33まるで榴散弾だな・・・
比較的短めです
「はっはっはっ」
酸欠で真っ赤になった顔で断続的に息を吸う。
落ち着かない。口の中が燃える様だ。
「ひっひっひっ」
脳が冷やせと急かし、呼吸を荒くするが熱は収まらない。
「かっかっかっ」
次第に皮膚までもが強い熱を持ち始める。
「辛ーーーーーッ!?」
尋常ではない辛さによってついに悲鳴を上げた。
そう、辛いのだ。・・・というか辛いを通り越して痛いのだ。
「あー!あー!牛乳!牛乳かなんか!無い!?」
辛さは乳製品を摂取する事によって和らぐと聞いた事がある。幸い眼球はあっても痛覚が無かったのだが、魔力装甲全体の痛覚を切っているとは言え、味覚は再現したままと言うのがまずかった。
「ほれ」
急に絶叫した俺にびっくりしていたのが落ち着いたのか、見かねたメグファインが乳白色の液体をグラスに淹れて渡してくれた。
「ングッ・・・っは・・・えらい目にあった・・・」
「一体何なんじゃ・・・その赤いのは・・・新手の罠か?」
「ンガッ・・・ゲホッ・・・あぁー・・・多分香辛料か何かから辛さの成分を抽出したやつかな・・・ゲホッ・・・顔に被るのは二度とごめんだ・・・ところでさっき渡して貰ったこれは?」
「ヤギの乳じゃ」
乳製品で多少緩和されたという事は恐らくカプサイシンか何かだ。凝縮して充填されていた袋が破裂したのだろう・・・。
いやしかし本当に酷い目にあった・・・。近くに居たマステヌが少し被ったのか、所々赤くなったメイド服と触覚の様な部分を毛繕いでもしようとしたのか顔を近づけてはとても筆舌に尽くしがたい表情をしたりしていた。
・・・さて。落ち着いた所で考えるのは何故弾頭の、それも恐らく信管と思われる部分の直ぐ近くにこんなトラップじみた物があったのか、その理由だ。
「ただのトラップか・・・それとも・・・」
「いっくし!」
「なんだ、噂でもされてるのかい?メグファインさんよぉ?」
「さあの・・・いっくし!・・・そのあいっくし!・・・赤いのの成分やいっくし!・・・効果をいっくし!」
「わかったもういい休んでくれ!わかんないけどこの液が原因だろうしせめて部屋の洗浄が終わるまでは入らない方がいい」
「あぁいっくし!・・・そのようじゃへっぷし!・・・」
メグファインがしょぼくれながら部屋を後にする。
「・・・マステヌさんは・・・大丈夫なの・・・?」
「えぇ、多少変な感じはしますが耐えれない程では無いです」
「それならよかった・・・マステヌさんには部屋の掃除を頼んでもいいかな?」
「言われなくても。掃除をしなければ後々に支障をきたします。早々に終わらせましょう」
言うが早いか、マステヌさんはどこからともなくモップを取り出し掃除を始める。
こちらはこちらで調査を進めよう。そう思って机を振り向くと筒から取り出したスライムの死骸が燻っていた。
「これは・・・」
暫く観察しているとまるで燃えていく様に消失した。訝しみながらも再度弾頭の方を見ると素人目にも信頼性の高そうな単純な機械式の時限信管の様に見える、ゼンマイがいくつか見えることや時間を調節するためと思われるネジが付いていることからも可能性は高そうだ。
「マステヌさん。他に不発弾は?」
「・・・えぇ、此方に送られたのはこれと他に解析の為に五発程だけですが廃棄物処理場にいくつか送られているとか」
「そこに爆発に対応できる人材は?」
「私はあまりここを出ないので・・・メグファイン様なら何か知っているかと」
「マステヌさんはその解析用の解体をして!俺はその廃棄場に向かう!」
言うが早いか、返事を待たずに部屋を出てすぐそこに居たメグファインの首根っこをひっ掴み第四技研を出る。
「こりゃ何をするか無礼者!」
「あれの構造が大体解った」
「なんじゃと?」
聞く耳をもったのか俺の手を離れたメグファインがこちらに顔を向ける。
「恐らく俺が被ったあの液体をスライムの死骸に噴射する仕組みだったんだろう。それで何らかの反応を起こして爆発させていた」
「なるほど・・・じゃが六割に登る不発率はどう説明するのじゃ?」
「それなんだが・・・とにかく急いだ方がいいかもしれない」
「なぜじゃ?」
メグファインが首を傾げる。
確かに確証のある事では無いがもしも全ての不発弾と処理されていた物が同じ時限信管で意図的にこれ程の遅延を持たされていたのなら。原理は不明だが爆発すると言うのは間違い無いだろう。
「これは多分ある種の罠だったんだろう」
「罠じゃと?」
「俺達が今所属してるこの帝国は軍事面に重きを置いているだろう?そんな国が謎の兵器を撃ち込まれて解析しないわけがないしその為に不発弾を回収するのは明白だ」
「つまりあれじゃな?ワシらにこれは不発弾であると油断させておいて研究機関に被害を与える為じゃな?」
「確証は無いけど・・・その可能性が高いと思う」
実際爆発のメカニズムがどういう物かは分からないが、少なくとも爆発物である事は確定している。廃棄場であろうと全てが爆発すればそこそこの被害が出るだろう。
「では、急がねばな」
メグファインが懐から細かい幾何学模様の入った独楽を取り出したかと思うとそれを地面で回す。
その独楽は回転する度にその回転速度を上げ、遠心力によるものか、あからさまに元の質量よりも大きく円盤状になっていく。
「ほれ、さっさと乗らぬか」
どうみてもあれだ。となりの何某だ。いろいろと大丈夫なのかと気にはなったが異世界なので気にしない。
最初にメグファインと会った時に乗っていた円盤になったそれに脚を乗せ、メグファインにしがみつく。
羽を出して飛ぶ事もできたのだが、存外疲れるのとそもそも件の廃棄場の場所を知らないので、乗せてもらう事にする他無い。
それに街中ではないとはいえ誰が見ているかも分からない中、羽を出して飛行するのはまずい気がする。
「見えてきたぞ。あれが廃棄場じゃ」
メグファインがそう言って指差す方には小型飛行機のハンガーの様な建物が三つ程と監視棟なのか建物が一つ並んでいた。ここから見る分には特に異常は無さそうである。
念のためドーフェル経由でセレイムに位置を教えて来てもらう。スライムだし多少分かる事もあるだろう。
メグファインが高度を下げて降下する。それを確認したからか監視棟から三人程人が出てくる。
「第四技研のメグファインじゃ!少し中を見せてもらうぞ」
「お待ち下さい。まずは身分証明をしてもらわないと・・・」
三人の内で最も小柄な男性がメグファインを静止する。それを聞くとメグファインが懐から手帳の様な物を取り出し、その男性の胸元に突き付ける。
「・・・確認させて頂きました」
「うむ。行くぞアガマ」
少し苛立ちを感じさせる足取りで廃棄場と思われるハンガーの様な建物へ歩いて行く。
「後でもう一人くるんで通してくださいね」
それだけ言うのを忘れずに俺もメグファインに付いていく。・・・ついて行こうかと思ったがメグファインが廃棄場の搬入用と思われるシャッターと格闘していた。とても重たいのだろう。すごく躍起になっている感じですぐ横にある出入り用の小さいドアに気づいていない。
「メグファイン?そっちのドアは?」
「ぬ?あぁそれか。この建物も古くて建付けが悪いのじゃ。あとは・・・わかるじゃろ」
手に付いた埃を払うようにぱんぱんと打ち合わせながらこちらとシャッターを見比べる。
「そんな重たいシャッターならさっきの人達にも手伝ってもらえばよかったのに」
確かに重たい。重量挙げをやっている成人男性五人でなんとか開く位の重さだ。
だがそこは文明の力を借りる。
油圧シリンダを作り出しオイルは魔力を操作して代替する。差し詰め魔力庄シリンダといった所か。
そうこれこれと言わんばかりに目を輝かせていたメグファインはシリンダを見た瞬間に興味を失った。もしかしたら知っていたのだろうか。
まあとにかく三本程シリンダを作り安定をとってシャッターは開いた。一点だけで支えると負荷が掛かり過ぎて労災案件なのだ。ヨシッ!・・・などと言って安全を怠ってはいけない。
「なんだこりゃぁ・・・」
「ここは第三廃棄場じゃな。比較的最近に出た扱いに困る物を押し込めてある・・・まあ厄介払いの場所じゃな」
普段使っていない物を仕舞っておく物置や倉庫、蔵の様な雰囲気だ。棚に積み上げられた箱や謎の棒状の物に始まり天井から吊り下げられた蠢く袋や何かの動物の頭蓋骨まで。ありとあらゆるよくわからないものが一杯ある。
その中でも一際大きくシャッターの近くに置かれていた箱があった。
「これじゃな」
メグファインがそう言うとおもむろに側面に手を触れる。
すると箱が薄く光り、徐々に透明になっていく。中には矢羽と棒を外し、弾頭部分だけになった物が積み上げられていた。
「なんか鮪が積まれてるみたいな感じだなぁ・・・」
俺の感想を尻目にメグファインは徐に弾頭を一つ取り出し俺に手渡す。手渡されたそれを分解すると恐らくゼンマイ仕掛けと思われる時限装置に繋がれた赤い液体の入った袋とスライムの死骸が出てきた。
それを確認してからメグファインが次の弾頭を渡してくる。それを受け取っては信管を外すを繰り返した。
半分程終わった頃にセレイムが到着したので手伝ってもらった。
「所で本当にこの液体をスライムの死骸にかけると爆発するのかの?」
メグファインが疑問符を浮かべる。俺だって正直ちゃんと爆発するのかは分からんが、あくまで可能性の一つとして考えられるというだけだ。爆発しなければ杞憂で終わるし、するのであれば危機一髪だ。材料は大量にあるので後で幾らでも試験はできる。
「スライムの特性として生命活動を停止した個体は核に全ての魔力が集中します。その魔力は特定の刺激を受けると暴走し爆発する危険性を持っていますが・・・何分自然には無い条件なので詳しく調べてみない事には・・・」
メグファインの疑問にセレイムが答える。今回弾頭から取り出せたスライムの死骸はセレイム曰く七割程が火の魔力を内包している種類のスライムだったらしい。
「こんだけあったらどんくらいの規模な爆発がおこるんだろうなぁ」
「分からんが・・・報告では一発一発はそれ程大きい爆発ではなかったとの事じゃ。どちらかと言えば破裂した破片による被害の方が多いと報告されておる」
「まるで榴散弾だな・・・むしろそれが狙いなのか・・・」
弾頭のスライムの死骸が収まっていたケースを見る。外側から見れば只の円筒に見えるが内側をよく見ると細かい溝が多数掘ってあった。これを一つ一つ手作りしたのかと思うと気が遠くなる。恐らくこの溝によって破裂したあとに飛散する破片を増やし、加害範囲を広げているのだろう。
「兎に角、爆発物処理は完了した。セレイムもお疲れさん」
「お疲れさんじゃな。後はわしに任せておけ、報告書はこっちで上げておく」
「お疲れ様です、メグファインさん。手伝います」
セレイムはメグファインに付いて行った。なんでも今回取り出したスレイムの死骸とセレイムの一部を使って実験をするのだとかでセレイム自ら志願して行った。
そんなこんなで用事も無くなったが日も暮れてきた。街をぶらつくにしても少し遅い時間だ。酒を嗜むならまだしも俺は酒は嫌いではないが好きと言うわけでも無い。振舞われる物であれば飲むが、自ら飲む程でもない。
道端の屋台も飲み屋や酒の肴になりそうな物を売っている屋台以外は店じまいの準備をしている。
・・・ふと、見た事のある背中が屋台の暖簾を潜るのが見えた。あれは確かシャーレだったかシェーレだったか言うお偉いさんだ。服装は平民寄りにしている様だが特徴的で高そうな髪飾りが見えたので判別がついた。なんでこんな所にいるのかとかお忍びなのかとか疑問は絶えないが・・・そっとしておくことにしよう。上役には上役の悩みでもあるのだろう。
「おっ」
軽い衝撃を受けた。誰かにぶつかられたみたいだ。こちらが突っ立っていたのだし一言謝ろうと衝撃が来た方を向く。
・・・誰も居ない。もう通り過ぎたのだろうか。
「あ、あの」
少し高い中世的な声がする。声の方向は下からだった。
「ぶつかってしまいすみませんでした」
「あぁいや、こちらこそ」
黒いフード付きのローブに身を包んだその少年とも少女とも見分けが付かない人は真っ白なペストマスクを着けてその背丈に迫る程の剣を背負っている。鞘に入っているため刀身は見えなかったが柄頭に付けられている鈍い紫色の光を湛える宝珠や柄の装飾からそこそこ値の張る代物だと推測できる。
お互い会釈をしてその場を後にする。何故こんな街中でペストマスクなんぞ被っているのかと疑問を持ったがファッションと割り切った。正直自分のファッションセンスに自信が無いから人の服飾に突っ込む事は憚られるのだ。




