19中々に良い実験台故にな
大分間隔が空いてしまいましたが、なんとか書き上げました。
「ようこそおいでくださいました。私、この国境監視局で監視官をしておりますネビヌスと申します。以後、お見知りおきを」
「はいはい。手続きは終わったしさっさと通らせてもらうわね」
「お待ちくださいシャルロット様。ここで私達が邂逅したのも何かの縁。ぜひごゆるりと滞在してはいかがです?」
「うるさいですね。私は先を急ぐといっているのです。それとも、先を急ぐ旅人の邪魔をするのが監視官の仕事なのかしら?」
現在、絶賛足止めされてます。
このネビヌスとか言う男はそれはもう小太りしている外見とうさんくさい雰囲気から下心を大量に放出してオーラが見える程、変態の臭いがする。地下牢あたりに奴隷エルフとか獣人とかを監禁して弄んでそうな顔してる。ガレッド情報もこれまた平民の税務官上がりと来たもんだ。貴族じゃないから本来ならクレアスフェルにペコペコする立場なのだが、今は無国籍で魔物使いの旅人のシャルロットなので普通の対応だ。・・・いや、下心満載の対応だったな。
ちなみにラッヘンは教育に悪いため馬車の中にいてもらっている。ここに居たら絶対目ぇつけられてただろうなぁ。
「そこをなんとか・・・良いお酒も揃っておりますぞ」
「ぐっ・・・わ、私は未成年だ!」
クレアスフェルがちょっと揺らいでいる。だが、クレアスフェルの顔の一つのシャルロットは十五歳という設定のために酒が飲めないのだそうだ。だが、酒好きとして、良い酒と聞いてほんの少し揺らいだようだ。本当にそんなんなのに師団長が勤まっているのが不思議でならない。
・・・っと。そんな事考えてたらクレアスフェルがくっ殺さんみたいな顔をしだしてるな。いや、実際に見たことは無いが。
助け船を出してやろう。
「すまない」
「おぉアガマ殿。そのお美しき容貌、どこかの国の王妃と・・・」
「俺は男だ」
「・・・早く行ったらどうです?」
うむ。効果は抜群のようだ。
クレアスフェルが少し引いているが、なぁに。ちょっと声帯を弄って野太い声を出しただけよ。弄り直せばもとに戻るしなによりこの場を円滑に収める良い手段だと思う。我ながら感服するほどだ。
・・・というわけで俺達は中立国クスサビの国境監視局を抜けてクスサビの国境の外へと出る。
まぁ、国境線なんてあって無いようなものだし越えたって言っても実感は無いわけで。
「ご主人。なんか。変」
ラッヘンが国境を越えた時にそんな事を呟いていた。確かにちょっと疑似魔力装甲の外側に少し違和感があったが特に異常は無い。クレアスフェルは特に何も言ってこないので多分問題はないのだろう。
「国境を越えれば大した問題も無く進めるでしょう」
「そうですぜ。師団長が全部やっちまったからな」
「モルベス!」
そんなクレアスフェルとモルベスの会話を聞きながら馬車に揺られる。
先程の国境監視局でのネビヌスとの掛け合いで酒に釣られかけたクレアスフェルだが、この馬車には例のお酒が積まれていたのでそれを早く飲みたいが故にギリギリで踏み止まっていたのだろう。
といってもあのままだと平行線になりそうだったので助け船を出したわけだ。クレアスフェルの事だし酒によっては案外チョロく堕ちていたかもしれない。
「アガマ殿。今失礼な事を考えていませんでしたか?」
「お前前にも似たような事言わなかったか?」
「アガマ殿はかなり表情に出る人のようですね。その体も手に入れたばかりだから扱いきれていないのでしょう?」
「フフーフ。あまり私を侮ってくれるなよ?」
「ご主人。クレア弄ってる時は。楽しそう」
そうこうしている内に国境付近まで到達する。
この大陸の国々は国境線の間にほんの少しの空白地帯がある事が多い。特に中立国はその全てが国境の間に空白地帯があるのだ。その理由は些細なもので単純に国土争いを防止して越境証明証を持たない商人が通れるルートを用意するための物だ。
この越境証明証はいわゆるパスポートの様なもので、各国それぞれ異なるために全てを揃えるとなると金もかかってしまう。しかし、国境間の空白地帯があるなら道中の国を通過せずに目的の国に行けるというわけだ。
中にはそういう旅商人達をターゲットとした宿屋や宿場町などがあることもある。ただ、国境間の空白地帯ということもあり、治安はお世辞にも良いとは言えない。というわけで旅する商人や宿場町では傭兵を雇っている事が多い。たまに店主や商人自体が強い事もあるが稀な例だ。
「師団長!イジスタリウス側の国境監視局までまだまだかかるでしょうし少々テイスティングしても構わないのでは?」
「うるさいモルベス!」
「相変わらず師団長は弄り甲斐がありますなー!はっはっはっがっ!」
「モルベス!?」
会話の途中でモルベスがうめき声を上げて馬車が少し揺れる。空白地帯ということもあり、バトルドレスに身を包み、レイピアを帯刀していたクレアスフェルが馬車から飛び出す。俺とラッヘンも後を追って飛び出す。
こんなこともあろうかと用意しておいた複合結界を馬車の周りに張る。転ばぬ先のなんとやらか。まぁ既に転んだ後だが。
御者台には膝に矢を受けたモルベスが倒れていた。いかんな。このままでは衛兵にならざるをえない。
「し、師団長。これは・・・ま・・・ひ・・・」
「麻痺?麻痺毒か!?」
モルベスが痙攣しつつ倒れ付した。まだ心臓は動いているようだし、恐らく麻痺毒なのだろう。だが、モルベスが非戦闘員とはいえ、一分もかけずに大人を行動不能にする程の毒とは。そんなの某名探偵の麻酔銃位しか知らんぞ。
いやまぁ何と言っても異世界だし、インド象が二秒で倒れるような毒よりも強い毒があるのかもしらん。
「ご主人」
「どうした?ラッヘン」
「気配。五つ。西北西」
「ほーう」
ラッヘンが容疑者を発見してくれた。ドナドナじゃない旅路の邪魔をしてくれやがった曲者にはお灸とお線香を添えてやらねばならぬな。
まぁ、馬車が快適だったかと聞かれたら絶対にノゥ!って答えるが。
クレアスフェルから見て馬車の影になるように移動してウィンチェスターっぽいライフルを造り上げる。いまいちその辺の知識は無いので、なんとなくで補完して動作するようにする。弾頭には特に理由も無く二倍圧縮したタングステンを精製する。ちょっと重いので炸薬を三倍位にするとあら不思議。ちょっとした機関砲弾位の重さと長さになったが、まぁ、気にしない。
それとなく付けておいたスコープを覗き込む。北から西南西の辺りまでまばらに藪が点在している。索敵範囲を西北西に絞り込むと、藪は丁度五つある。
まずは様子見に中央右の藪の真ん中を狙う。
普通の人間なら肩甲骨が砕けていたかもしれないと思うほどの反動を残して弾頭が発射される。ガレッドを吸収した俺に取ってはそこまで強い反動ではなかったが、それでもブレたようで藪の右の地面を抉るだけになった。
「今の音はなんだ!?」
クレアスフェルが少し驚いているが、まぁ、気にしない。
次弾を装填する。安心と信頼と浪漫のボルトアクションだ。案の定、伸ばした薬莢が引っ掛かってオートでもないのにジャムるとか器用な事をしてしまった。引っ掛かった薬莢は魔力還元して今度はちゃんとした弾を装填する。カチャンという心地よい音が鳴って弾が装填される。
再び狙いを定める。首謀者はなんとなく中央に居そうだが、首謀者をやって散り散りに逃げられたら面倒が増えそうだし、今度は中央左の藪を狙う。
今度はほとんど反動を感じなかった。藪のど真ん中に弾頭が吸い込まれる様に飛んで行き、脳奬が弾け飛ぶのが見えた。
「ヘッドショット。ヒットってか?」
続いて次弾を装填し、右端の藪を狙う。今度は威嚇目的で藪の上を掠める様に撃つ。
自棄になったのか藪から上半身を出してこちらに弓を向けようと飛び出したが、タイミングが悪かった。弾頭が喉を貫き、脊椎を粉砕する。あれじゃぁ生きているかも知らんが長くは持たないだろう。もし、なんとか回復して生き長らえたとしても脊椎が砕けているので今までの日常を送る事は絶望的だろう。
「残り。三つ。・・・ご主人。増援」
「増援?」
「空。東。来る」
ラッヘンが何かを見つけてくれたらしい。イジスタリウス国境に近いここで、東側から敵対勢力の増援とは考えがたい。
現にこちらには見向きもせずに。藪の方へ飛んでいった。
「あれは・・・第四技研か!?何故このタイミングで?」
「第四技研ってのはなんだ?」
「アガマ殿!?生きていたのか?」
「そりゃぁ・・・な?で、第四技研ってのは?」
「あ、あぁ。第四技研はだな・・・」
どうやら第四技研というのは帝国第四技術研究所の略称らしく、所長の研究主任以下十八人の多種族からなる部署らしい。帝国内で出回っている魔術導具や魔術式などはだいたいここの研究成果の副産物らしい。
第四技研とは名ばかりで第一~第三までの技術研究所は今は存在しないらしい。
というのも。その全ての技術研究所で様々な事故が起こり、その跡地が閉鎖されているからだ。事実それぞれの技術研究所も何故か解体されていないので第四技術研究所というわけだ。
「しかし何故ここに第四技研が・・・。普段所内に引きこもってる研究馬鹿の癖に・・・」
藪の上空で静止した人影が懐から何か小さい金剛杵のような物を取り出し藪の上に落とす。金剛杵は空中ではじけ飛んで無数の青白く光る槍の様な形状になって藪に降り注ぐ。中央の藪だけは無事のようだがもう一人の人影が黒く光るキューブを放り込んだ。キューブは藪の上で膨張して黒い半透明の檻になって対象を捕縛した後、膨張する前と同じ程の大きさになるが最初と違い半透明のままで中身が見える。
このスコープ便利だな。作っといてよかった。
ちなみに一人は金髪ショートの狐耳尻尾付きの妖狐っぽい獣人でもう一人はなんだか青みがかった銀髪のアラクネっぽい感じだ。
「やはり模造品ではだめじゃの・・・。おっと、クレアスフェルではないか。こんなところにおったのか。まったく到着せんのでてっきりどこかでのたれ死んだのか思ってしまったじゃろ?」
「せんせー!早いです!早いですよぉー!」
「これ!情けない声を出すでない!曲がりなりにも男であろう!」
大人ほどの大きさの蜘蛛の胴体がそれほど背丈が高いわけでもない妖狐にしがみついている様はかなり滑稽な事になっている。
・・・というか男のアラクネとかあんまり聞かないよな。基本アラクネって言うと女性ってイメージが強いよな。
潰れた円錐の様な物に乗って近づいて来た二人は近くに降り立つ。円錐は三段になっており、下の二段がそれぞれ反対に回転している。
「久しぶりじゃの。クレアスフェル」
「シルフェ・メグファイン・エイルメス・・・。なんで研究主任のあなたがこんなところまででばってきたのですか?」
「そりゃあ・・・な?キャル坊からクレアスフェルの帰りが遅いから迎えに行ってやれと言われての。しかたなくじゃ」
見た感じ犬猿の仲といった所だろうか。キャル坊というのが恐らくキャルレッジのおっさんの事を指してるとしたら見た感じ五十位は歳食ってそうなキャルレッジのおっさんを坊や呼ばわりするとは・・・。このメグファインとか言う妖狐。一体何歳なんだ。
「余計な事は考えんで良いぞ」
「・・・なんかよく心を読まれるな。読心術を扱えるのがデフォなのか?」
「お主は一度鏡を見ながらポーカーフェイスの練習をした方が良いぞ?」
そんなこんなしていたらいつの間にかアラクネがラッヘンに睨み付けられてプルプルしていた。アラクネがどの位強いのかわからないが、ラッヘンが岩龍だとわかっているのならまぁ、仕方がないのかもしれない。
「せ、せんせー・・・」
「・・・まったく。情けない声を出すなと言うておるのに」
「で、でもこれ。岩龍・・・ですよね?」
「たわけが!見てわからぬのならお主の目は節穴じゃ」
アラクネが声を絞り出してなんとか声を出している様に見えるが、その声には恐怖よりも歓喜の色が濃く出ていた。
人外という事もあって素の姿が人に近く、なろうと思えば人に成ることもできるであろうラッヘンの姿を見て感嘆したのだろう。まして元があの犬みたいな岩龍と考えればわからないでもない。俺も最初は驚いた。
「紹介が遅れたの。こやつはアルネイル・シュレイダル。助手じゃ」
「珍しいわね。貴女が助手を。それも男を抱え込むなんて」
「中々に良い実験台故にな。興味深いぞ?」
そんな事を言いつつ視線がこちらへズレてくる。段々実験対象を舐めるように見る視線に変わっていきウィンチェスターを見て動きが止まる。
それはもうキラキラとした目で今度はウィンチェスターを見てくる。身を捩る様にして視線から隠そうとしても回り込んでくる。流石にこれを調べられるのはまずい気がしたのだ。研究主任とかいう肩書きも持ってるそうだし、原理を研究されれば色々と再現されておかしくなるかもしらん。行き過ぎた科学はなんとやらと言うやつだ。
「ふーむ・・・。中々に興味深いのぉ。少しばかり見せてくれぬか?」
「断る」
「何故じゃ?」
「そりゃあんた。秘密は女を美しくするとか言うだろ?」
「言いませんし貴方は男でしょう?」
実際見られたら困るので隠した隙に魔力還元しておく。種も仕掛けもあるマジックでございます。
まぁ、一番の興味の対象が無くなったら二番目の対象に注意が行くわけで。
またもやジロジロと見られる。
「そこな岩龍と似た外見じゃの?姉妹かえ?」
「ご主人は。ご主人」
「血の繋がりなんてねぇよ」
「それは興味深いの」
ちょっとだれかこのマッドサイエンティストなんとかしてくれやしませんかねぇ。




