15何故人の言葉を解するのです?
拝啓、この手紙読んでくれますか。
まぁ手紙なんて書いてないが。現在この世界に飛ばされて三回目のドナドナ中です。まぁそうなるなって感じ?
そりゃ中型の魔物を街に入れる事になるんだから建前上は魔物使いのの捕獲した魔物って事になるよなぁ。しかも岩龍の幼体まで引っ付いてるからな。
「あーくっそ暇だなー」
「街に入ったら黙っててくださいね。喋る魔物とか非常識ですから」
「せやなー」
「ピャー」
檻に入れられ、乗り心地の悪い荷馬車に乗せられ、ドナドナドーナードーナーっと。乗せてんのは子牛じゃなくて黒い猛禽類と石ころ背負ったわんこだけどな。どう見ても烏じゃねぇし、まともな犬じゃねぇもんな!
「まだ街に入るまでは時間が掛かるので今のところは喋っても問題ないですよ?」
「問題無いっつっても話すことなんてあんまり無いからなー」
「私が暇なんですよ。なにか面白い話とかないんですか?」
なにこいつ。めっちゃ図々しいんだけど。格好から貴族と判断して経歴もスラム上がりの貴族ときた。珍しい事例なんだなと思ったけど仮にも貴族なのにこの図々しさはなんなんだろうな。貴族になったんならそれなりの作法が教えられるもんじゃないのか?それともこれがこの世界の貴族の普通なのか?
「何かないんですか?もう暇で暇でしょうがないんですけど」
「じゃあそうだな・・・生まれた時から食料としか見られてなかった俺の身の上話でもするか?」
「え、なんかちょっと躊躇しますね」
「そうだろそうだろー?」
いやまぁ、俺だって話すのに少し躊躇する。だって田んぼに突っ込んで溺死して、生まれ変わったと思ったら烏で、再生能力に目をつけられてひたすら啄まれて、助かったと思ったら勇者で、しばらくなんやかんや舌戦してたら喋れるようにされて、魔物使いの所に預けられたと思ったらいきなりデカイ事案を任されて、そこで一つ目のガレッドを取得して、なんやかんやカグマとの戦闘になって。
よく考えるとすっげぇ忙しい事になってたんだなぁ。ここは話すにしても転生とガレッドの事は伏せて話すべきだろう。
「さてまず何から話そうか・・・あれはたしか三十六万。いや、一万四千年前だったか。まぁ冗談だが。この世界に生まれ落ちたところからだな」
それから懇懇と話していく。クレアスフェルは興味深そうに話を聞いているが、こっちからすれば何が面白いのかわからない。岩龍は俺の話を子守唄がわりに寝てるしクレアスフェルはクレアスフェルで聞き逃すつもりなど毛頭無いように聞き入っている。
「・・・え?何?この話そんなに面白い?」
「ええ、とっても」
「何が?」
「なんとなく。昔の私を思い出しまして」
クレアスフェルはスラム育ちだしこう、なんというか、悲惨な出生に共感する所があったのかもしれない。
いやでも流石に親兄弟に食われるなんて動物ならあってもおかしくないが人間ならカニバリで即効アウトだ。というか倫理的に自分の娘をかじる親なんてとんだサイコ野郎じゃないか。娘を二つの意味でやっちまう親は前世じゃたまにあったが流石にカニバリは聞いたことがない。そこまで性癖を拗らせた上で倫理観まで螺曲がった奴はそうそう居ないだろう。
「そう言えばスラム育ちで現貴族なんだそうだな」
「え、え?え!?」
「あぁ、情報の漏洩とかそういうのは気にすんなよ?」
「え?」
「わかるんだから知りたいだろ?例えば・・・伝説の大蛇を酔わせた酒の話とか」
「それは・・・気になりますが。なぜそのような事を知っているのです?」
うーん。ガレッドの事と転生の事を伏せて話した弊害がこんなところに。どう説明したものか。叡知のガレッドを吸収した時には誰か来たりしなかったのに力のガレッドを吸収した後に来た事を考えるともしかしたら力のガレッドに関しては情報を持ってるのかもしれない。
「うーむ・・・話して良いのか悪いのか。ハヴェルも知ってる事ばっかだが、いかんせんなぁ」
「情報の重要性を知っているのですね」
「あたぼうよ。情報の有無が戦局を分けるからな。前情報が有るのと無いのじゃ気楽さが違う」
流石に情報化社会から転生してきましたなんて言えない。これも言えないがハヴェルは知っている事だ。これ以上俺が元人間って事を知ってる奴が増えると俺を警戒する奴が増えるだろうし、これ以上厄介事は御免だ。それにただでさえ力の一端を見せてしまっているのだ。これ以上、手の内を見せるのも忍びない。
「あー・・・ガレッドって知ってるか?」
「えぇ。・・・というか私の出生まで知っているのに私がガレッドの事を知らないとでも?」
「いや。確認を取りたかっただけだ」
「もちろんよく知っています。あなたがいま少なくとも力のガレッドを所有していると思われるという事も」
「その情報源は?」
「ヴァルヴェス殿です」
やっぱりあのクソ神か。力のガレッドの事だけとはいえ知られているのは少しアンフェアな気がするな。やはり情報はできるだけ伏せていく方が良いだろう。だが情報源がヴァルヴェスならいくら伏せていても無駄な気がするな。
しかし、叡知のガレッドには触れないって事は知らないって事なんじゃないだろうか。
「シャルロット様ーもうそろそろつきやすぜ」
「あぁ、すまないな。・・・さて、ここからアガマ殿には人の言葉を喋らずに鳴き声でがんばっていただきたい」
「カー」
渾身の声真似が炸裂する。まぁ、声帯がちょっと違うだけでもとから変わってないからそれほど苦労するものでもないが。
ちなみにシャルロットと言うのはクレアスフェルの偽名の一つらしい。諜報科に居ると色々な顔が必要なんだそうだ。その内の一つ、シャルロットは魔物使いの娘で自らは親に反対されながらも魔物使いを目指すために家出してきたと言う設定らしい。
「そこの荷馬車!止まりなさい!」
「へいへい」
「通行証と魔物使い証明はあるか」
「通行証はこちらです」
「証明だ」
「ふむ・・・。よし、通って良いぞ。くれぐれも街中で魔物を暴れさせるな」
「どうも」
「すまないな」
そんなやり取りが城壁の門をくぐる時にされた。まぁ、偽名らしいし顔パスなんてできる物でもないか。
ちなみに今入ったのはクルベとイジスタリウス帝国の間にある中立国家の一つ、クスサビと言う国らしい。
中立というだけあって東西両国との貿易があり人口もそれなりに多い。そして怪しそうな人物が数人。外見上の問題や怪しい点はないのだが、なんというか雰囲気が怪しい。多分スパイかなんかなんだろう。
「相変わらずこの国は賑わっていますね」
「あぁ、なんでも東の帝国が西征の準備を進めてるっていう噂が流れてるらしくてな。戦火を逃れたい人達やへっぴり腰の国の政府高官が旅行と称して滞在したいという希望が出された程だそうだからな」
「そうですかか・・・ちなみにその高官はどこの国の?」
「西側のザルミアギ公国の近衛長官だったかな?他にもゲルベア武装国家の軍部顧問と、あとドワーフ国の技術士官が滞在してるはずだったかな」
「それほどですか」
「あぁ、それほどだな」
なんだ西征の事漏れてんじゃん。情報を重視した皇帝とか軍事機密とか。これで本当に軍事機密なのだろうか。そうだとしたらザルすぎて笑えない。どこぞのゲノム兵による警備並みにザルじゃねぇか。
「そんなんで本当に軍事機密なのかとか思ってます?」
クレアスフェルが小さい声で聞いてくる。
「これこそが私達の情報戦術なのです。西征をするという噂事態は前々からあったのです。その噂に燃料を投下して不安を煽り、重要人物を炙り出すのです。その炙り出した人達の情報を集める為にここに寄ったのですよ」
「その人達はどうするんだ?」
「役職や立場によって異なりますが大方二つに別れます。殺すか、捕らえて情報を絞り出すか。です」
なるほど。先程行商らしいおっさんとの会話から情報を引き出していたのか。帝国の西征を警戒して避難なり、情報収集するなりで中立国家にやってくる奴らに利用価値を求めていたのか。
そうとわかると西征が表向き軍事機密になっているのも一部、詳しい部分は公表せずに西征をするという事だけを示し、その時期や目標を隠して各国の不安を煽ると言うわけか。
一歩間違えば西側連合なんてものができかねないが、この感じならそこの所も考えているのだろう。対策を取っているのか、西側諸国の仲が悪いのかだろう。
「私達は何も考え無しに行動しているわけではないのです。他国よりいち早く情報をもぎ取り、それを精査してどのように役立てるのか。日々試行錯誤しているのですよ」
「なるほど」
やはり戦争というのは血なまぐさい。初めて会ったときは軽装鎧を着ていたのにいつの間にか大人しめのバトルドレスに身を包んだクレアスフェルも、戦争に勝つ為にこれだけの事をしているのだ。
外見は十分なんだから酒好きと性格を何とかして舞踏会にでも出れば引く手あまたなのだろうが。それでもクレアスフェルは戦場に身を置く事を良しとしている。
戦わなくて済む方法があるのなら存分に探したい所だがもはや手遅れなのかもしれない。
「さて、とりあえず本日の宿泊地です」
クレアスフェルが指す方向には大型の簡易テントのような組み立てと解体を繰り返すことを前提とした建築物があった。丁度大道芸人がサーカスをする大型テントの様な・・・。
「お、おい。まさか・・・」
「アガマ殿。何故人の言葉を解するのです?おかしいですね。魔物にはそれほどの知能が無いと思っていましたが・・・ねぇ」
「・・・カー」
「よろしい」
「ピャー?」
大道芸、珍しい生き物、サーカス・・・うっ見せ物か。
どう考えたってこれサーカスさせられるパターンだろ?知ってるんだぜ?シャルロットの経歴では家出してしばらく放浪してからこの団に入団して魔物芸を披露する役割を持っているんだが、これは俺か岩龍が火の輪くぐりとかさせられるやつか?ふりでもクレアスフェルにパシーンって鞭で叩かれんのか?
嫌だわそれーやりたくないわー。
「心配しないでください。なにもサーカスに出して見せ物にするわけではありません。一時的な宿泊地として滞在するだけです」
なんか余計心配だな。急に頭数が減ったからって俺は出るつもりは無いが、岩龍が引きずり出される可能性が無いわけではない。
ま、そんときはそんときか。岩龍もこんぐらい覚悟してるだろう。
「ピャー!ピャー!」
そうでもないらしい。




