30一番美味しそうなやつをどうぞ
ねこはいました よろしくおねがいします。
瓦礫の山を片付ける・・・灰だ。別の瓦礫を片付ける・・・また灰だ。疲れたので小屋の影で休もうとする・・・当然の様に灰。
先程から灰ばかり見ていて気が滅入りそうだ。しかも一部にはがっつりと人の形を残している物もある。
「隊長!」
アイルネの声が無人の廃村と化した集落に響く。
「どうした」
「これを」
アイルネの元に赴き彼の指差す所を見る。
そこには下半身だけが灰になった少女が転がっていた。生憎既に息絶えていた。アイルネと同じく同行していたサーレイフラに少女を埋葬しておくように指示して、瓦礫の撤去を再開する。
酷いものだった。俺達が命からがら撤退した後から集落の状況は然程変わってはいなかった。違いと言えば全長三十センチ程の蚊や蝿の様な虫が数匹飛んでいた程度だ。
この集落に生き残りは居なかった。良くても先程の少女の様に体の一部が灰になって息絶えていた。
「恐らくあの二人が来る前に何かしらの異変があったと思われる」
「異変・・・ですか?」
埋葬を終え、休憩する為にアイルネとサーレイフラに合流し木陰の下で状況を整理する。
「俺がテセウスと交戦している間に入ってきた村民の様子が少しおかしかった」
あの時、もしも正常な精神を持つ人間なら激しく交戦している場に介入しようとは思わないだろう。仮に介入する気だったとしても武器になりそうな物の一つも持たずに間に入る訳が無い。
「せめて手がかりの一つでも有ればな」
休憩を終えて再び瓦礫の撤去にかかる。あの時テセウスが持っていた短刀で家屋をこれ程にボロボロにする事は難しいだろうしそもそも恐らくテセウスにはそれをする必要が無い。
テセウスがここに到着する前から何かがあったのは間違い無いだろう。
「ゥ・・・ァ・・・」
不意に瓦礫の山の一つから呻き声が聞こえた。咄嗟にアイルネとサーレイフラを呼び、手伝わせる。
「これは・・・」
「うっ!」
瓦礫の下敷きになっていたそれを見てアイルネは狼狽え、サーレイフラは目を反らす。
それもそうだろう。下敷きになっていたそれは右の肩口から袈裟懸けに両断された人の形をしたモノだったからだ。
しかもそれはその状態でも生きていた。・・・いや、人間としては両断された時点で死んでいたのだろうが。
「ァー・・・」
それは呻き声を上げてモゾモゾと動きだす。瓦礫に下敷きにされ、潰れていた左腕が二の腕の辺りから千切れる。骨は見えているが、血は出ない。既に出血しきっているのだろう。地面には土が大量の血を吸い込んだ跡がある。
「隊長・・・」
「・・・」
アイルネが此方に視線を向ける。
分かっている、これをこのままにしておく事はできない。目撃者として、せめてもの供養はしてやらなければならない。
ベルトのスクロールホルダーから一枚のスクロールを取り出し、魔力を流す。スクロールに刻まれた魔方陣が浮かび上がり、未だに死ぬ事の出来ない者に覆い被さる。
「主よ、その御技を持って、この者を救いたまえ」
サーレイフラが跪いて祝詞の様なものを唱え始める。そういうつもりでやってる訳じゃないんだが・・・別に咎める理由も無い。
覆い被さった魔方陣の内側が一瞬光るとそれは原型を留めず煙となって消えて行った。
「・・・さて続きだ続き!休んでる暇はそんなに無いぞ!」
俺の言葉で二人とも作業に戻る。できれば今日の日が沈む前にここの片付けを終わらせて調査に入りたいのだ。
昨日の戦闘で忘れかけていたがこれは調査任務で、携行食料にも限度がある。本来の目的を見失ってはいけないのだ。
・・・・・・・・・
何とか日の入りまでには撤去と形を保っていた住民の埋葬が完了した。後は帰還した後に上に報告しておけば勝手にいい感じにしてくれるだろう。
面倒はできる奴に押し付けてしまえばいいのだ。
「それにしても一体何があったのでしょうな」
食べられそうな果実や野草等を探しながらのベースキャンプへの帰路の途中、アイルネがそんな事を口にした。
それは俺も気になる所である。テセウスが言うには俺の様な転生者が何かを放置したせいらしいが、この世界の新参者である自分には皆目見当が付かない。
「俺だって教えて欲しい位だ」
誰に対してでもなく文句を言う。元凶が何であれ仕事を増やしてくれやがったのだ。文句の一つや二つ位言っても良いだろう。
ベースキャンプに到着した。レゴラウスとハイルラが近くの川で獲ってきたのだろうか、小さめの魚と二十センチ前後の両生類の様な物が焚き火によって串焼きにされていた。
そしてそれをおもむろに手にとって囓る老婆。
「・・・ナニコレ」
「あぁ隊長、お疲れ様です」
レゴラウスが此方に気付いて反応する。両手に串刺しになった蛙の様な物を持っていなければヒロインみたいな感じだったかもしれないのに・・・残念だ。
改めて周りを見渡すと簡素な縦穴住居に見える物が二つ、比較的しっかりとした作りの大きな葉っぱでできたテントが二つだ。
「作りは・・・結構しっかりしてるな」
「ひぇ!?しゅっすっすみません!」
仕上げをしていたのか、テントの裏に居たらしいハイルラがいきなり謝り出す。いや、脅かすつもりは無かったんだが、ハイルラはどうにもかなり小心者の様だ。
「ハイルラ!蛙程度を怖がっていて何になると言うのですか!」
「ひゃい!?すみません!すみません!」
レゴラウスがハイルラに喝を入れている。・・・っていうかやっぱり蛙なんだ・・・あれ。
少し可哀想になったのでハイルラには携行食料を押し付ける。他の三人は別に蛙だろうと何だろうと食えるなら食うらしいので獲ったものは残さない様に釘を刺してラッヘンとセレイムの居るであろう古城の宿舎に向かう。
「あ、ご主人」
宿舎に入ると寝台に座ってはいるものの、目が覚めたラッヘンがこちらに気づいた。セレイムはまだ不定形のままだが意識はあるのか、なんとも言い難い動きをしている。
「具合はどうだ?」
「ん、大丈夫、へーき」
「そうか・・・」
本人は平気と言っているが、その声に今までの元気は籠っていない。セレイムも言葉を発することが出来ないのか触腕の様なものを作って頷く真似をするだけだ。
とても大丈夫とは言い難い。
「無理はしない方が良い。今回の任務は幸いそこまで重要な物じゃないし、調査が完了するまでは休んでいるといい」
「うん、ありがとう。ご主人」
ラッヘンとセレイムの看病と有事の際の報告役をドーフェルに任せてレゴラウス達が整えてくれたテントに入る。中から見てもしっかりした作りで四畳半程の広さだ。その上簡素ながらもそこそこの耐久性を持つ寝台まである。
「こりゃ執務机があったらあっちの執務室よりも良い作りかもなぁ」
暇潰しと練習を兼ねて魔力でシャベルや鍬、斧に鶴橋、形だけ真似た日本刀等を作る。だが、どうにもしっくりと来ない。形だけの贋作ならば幾らでも真似は出来るが、どうにも耐久性や切れ味等が本物には追い付かない。特に日本刀は駄目だった。一振りしただけで何かを切った訳でも無いのにバラバラになった。
中途半端に鍛造の真似事で魔力の層を幾つか重ねたのが原因だろうか。
「いっその事魔力の流れをチェーンソーみたいにしてみるのは・・・」
「隊長」
ぶつくさと考え込みながら独り言を繰り返していると扉・・・と言うか扉代わりのこれまたデカイ葉の幕の向こうからレゴラウスの声がする。
「どうした」
「いえ、隊長は食事には来ないのかと、サーレイフラやハイルラが心配しておりまして」
「わかった、少ししたら向かう」
レゴラウスが焚き火の元へ戻る。正直幾ら食べられるらしいとは言え川魚や蛙を食べると言うのは些か抵抗があるが、部下の好意を無下にするのは気が引けるので焚き火の元へ向かう事にする。
そこは阿鼻叫喚の地獄と言っても過言ではなった。
自分より大きく、恐ろしい者に只補食されるだけならばまだ自然の摂理と言えただろう。
しかしこれはどうだ?生きる為の補食とは言え、本来なら細長くしなる体で攻撃をかわす事も容易いであろう生き物が無惨にも喉から串を刺され一直線に伸ばされ、臓物を抉り出され、そのまま磔にされた魔女の如く火にかけられている。
なんと恐ろしい光景だろうか。そしてそれを囲う者達は皆、笑顔を浮かべて他にも火刑になっていたのであろう生き物の齧りついていた。
「隊長!良いところに!丁度焼き上がった所です」
アイルネが火にかけられていた蛇と思われる生き物の串焼きを差し出してきた。
ただの蛇というだけならばまだなんとかなっていたかも知れない。例えば直径が目測でも十センチ、全長は三十センチを越えるツチノコの様な外見の蛇でなければ。
「あれ?隊長は馬蛇初めてですか?」
「こいつは馬蛇って言うのか?」
「そうです。自分より小型の動物を運ぶ習性のある蛇です。その習性から草食なので美味しいんですよ」
曰く、あまり都心では出回る事が無いが、こう言う森の他にも渓流や湿地等、砂漠の様に湿気が無い場所以外には大抵生息している上に温厚な性格なので捕まえやすく、おまけに旨いとくれば戦場や今回の様に急拵えの拠点でもそこそこ旨い飯にありつく為に捕らえられて調理されていると言われても疑問は無い。
「さぁ隊長、一番美味しそうなやつをどうぞ」
そう言ってレゴラウスはずずいと蛇の丸焼きの乗った葉の皿を近づけてくる。首から上以外の皮は剥がされているとは言え、かなりの抵抗を覚える。が、部下からの好意を無下にするのも忍びない。
覚悟をきめてかぶりつこうと大口を開ける。
「あ、隊長。背中側じゃなくてお腹の方からじゃないと背骨がありますよ」
「お、おう」
・・・改めて今度は腹の方に齧りつく。
「お!旨い」
「お気に召した様で、よかったです」
確かに旨い。鶏肉に近い様でそうでもなく、なんと言うか鶏肉寄りの桜肉と言った所だろうか。血抜きはしっかりとされていたのかジビエ特有の臭みもそこまで気にならない。脂身の少なく、引き締まった赤身は確かな歯応えと肉にしてはあっさりとしていて。自身の料理に関する語彙力の少なさが悔やまれる程に旨い。
「ただ肉を焼いただけでこうも旨くなるものなのか」
「えぇ、天然の馬蛇は臭みも少なくちゃんとした下処理をしていればただ焼いただけでも美味しくなります」
「やはり養殖の馬蛇よりも断然旨いな」
アイルネが相槌を打ちながら俺がレゴラウスから渡された馬蛇よりも一回り小さい物に齧りつく。焚き火で火にかけられている他の物と見比べるとやはりどれよりも一回り程大きい。
それによくみると俺が受け取った馬蛇の丸焼きには所々に植物が付いている。香りからして恐らく香草の一種なのだろう。それが割りと至るところにある。
「レゴラウス、これは」
もしや俺の為に・・・と続け様とするとレゴラウスに人差し指で口を塞がれた。
「それは隊長の分です。それ以外の何物でもありませんよ」
そう言ってレゴラウスはそそくさと焚き火を囲うアイルネ達の輪に戻っていく。
危なかった。危うく墜ちるとこだった。
これはいけない。俺がラノベとかの主人公だったらレゴラウスがヒロインになってしまっていたかもしれない。
いやいや、危なかった。
ラッヘンとセレイムには一応療養中なので携行食料の中にあった固めのパンの様な物をお湯でふやかして粥状になったものを用意する。正直料理はさっぱりなのでレゴラウス辺りの料理が上手そうな人にやって欲しかったが、今のセレイムの状態を見せるとSANチェックが入るかも知れないので自分で用意をする。
「しかし・・・なかなか賑やかなもんだな」
思えばこっちに転生してこのかた落ち着いて考える時間は少なかった。無いわけでは無かったのだが、未だにこれは長い上にリアリティの高い夢なのではないかと思う事があるからだ。
正直、今を現実として受け止められる気もしないが、ラッヘンとセレイムの解呪をした時に咄嗟にそう思ったとは言え、あんな言葉が出るとは。転生したばかりの頃を思えば大分変わったのだろうか。
「マスター・・・周囲二キロメートルの索敵を完了。敵性反応ネガティブ。今のところは安全と言えます」
「そうか。お疲れ様、ドーフェル。後はゆっくりしていてくれ」
「了解。お休みなさい、マスター」
お粥の準備をしているとドーフェルがベースキャンプの外から戻ってきた。
廃村の片付けをしている間にドーフェルには周囲の安全の確保を頼んでいた。一応戦力換算は出来るものの今は非戦闘員としての役回りなのでレゴラウスとハイルラは戦力として数える事はできない。そうすると動けないラッヘンとセレイムが居るベースキャンプを防衛できるのはドーフェルしか居ないわけだ。
「人手が足りんなぁ・・・」
今のところベースキャンプを離れて活動出来るのは俺とアイルネとサーレイフラの三人だけだ。レゴラウスとハイルラ、それにラッヘンはベースキャンプの安全を確保し続ける為に残ってもらわなければならない。ラッヘンとセレイムが万全ならもう少し動きやすいのだが、こうなってしまった以上仕方がない。三人で調査を進める他無いだろう。
そもそもこの調査は最初で最後の試金石だ。逃す訳にはいかない。
「廃村の片付けだけじゃ成果としては無いに等しいしなぁ・・・もうちょっとなんか欲しいよなぁ・・・」
お湯が沸いたので携行食料の硬いパンの様な物と一緒にラッヘン達に渡した後自分のテントに戻り、地図を広げる。拠点から南西の廃村になった村のあった場所に×印を書く。
多くの人の命が失われた。そしてテセウスは恐らくその一割にも関与していない。
廃村で生存者が居ないかの捜索を行った際に言わずもがな生存者は居なかった訳だが、死者全体数のそれこそ数人程度が灰になっていただけだった。
「ならば別の要因があるはずだ・・・」
テセウスは俺と以前の転生者が何かを放置したからあの惨状が起こったと言っていた。ならばその何かとは何なのか。
魔女を名乗るあの老婆に接触した後、あの老婆は歪みと言っていた。
では歪みとは何か・・・、まるで見当が付かないが、何もキーワードが無いよりましだ。
「歪み・・・か」
そういえばイジスタリウスでヒウスとか言う奴に記憶の歪みがどうたらとか言われたんだっけかな。
記憶の歪み・・・確かよくわからんけど触るとヤバいやつだったかな。探索の時には気を付けておかないとならなさそうだ
なにせその記憶の歪みが原因なら同行する予定のアイルネとサーレイフラがあの村の二の舞になりかねんからだ。
「どんなもんかわかんねぇけど見りゃ分かるらしいし・・・まぁ、なるようになるか」
新兵の小隊という小規模な部隊とは言え、指揮をする立場の人間がそんなので大丈夫なのかとも思ったが、生憎情報が少なすぎる。その場その場で対応していく他無い。「柔軟な姿勢を保ちつつ臨機応変に対応する」とか言う無茶振りな言葉を思い出して何とも複雑な気持ちになる。前までは失笑物だと思っていたが今は笑えない状況だ。
「隊長、まだ起きていますか」
不意にアイルネの声がした。
「どうした」
幕代わりの葉から身を乗り出す。やはりアイルネだ。空を見上げると数多の星が瞬いている。恐らくそこそこ深夜なのでは無いのだろうか。考えに耽り過ぎたか。
「実は昼間の捜索の際に妙な物を・・・」
「妙な物?」
「これです」
アイルネが懐をゴソゴソと漁り、取り出したのは布だった。恐らく何かを包んでいるのだろう。
その包みをほどくと中には短刀の破片と思われる欠片と少量の灰が入っていた。
灰の方はともかく短刀の欠片にほ見覚えがあった。恐らくテセウスの使っていた短刀だ。
「素晴らしい。よく見つけてくれたな、アイルネ」
「いえ、何らかの手掛かりになればと」
「いや、上出来だ。これを持ち帰って調べれば少なくともあのメグファインなら何か分かるだろう。ありがとう、アイルネ」
「はっ!ありがとうございます。ではこれで」
アイルネが自分のテントへ駆けていく。よく見るとアイルネのテントから少し光が漏れている。徹夜しているのだろうか。
「ま、俺も人の事は言えんなぁ」
徹夜は良い仕事の敵とも言うし、しっかりと健康管理をする事にも差し支える。早めに寝るに越したことは無い。
「明日になれば頭もスッキリしてると良いんだがなぁ」
文句を溢しながらテントの中に備え付けてあるハンモックに体を委ね、意識もゆっくりと手放していく。
ギシギシと鳴るロープの音が心地良く響いてゆったりとした眠りへと誘ってくれる。
ねこでした ありがとうございました。




