31食べれた物ではなさそうです
また時間が空きました。
地面を照らす朝の木漏れ日が一段と眩しく感じられる今日この頃、如何お過ごしでしょうか。私は今、蛙を食わされそうになっております。
「さぁ隊長!どうぞ!」
レゴラウスが蛙の乗った葉の皿を此方にグイグイと押してくる。こいつこんなキャラだっけ?キャンプに来た中学生みたいなノリになってないか?
いかんせんやはり部下の好意を無下にするのも忍びないので戦々恐々しつつ少し囓る。
・・・うん。なんと言うか・・・鶏肉と牛肉の良いとこ取りをしたような味と食感で・・・。
「どうです隊長、新鮮な牛蛙の味は」
「ブッフォ!?」
思わず吹き出した。何?ウシガエル?ウシガエルってあのウシガエル?
「大丈夫ですか隊長!まさか牛蛙は苦手でしたか?」
「ゲッホ!ゲホッ!あぁゲホッ・・・大丈ッホ!」
「隊長!無理しなくても苦手ならば断ってくれても・・・」
レゴラウスが何か言っているが自分の咳で良く聞こえない変な所にでも入ったのだろうか。
「隊長?」
「あぁ・・・なんとか・・・落ち着いた・・・」
少し呼吸が荒いままだがなんとか落ち着いた。ウシガエルと聞いて少し驚いたが何て事は無い、ただの牛肉の味がする鶏肉だ。
・・・頭が混乱しそうだ。
・・・・・・・・・
一段落して早朝のミーティングを始める。居るのはアイルネ、サーレイフラ、レゴラウス、ハイルラ、ドーフェルだ。すでにラッヘンとセレイムにはここで待機してもらう様に言ってある。
「さて、今日の予定だが、レゴラウスとハイルラ、ドーフェルはここの確保と整備を維持してくれ」
「了解しました」
「アイルネとサーレイフラは俺と一緒にまたあの廃村へ向かう」
「今日こそは調査に入りますか?」
「そうだ。見つけるべき物は記憶の歪みだ」
記憶の歪みと言ったとたんに場がざわめいた。
「隊長・・・その・・・本気なのですか?」
アイルネが恐る恐ると言った感じに聞いてくる。顔を見ると少し青ざめていた。
「あぁ、本気だ。正直記憶の歪みに関する知識はそんなに無いので、発見に関してはアイルネとサーレイフラが頼りだ。見つけたら後は俺に任せて欲しい」
「・・・了解しました」
苦虫を噛んだような表情でアイルネが了承する。サーレイフラは未だに青ざめていた。
ガレットで検索した限りそんなにヤバいとは感じなかったのだが、それほどの物なのだろうか。
・・・・・・・・・
「・・・って言っても手掛かりがねぇしなぁ」
愚痴を呟きながら整備されていた林道を歩く。アイルネとサーレイフラとは各々廃村から三方向へ探索している。アイルネは北西、サーレイフラは更に南西へ、そして俺は南東だ。あの二人には一応俺の魔力で作った簡易通信機の様な物を渡してある。まぁ此方からの一方通行しか出来なかったのだが、それでも今は十分だろう。
「せめてどんなものなのか位は聞いとくべきだったなぁ」
整備されているとは言っても切った樹木を運ぶ為の荷車が通れればよかっただけなのか、舗装路には程遠く、申し訳程度に砂利が敷いてあるだけの獣道の様な物だ。
「ほんと、石油があるんならコンクリでも作りたいもんだ」
まぁ、そうは言っても作り方は知らないのだが。
そんなこんなで一時間歩いた。一度集まった方が良さそうだ。
「あーあー聞こえるか?二人ともそこそこの距離を散策したと思われるので一度情報の整理の為に廃村に集合しようと思う。これが聞こえたら事前に渡しておいた青のボールを地面に置いて魔力を流せ」
廃村から出発する前に二人には簡易通信機の他に、もう一組道具を渡していた。照明弾の様な物で魔力を流すとそこそこの速度で上昇し、一定の高度まで行くと所定の色で破裂するものだ。
自分用にも用意した青の照明弾に魔力を流して発射する。この近辺の林は低木が多いのでまぁ見えるだろう。
此方から見て西の方角から青の照明弾が上がった。サーレイフラだ。
しかし、その他には上がらない。
「アイルネ!聞こえるか!聞こえていたら青のボールに魔力を流せ!」
再度呼び掛けるが照明弾が上がることは無かった。
「サーレイフラ!緊急事態だ!できる限り早く廃村まで走れ!」
そう言いつつ自分も全速で廃村に向かう。足の裏に魔力推進の術式を組み込み更に加速する。調整がまだ済んでいないため、細かい制御が効かないので戦闘には向かないが高速移動には最適だ。
行きに歩いた時間の四分の一程度の時間で廃村まで戻ってきた。暫くしてサーレイフラも戻ってきた。
「これから俺はアイルネの救援に向かう。サーレイフラ、お前はベースキャンプに戻って現状の報告、判断はレゴラウスに仰げ」
「了解しました」
サーレイフラがベースキャンプの方へ走り出すのを見てから俺もアイルネの向かった北西へ向かう。
「っと・・・そうだ・・・」
・・・・・・・・・
失敗した・・・。歪みがあるとは言え、たかだか森の調査だと侮っていた。先程私を前腕の一振りで吹き飛ばした魔物は今も目の前で低く唸っている。
私はこの魔物の事を知っている・・・いや、知っていたはずだった。
白い体毛に特徴的な大きい耳、赤く血走った眼と前腕に備わる短くも鋭い爪。ラフテルだ。本来は狂暴であるが、体躯も小さい上に知能も力も無く、脅威度は低い。軍事教練過程でも標的にされる程度だ。
だが、目の前に居るこれはなんだ?身体的な特徴はラフテルと一致している。ただ一つ、あまりにも大きな体を除いて。
「ぐっ・・・」
何とかこの状況を伝える為に動こうとするものの利き腕が動かない。先の一撃で折れてしまったのだろうか。
「グルル・・・」
目の前の獣が口角を上げる・・・笑っているのか?
その動作に気を取られて振り下ろされる右前腕に気付くのに一瞬遅れた。
「ぐっ!」
幸い左腕は無事だが、足首でも挫いたのか、最早まともに動けるものでもない。
息を大きく吸い込み、腹を括る。
「アールヴ!」
『はいな!』
何処からともなく返事が帰ってくると私と獣の間に水が人型に集まり始める。
『んもーアイ君ってばいっつも』
「五月蝿い!早くしてくれ!」
『しょうがないにゃぁ』
人型の水の塊が私を覆う。骨折等の痛みはそのままに起き上がる。
痛みは引かない、当たり前だ。只の水に治癒効果など無い。それでも冷える事によって炎症は多少ましになる。
「これで・・・」
再び獣が前腕を振り下ろす。
「水守り!」
両腕の痛みを省みずに防御する。全身を覆っている水を一時的に打点に集めて圧縮する。圧力を上げながら圧縮された水が獣の前腕に接触する。
パァンと大きく弾ける音と共に獣が仰け反る。圧縮した水は強い衝撃を受けると岩よりも固くなる事を利用した水の盾。それが水守りだ。
更に圧縮した水の圧力を解放して全身に戻し、獣が怯んでいる隙に隊長から渡された赤色の玉に魔力を込める。玉は勢い良く上昇すると木々の高さを越えた当たりで赤色の光を出して破裂した。
「アールヴ、まだやれるか?」
『ちょーっち難しいかなー』
「隊長が来るまで持てば良い」
『んもぅ、アイ君はいっつも無理難題ばっかり』
愛用の投擲槍を構える。アールヴの補助のお陰で折れているはずの右腕は動くが、それでも本来の技量は発揮できないだろう。このままではじり貧だ。何か決定打を見つけないと。
「すーぱー」
まだ聞き慣れてはいない声が聞こえた。空耳だろうか。初激の時に頭でも打ったのだろうか。
「いなづまー」
まただ、少しずつ近づいている様な気がする。幻聴が聞こえるとは、とうとう私もここまでなのかもしれない。
「きーっく!」
とんでもない衝撃と同時に大量の土埃が舞った。
『うえーっ!ぺっぺっ!』
アールヴが土埃を吸い込んだせいで水が制御を外れて地面に落ちる。
「やっべ、やりすぎた?アイルネー!無事かー?」
隊長の声がした。さっきの衝撃を起こしたのは隊長だったのだろうか。
「無事・・・とは言い難いですが生きてはいます」
「よし!じゃあ可能な限り下がってろ!サーレイフラが救援に来る」
急に風が起こり土煙が晴れる。背中から大きく黒い翼を生やした隊長が先程の衝撃を意にも介さない獣と対峙していた。
隊長の指示通りに極力隙を見せないように後ずさる。
・・・・・・・・・
アイルネが右腕と左足をかばいながら少しずつ後ずさっていく。折れたのか挫いたのか、どの道あの状態での戦闘継続は不可能だろう。
「さてと・・・」
問題は上空数百メートルから魔力推進で加速をつけた蹴りの衝撃にも動ずに仁王立ちしている目の前の怪物だ。
お久しぶりのガレットさんの出番だ。
え~っとなになに?データ不足?はーつっかえ。
「シャァッ!」
怪物が前腕を勢いよくこちらにめがけて振り下ろした。大振りで見切りやすいがその分威力は乗っている、受けるのは危険だろう。判断もそこそこにそれなりの強度を持たせた板を生成する。
怪物の爪は生成した板を容易く引き裂いた。
「そおい!」
怪物の注意を板に惹かせた隙に右に回り込んで急所であろう首めがけて剣を突き立てる。
「ガアァァァァ!?」
不意を突かれて驚いたのか怪物が大きく仰け反る。どうやら斬撃は通るようだ。
続けざまに五本ほど返しの付いた魔力剣を生成し糸を付けて怪物の手足と首にそれぞれ突き立てる。
「シャァァァ!」
怪物も抵抗するがそこそこ深く刺さった返し付きの剣はそうそう抜けるものでもないし、抜けたとしても大きく深い傷が残る。
糸をそこら辺の木に結んで怪物を磔にする。
「こんなものか・・・」
拘束されたことを理解したのか、怪物は低く唸りながらこちらを睨みつけている。
このまま首を落として血抜きをして今夜の晩御飯としてもいいかもしれないが、こいつの肉が旨いかどうかは分からないし、そもそもこんな得体のしれない怪物の肉などあまり食べたいものでもない。
が、とりあえず絞めて血抜きはしておこう。地理的には丁度近くに川があったはずだ。
「よい・・・しょっと」
怪物の首に巻き付けた糸を勢いよく引っ張る。腕の中に作ったウィンチを高速回転させる事によって糸鋸のように作った糸が高速で巻き上げられ、その勢いで怪物の首を切り落とす。
暫く首の肉を削るように切っていくと途中から刃が削れているのに気が付いた。
「んー・・・骨か?」
位置的には頸椎のあたりだろうか。ガリガリという音と共に刃が負けている。もはや怪物はこと切れているが、切り落とせないというのは少々癪だ。ねじ切ってみるか?
「隊長!・・・これは」
「あ、レゴラウス!ちょうどいい所に。こいつの首落とすの手伝ってくれない?」
「え?・・・は、はい」
サーレイフラが応援を呼んできたのだろう。レゴラウスの後からひぃひぃ言いながら追いついてきた。
レゴラウスはこちらが渡した鋸で真面目にギコギコと首の骨を削り始めた。
「にしてもこいつは一体なんなんだ?」
「おそらくラフテルと呼ばれる魔物の一種でしょう。それが何らかの理由でこのように変質したのかと」
「ラフテル・・・ねぇ・・・」
ガレットで再度検索する。どうにもかわいらしい兎だ、とてもこれ程の凶暴性を持つ様には見えない。たまに農村の作物を食い荒らすがその際討伐対象ではなく確保対象となる程度には脅威に見られていなかったらしい。
「にしても骨も硬ければ肉も硬いですね・・・食べれた物ではなさそうです」
レゴラウスが刃の欠けた鋸をプラプラさせながら独りごちる。まぁ、言わんとする事は分かる。どうにもこいつは硬い。筋張っているわけでもなければ刃を通さない程でもないが単純に硬い。何かすれば柔らかくなるのかもしれないが、それでも食べるには手間暇がかかる事だろう。
「しょうがない。レゴラウスとサーレイフラはこいつの首でもなんでも兎に角何処か取り外して早馬で第四技研へと送ってくれ。俺はもう少し周辺を探索する」
「了解しました」
レゴラウスは快諾したがサーレイフラは少々青ざめていた。まぁ、確かにあんなに硬い物の何処を切り落とすにしても時間と労力が要る。やりたくないのは分からなくも無いが、まぁ仕方のない事だ。
さて、俺はそのまま森と言うには少々禿のある山というか丘と言うか・・・まあなんやかんや中途半端な場所を探索する。
ふと、足音と茂みをかき分ける音が聞こえたので姿勢を低くし、気配をかき消して潜伏する。
「・・・グルル・・・」
鼻をひくひくさせながら茂みから出てきたのは先程の怪物もといレゴラウスがラフテルと呼んでいた怪物だった。それも見えるだけで三体、音を聞き分けるなら少なくともそれ以上の数が居るだろう。これは状況が悪い方向に転がっている気がする。
早々に原因を見つけて排除しなければアイルネが手こずったこいつらが増えるかもしれない。
だが、少なくとも今はこいつらが通過するまで気配を消すしかない。
「・・・ガフッガフッ・・・」
「ガウ」
何か会話でもしているのか二、三回の鳴き声の応酬の後、レゴラウス達が居る方向とは反対の方向へと歩いていった。
「・・・さて、あの怪物共が来た方向が少し怪しいな」
出来るだけ音を出さないように草木をかき分けて進んでいく。アイルネを助ける前に上空から見てみたもののそれらしい物は無かったはずだ。・・・というかぶっちゃけ木々が鬱蒼としているので上空からではは何も見えなかったという方が正しいか。
これだけ草が繁茂しているのであれば貴重な薬草の一つや二つぐらいあるだろうが、残念な事にそういう知識は全く無い。残念だ、ああ本当に残念だ。試しに適当にその辺の草を毟ってガレットさんで検索をかけてみたらとんでもなく貴重な薬草だったりしても適切な知識が無いから最適な採取保存加工の術を知らないのは本当に残念だ。たとえガレットさんがその方法を教えてくれたとしても必要な道具が無いから無理だわーあー心苦しいわー。
「・・・お?」
そうこうして進んでいくとふと開けた場所に出た。
開けたと言っても空は木々の葉が覆い被さっていて見る事はできない。そして開けた場所の中央には・・・。
「なにこれ?」
見た目は二頭身から三頭身くらいの人型で耳が少しとがり気味、顔は仮面のつもりか大き目の葉っぱに穴を開けて被っている。
そして最も重要な特徴は。
「ちっさ・・・」
正に一寸法師と言わんばかりの大きさでそれこそ親指一本程の伸長しかない。
それがこの広場の中を走り回りながら、時折飛んだりしながら舞いの様な舞踏の様な盆踊りの様なフィギュアスケートのような・・・まぁ兎に角よくわからない動きをしている。
「これは・・・意思疎通ができるのだろうか」
進路を予測して手をかざしたりしてみるがフラリと躱された。少し癪に障ったので体全体を使い進路を塞ぐ。
綺麗にUターンされた。
「ぐぬぬ・・・」
「ほぉ、妖精か。珍しいものだ」
「うぉあ!?」
どう進路を妨害してやろうと考えていると右腕に巻き付いたままの触手が話し出す。唐突すぎてすこしびっくりしたが、それよりも疑問の方が上回る。
「妖精って?」
「ああ、伝説上とまではいかないがそれなりに珍しい種族だ」
触手の蘊蓄に相槌を打っていると広場の中央、その地面から液体とも気体とも言い難い物が少し湧き出しているのに気が付いた。
「あれが何かわかるか?」
「あれか?あれは歪だな。どうやらあの妖精が押さえ込んでいるようだ」
「塞ぐ方法はあるのか?」
「無いわけではないな」
触手が提案したのは俺の力で蓋を作ると言う物だった。言うは安し行うは難しとはこの事だろう。触手はさも簡単に言うがこのよくわからないものを止める蓋と言われても想像できない。
「難しく考えるな、単純に蓋を作ればいいのだ」
難しく考えるなって言ってもなぁ・・・。蓋・・・蓋・・・思い浮かぶのは鍋の蓋ばかり・・・タッパーの蓋も考えたがどうにもしっくりこない。
そうこう考えていると妖精の動きが少し激しくなる。もしかすると時間が少ないのかもしれない。
「ええい!ままよ!」
いろいろな考えを吹っ切り鍋の蓋を作り出し、思いっきりかぶせる。ポンと言う空気の抜けるような情けない音と共に湧出は止まった。隙間から染み出る事も無い。
(プェーー)
「うおっ!?」
唐突に何か笛の様な音が聞こえたと思ったら妖精が小さなトランペットもどきを吹くのと同時に紙吹雪の様な物を撒いていた。
「だから言ったろう?難しく考えるなと」
「わかりずれぇ・・・」
兎に角、歪の湧出は止まったのだろう。疲れたし早く帰って体を休めたい。
また時間が空くと思います。




