14がんばって稼ぎましたから
俺、舐めプします。
クレアスフェルを舐めプして圧倒したらスカウトされたでござる。な、何を言っているのかと思うだろうが俺にもわからねえ。
あ、舐めプっていやらしい意味じゃねぇぞ!そこんとこ間違えんな?俺は、変態じゃ、ない。イイネ?
昔痴漢に間違われかけてそこんとこには敏感なんだ。すまねぇ。
「で、どうするのですか?」
「えーっとだな・・・そのーひっじょーに答えに困ると言いますかなー」
クレアスフェルがめっちゃキラキラした目で迫ってくる。軍事機密を話したって事はそれだけ重要な話のはずだ。だが、そもそもこちらにうまあじが無い。俺が西征に参加したから報酬をくれるとは一言も言ってないし、交渉しようにもこいつの立場が掴みにくい。第九諜報師団団長との事だが、その肩書きがどれ程の権力を持っているのかはわからない。少なくともそれだけの地位に居るのは分かるが、逆に言うとそれしかわからない。
「西征に参加して俺に利益は有るんですかねぇ」
「えぇもちろん。・・・と言いたいのですが、帝国には公式に魔物は入れないのです。無論、魔物使いの保有する魔物などの例外などは有りますが、それでも魔物単体で入り、まして戦闘の報酬を公式に与えると言うことはできないのです」
まぁ、そうなるよな。帝国って言うんだからそれなりの大きさの国なんだろう。今の俺はクレイヴと言うにもデカイし鳥と言ってごまかすにしても少々どころかかなり苦しい言い訳になるだろう。そんな得体のしれない奴が自国内に居るとわかれば少なからずパニックが起こるかもしれない。
故に魔物に公式に報酬を与えると言うことができない。
「なら非公式なら?」
「功績によって上下しますが、少なくとも一般兵や部隊長よりも高額、場合によっては私の月給よりも高額になるそうです」
「ほほう・・・ちなみに貴女の月給は?」
「五ゲルデですが・・・単位はわかりますか?」
「あまり馬鹿にしないでほしいもんだが・・・まぁ無理もないか」
この世界の金銭単位は一番下からバロネズ、シェルベ、ゲルデ、ペルチネである。所謂銅貨銀貨金貨、そして白銀貨である。一つくりあがるのに各一千の額が必要であり、一千バロネズが一シェルベ、一千シェルベが一ゲルデ、ペルチネだけは特別で一万ゲルデで一ペルチネなのだそうだ。いつものガレッド情報がソースである。
そして第九諜報師団団長の月給が五ゲルデ、一般兵あたり最低でも二百七十シェルベ。一般人の平均が七十シェルベ。ペルチネだけは貨幣としての格が違うとばかりに帝国の皇族や各国の王族、一部の豪商などが持っているだけだ。
元々ペルチネ貨幣の始まりがゲルデ貨幣が多過ぎてかさばるからというもの。金持ちならではの悩みだな。
ちなみにこれは統一貨幣。つまりはこの大陸中で使える貨幣の話なのだが、これの他にも地方によっては色々な貨幣が使われているそうだ。結構数が多いようで覚えようとは思えない。
「ですからかなりの厚待遇となるのですが・・・いかがですか?」
「ふむぅ・・・帝国外の宿泊場所の確保に食事代、それに装備費用やアイテム費用、その上で最大五ゲルデ以上の報酬・・・」
多分申し分ない報酬なのだろうが、西を征すると書いて西征である。イジスタリウス帝国が東の帝国と呼ばれる所以はつまるところこの大陸の東端にあるからである。つまり帝国が西征を開始すればこの辺りも戦火に包まれる可能性がある。
そこまで愛着は無いものの、もし、自分の手で攻撃しなければならないとなれば、きっと俺は攻撃する事はできない。
だが、帝国を止める術が有るわけでもない。西征が今すぐ始まるという訳ではないが、それでも時間の問題だ。帝国を止めるとすれば力をつける必要がある。そのためにも、知識だけでなく、この目で見なければならない。百聞は一見にしかず。知識を集めるにも情報が集まるであろう帝国の懐に潜り込む大義名分が向こうから転がり込んできたのだ。
「・・・とりあえず様子見だ。いつ退役するかは俺が決める。それで問題ないか?」
「えぇ、問題ありません。・・・所で三百六十一年というラベルの張られた樽を知らないですか?」
あの野郎トラブル持ち込んでやがったな。交渉が終わった後に聞いてきたと言うことはこいつ自身の用事なんだろう。だが、いきなり嘲り、斬りかかってきた相手に素直に教えるのも癪だ。少し意地が悪いが嫌がらせをしてやっても俺は怒られないのではないだろうか。だって俺の責任じゃないし。
「あーヴァルヴェスが持ってきたやつか?」
「そうですそれです!ヴァルヴェス殿が急に現れて急に持っていったんですよ!せっかく少しずつ貯めたお金で買った高いお酒を!持ってかれたんですよ!」
「お、おう」
こいつ、元々あった樽を使ったんじゃなくて樽ごと酒を買ったのか!しかもそれをあのクソ神は無断で盗んだのか!いや、俺が糾弾できた事じゃないが。
しかしどうしようか・・・。流石にここまで鬼気迫られると少し同情してしまう。元々営業だった俺だって外回りで疲れた体になけなしの給料で買った高い酒が染み渡る感覚は忘れられる物じゃない。
これは嫌がらせをしている場合ではない。取りに行くのも面倒だしさっさと作り出してしまおう。
「よし!仕方がない!取りに行くのが面倒な場所だからこの場に召喚してしまおう!」
「そんな事ができるんですか!」
「ったりめぇよぉ!」
勿論、嘘である。真っ赤な嘘である。召喚したって事にして力の事に関してはうやむやにして多少味が落ちてようが文句は言わせない。
・・・あ、結構魔力使うわこれ。きっつい。
今まで試してわかった事だが完成までにかかる時間が長い物ほど魔力を持っていかれるようだ。ちなみに叡知のガレッドの穴は少しレイラインの魔力を拝借したりして騙し騙しつぎはぎで直したから俺自身の魔力はそこまで使ってないのだ。
「お、おお、お酒が出てきました!」
「そうだな。召喚したからな。・・・所で今って帝国暦何年だ?」
「四百八十七年ですが?」
おうふ。通りで魔力持ってかれるわけだよ。っていうか百二十六年物じゃねぇか。さぞ高かったんだろうなぁ。そんな高そうなもんを盗み出したヴァルヴェスには何とかしてお灸を据えてやらなきゃならんな。
「はぁ~お酒ぇ!私のお酒ぇ!」
酒乱かこいつ。見ただけで酔ってんじゃねぇの?ヴァルヴェスとは正反対だな。
って言うか最初の威圧感とかどうしたんだよ。あの堅苦しそうな雰囲気からこんな乱れた姿に成るとか想像つかんわ。
「うぇへへ・・・さ、さっそくテイスティングを・・・」
「まーてまてまてまてぇ!まだ仕事中だろ?」
「え?あ、は、はい!すみません!失礼しました!」
やべぇよ・・・こいつぁとんだ酒乱だぜ。
まぁ百二十六年物じゃしょうがねぇか?古酒ってレベルじゃねぇしそりゃ旨いわけだよな。フランスとかイタリアとかの八十年代の高級ワインが霞んで見える年代物だもんな。まぁ、そっちは飲む機会が無かったからどんなもんなのかわからんが。
「ちなみにお値段は?」
「四千七百ゲルデです」
「たっかいなー」
「がんばって稼ぎましたから」
ふむ。それだけ高価でも俺にとっては普通より旨い酒程度にしか感じなかったというのか。恐ろしきかな貧乏舌。
しかし月給が五ゲルデだとして四千七百ゲルデも一代で稼げるもんなのか?一年1ヶ月が地球と同じ周期だとしても年収六十ゲルデだろ?四千七百ゲルデ稼ぐには七十八年と少しだぞ?十八から稼ぎ始めるとしても九十歳超えちまうじゃねぇか。
「どうやって稼いだんだ?」
「賞金首を捕まえたり準レジスタンスの首魁を摘発したり魔物討伐したり・・・ですね。頑張りましたが五年かかりました」
賞金首やレジスタンスの首魁や魔物討伐の報酬がどんなもんかわからないが、どちらにせよ五年で四千七百ゲルデというのは凄まじい額なのだろう。そのまま一バロネズが一円と換算して四千七百億である。
まぁ、一樽まるまるだから一瓶とかならもっと安いんだろうが。
というかその額を五年で稼いだというのだからこいつの酒への執念というものは恐ろしい物だ。
「・・・あ、で、何時に出発いたしますか?」
「んーそうだなぁ・・・」
露骨に話変えてきやがったなこいつ。
だが確かに準備や根回しなども必要なのだから少なくない日数が必要である。まぁ、俺はそこまで準備する物が有るわけじゃないが。それでも無いわけじゃない。ハヴェルに頼んであったベルトの拡張用パックとか有事の際に備えて幾つか複合魔法の開発とスクロール生成とか。そういう事を考えると一週間位後の方がいいかもしれない。
「そうだな・・・七日後位かな」
「そうですか。では余裕を持って八日後にまた迎えに来ます」
「あぁ、頼む。くれぐれも泥酔して日にちを間違えないでくれよ?」
「さ、流石に仕事中に飲酒はしません!」
クレアスフェルが慌てて樽を持って出ていく。さっきテイスティングとか言って飲もうとしてたよな。俺は騙されんぞ?あぁいうのはテイスティングと言って瓶半分位飲む奴だ。
・・・しかし八日間か。やることが一杯とはいえ長いのか短いのか、自分で言っておきながらわからん時間だ。まずは何をしようか・・・。
そうだ。クレアスフェルが来る前に考えてた炎の魔方陣の効率化も考えなきゃならんな。どれ、まずは露骨な効率化の魔方陣とやらを差し込んでみようか。
「試験用の魔法は・・・火炎の魔法でいいか」
単純な火を出す魔法に効率化の魔方陣をセットして発動する。
発射間隔が短くなり、射程と弾速と炎の収束率が上がった感じたな。消費魔力は依然からわない。元々発射見てから回避余裕でしたとか言われかねなかった弾速がほんのりと上がった。流石に魔力剣と同様の速度というわけにはいかないが、まぁ、速度を求めるなら魔力剣にエンチャントすれば良いだけの話だが。
「ふむ。魔力を絞るとその分性能が落ちる・・・と。魔力に応じた威力というわけか」
威力を求めようとするならばそれなりの代償が必要になるというわけだ。
・・・そう言えばガレッドの穴を塞ぐ時に使った補助の魔方陣があったな。あれも差し込んでみたらどうだろうか。
思い立ったが吉日、善は急げだ。
結構名前で騙してくる魔方陣が多いのは何となくわかっていたが、補助の魔方陣は穴を塞ぐ時以来使っていなくてもその一回で何となく効果はわかっていた。そのまま、名前通りに補助をする魔方陣なのだと。接続されたものの動きを円滑にする魔方陣。謂わば潤滑油のような物だと。例えそれが魔方陣であろうと物であろうと機械であろうと補助するのだ。勿論人間や動物も例外ではない。多くの上級騎士や近衛騎士はそういった動きを補助し、円滑にする魔方陣を大量に組み込んだ鎧やアンダーウェアを着こんでいるそうだ。
「ふんふん。なかなかに良さげじゃぁないか?」
効率化された火炎の魔法を見る。効率化により、ほんの少しの魔力で地下室の地面から天井まで届く火柱が上がっているのだ。同じ方法で氷の魔方陣も効率化して同じ位まで威力を調節して同調させると凍灼の魔法改の完成だ。
「ま、これ以上威力を上げてどうすんだって話だがなぁ」
すっぱり忘れていたが俺は別に戦いたいというわけじゃないのだから。帝国に行ってもそこんとこを忘れないように注意しなければ。




