24それをこちら側に伝播させたいのじゃ
「あー・・・。よし!」
しばしの発声練習の末、見事クスサビ国境で弄る前の声に戻す事ができた。もちろんこれは作っているのではなくデフォルトなのだ。・・・流石の俺でも外見が女性で声がおっさんってのはちょっと無理だからね。しかたないね。
「まったく、うるさいったらないのぉ」
「そうですよアガマ殿。幾ら地下とはいえそこまで大きな声を出す必要は無かったのでは」
「あー・・・まぁ、それも、そうだな。うん」
この際だからいっそアニメ声でも作ろうかとか思ったが、まぁ、考えたら気持ち悪いのでやめた。やっぱ自然が一番だね。うん。
「一応言っておきますが、私は何も盛ってませんよ」
「マ、マステヌさん。誰もそんな事思って無いと思いますよ?」
「そうじゃな。パルシデが客人に何かを盛るなど考えられん」
そんな感じでやいのやいの騒いでいると、不意に幾つか並んでいるドアの一つが開いた。
「メグさ~ん?」
「どうしたのじゃ?」
「資材が尽きました~」
「おぉ、そうか。では後でマステヌに運ばせよう」
「はい~」
そうしてドアが閉まった。
「・・・いや今のなんだよ」
理解できない訳ではない。だがまるで引きこもりのニートかヒモみたいな奴だなとか。そんなことは断じて思ってはいない。
いやだってあれだよ?飯持ってったらそこに置いといてとか言ってきそうな感じしたしまるでヒキニートみたいだぁ。
「彼女の事は気にしてやるな。あれでも優秀な奴でな」
「セーニャイちゃんは昔いろいろあって人見知りなんだそうです」
さっき言ってたセーニャイってあのヒキニート(仮称)の事だったのか。
・・・しかし、改めてみると結構広いんだな。地下だってのに二階があるし、その二階にも扉が十個くらい等間隔で並んでるしで。
「さて、そんな事より本題じゃ。アガマにはちと付き合ってもらうぞ」
「何?俺実験台にされんの?」
「いや、ただの確認じゃよ」
メグファインに連れてこられた場所はまさに工場というか工房というか・・・。まぁいろんな意味でわけのわからん場所だった。例えるならどこぞのチョコレート工場のいろんな味のするガム作ってたとこみたいな感じだ。違うところと言えば妙な装飾の施された試験管や薄紫色の液体の中に浮かぶ臓器の様な物の入った容器の並ぶ棚があるとかだろうか。
「さて・・・ではとりあえずこれに手を突っ込んでもらおうかの」
差し出されたのは緑色の液体の入ったビーカーのようなメスシリンダーのような物。外側には細かくメモリが刻まれている。こんな得体の知れない液体に手を突っ込めと言うのだろうか。
「安心せい。別に溶けたりはせんよ。ただの試験薬じゃ」
なんの試験薬か知らんが溶けないんなら最悪物理的に手を切れば問題ないだろう。
まぁ、それでも分からん液体に手を突っ込むのは些か気が引けるので少しずつ入れていこう。
そう思って指先を浸けたとたんにその指先の浸かっている所から液体が透明になり始めた。
「おわ!?」
「これ!手を引っ込めるでない」
メグファインに手首を掴まれてそのままビーカーに手を突っ込まれる。俺の手・・・と言うか魔力装甲の肌が触れている箇所から液体が透明になっていく。確かにメグファインの言うとおり溶けたりはしていないが、なんかこう・・・ぞわぞわするというか・・・。国境を越えた時の感覚に似ているような・・・。
「そういやこれってどういう液体なんだ?」
「お主が気にする事ではないが・・・そうじゃな。本来は検査薬じゃった・・・とだけ言っておこうかの」
「本来は?」
メグファインは完全に透明になった液体の入ったビーカーを机の上に置いて、試験管の並ぶ棚から他とは一風変わった装飾のされている二つの試験管を持ってきた。
「元は魔力の色を見るための物での。その色や濃さでどの属性が適しているかとか魔力適正の高さなんかを計測するんじゃ」
俺が手を突っ込んで透明になった液体をいつの間にか用意していた装飾がされていない空の試験管に移して、棚から運ばれてきた二つの試験管と並べる。二つとも透明であったが、どちらも底に小さな結晶がある。
「この二つはの、一つの共通点を持った二人の物なのじゃ」
「共通点?」
「転生者・・・じゃな」
この世界で転生者と言えば過去俺を含まず三人しか居ない筈。つまり少なくともメグファインが五百を越えていて、最長で千年間生きていると言うことだ。
「余計な事を考えるな。本題じゃ」
メグファインが先程俺が透明にした液体の入った試験管に手をかざす。作業机に置かれていた木片が少し削れた代わりに装飾のついていなかった試験管に装飾が作られていく。
「お主の魔力は無色透明、つまり過去の転生者の二人と同じじゃ。そしてあの二人やお主と同じ様になった者は他におらん」
「つまり?」
「お主、転生者じゃな?」
ばれた。まぁ、だから何だって感じだが、そこまでして調べると言うことはメグファインにとっては重要な事なのだろう。
っていうかその透明になる液体はどういう液体なんだとか。透明になったからなんだとか。転生者云々よりも気になることはある。
「しかしフジムラのこれは凄いのぉ。流石は自称とはいえ魔王を名乗っただけはある」
「フジムラ?」
「うむ。二人目の転生者の名じゃな。フジムラタキ、確か本人が書いた物があったはずじゃ」
メグファインが机の引き出しとかをごそごそあさって暫くしてから一枚の木板を渡された。そこには漢字で藤村立木と書かれていた。
「フジムラはファンタズムの末裔での。奴が勇者と名乗る男に殺されたから、最早この世にファンタズムと呼ばれる種はおらん」
ファンタズムについてガレッドを調べて見ると四百年ほど前に最後のファンタズムであり、魔王を自称する転生者、藤村立木が勇者に殺された事により絶滅したことになっている。概ねメグファインの言った通りだ。
基本スペックはクレイヴをゆうに越えてカグマの様な半魔物や龍種すら圧倒するスペックだ。羨ましい。
「フジムラは中々に面白いものを残してくれての。例えばほれ、そこの棚にある紫の液に浸かった魔物の臓器があるじゃろ?あの液じゃ。確かホリマリンだったかホルマレンだったか」
「ホルマリンじゃ?」
「そう、それじゃ。生憎フジムラが望む無色透明にはできなんだがの」
もしかしたら藤村立木は俺と同じ現代人だったのでは?
そもそも、もし過去から来ていたのならホルマリンを知らない可能性があるし、未来だとしたらホルマリンより良い保存方法が有るかもしれないし、何よりホルマリン漬けに拘る必要は無いはずだ。
「他にも様々な概念を寄越してくれての。例えばそう。電気じゃ」
「電気?」
「そうじゃ。残念ながらこちらでは工作技術が足らんでの。純粋な銅を細く長く精製したりするのは不可能じゃってな。他にも動物や植物から精製する油はあっても爆発したり効率よく強烈な燃焼を起こす燃料は無くてな。電気に関しては半分諦めておったわ」
うむ。長い。まぁ、説明だし致し方無いのだが、それにしても長い。もうちょっとこう・・・三行位に纏められ無かったのだろうか。
「じゃが、お主が来た事によって電気計画は今一度始動しようとしておる」
「は?」
「お主、先程ホルマリンを言い当ておったの」
「それがどったの」
「他にもここへ来る道中にハンノウソウコウなどとのたまったそうではないか」
「そういやそんな事も言ったな」
それがどうしたと言うのだろう。ホルマリン位なら大体の人が知ってるだろうし、反応装甲に至っては某有名スニーキングゲームをやっている人なら知っている人が多いだろうし。どちらも興味の無い事はとことん覚えない俺が覚えているのだから割りとメジャーな単語なのだろう。それを知っている位でだからどうしたとしか思わない。
「お主はそれなりにあちらのカガクを知っているのであろう?」
「まぁ・・・一般常識の一部程度なら・・・な」
「それをこちら側に伝播させたいのじゃ。手伝ってはくれぬか?」
「嫌だ」
「何故じゃ」
「面倒だから」
実際面倒である。そもそも銅線も作れない工作技術の奴らに電気工学を教えてどうなると言うのか。と言うか俺は普通科の高卒だから精々まともに聞いていた中学の頃までの知識以外は大概が断片的で曖昧なものだ。
それに行き過ぎた科学は魔法と区別が云々と言うがそもそも魔法があるのだから科学の発展は本当に必要なのだろうか。
「だってそうだろ?言葉の通じない人間を文明レベルで発展させるようなもんだ。面倒臭いにも程がある」
「じゃ、じゃがの・・・」
「じゃがもポテトもねぇよ。やらねぇっつったらやらねぇ」
それで手打ちだ。メグファインも諦めた様な顔をして机の引き出しから白く濁った液体の入った瓶とスポイトの様な物を取り出した。
白く濁った液体をスポイトで一滴、俺が透明にした液体に入れる。すると液体同士が接触した瞬間に小さな結晶が発生した。
その結晶をメグファインは赤い宝石の様な素材で作られたピンセットで拾い上げる。
「・・・それは?」
「これか?これは・・・そうじゃな。お主の欠片・・・と言ったところかの」
「俺の欠片ぁ?」
メグファインは、曰く俺の欠片を初めて会った時に使っていた金剛杵の様な形状をした物を取り出して、真ん中辺りの窪みに俺の欠片を埋め込む。
軽く振るとカチャカチャと音が鳴る。
「・・・ふむ」
「何それ」
「何、気にするな。それよりも用事は終わった。もう出ても構わんぞ」
これ以上メグファインから何かを聞きだせる気はしなかったので言葉に従い扉を開く。
「おぉそうじゃ。後でキャルレッジの所へ行くのじゃぞ?」
「なんで」
「なんでもお主と少し話したいそうじゃ」
キャルレッジのおっさんが俺に用事とは。面倒だし向こうから出向いてくれねぇかな。
ロビーに出るとクレアスフェルが待っていたと言わんばかりに立ち上がるが、今気になるのは見たことの無い人が居る事だ。なんかテンプレート的な小悪魔って感じの人がマステヌと小さい声で話している。
「クレアスフェルー?」
「ひぅっ」
「どうしましたアガマ殿」
「終わったもんでこの後どうすんのか聞きたいんだが・・・さっきの人は?」
俺がクレアスフェルを呼ぶと同時に小さい悲鳴を上げて先程セーニャイが開けていた部屋に入って行く。
え?もしかしてあの子がセーニャイさん?えらく臆病みたいだけど俺なんか悪い事したっけ。
「セーニャイさんですが・・・。まぁ気にしないでください」
「セーニャイちゃん、知らない人の声がして気になったって」
だ、そうな。曰くセーニャイはスペルヴァと呼ばれる種族でスヴェルパと呼ばれる種族と対を成す種族らしい。スペルヴァは女性のみで、スヴェルパは男性のみというややこしい種族だ。性質的にはサキュバス的なそういうので、他種族と肌を重ねることを食事としている。まぁ、肌を重ねるといっても物理的に接触していればいいため、ぶっちゃけ手を繋ぐだけで腹が満たされるという種族だ。
・・・で、そんなスペルヴァの彼女は男色趣味のあるイジスタリウスの貴族の部下にスヴェルパと間違えられて捕縛され、連れてこられ、イジスタリウスに到着した時に「あれ?主が要求したのってもしかしてスヴェルパじゃね?」って気付いた部下にポイ捨てされた所をメグファインが拾ったらしい。
そんな種族名してるから間違えられるんだとか突っ込みたかったが止めておく。
「さて、ではアガマ殿。出発しますよ」
「どこへ?」
「私の家にです」
今度はクレアスフェルの家に連れて行かれるらしい。こっちきてからまだ碌に観光もできていないのにあっちこっち行きすぎじゃないですかね。
「なんでもキャルレッジ卿がアガマ殿に話したい事があると」
やっぱキャルレッジなんだな。
いやまぁ別にキャルレッジの事は嫌いってわけじゃないんだが、どうにも今回の呼び出しに近い物は良い予感がしない。なんか厄介事を叩きつけられそうな気がする。
「さ、行きますよアガマ殿」
「へいへい」
出入口の扉を開けて、魔方陣で埋め尽くされた回廊を歩く。幸い、帰りと言うか、ここから出てくる時には魔方陣は作動しないようだ。確かにあれは出来れば二度と味わいたくない感触だったのでホッとした。
そそくさと回廊を出るとキャルレッジが居た。
「いやクレアスフェルの家で待ってるんじゃないのかよ」
「貴様等が遅すぎたのだ。クレアスフェル、イジスタリウスに入ったらまずこちらへ寄るようにと伝えたはずだが?」
「申し訳ありませんキャルレッジ卿。メグファイン殿に招かれたので」
「あのババアめ・・・。まぁいい。早く行くぞ」
キャルレッジが早々に歩き始めた。が、見失ったとしても最悪クレアスフェルが居るので目的地に到着する事はできるだろう。はいそこ。人の話を聞こうとしないクズとか言わない。
と、言うわけで。二代目魔力装甲の思考ルーチンだのなんだのを弄って自立思考と行動ができるようにする。あと名前も与える。
・・・しかし特に良い感じの名前が思い付かなかったのでドーフェルと名付けた。ドッペルゲンガーのドッペルの部分をかなりもじって作った名前だ。ラッヘンと同じ外見なのでまぁこれで良いんじゃね?って感じで考えた。
「・・・っし、これでOKだな」
「はい、マスター。良好です」
この機械的な口調はどうにもならなかったが、これはこれで良いものだ。
・・・っと、キャルレッジはご丁寧に待ってくれていた様だ。早く向かってやらねばいつ堪忍袋の緒が切れるかわからん。
「そいつもそうだがアガマはなかなか面白そうな奴らを引き連れているんだな」
「ま、成り行きでな」
そう考えればそうである。別に俺についてくる事もないであろうに。
特にラッヘンはあのままハヴェルのとこに預けていてもよかったのだが、出発するときに頑なに俺から離れようとしなかったり、セレイムはセレイムでここのところ喋ってないから無口なのかと思うが、人型になった当初はより多くの知識を覚えたいのかクレアスフェルとよく喋っていた。場を弁えるという事なのだろうか。たまに何か張り合っているのか、ラッヘンかセレイムのどちらかが勝ち誇ったような表情になり、もう片方は敗北を味わった表情をしている時がある。まぁ、仲が悪そうでないのは良いことじゃないかなって思う。




