29サイコパス・・・カッコイイ響きですね
かなり久しぶりになってしまいましたが29話、完成いたしました。ご賞味下さい。
森の中にある小さな集落。ここに住む人々は林業を生業とし、生計を立てて生活していた。
だが今は人の姿は二つしか無く、その二つの人影も剣戟を交わし鍔迫り合い、お互いの獲物を振るっている。
一つ、大きな音が鳴り、また鍔迫り合いが始まる。
「アハハハハ!貴女は血が出ないのね!面白いわ!」
「んなろぉ・・・」
俺達が到着したときには生きている村人達の姿は無く、先回りをしていたのか、血に塗れた獲物を持つ双子だけが集落に居ただけだった。
その双子は俺達を見るなり二手に別れた。今相手をしている方は敵意は有るものの殺意は無く、ただ戦いを楽しんでいる。もう片方はすぐさま移動を開始したのでセレイムとラッヘンに追わせた。
「お前等・・・一体何が目的だ・・・!」
「目的?目的・・・目的!あぁ目的!そんなものもあったわ!でも当の昔に忘れてしまったわ!」
双子の片割れが握る双刀のダガーが翻り魔力装甲に傷を刻む。再生が必要な部分の再生を最優先でしているものの手数ではあちらの方が上だ、幾度と無く押し負け、一つ、また一つと傷が増える。
「血も出ない!傷も治る!果ては何処からとも無く剣を出す!」
「んのらッ!」
俺には剣の技量なんて無い。故にこちらも数を出していなせるだけいなすしか無い。致命傷になる部分を避け、できるだけ距離を空けようと動く。
それでも双子の片割れは直ぐに距離を詰め、斬り合いに持ち込んでくる。
これは少しどころか端から手に負えない相手だ。
「そういやッ!まだッ!名前もッ!聞いてなかッ!喋らせろゴルァ!」
打ち合いの最中に質問を投げかける。正直今更情報の一つや二つ増えた所でどうしようもないが、抵抗せずに敗北するのは矜持が許さなかった。
些細な物でも戦況を分けることは十分にある。そして最悪この魔力装甲を捨てて撤退する事も視野に入れる。
正直生存確率は五分五分・・・いや、六四位でこちらが不利か。質問を聞き終わった双子の片割れが一度距離を取る。
「名前?確かに名乗ってはいませんね。・・・そうですね・・・テセウス、とでも名乗っておきましょう」
テセウス・・・?な~んかどっかで聞いた事あるな。なんだったか哲学だったかなんだったかだ。
「自己紹介も済んだ事ですし、貴女のその腕、いただきましょうか」
「は?」
次の瞬間には俺の背後に現れたテセウスが肩から切り落とされた腕を握っていた。
慌てて確認するとやはり左腕を切り落とされていた。急いで傷口を塞ぎ魔力が漏れ出ないように対処する。
そのあいだにテセウスは自分の左腕を切り落として俺から切り取った左腕を取り付けるかの如く切り口にぐりぐりと擦り付けている。
「あんた・・・サイコパスかなんかかよ・・・」
「サイコパス・・・カッコイイ響きですね」
何かの能力と思われる力で結合したのであろう元俺の左腕は今や完全にテセウスの左腕となった。
動作確認をするように握ったり開いたりをしているテセウスに対してこちらは満身創痍、構造上それなりの魔力タンクも兼ねていた腕の片方が盗られた事でかなり魔力が持っていかれた。加えてここにくるまでの全力行軍でも相当な魔力を消費している。
そうとう消耗したが・・・ここは逃げるが勝ちか。
「聞くが、村人達を殺したのはあんた達か?」
「そうでもあるしそうでもないとも」
「曖昧な!」
まだ残っている右腕でベルトのスクロールケースに手を伸ばす。適当に作っては何も考えずに突っ込んでいた為整理なんかされていないが適当にばら撒いて煙幕替わりにでもなれば万々歳だ。
怖い物と言えば地震雷火事親父。さすがに地震と親父は無理だが雷や火事くらいなら起こせる。ついでに水も出して電気分解で水素と酸素に分離したあとに簡易的に魔術を使える様にとメグファインが寄越してくれた指輪型の魔術具で炎を出す。某配管工のものよりも小ぶりな程度だが着火くらいならできる。
「今の内に」
爆煙と土埃が舞い一気に視界が悪くなる。これならば有視界は聞かなくなるはずだ。こちらもそうなるのが欠点といえば欠点なのだが、爆音もあるし魔力の流れが激しい、ソナーも使えないだろう。
「ァ・・・ァァ・・・」
「んあ?」
少し低いうめき声が聞こえた、感じからしてテセウスではなさそうな感じだ、しかも耳を澄ますと複数居るようだ。
「余所見をしていてもよろしいので?」
「んなぁ!?」
間一髪テセウスの振り下ろしたダガーの軌道から逃げる。寸での所で降りぬかれたダガーは滑る様にテセウスの手を離れて後方の土煙の中に飛んでいった。
「ハハハッどこ狙っておっぶぇ!?」
回避しつつ転がる様に逃走しようとした先、丁度テセウスがダガーをなげた土煙の中から人影が倒れ込んできた。
「お前!」
「あはははははっ」
倒れこんだ人影はダガーから発火した火でみるみる内に塵と化し、風に吹かされていった。
テセウスに振り向いて睨みつける。ニコニコと善人の様な笑顔を浮かべながら手のひらで血まみれのダガーを弄ぶ様は正しく狂人だ。
「何故殺した!」
「何故?何故・・・何故!そう私に問うのはお門違い。原因は貴方方転生者」
「なん・・・だと・・・?俺、いや俺達だと?」
「貴方方が本来すべき事を忘れて陸を作り、世界を統一しようとし、国を作り、平凡に暮らそうとする・・・。それが原因だとも露知らずに」
こいつは俺だけではなく過去の転生者にも問題があると言うのか。さっぱりわからん。
「貴方方転生者が誰の助言も諫言も受けずにあれを放置するからこそこの惨状!」
踊るようにダガーでジャグリングしながら時折投擲する。ダガーが飛んでいった土煙の中が一瞬だけ赤く光る。
「速くあれを塞がないと私達が義務を全うせざるを得なくなるのでお早めに・・・」
そう言うと同時に手の中に持ってジャグリングしていた全てのダガーを投げ終えると同時に一瞬にして掻き消えるように土煙の中を移動していった。
暫くしてから土煙が晴れる。
そこにはまだ燻っている人の遺体がそこらじゅうに転がっていた。火を伴う灰はその体を蝕み、じりじりと、しかし確実に体を灰にしていく。
「あいつ・・・どうしてこんな事を・・・」
風に吹かれて崩れ去る人の形の灰に手を伸ばす。まだ炎が燻っているようだ。
なんとかならないものだろうかと考えようとしたがラッヘンとセレイムの事を思い出した。テセウスがあれほど強かったのだ、片割れも恐らく同等の戦闘能力を持っている事だろう。
ドーフェルと違いラッヘンやセレイムには濃い魔力の繋がりが有るわけではない、何せ分け与えただけなのだからその先は彼女達の魔力に染まる。
「・・・こんな事なら何か考えておけばよかったか」
テセウスとの戦闘時に別の場所で戦闘している様な気配は無かった。恐らくはまだ追跡しているか、撒かれたか。或いは考えたくは無いが・・・。
「兎に角追おう、考えれば考える程時間が無駄になる」
集落だった場所からテセウスの片割れが逃走した方向へ走る。
城塞跡から集落まで全力で二時間、タイムリミットは日が沈むまでと考えるともう長くは無い。ポーチからトネリコの結晶を取り出して落とされた左腕の断面に押し込む。魔力装甲には痛覚を適用してないとは言えちょっと見たくない絵面だ。
なんとか魔力の吸収が終わったので仮設の左腕を作ってタンクを共有する。
「ラッヘン・・・セレイム・・・一体どこに・・・」
周囲に捜索のための糸を出しつつ移動する。もしラッヘンとセレイムが戦闘に敗北している場合こちらが見つかるのは不利になる可能性が高い。出来ればこちらが先に相手を発見しつつ気取られない位置を取りたい所だ。
「匂う・・・」
そんな最中に呟かれた一つの言葉。
「ッ!?誰だ!」
「匂うぞ・・・生娘の良い薫りがする」
「ってめぇなんだこの変態野郎が!出てこい!」
声はすれども姿は見えず、回りを見てもそれらしい人影は無い。
「ここだ愚か者の小娘」
ふと右腕から声がするのに気づいた。
右腕と言えばこの間から巻き付いていたなんかよくわからん気色悪い物体の事を思い出した。
「貴様の愚かさを見かねて助けてやろうというのだ、ありがたく思え小娘」
案の定右腕を見るとそこにはうにうにと蠢く気色悪い触手がさもブレスレットと言わんばかりに引っ付いている。気色悪いし右腕ごと切り落としてもいいかな。
「そう逸るな、北北西だ。そこから匂いがする」
「うわキモ・・・」
とは言え他に手がかりもないし、今はこの気持ち悪い物を信じてみるとしよう。
気持ち悪い物体の言うとおり北北西の方角へ向かうと開けた場所に出た。
そこには空中に見えない柱か何かに磔にされたラッヘンと叩きつけられたのか人の形を失ったセレイムと思われるスライムが地面にへばりついていた。
そしてそれをやった張本人と俺の腕を持っていったテセウスとその片割れが居た。
「ねぇねぇテセウス?もう来ちゃったよ?」
「賭けは私の勝ちね、ノア。クスサビでの奢りでいいかしら?」
ノアと呼ばれた少年は少し俯くとこれ見よがしにため息を吐いた。
それと同時に磔にされていたラッヘンに向けていた手を下ろす。
「・・・まぁ良いさ、何時もの事だしね」
そう言って二人揃って東―恐らくクスサビの方角―へと飛んで行った。心底第一印象の悪い二人組だったが目の前から消え失せてくれたのだ、これ以上文句は無い。
急いでラッヘンとセレイムを回収してベースキャンプの古城跡まで撤退する。
「さて・・・あの村の事はどう報告すべきかな」
・・・・・・・・・
古城跡に到着した。アイルネは敬礼をして出迎えてはくれたものの他の三人はベースキャンプの設営にかかりきりだ。
「アイルネ、こちらの状況は?」
「は!ベースキャンプの設営はあと三時間程で簡易的ながら完了する見通しです。水源はここから十五分程度の所に池と川が、食料は古城の中庭に小さいながらも畑があり食用にできる植物がありました」
「早いのか遅いのかは俺にはよくわからんが・・・寝台はあるか?簡易な物でも良い、二つあると尚良い」
「でしたら・・・」
アイルネに案内された場所は古城の中でも比較的しっかりと残っていた宿舎の一画だった。
俺はアイルネにベースキャンプの設営を進める様に頼みラッヘンとセレイムを寝台に寝かせる。・・・寝かせると言ってもラッヘンはともかくセレイムは最早原型を保っていないのでとりあえず乗せるだけになるが。
「ほぉ、ノアに吸われて生きてるとはねぇ」
「・・・急に出て来ないで欲しいな」
「まぁそう言いなさんな。老婆のいたずら心さね」
「たちの悪い・・・。それよりあの双子はなんだ。魔法とはなんだ。そしてあんたは何者だ」
「質問するなら一つずつにしておくれ。・・・そうさね、まずは・・・」
それから魔女を自称する老婆はいくつかの事を話した。老婆の言う魔法とは俺や一部の者が持つ強い力のことだと。あの双子とはこの辺りで会ったばかりで名前と能力の一端しか知らない事、そしてその能力が・・・。
「相手の力を奪う?」
「そうさね。おまえさんにも覚え、有るんじゃないかい?」
そう言って老婆は応急で直した俺の左腕を一瞥した。
「・・・あぁ、たっぷりとな」
「あの双子は細かい性質は違えどその部分だけは一致しておる。・・・まぁ今回は、その違いが問題点なのじゃがな」
「どういう事だ?」
老婆はいつの間に淹れていたのかお茶と思われる飲み物を啜り、続けた。
「テセウスとノア・・・おまえさん、聞き覚えは無いかい?」
「テセウスはあんまり聞いたことが無いが、ノアなら少しは知っている」
ノアの方舟、旧約聖書に出てくる船だ。詳しい事は知らないが、確かたくさんの動物を乗せて大洪水を免れる為に建造された船だったか。
「テセウスはその力で自分の体をひたすらに作り替え続けるのじゃ、最早元の部品など一つも無いであろうにな」
「テセウスの事は俺も少しはわかっている、今はノアの力について教えてくれ」
「そう焦るでない。ノアはの、その力で対象を複製するのじゃ」
「複製?」
「そうじゃ。そして複製された対象は強い呪いを受ける、それも大半が致死性の物をな」
要約するとコピーとられたついでにヤバい呪いを擦り付けられたって事らしい。多分。
恐らくラッヘンとセレイムの意識が戻らないのはその呪いのせいなのだろう。
「じゃが、今回は少し特殊なようじゃ」
「何?」
「儂の本分はあくまで占いの様な物じゃから呪いに関しては畑違いじゃ。しかし祝福については少し知っておっての」
「その祝福がどう関係あるんだ?」
「まぁ落ち着け若いの。今回この娘らに残留しておった祝福の残りカスが呪いの大半を肩代わりしておった様での。今のところ、命に別状は無いじゃろう」
老婆が話を続ける。ふとセレイムの方を見ると心なしか先程よりも原型を失っているように見える。スライムとしては本来の姿なのだが、俺の魔力で変質したスライムであるセレイムにとってそれが正常なのかは分からない。
「だがセレイムは」
「落ち着けと言っとるじゃろうが、人の話は最後まできくもんじゃ」
老婆の静止に口を止める。正直二人を直す方法が有るのなら今すぐにでも教えて欲しい位だ。
「この二人が倒れた原因の一つとしてノアの呪いとおまえさんが無意識に与えた奇跡の残りが体の中でせめぎ会って体に高い負荷がかかっておるのじゃろうな」
「それはどうやったら取り除けるんだ」
「放って置けば治るにせよ何らかの後遺症が残る。どちらかを消すしか無いね」
どちらかを消すのならば恐らく最良はノアの呪いの方を消す事だろう。しかし先程この老婆も呪いに関しては畑違いと言っていた。勿論俺も門外漢だ。
ならば奇跡の残りカスを消す方が簡単だろう。
「もちろんどちらを消しても意識は戻るじゃろう。じゃがなんにせよ後遺症は残るじゃろう。奇跡を消せば特にな」
老婆もこう言っている事だ、できれば呪いの方を消してしまいたい。しかし現状その呪いを消す手立ては無い。
手詰まりか。そう判断した俺は老婆に奇跡の残りの消す方法を聞こうと口を開こうとした。
「なら確実に消せる奇跡を」
「何やら困っているようだな」
聞き覚えのある声がした。それもテセウスに落とされなかった方の腕から、名状しがたいうねうねと蠢く物から。
「呪いならば私に任せて貰おうか」
「・・・おまえさん、なかなか面白い物を持っておったのじゃな」
「好きで着けてる訳じゃねぇよ。・・・んでどうすんだ」
俺の問いかけに謎の不定形生物は勿体ぶりながらも続けた。
「私はあの忌々しい雌狐により大陸各地の呪術を練り込まれた。この程度造作もない事よ」
不定形生物がそ何処からどう見ても触手にしか見えない物を数本伸ばしてセレイムとラッヘンに接触する。まるで全身を舐め回す様に蠢いた後、ラッヘンとセレイムの寝台にそれぞれ一本ずつ自分の触手を切り落とした。
「どうにも私の知る呪術とはかなり違う形式の様だがなぁに、原理は同じよ」
不定形生物は更に触手を増やし、切り落とした触手で寝台の回りに円を描く。
「小娘、少し力を貸して貰おうか」
「んなっ!?」
急に魔力を抜かれたが、言葉通りに少しだったのでそこまで支障は無さそうだ。しかも警告までしてくれた。
見た目はかなりアレだがそこそこ良い奴なのでは?
「解呪には多かれ少なかれ贄が必要故にな」
さらに自らの触手を裂いて紫色の体液を触手の円の中に塗りつける。
なんとも形容し難い模様があっという間に増えていく。
「・・・さて、これで準備は完了だ。後は小娘、お前次第だ」
「俺が?」
「そうだ。お前がこいつらの事をどう思っているかでどれくらい跡形もなく呪いを消せるかが決まる」
どう思っているか等と、何と聞かれても答えは一つだ。
「俺は」
言葉に意志を乗せる様に、ゆっくりと、確実に言った。
「俺にとって二人は大切な仲間だ!」
途端に寝台の周りを埋め尽くしていた模様が黒く光浮かび上がり、予測の出来ない複雑な動きを始める。
その動きは少しずつ速くなっていき、黒い光がラッヘンとセレイムを覆い尽くすまでになった。
「おまえさん、よっぽどその二人が大切な様じゃの」
横で静かに一部始終を眺めていた老婆が口を開いた。
確かに二人は大切な存在だ、だが同時によく分からない存在でもある。何故二人が人型になったのか分からない以上魔力剣を魔物に当てるのは控えた方が良さそうだ。
「さて、どうにも完全とは行かなかったが解呪には成功した、数日休めば変に後遺症が残ることもあるまい」
解呪を終えた不定形生物が再び俺の左手首に巻き付く。正直これさえなければもっと高評価できるんだがなぁ。
・・・・・・・・・
「あ」
ぐずぐずに崩れ落ちた肉の塊を見てノアは落胆する。コピーに失敗した。それはノアにとって少ない経験だった。
「・・・仕方ないか、動くには動くし・・・いいや」
そう言って興味無さげに肉の塊を船倉の檻の一つに放り込む。
船倉に並ぶ無数の檻の中には様々なモノが居る。
「君たちはとても幸運だ。僕達によって永久永劫永遠に動く肉体を持っているのだから」
クスクスと笑いながらノアは船倉の更に奥へと消えていく。終わりの見えない、暗い船倉の闇に。
正直大分モチベが右肩下がりの崖下りになってますので次回は完全に未定です。ご了承下さい。




