22これからよろしくお願いします
しばらく忙しいので更新が遅くなるかもしれません
「ご主人。髪変えたんだ」
「あぁ、まぁな」
現在俺達は第一中隊から借りた馬で首都へと向かっている。森と荒野が斑に入り混じった変な地形をしているが、そこまで意に介する事でもない。
ただ、暑いのと熱いのが交互に来るので二代目の魔力装甲だと事の他しんどかったかもしれない。ちなみにその二代目は俺とは別の馬に乗って普通に付いて来ている。そういう指示を与えているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
「・・・しかし、髪型を変えただけでかなり変わりましたね」
「そりゃあな。いろいろと細かい所も変えてるからな」
まぁ、そこまで変えた訳でもないが、それでもクレアスフェルが見間違える程度には変わっているのだろう。ラッヘンは直ぐに気づいたようだが、まぁ魔物の不思議さについてはよくわからんので放っておく。
「・・・ところで。前のアガマ殿の恰好をしている彼女は?」
「あぁあれ?メグファインが直してくれたから有効活用してるだけだが?」
実際メグファインとフォルベルニールが完璧な修復をしてくれたので何一つ問題無く指示を出して動かす事が出来る。まぁ、一々指示を出していくのも面倒なのである程度の自立行動ができる様に思考ルーチンを組んである。そのせいかは知らないが先程からたまに何処かしらに向けてよくわからんビームを飛ばしている。もちろん主導権を俺に戻す事もできるのでいざと言う時の盾にもなる。これが本当のレディファーストというやつだ。まぁ、外見だけなら女しか居ないわけだが。
「アガマ殿」
「どったの」
「前方にスライムの群れが居るので迂回します。追従してください」
「スライムぅ?」
スライムっつうとやっぱあれか?ドロドロして不定形の物理攻撃にやたら耐性が高そうなのに某有名RPGのせいで序盤の雑魚とかいう印象が広まったあの有名なスライムか?
いや俺はどっちかというとデフォルメされたキャラよりもリアル路線の方が好きだったからやった事は無いが。
「で、そのスライムは迂回するほど厄介なのか?」
「いえ。別にそういうわけではありません。確かに魔法、物理の両方にそれなりの耐性を持っていますが、倒せない相手ではないのです」
「じゃあなんで」
「彼等は単体では害虫などを捕らえる益獣なのですが、群れるととたんに気性が荒くなります」
つまるところあれらしい。赤信号、皆で渡れば、怖くないと強く思い込んで、なんというか同調圧力というかなんというかね。皆やってんだから俺もやろって感じの日本人みたいな?
後こいつ等の主食は空気中に霧散した魔力の残滓らしく、戦場跡によく現れてはついでと言わんばかりにのこされた死体を貪るらしい。ついでに生き物の発する微弱な魔力を感知して集団で襲い掛かり、粘膜から排出される魔力を多く含んでいる事が多い体液を採取しようとあの手この手をやってくるらしい。
「ようするにあれか。エ」
「アガマ殿。それ以上はいけない」
しかしあれだ。迂回しようにも結構左右に広がってるからかなりの時間を取られる。ここは馬もある事だし真っ直ぐ突っ切れるかもしれない。というかもしかしたらそれこそ某有名RPGみたいに序盤の雑魚に位置しているのかもしれない。カグマに辛勝とはいえ勝った俺なら倒せるのではないだろうか。
「ちょっくら捻ってくる」
「アガマ殿!?」
でぇじょうぶだ!死んだら生き返りゃしないが死ななきゃいいんだ。スライムっつったら高い物理防御か魔法防御のどっちかだろ?大概は物理防御特化で魔法に弱いのが定番じゃないか。なら魔力剣にいつものエンチャントをしてぶっさして爆破。はい終わりってなもんだろ?
「そら行け!」
魔力剣を生成してエンチャントしてから目標に向けて飛ばす。見事に一本刺さって喰われた。
「はぁ!?」
見事な放物線を描いて飛行していた魔力剣はスライムに刺さってから魔方陣を起動して起爆する予定だったのだが、起爆する前に一瞬で吸収されてしまった。
吸収したスライムがみるみる内に人の様な形状をとりはじめる。
「まるで意味がわからんぞ!」
「スライムは魔力が主食だと言ったでしょう!」
「ご主人。余計な事。した」
もちろんクレアスフェルの説明は聞いていたし、二代目が俺の指示に反して動こうとしなかったしで、なんとなく良い予感はしてなかったが。少なくともクレアスフェルの説明に魔力を吸収したら人型になるとは聞いてない。
そしてその人型になったスライムが周りのスライムを指揮して此方に攻撃してくるとも聞いていない。
「だから私は迂回すると言ったのです!」
「馬鹿野郎!こんな事になるって知ってりゃ俺だって迂回したわ!」
「野郎とは何ですか!私は女です!」
クレアスフェルが叫びながら襲いかかってくるスライムにレイピアを刺す。スライムの内側に炎が広がったかと思うとタールの様な色の液体になってスライムが崩れ落ちる。少し焦げ臭いが、少なくとも倒せない相手では無いと言うことだろう。
「・・・ご主人」
「ラッヘン?」
「・・・捕まった」
「はぁ!?」
気づくといつの間にかラッヘンと二代目がスライムに捕まっていた。二代目はモゾモゾ動いているが、ラッヘンは何か諦めた様な顔をして動かない。
「クレアスフェル!やれるか?」
「貴方のせいでこっちは手一杯なんですよ!」
「チッ!」
ラッヘンと二代目が完全に呑み込まれた。服が溶けていないところを見るとその辺りは少なからず良心的な様だ。どのみち魔力が吸い付くされるなら死ぬわけだが。特に二代目は一から十まで全て魔力でできているので所々から魔力漏れを起こして緑色の光を撒き散らしていて何処はかと無く綺麗であった。
「チェイサァ!」
凍結の魔方陣を通した魔力をたっぷり込めた拳をお見舞いする。物理と魔法のハイブリットアタックだ。効かなかったら効かなかったで魔力たっぷり喰わせる事で食あたりでも起こすか凍ってくれればなんとかなるかも知れないと思ったのでやってみた。
だが、スライムは何ともないと言わんばかりに俺の腕を食い始めた。
「アガマ殿まで捕まったのですか!?」
「うるせぇ!」
クレアスフェルはほっといて追加で魔力を叩き込む。クレアスフェルがやったように内側から燃やす方法を真似る。流石に燃やしてタールを量産するのは環境に悪いので凍らせる事にしたのだ。
予想通り。魔方陣ごと魔力を食ったスライムの中で魔方陣が起動して内側からスライムが凍りつく。
「ラッヘンと二代目は後で回収する」
「こっちはようやく半分片付きました。・・・ですが」
人型のスライムが周囲のスライムを集めている。どうやら防御陣形の様なものを構築しているようだ。クレアスフェルのレイピアを警戒してから先鋒と後詰めの間に五体程のスライムが殿として後詰めの後退を支援している。
「まったく。アガマ殿のせいでこれですよ。森の中では私のレイピアは本領を発揮できないというのに」
「クレアスフェルがもうちょっと具体的にスライムの危険性について説明してくれてたら俺だって手を出さなかったっての!」
「今更過去を後悔しても仕方がないでしょう!今はこの状況を打開しなければならない時です」
そうこう言っている内にスライムの後退が完了し、人型のスライムの周囲に薄い壁の様に展開した。所々に色の濃い丸とも四角ともつかない不定形な物が浮かんでいる。あれが俗に言う核とかいうやつなのだろうか。あれを潰せば少し削れるんじゃないのだろうか。
「スライムが防御結界を展開しています!撤退します!」
「はぁ!?防御結界でなんで!?」
うごうごと蠢いていた核と思われる物が円心を形作る。此方に平面を向ける様に正四面体の形状になるとゆっくりと回りだす。核が作り出した結界の中で何かが反射し、反復し、増幅される。
「くそったれが!」
「アガマ殿!」
横に動いて撤退しようにも円が此方を捕捉したまま逃がしてくれない。あれがなんなのかはよくわからんが、いつの間に抜け出していたのか二代目が撤退せずに渾身の反射結界を傾斜をつけて張っているのだからきっと逃げられないのだろう。
ならば。迎え撃たねばならない。
「うんぬぅ!」
二代目より前にでて反射結界を張る。せっかくメグファインが治してくれたのだ。そう簡単に壊す訳にはいかない。
核の円から漏れ出る光が周囲に飛散する。その光は走った後には何も起こらずに、此方に向かって少しずつ収束してくる。まずい。これはちょっと耐えられないかもしれない。収束しきった光の奔流が反射結界に直撃する。肌が文字通り泡立ち、熱は無いものの太陽を直視する以上の光量にさらされて擬似的に構成した網膜が灼ける。
「ゥゥゥゥァァァァァァァアアアアア!」
人型のスライムが一体どこからそれ程の声量を搾り出したのだと言わんばかりの雄たけびを発する。光の奔流が一層強くなり、腕の先が蒸発した。反射結界は破られていないにも関わらずにだ。これはまずいと思い、冷却の魔法陣を張る。が、残念な事にまるで意味を成さなかった。今も傷口を灼き続ける光の奔流は衰えることなく。むしろより強くなっている。このままでは中身まで灼かれるのも時間の問題か。
「ッハァ!」
唐突に光が止まる。それと同時に光を発していたスライムの壁が黒く焼けて崩れ落ちる。どうやらこちらに意識が向いていた隙にクレアスフェルが後ろに回りこんでいたらしい。
クレアスフェルがレイピアを人型のスライムに突きつけて投降を促している。スライムに人の言葉が理解できるのか疑問だったのだが、どうやらわかっているようだ。スライムが体を地面に広げて無抵抗の意を示す。
「まったく・・・スライムなど討伐対象でもない益獣に片足突っ込んだ魔物を手にかけるなど・・・」
「いつまでネチネチ言いやがるんだお前は」
「ご主人・・・。寒い・・・」
震えるラッヘンの為に片手間で服を作る。ウール百パーセントのセーターだ。もちろん苦しくない様に背中には穴が開いているので羽を通せる。他にもいろいろ作って着せていると見事に着膨れ状態になってしまったが、本人が満足そうなので良しとする。
「・・・で、このスライムはどうしますか?」
「別にもう敵意はねぇんだろ?こっちの被害はラッヘンが風邪引きそうになってんのと俺の両腕ぐらいだからな」
「それをその程度と言えるアガマ殿の胆力に感服しますよ」
しかし本当にどうしようか。流石にほっとくってわけにもいかんし。益獣ってんだからあんまり群れにくそうな所に放り込むのも一つの手かもな。
「この個体は人型になってしまいました。何処に居ようといずれ好事家に情報が渡って狙われるかもしれません」
「うーむ・・・。そういう事もあるのか」
「人の奴隷は許されていませんが、魔物を奴隷にする者など今まで居ませんでしたからね」
そうすると今後の後腐れの無さを考えるなら保護するかここで介錯するかだが、さて。どうしたものか。保護したらそれはそれで好事家共の注目を集めそうだし、介錯するのはそれはそれで後腐れ以外のつっかえができそうだし。野放しにするのはそれこそ論外だ。あれほどの力を持っている奴を自由にしたら何をするのかわかったものではない。
「よし、じゃあこうしよう。クレアスフェル。こいつに話しかける事ってできるのか?」
「一応できますよ。多分理解しているので誰でもできるでしょうが」
「ふむ。では、そこなスライムよ。俺達についてくるか。ここで死ぬか。ここではないどこかへ行くか。三択だ、好きなものを選ぶと良い」
人型のスライムがぬるりと立ち上がってフラフラとこっちに近づいてくる。足は構成しなかったのかできなかったのか、胴体から下まではそのままなので足なんて飾りです。地上さえ移動できればいいんですと言わんばかりだ。
「マ・・・リョ・・・ク」
「は?」
「チョウ・・・ダ・・・イ」
スライムがこちらに腕を伸ばしてそう言い続ける。これはあれか?ラッヘンの時と一緒で魔力を要求されているのか?本当に魔物の謎生態はワケがわからん。この魔力の要求はあれなのか?仲間になりたそうにこちらを見ているというやつなのか?
まぁ、仕方が無いので急造で直した腕を伸ばす。ラッヘンの時は勝手に吸われたので今回も勝手に吸うだろう。
「ほれあんまり吸いすぎすなよ」
「アリ・・・ガ・・・トウ」
スライムが腕に絡み付く。冷たい様な暖かい様な不思議な温度だ。ヌルヌルとした感触と共に肘まで登ってくる。
「イタダ・・・キ・・・マス」
スライムがそう言うとスライムが覆っていた肘から先の腕がシュワッと溶けた。何が起こったのか認識するのに数秒を要したが、なんとか理解する事ができた。肘から先は先ほど灼かれたので再構築したのだが、後程調整を施すつもりだったのでポリゴンテクスチャみたいな外見の急造品だったのだ。それゆえ酸に対する耐性なども持たせていなかったのだ。
「・・・はっ!」
「大丈夫ですか?アガマ殿」
クレアスフェルが心配してくるが。まぁ、腕が無くなった人を心配するのは人として当たり前の行動だろう。俺が人だったらの話だがな!
で、それは置いといて。俺の腕を吸収したスライムは元々中途半端な人型だったのが、最早完全に人になった。スライムの名残は青い髪と目位にしか無い。まぁ、俺と同じでつるんつるんのスベスベで特定の場所に置いたら別のアイテムに変換されそうな、所謂フィギュアの素体の様な外見だ。勿論服は無いので大きめのコートを作って着せてやる。
「ア・・・ア・・・あ・・・あー・・・あー」
発声練習の様な事をし始めた。まぁ、今まで言葉なんて発した事は無いだろうしな。だから波打った声で我々ハスライムダとか言い出してても不思議じゃないな!
「って待てぇい!」
「急にどうしたのですかアガマ殿!?」
これが突っ込まずにはいられようか。そりゃスライムだからプルプルしてるし声が多少波打つのは仕方ないだろうし、スライムだからもしかしたら一にして全、全にして一なのかもしれない。
だがあえてそのネタをぶっこんで来るのか?
「ご主人。急に頭抱えて。大丈夫?」
「そうですアガマ殿。急にどうされたのですか?」
「あ・・・いや・・・ちょっと目眩が・・・な?」
「あ・・・名ま・・・え」
こいつもラッヘンと一緒かー!
何?また名前?考える側にもなれよ!そうポンポン思い付くわけないだろ!?第一名前が無いから決めて欲しいってついてくるって事だろ?自分で言っときながらなんて面倒な選択肢なんだ!
「ではライムなどどうでしょう。可愛らしくて良いかと」
「・・・嫌」
まーたこの娘は名付け拒否されてる。お断りしますってやつだ。可愛そうにね。
でもなんでこいつらちょくちょく名前を欲しがるんだ?場合によっちゃ呼ぶときに面倒だから仮だけでもつけてやるのにな。
「じゃああれだ。スライムをもじってセレイムとかどうだ?」
名前を決めるとラッヘンの時と同じ様に変化が始まる。若干不定形だった輪郭が完全に人になった。肌の色や感触までもがまるっきり人だ。
「これからよろしくお願いします。ご主人」
まぁ、少し嫌な予感はしてたさ。
ラッヘンの時は確か名前をつける前からご主人呼びだった気がしたが、そもそもこのスライムは元が野生で、しかもいましがたやっとまともな言葉を話せる様になったばかりだし、今までしたくてもできなかったと言われても頷ける。
だが何故そんなスライムがそれほど流暢に話せるのか理解しがたい。
「結局・・・私の提案した名前は拒否されるのですね・・・」
「そう落ち込むなクレアスフェル。首都に着いたらちょっと位奢ってやるから」
うなだれるクレアスフェルを宥めて馬にまたがる。セレイムにはちゃんとした服を作ってやった。スコットランドのキルトを少し弄った物だが、どうやら気に入ってくれたようだ。




