と子機と言う扱いで稼働する。発信側が親機で受信側が子機だ。今回の改良はこれの小型化をまず試作した後仮組したインカム擬きにくっつける。このインカム擬きは耳に近い所に親機を付けてマイク部分に子機を付けた。まだ多少大きいが削れる機構も多い。小型化の余地は十分にあるだろう。
そして子機と親機のリンクはそのまま物理的な接続にするために魔力伝導率の高いらしい銀の糸を使う。名前こそ銀の糸などと大仰だが実際は銀でできた針金みたいな物に魔術的なメッキが施された一種の魔術道具である。
そして子機を介して親機から伸ばしたアンテナの様な部品の先に付けた送受信用のパーツを付けてこれも銀の糸で親機と接続する。これで魔力が通る際の空間抵抗とやらが無くなり音声が鮮明になるだろう。
そしてもう一つ同じものを作り送受信パーツの波長を合わせる。これで取り合えずの通信はできる。動力は装着者の魔力だ。魔力を込める量や勢いによって通信範囲がかなり変動する。魔力効率をよくしようと思うと親機が大型化してしまう。現状、装着に不自由しない程度の大きさだと魔力をできるだけ込めた場合二、三キロメートルが限度の様だ。これ以上となるとメグファインの様な技術者の協力が必要になってくる。
後は大本の親機を用意して無線兵の様な役割で魔力を込めてもらう事によって波長の強化が見込めるが・・・そこそこの規模になりそうだし使用者の魔力消費が馬鹿にできない。
「ほう、なかなか面白そうな物を作っておるようだな」
「あんたにゃ関係ないだろ」
突然当たり前の様に触手が話しかけてきた。
「そういや、あんた名前はあんのか?」
「名前か・・・無いと言えば無いが、あると言えば有るとも言えるな」
「渋るなよ、有るなら教えてくれ。なんて呼べばいいのかわからんのではいざという時困る」
「ではガーベラスト」
「それはダメだ」
「何故だ?」
「何故も何もダメだ。別のにしてくれ」
「普通名前と言う物は幾つもあるものでは無いと思うのだが?」
「いいから」
通信機改良の作業を続けながら会話を進める。
「ではそうだな・・・セブコマンテ・・・などどうだ?」
「由来が分からんが・・・まぁ名前がわかりゃいいか。地味に長いし呼ぶ時はセブでいいだろ?」
「かまわんよ。所でそれはなんだ?見た所長距離の術式に干渉する魔導具の類に見えるが」
インカム型の試作機が一組完成したので次はヘッドギア型の試作を始める。
「まぁ・・・離れた場所で会話ができる様になる予定の魔導具・・・って感じだな」
「ほぅ」
大まかな構造はインカム型とほぼ同じだがヘッドギアなのでそこそこの重量でもそこまで着用者に負荷が掛からない。ので、ヘッドギア型の試作機には送受信の増波装置として親機とほぼ同様の物を付けて魔力の流れを並列処理させる。これにより同じ程度の魔力量でも二割弱程の通信距離増加が得られるが、その分重量は嵩む。負荷が少ないとは言え無いわけではない。長時間の装着は慣れていない限りそこそこの問題が生じるだろう。この辺りの小型化や実用化はメグファインに頼る他は無い。
なんにしてもこれを実用化するには試験を重ねなければ実用に耐えられる物は作れないだろう。
兎に角今は最低限の機能を持たせた小型インカム型を隊員の人数分作る。これの実用試験や耐久試験をして更に改良し、メグファインの所に持ち込むのもいいかもしれない。
「所でセブは天の御柱って知ってるか?」
「天の御柱とな?」
「そうだ。それを探してほしいって頼まれたんだが情報が無さ過ぎてお断りしたんだ。だがまぁ、情報を集める位はしておこうと思ってな」
「ふむ・・・すまないが私には覚えが無い」
「無いなら無いでいいんだ」
インカムを作成し終えたので地図を取り出して再びピクニックにいい場所を探そうとするとドアが開けられた。
「隊長、昼時ですが」
「レゴラウスか、すまない。少しこれに夢中になり過ぎてしまってな」
プラプラとインカムの一つを手に取ってレゴラウスに見せる。
「それは?」
「そこそこ離れた距離でも会話できる・・・って感じになる予定の魔導具の・・・試作機だな。後日調整したものを試験運用する予定だ」
「了解しました。それで、昼食は街に行くとの事でしたが」
「そうだな・・・ここに、たまたま手に入ったレストランの食事券がある。自分の懐を傷めずにいい飯にありつく事ができるぞ。ご丁寧に地図付きだ」
アーネル・シャイから貰った食事券を引き出しから取り出してレゴラウスに手渡す。レゴラウスは食事券を受け取ると食事券と俺を交互に見ると不思議そうな顔をする。
俺は机の片づけをした後外出するために身だしなみを整える。レゴラウスの舌を矯正する良い機会だ。
・・・・・・・・・
「・・・これは・・・また」
食事券の裏に書かれていた地図の場所に到着した俺はその建物を見上げた。
そこそこ大きい建物だが大きさだけならそこまで驚く事は無かっただろう。建物の各所に施された装飾や小さいとは言え入口の扉回りに散りばめられた宝石類や貴金属の数々。明らかに平民向けという店舗では無い。
入口の前に待機している執事の様な男性に食事券を渡す。
「これは・・・アーネル様の・・・では、こちらへ」
執事の様な男性が扉を開けて中に居たメイド服の女中に俺の渡した食事券を見せて指示を出すと中は女中が案内するのか手招きをされた。
思ったよりも格式高い店の様だ。あまりテーブルマナーとかは知らないのだが・・・どうするべきか。




