27ほっときゃなんとかするじゃろ
長らくお待たせ?しました。人によってはサメ映画みたいな感想を持つかもしれないしそもそも感想すら持たないかもしれないって自分でも思ってるけど強気に投稿していきます
コンクリートの様な壁材がまず目に入り、扉には申し訳程度の窓が開けられている。外気を入れるための窓は高い位置に設けられ
、鉄格子がはめられている。扉の窓の前には軽装の警備兵のような風体の男とクレアスフェルが立っている。
要は牢獄である。
「なぁ・・・クレアスフェル?」
「なんですか?」
「なんで俺こんなところに居るんだっけ」
時は少し遡り国営の温泉に入っていた時の事である。クスサビと違い、源泉が無いのでただの温めたお湯だから、水質的には温泉と言うよりお風呂なのだが。その辺の厳密な違いはよくわからんので気分がよくなるのであれば正直どちらでも構わない。
「あぁ~」
今まで混浴なんて入った事は無かったが、やはりバスタオル的な物は日本でも必要だったのだろうか。というか日本に混浴は実在していたのだろうか。
まぁその辺はどうでも良いとして、やっぱり人は少ない感じだ。結構広い風呂なのだが、所々に数組のカップルと思しき人たちが点在している。つい舌打ちしそうになるが堪える。
見えにくい場所でイチャイチャしているカップルとかも居るが、そんな人たちを尻目に端っこの目立たない場所に陣取った。
「良い湯だなぁ~」
さすがに風呂に入るにあたってつんつるてんって言うのはちょっと不信に思われると思って少し再現をしたのだが・・・まぁ、細かい事については言及しないで置くが、上を見られただけならばバレる事は無いと思う。
いやまぁ、俺自身も男としてはこんな恰好をするのは恥ずかしいのだが、このままの姿で入ってしまってから気付いた事なので今更なんともしようがない。
なら諦めるだけだ。諦めて楽になるのだ。
「あ~・・・お嬢さん?」
「どわぁお!?」
リラックスしてる所に不意に話しかけられたら誰だってビックリする。俺だってビックリした。
見ると普通のおっさんだが、ちょっと裕福そうな風貌だ。さしずめ、ちょっと一山儲けた商人って感じだ。
いやまあ、あくまで個人の感想であって効能には個人差が~・・・みたいな?
「君はまだ若い。こんなところに居ても良いことはないぞ?」
「は?」
「何があったかは知らないが、おじさんに話してみてくれないか?きっと力になれる」
「は?」
少し話をするとこのおっさんはどうやら俺を売春嬢と思ったらしい。
なんでも、この湯屋では混浴で、このどう見てもバスタオルにしか見えない布を纏っているとそういう風に見られるらしい。確かに脱衣場には似たようなのがもう一種類あった。今俺が巻いているのは無地の白だが、もう片方は所々に花柄の入れられている物だった。
「君の身に何があったのかはわからないが、相談に乗るくらいなら私にもできるだろう」
「いや、俺はそういうんじゃ・・・」
「隠すことは無い。私は君の様な若い子が身を売るような事になるのが嫌なんだ。さぁ話してみてくれ」
「いやだからー・・・」
「この事は誰にも話さないと約束しよう。ここならば周りは気にしないさ」
「ちげぇっつってんだろォ!?」
「ガッ!?」
・・・おおっと。
つい手が出てしまった。
いやこれはまずい。どこの誰かは知らんが、多分どっかのお偉いさんだろう。俺に言った様に若い女性が身売りしていないかどうか見ていたのかも知れないし。所謂NPO法人みたいな慈善事業をやってる人だったのかもしれない。
ちょっとどころでは無くかなりまずいのでは
いやしかし流石に隠さずに入るというわけにもいかなかったしこれは不可抗力と言うやつなのでは?
・・・うん。きっとそうだ。このおっさんも伸びてるだけだしきっと。
「・・・自業自得じゃないですか」
「しかたねぇだろ?あのおっさんがいきなり迫って来るんだからさぁ」
「下手したら懲役三十年じゃすみませんよ」
「マジで?」
「今回はアーネル殿の勘違いと言う事で軽い懲役と罰金ですんだものの・・・次からは注意してください」
クレアスフェルから聞いた話だが、俺が殴ったあのおっさんはアーネル・シャイと言う名前で、城下町で集めた募金や傘下の商店の売り上げの一部を貧しい家庭や親の居ない子供達に分配するなどの慈善活動をしていたらしい。そのお陰で国からの覚えもよく、一部の貴族達ともつながりがあったとの事だ。
そりゃあただの一兵卒がぶん殴ったら投獄されるわけだ。
「なぁなぁそこな兄ちゃんよ」
「どうした。飯の時間はまだだぞ?」
「んにゃぁそんな事じゃねぇよ。ちょっち話し相手になってくれや」
「自分とでも喋ってろ。罪人風情が」
「お堅い事言わねぇでちょっちくらいいいじゃねぇか」
どうやらかなりお堅い衛兵さんらしい。ここは一つ質問でもしたら返してくれたりしないだろうか。
「なぁなぁ兄ちゃんよ」
「・・・カーレル」
「お?」
「カーレル・アーバルネだ。もう兄ちゃんと呼ばれる様な歳でもない」
お?これは好感度を上げて脱走を謀るイベントだな?それかちょっと日にちの経った食い物を食わせて下痢になってる隙をついて脱走をするってやつだな?
俺はあんまりあのゲームはやってなかったがそいういのがあるってのは知ってんだ。胸の古傷から糸鋸引っ張り出したりしてな。毎度毎度捕まっては拷問されてたりしてたから確か各タイトルで脱出するシーンがあったはずだ。伝説の兵士の癖にだらしねぇなぁっていっつも思ってたんだよなぁ。
「それと、脱走しようとは思わん事だ。牢獄からの脱走犯は見つけ次第殺しても良いことになってるし、脱走犯の牢屋を見張ってた看守は責任を取らされる。何も良いことは無いぞ」
「いやだからね?ちょっち話相手になってくれりゃえぇのよ。懲役が終わるまで暇で暇でしかたねぇんだ」
「・・・黙って待ってりゃそのうち終わる」
「暇で暇で死にそうなんだよぉ~」
「そのまま死んじまえ」
おっ辛辣ゥ~!
まぁどのみち話しかけるんだけど。じゃないと暇で暇でマジで死ぬ。
かと言っても初対面だし話題はそんなに無い。だがそもそも話しかけたのはこちらだ。ならばこちらから話題を振らねば・・・。
「・・・あー・・・そのー・・・なんだ・・・あー・・・あれ・・・ーっとだな」
いかん。何も思い付かねぇ。今回の投獄は何年で出られるのかとか、雨降っても大丈夫なのかとか、まぁ気になる事はいくつかあるが、まずは他愛もない話からが定番と言うもので。
しかしあまりに定番なのも面白味に欠ける。まぁ、面白味なんて求める必要は無いのだが。
「あー・・・良い・・・天気だな」
「・・・」
「こんな日は平原でピクニックでも良いかも知らんなぁ」
「・・・」
この野郎何一つ反応しやがらねぇ。
・・・っつーかこいつ寝てねぇか?目瞑ってるし船漕いでるし。流石に鼻提灯とかは出来てないけどこれもう寝てんじゃね?寝てるって事でいいよな?
という訳で世紀の脱走劇を始めよう。
まず指先を錠前に・・・。
「おい」
「うぇあっ!?」
「・・・変なことはすんなよ」
起きてんのかよ。
・・・っていうかびっくりした。声をかけると同時の抜刀。俺でなきゃ見逃しちゃうね。もうちょっと指が跳ねてたら切れてたかもしれんな。
おー怖。とづまりすとこ。
あ、投獄されてんだったな。戸、閉まってるわ。開かねえわ。
「指伸ばすとかお前・・・人間じゃないな?」
「あ?んだよ。今頃気付いたのか?」
ちょっとマズイかな?確かクレアスフェルが魔物が街中に居る事がバレたらマズイとかそんな感じの事言ってたし、これは最悪追放という事もありえるのでは?いやまぁ別に追い出されたなら追い出されたで別の街に行くだけなんだが、当初の目的であった知識の蓄積が滞りそうなのは御免被る。まして追い出されるだけならまだいいが入国禁止や周辺国への人間に擬態する魔物という触れ込みでの注意を促されるかもしれない。
情報や知識自体は手に入れようと思えばどこでもできるが簡単なものでもない。偉い肩書きなんかは無くても人としての活動が阻害されるようならばなんとかしなければなるまい。
「まぁだからなんだってんだがな」
「お?ええのんか?俺ぁ人間じゃねぇって気付いたんだろ?ほっといてええのんか?」
「そんな奴ここには両手足じゃ足らん程に居るさ。魔物堕ちか亜人か知ったこっちゃないが、人外の囚人なんて見慣れたもんだ」
ほほう。少なくとも魔物堕ちや亜人と呼ばれる人外がここには二十人は居ると言う事か。亜人は分かるが魔物堕ちってなんだろうな。
いやしかしここはそれほど広くない監獄だったはずだ。収容できるのは相部屋にしたとしても六十人程度。俺が相部屋状態でない上に回りからはあまり話し声や気配もしない事から考えても全体で三十人を下回る収容数だろう。
そんな中、亜人の収容数が半数以上とは少し気になるな。
「あ、そうだ。お隣さんって居るの?」
「答える事はできん」
「あ、そ。じゃぁどうなっても知らんけど・・・」
幸い手錠などの拘束具はつけられていないので手足は自由に動く。壁材はセメントに似たものだが経年劣化が激しくところどころが崩れている。どうやら石レンガの表面にセメントに似た何かを塗って均していたのだろう。中はところどころ隙間が開いている。その隙間を縫うように糸を通してお隣さんの有無を確認する。
どうやら居ないようだ。
「おい待て!何する気だ!」
「いやいやぁ・・・ちょっと耐久テストをねぇ!」
右腕を引き絞り壁を全力の限り殴り付ける。
手応えはあった。右腕の中に作っパイルバンカーも正常に作動した。
だが壁は健在なままだ。衝撃で少しセメントが剥がれただけで中の石レンガにはひび一つ入ってはいなかった。右腕の中のパイルバンカーは弾頭が砕け、砲身の中に留まったままだ。
「えぇ・・・何これ・・・」
「気になるか?ならば説明してやろう」
何時の間にか独房の扉の前に居たメグファインが説明してくれた。
なんでもこの石レンガは見ての通りただの石レンガではなくメグファインが特別な術式を組み込んだ物らしく、基本的に壊れないらしい。
基本的にと言うのはもちろんのことながら術式を外せばただの石レンガであるし、術式の許容限界を超えたダメージを与えた場合などは壊れる物で、過去に魔王がその居城である魔王城に張り巡らせた物の劣化版であり廉価版との事だ。
「メグファイン様・・・いつの間にここに」
「さっきじゃ。そなたは下がっておれ。コイツと二人で話す事があるのでな」
「・・・はっ」
怪訝そうな顔をしてカーレルは去って行った。
なんでメグファインがここに来たのかは知らんが、暇潰し相手ができたので正直なんでもいい。
渾身のパイルバンカーはだめだったが、別の破る方法か同じものを作る方法を探さねば・・・。メグファインが居るから創る事もできないし、それはそれで困り物だな。
「さて、お主。タキと会ったそうじゃな」
「タキ?・・・あぁ」
「何か頼まれ事や言伝などあったのではないか?」
「頼まれ事・・・?」
そういやあったな。なんだっけ・・・記憶の泉だったか木炭だったかを塞げって話だったよな。んで見つけてもやらないと首が絞まるとかなんとかって。
まぁえらい物騒な話であるが、どのみちやりたい事ややらなければならないこともないし、まぁ見つけたらなんとかしてやるか位のつもりでいるが、正直記憶の歪みがどんなもんかわからん以上首が絞まるか否かで判断するしかないのかもしらん。
「タキの事じゃ、どうせしょうもない事じゃろう?」
「あぁ、記憶の歪みとか言うのを塞いで欲しいとかなんとかな」
「記憶の歪み・・・じゃと?」
「知っているのかメグファイ」
「一文字だけ略すでない!いいか、記憶の歪みと言うのはな・・・よくわからん物じゃ」
「よくわからんのかよ」
「まぁ話は最後まで聴くものじゃ」
メグファインの説明はガレッドの物と一致する部分が多かった。記憶の歪みの瘴気を浴びたり吸引したりした者達は大概が最高にハイな気分になったりするらしい。そんなテンションで周囲の人間や魔物に集団で襲いかかるようになるらしく、放っておけば付近の集落や村がパンデミックを起こしてしまうので早めの発見と警告、対処が必要なのだそうだ。
そしてメグファインの情報の中でガレッドとの相違点だが、なんでも稀に瘴気に耐性のある者が居るらしく、普通ならばそれで特に問題は無いのだが、その中から魔物堕ちと呼ばれる症状が出る者が居るらしい。
「魔物堕ち?」
「そうじゃ。人や原生生物・・・つまり魔物でない者が魔物に堕ちる事じゃな」
「魔物堕ちするとどうなるんだ?」
「知らんのか?まぁ知らんじゃろうな。精神はそのままで体のみが魔物になってしまうのじゃ」
「するってぇと皆外見は人じゃ無くなるのか」
「いや、見た目は人とそれほど変わらん」
「そっすね~」
あ、こいつまた唐突に現れやがったな。しかもなんか今回は変な剣持ってるし。え?何それ?触手生えてんの?しかもなんか蠢いてない?正直お近づきにはなりたくない。
「ヴァルヴェス!貴様!わしの趣味の産物をどうするつもりじゃ!」
あ、あれ作ったのメグファインなのね。失望しました。クレアスフェルのファンやめます。
「いやいやぁ~ちょっとお手伝いを・・・あれ?これ前に使ったっけな。ま、いいや」
ヴァルヴェスが扉の格子窓の隙間から無理矢理剣をねじ込んできた。若干ゃ触手が生えている所が引っかかっているが、そんな事を気にすることもなくねじ込んでくる。
「いやー!きゃー!」
「何変な声出してんですか気色悪い」
「凹むからやめれぇ!・・・で、これなに?」
「急に素に戻るのも気色悪い」
「あー泣きそ」
ヴァルヴェスに放り込まれて床に突き立った変な剣を引っこ抜いて返してやろうかと思ったが、柄を掴んだとたんにぬるりとした感触と共にすり抜けてしまって床から抜くことができない。こんな邪悪な形状の剣が勇者の剣みたいに選ばれた者にしか抜けないとかだったら俺は出所までこのヘンなのと一緒かよ。マジ勘弁。
「あ、それとメグちゃんの工房からかっぱらってきたこの娘もよろしくねー」
明かりの無い廊下の奥からペタペタと素足の足音が聞こえてきた。
かっぱらったの一言を聞いたとたんにメグファインがなんらかの魔方陣を展開していたがヴァルヴェスの逃走に追いつく為には一手遅かった様でそそくさと変な歪みを開いたヴァルヴェスを逃がしてしまっていた。
「ァ・・・」
「メグファイン」
「なんじゃ」
「一つ答えろ。・・・ありゃなんだ」
「わしの部下じゃった者・・・じゃな」
「どう言う事だ!説明しろメグファイン!」
「お主は一つとしか言っとらんからな」
ベタッと音が廊下に響いた。メグファインに向かって捲くし立てていた俺は音のした方を振り向いた。
・・・おもわず額に手をあて天井を仰ぎ見る。メグファインも呆れたように手で目元を隠し頭を横に振っていた。
「オコシテ・・・オコシテ・・」
足を少しパタパタさせて、まるで転倒した二足歩行ロボットの様に、糸の切れた操り人形の様に。それはもう無残にずりずりと。
「やっぱだーめだね、腕が無いと」
ヴァルヴェスが変な歪みから出て来てちょっとぼそっと言ってまた歪みを開いて帰って行った。
「お主の世界には足なんぞ飾りじゃとのたまう者が居るそうじゃが、人間の手足は重要なバランサーであるとよくわかったであろう?」
「わかったからあれ助けてやれよ、知り合いなんだろ?」
「ほっときゃなんとかするじゃろ」
よく見るとジタバタしながら顔は笑っている。なんか嬉しそうだ。なるほどほっときゃいいってのはそういう事か、よくわからんが。
仕事が中々落ち着かず休憩時間はあるのですがいかんとも書く暇がそんなにないのでもしかしたら次の投稿は来年とかいう事にもなりかねないですが、今の所失踪する予定はありません。




