28あんまり遅いと僕達がダメにしちゃうよ?
ながらくお待たせしました。
「落ち着きました」
「よろしい、では本題に入るぞ。お主はなぜ療養部屋から出てヴァルヴェスに連れられ、ここに居るのか」
何故か俺の代わりに牢屋に放り込まれている子をメグファインが問い詰めている。
「えっと・・・その・・・」
よく見ると普通にかわいい。・・・と言いたいがなんか炎のにおいが染み付いててむせそうなバイザーを着けている。今は額の方に上げているが、普通に装着すればそれはそれはむせていたかもしれない程の造形だ。
それでもって何時の間にか脚が無くなっていた。現在達磨状態だ。一部の人は興奮するかもしれない。
「あの・・・ヴァルヴェス様に脅・・・頼まれて・・・」
「ちっ!あの小娘め。高々数年しかあの座におらぬ癖にでかい顔をしおって」
メグファインは過去にヴァルヴェスによって相当煮え湯を飲まされたのかもしれない。よく見なくても声色で顔に青筋が立っているのが分かる気がする。確かにあのフラフラした性格だ、誰だってそうなる。俺だってそうなった。
「まぁいい。どの様に脅迫されたのじゃ」
「え、えっと・・・み、耳元で、ですね。・・・殺すわ、貴女を・・・って言われて」
「・・・」
「・・・oh・・・」
大分直接的というか直球というか・・・実質脅迫と言うよりも殺害予告ではなかろうか。
・・・というかこの娘もこの娘で何故か頬を染めて体を少しくねらせている。・・・なんだろう・・・少し興奮してきた。
「まぁ、あやつのやる事じゃ、拒否しようとしまいと連れてこられたであろう」
「ここにゃ人権はねぇのかよ」
「元よりあれもこれも人では無いからの。人の権利なぞあっても適用されたものではない」
「え?じゃあ俺も?」
「安心せい、わしもじゃ」
何一つ安心できないんですがそれは・・・。っていうかあってもって事はもしかして無いの?人権?
いやまぁ確かに俺は人じゃなくて魔物だしメグファインも亜人種とかいう奴なんだろう。達磨の子は・・・なんなんだろうな。わかんないけどきっと人間という定義には当て嵌んないんだろうな。さっきまでいたヴァルヴェスは・・・神の眷属だっけか。
・・・あれ?ここ人居なくね?
「貴様か!レミルの言っていたクレイヴは」
いきなり月明かりがほのかに照らす牢獄の並ぶ廊下に朗々とした声が張りあがる。デジャブを感じるその行動を起こしていたのは意匠の凝った外套を纏った高校生ほどの青年であった。月夜の光で反射する金の刺繍の懲り様からそれなりの地位なのであろうと推察できる。
「・・・これはこれは皇帝陛下。こんなところへわざわざ、ご足労じゃな」
メグファインが口角を引きつらせながらも笑顔を作り対応する。
「いや何、御伽衆のレミルが面白い玩具を見つけたと言ったのでな、直々に値踏みをしようと思った次第だ・・・嬉かろ?」
メグファインの方を向きながらも流し目をこちらに向けてくる。どうにも目的は俺らしい。・・・というか玩具扱いなのか。ひでぇ事言いやがる。レミルとやらが誰なのか知らんが後でぶん殴るくらいは許されるのでは?
「アガマ、そいつを持ってさっさと帰るのじゃ」
「はん?皇帝陛下様は?」
「わしが対応しておく、さっさと帰れ」
「お、おう・・・」
言われた通りすごすごと皇帝の立ち塞がる反対方向の廊下を歩く。
・・・ん?今なんか腕に巻きついたような・・・。虫でも止まったのかもしれない。念の為に小隊宿舎に戻った時に魔力装甲から伝達される各種感覚の強化をしておくべきかもしれない。
・・・っていうか出口何処だ?
「これは・・・ちょっと・・・迷ったのでは?」
どうせ一本道だろうとかどっかに出口っぽい階段とかあるだろうと思いながら通った道を確認する糸を伸ばしながら無作為に歩いていたら十回は糸のある道に戻っている。それ以上は数えていない。
壁ぶち抜いて行こうかとも考えたが流石にそれは・・・な?器物損壊でまた捕まったら元も子も無いしな?
「アガマ殿!ここにおられたか!」
「ぬぇ!?クレアスフェル!?お前どっから・・・」
「ここの『道』に関しては何一つ私から喋れる事は無いのです」
「脱出防止のなんか・・・とか?」
クレアスフェルは何も答えずに俺に目隠しをしてきた。やっぱ脱走防止なんだろうな。原理は分からんが、通路を作り変えているのか幻覚か、なんらかの方法で脱走の防止を図っているのだろう。うろうろしてる時に高周波ソナーなんてものをやってみたが勝手がわからずにほぼ不発だと思っていたのだが、感覚を遮られているのなら成功だった可能性があったのではなかろうか。
「さて・・・出てこられましたのでもう目隠しを外しても問題ありません」
言われて目隠しを外すとちょっとした小部屋だった。出入り口と思われる扉は一つしかなく、部屋自体にも特に隠し通路などの痕跡は見受けられない。
「探したって無駄ですよ」
そう言いつつクレアスフェルがこの部屋唯一のドアを開ける。その先はエントランスというべきかロビーというべきか、ちょっと豪華なホテルとかのフロントの様な趣の大きめな部屋だった。
「なんでぇわけわかんねぇな」
「そりゃ見えない者からすればそうなる様に設計されてますからね。・・・ところでそれは?」
「んぁ?」
クレアスフェルに指摘されて腕を見る。ふと何か魔力装甲ではないヌメっとした物が絡み付いていた。なんか引っ張ってもぜんぜん取れない。なにこれ。やだなんか虫かなんか付いたかなとか思ってたらよくわからん何かだったでござる的な?
「何ですかその必死の形相」
「いや、だって、これ、めっちゃ、ぬめぬめ、するんですけどぉ!」
「叫ばないでください、目立ちますよ」
言われて回りを見ると二、三十人居る中の数人がこちらを奇異な物を見た目で見ている。
「ほら、早く行きますよ。キャルレッジ卿からの任務が降りています。出発は明朝、準備できしだいですので」
「新設したばっかなのになんか早くない?」
「早いところ実績を持たないと予算が下りませんよ」
予算が降りないと言うことは給料が出ないという事では?死んで転生してした先で餓死とか冗談じゃない。こんなにポンポン死に目を見るなんてごめんだ。
つまり結論は最初っから決まってたわけだ。
「よし行こう今行こうすぐ行こう」
「出発は明朝です。それまでにしっかりと準備をしてください」
ちい、さっさと金を稼いで平穏な生活を作り上げたかったんだが。
まぁ仕方がないので渋々隊舎に戻って準備をしよう。牢屋の中からいくらドーフェルの場所を探知しようと頑張っても場所の特定に至らなかったが今はもうわかっている。
・・・というか隊舎での退機を指示していたので隊舎に居るのはわかっていたのだ。ただ、現在地の特定ができないのでドーフェルの位置を基準に現在地を確認しようとしたわけだ。
という訳で戻ってきた俺は背後から近づいて来るもう一人の仲間に気がつかなかった。
「遅かったですね。ご主人」
「っと・・・セレイムか。ドーフェルとラッヘンは?」
「彼女達には魔力を吸収生成するための睡眠と一時的な休止状態が必要なので」
「セレイムはいいのか?」
「明日の準備がありますし。・・・それにスライムという魔物は本来睡眠を取る必要が無いのです」
さてここで恒例というわけでもない叡智のガレッドさんの出番だ。
どうにもスライムというのは地域ごとに生態の差が激しく、気性が荒く、動くもの全てに襲い掛かるような物から人間慣れして愛玩から補助動物的に役立てられる物まで様々らしい。
そしてスライムは総じて基本的に睡眠を取らず、地域によっては止まること無く一日で五十キロも移動する物も居るらしい。
そしてその地域差に関係無くほぼ全てのスライムは寝ることが無い。その理由は諸説あるらしいがもっとも有力な物として魔物としては破格の魔力燃費であるという説だ。
「なかなか面白い生態だな」
「えぇ、とても興味深い物です」
セレイムと少しの雑談をしつつ明日の準備も整える。自分も寝なくても生命維持に支障が無いとは言え精神への負荷は掛かる。早々に荷物を纏め小隊の装備を確認し明日の作戦地域を地図と照合しポイントを区分けして明朝のミーティング時に確認するための資料を纏め現地の情報が書き込まれている羊皮紙のような作戦要領の書かれた紙を確認して・・・。
「いかん、頭が痛くなってきた」
「私にはまださっぱりですがその内お手伝いをする為にクレアスフェル様に指導していただいております」
「ん?そっか」
ハヴェルに貰ったベルトを確認して小隊各員の装備を確認する。アイルネは投擲槍を二本と腰帯の長剣を一本、レゴラウスは短めの双剣、サーレイフラは只の具足の様にも見えるが格闘戦に特化したガントレット、ハイルラは・・・何これ。
「それはご主人が帰ってくる少し前に第四技研から届いた物です。なんでもハイルラ様専用の試作装備なのだとか」
「はぇ~すっげぇなこれ。俺も使ってみたいな~」
パッと見は只のハンマーにも見えるが問題はその大きさと機構だ。ハイルラの身長ほどもある柄の先に鉄塊の如き槌頭が乗っている。柄にある宝珠・・・まあ簡単に言えばオーブなのだが、それに魔力を少し流し込むと変形して魔力を熱に変換する。内部にあるよくわからん機構と魔術式で空気中の水分を蒸気に変換し、その推力でもってして相手を叩き潰すと言うもののようだ。
「ご主人の魔力は適正が違うので機構を使うことは出来ないと思いますが、振るう事だけならばできるでしょうね」
「いやしかしな、部下の装備を無理矢理使うのも忍びないしな」
そういってハンマーを元に戻し、装備の確認を済ませる。資料等の確認は糸を使ってマルチタスクに実行する。正直頭が湯だってしまいそうだった。
作戦の内容は帝国北側の国境の近くにある森の探索だ。
国境の近くと言っても超えた先に別の国家があるというわけではなく、国境間の空白線な上に超えたところで国家が存在しない。
謂わば人が安全を享受することの出来ないほど過酷な土地だ。帝国の一部の高官はその土地を前にして開拓者魂を滾らせている様だが大陸の北側は盗賊や山賊、ましてその地に適応できた数少ない魔物を除いて生きる事すらままならない過酷な土地だ。そんな所を開拓した所でうま味など無いであろう。
「ご主人。北側からの魔物の漂流が懸念されますが」
「ん?ん~そこだよなぁ・・・。新兵連れて無理な戦闘させるわけにもいかんし・・・」
過酷な環境はそこに住む者を屈強にする。ロシアとかの熊とか鹿とかが馬鹿でかくてアホ程強いように、この世界でも北に生息する魔物は厄介だ。
たとえば豪龍。北側随一の鋭鋒と名高いカルゲヴィラル山の麓に単独で生息している。サイソウセ。北側のほぼ全域で群生している所見る事ができる。コーナレニオ。これも北側のほぼ全域に生息している。その他数種の危険な物達が徘徊している。総じて凶暴、人に懐くなどありえない物だ。
北側国境付近にある森には北側から迷い込んで来た凶暴な魔物や野生動物が居る事もあるという。往々にして静かに静観していれば帰っていく事が殆どなのだが、稀に人里に下りてくることもあるらしい。
「ま、そんときゃ撤退だな。殿はその場で選出しなければならんだろうが」
ある程度の資料とミーティング時に配布する物も準備できた。そろそろ眠ろう。
セレイムには宿舎の警護を任せる。寝る必要がないので、そういうことが出来るのもスライムの長所だろう。正しく二十四時間働けますかってな。働けるんだし意欲もあるし丁度良い。適材適所ってやつだ。
台の上に毛布の様な物を乗せただけの簡素な寝台に寝転ぶ。寝台が執務室にあるのも変な感じだがあくまで小隊長の身の上だ、高望みはできない。
・・・・・・・・・
ガタゴトと揺れる荷馬車がイジスタリウスから北に伸びる道を走る。あまり人の入ってくる土地でも無いため舗装など無い。
一つ大きな窪みを越えると大きくガタンと揺れる。
「あいって!」
「隊長、しっかり捕まっていないと危ないですよ」
「いっやっだってっこっれっ」
「あんまり喋ると舌を噛みますよ」
揺られる馬車に詰め込まれた小隊計八人は新兵とはいえ馬車慣れしている四人と馬車慣れしていない俺達四人を二人ずつに割り振っての移動だ。一両目は俺とラッヘンとアイルネとレゴラウス。二両目はセレイム、ドーフェル、サーレイフラにハイルラだ。
どうにもコンクリートがいかに偉大だったかを思い出させてくれる良い道だ。ひと段落したら全て舗装しておきたいほどに。
「そろそろ着きますぜ」
そんなこんなで到着した場所は北の国境線だ。線が引かれているわけではないのだが、一目でわかった。
地形がまるきり違うのだ。国境線からイジスタリウス側は深い森に覆われているが、国境線を越えた先は鋭利な岩肌が並び立つ荒野だ。各々荷馬車から装備や荷物を下ろす。携行食は十日分ほどあるが、飲料水は五百ミリのペットボトル位の水筒のみだ。
ただこの水筒、ただの水筒ではない。第四技研が試作品として持ってきた飲料水精製機能搭載の水筒なのだそうだ。
詳しくは知らないが、空気中の水分を凝縮して水が精製できるし川や池、果ては沼や水溜まりまで。そのままでは飲めない水に浸けておけばそれを濾過蒸留して飲めるようにするという代物らしい。
「はぇ~すっげぇなこれ、行軍の負担がかなり減りそうだ」
「第四技研曰くまだ試作段階との事らしいのでどこまで持つか・・・ですがね」
「ま、試作品だしな。・・・さて、では探索を開始する前にどこかにキャンプ地を整える。国境線よりこちら側の森の中にさもここに作れと言わんばかりに昔の朽ちかけた城塞があるそうだ。今日はとにかくそこを整える」
街道から外れた場所にある廃城はそこまで遠くないが、井戸とかが使えるかとかどこを寝泊まりに使うかとか。まぁ、整備をするのに少しばかり時間がかかるだろう。それまでの間に周辺を分隊単位で少しずつ探索し、セーフゾーンを広げていく。
「副隊長、とにかく今日は拠点を整える事を重点に行動する。探索は早くても明日からだ」
「はっ」
ただでさえイジスタリウスからここまで丸一日だ。途中の街までは馬を使い潰す勢いで走ったのでそれでもかなりの距離になる。戻ってまた来るという事が難しい以上、一回の遠征で成果を上げねばならないだろう。そのためにはこの割と広大と言っても良いほどには広い森を携行食の続く限り探索し続けなければならない。もちろん俺にはサバイバル技術なんてものは無いから喰えそうな物を判別できない以上糧食の欠乏は撤退を意味する。
「とにかく早いとこ探索を終わらせて成果を上げんとな」
「ご主人。そんなにお金。大事?」
「そりゃ人生大概の事は金があればなんとかなるからな、無いに越したこたぁない」
エクゾスケルトン式に強化した腕力で瓦礫を除去しながら今回の任務について考える。
内容としてはただの探索任務なのだが、実際は第四技研の装備をテストしつつ有用な資源の調査と確保である。今回第四技研から配備されたのは水筒とハイルラのハンマーだけだ。
とはいえしっかりと実地試験を重ねないと試験小隊としての意味が無いので手頃な魔物なりを転がしたい所だ。
「ハイルラ、第四技研からそれを受け取った時に何か説明を受けたか?」
「え?は、ひゃい!・・・えっと・・・規定の詠唱を唱える事で起動して所有者の適正に合わせた形になる・・・だそうです」
「ほー・・・規定の詠唱ねぇ・・・」
そういや昔に詠唱とかカッコいいルビとか考えたりしてたなぁ・・・。今じゃ直視に耐えぬ黒歴史として箪笥の奥に眠ってるんだろうなぁ・・・。あ、やば。麻衣があれみたらどんな顔するだろうな・・・。ドン引きされたりして。
「ご主人。それ、壊れた本棚」
「ん?お?お?お、おぉ・・・」
知らず知らずの内に朽ちかけた本棚を眺めていた。この廃城の主が居たのであろうこの部屋には今はもう朽ち果てた物ばかりだが、少なくない装飾が見て取れる。この本棚もその一つであり、中にはここ周辺の地図や日誌、歴史書などが入っている。もっともどれも羊皮紙のような紙を糸で纏めてあるだけであってそれ程上等な出来ではないが。
そうやって装飾や本を眺めているとひらりと壁掛けのカーテンが視界の端で揺れた。
「おや?騒がしいと思ったら珍しいね、こんなところに」
「!?誰だ!」
不意にカーテンの向こうから現れたのはつなぎを着た女性であった。年齢の頃は四十を超えたあたりだろうか、右肩には竹箒を担ぎ左手にはウエストポーチを握っている。
「あたしかい?見て分かる通り魔女さね」
「魔女ぉ?」
自らを魔女と名乗った女性は箒を壁に立てかけて少し軋んだ椅子に腰をかける。何時の間にか小さな双子が寄り添っている様はまるで祖母とその孫を思わせる。
「あんた達は聞いたこと無いかい?魔法ってやつを」
「魔法?」
「そうさね魔術や魔導なんかの紛い物とは違う。本物の魔法ってやつを」
魔女を名乗った老婆の言う魔法とこの世界の魔術や魔導とどう違うのか、ガレッドで検索しようにもノイズのような物が掛かって上手く調べられない。
「あんた達、歪みを探してんだろう?だったら急いだほうが良いね」
「どうして・・・」
「あれはいろいろと歪めすぎちまうのさ。早く見つけないと近くの集落からどんどんだめになっていくよ」
「あんまり遅いと僕達がダメにしちゃうよ?」
「しちゃうよ?」
老婆の傍に侍りクスクスと笑う双子の言葉に急いで地図を出す。ここから近い集落は南西に人の足で半日の距離だ。馬が無いので迅速な移動をしたいのであれば新兵四人を置いて俺とラッヘンとセレイムで全力で走れば三時間もかからないだろう。ドーフェルは機能をいくらかオミットしているので移動速度は人とさほど変わらない。
「ラッヘンとセレイムは俺と一緒に来い!ドーフェルと以下四名はこの場に残り拠点を整えろ!一日経って俺達が戻らなかったら拠点を放棄し即時撤退!いいな!」
「は!」
俺達は早々に準備を整え拠点を出発した。老婆や双子の言うだめになるという言葉が気にかかった。あれはどういうつもりで言ったのだろうか。
捨て猫の里親になったり鬱になったりした最近ですが次も頑張って書きます




