8こっちからも一発かましてやる
「んん・・・フゴッ」
やっと起きやがったなこいつ。こちとら徹夜で色々してたってのにこいつは机に突っ伏して寝たまんまでやんの。許せる?NO、ギルティ。
「んーおー・・・アガマか。どうした?こんな朝早く」
「晩飯の後片付けしてお前を寝床に運んで最後の微調整とその他いろいろ」
「徹夜しても良い仕事にはならねぇよっと」
最後の微調整と言っても魔力で練り上げた物がどれだけ動けるのかとか色々作ってみたりの検証がほとんどだ。実際カグマに挑むなら覚悟は必要だろう。これから挑むのは五分五分どころか七:三で負ける可能性だってある戦いだ。
それに今回がこっちに来て実質初めての戦闘になるだろう。オベリスクのアレもある程度の解析が進んでいる。一部を行使するだけなら特に問題は無いだろう。
「ほれ。トネリコの結晶だ。大事に使えよ?」
「あぁ、ありがとう・・・三つじゃなかったのか?」
「ひとつはおまけだ。気にすんな」
トネリコの結晶は昨日の実験の途中で使っている。補充できるのはありがたい。カグマの攻撃で魔力装甲に穴が開くことも可能性が無いわけではない。そうなった場合、即座に回復にまわせる魔力があるとも限らない。補充できる手段は無いに越したことはない。
「あ~っと・・・あーあったあった。ほれ俺が昔使ってたショートソードだ。古いは古いがなかなかの業物だぜ」
「いいのか?」
「あぁ、世にも珍しい魔道剣だから貸すだけだが、役に立てそうなら持っていくといい」
「すまないな」
「クレイヴがカグマに挑むって言うんだからな。できるだけの事はしてやるつもりだぜ」
ハヴェルから受け取ったショートソードを知識の検索にかける。これも昨日出来ることをに気がついた事だ。どうやらオベリスクの知識や情報には検索機能の様なものがあるらしい。物に触れて知識、もしくは情報と念じると言うか考えるとそれが開示されるようなのだ。
ちなみにこのショートソードはハヴェルの言ったとおり魔導剣と言うものらしい。この剣の場合使用者が魔力を注ぎ込む事によって自在な伸び縮みを見せるらしい。
「カグマはそこまで強いもんでも無いが、岩龍を殺した実績を持ってるんだ。準備のしすぎって事はないぜ」
ハヴェルの言うとおりだ。カグマは俺よりスペックが高いだけでそのままなら岩龍に勝つことは難しいだろう。
それでも勝っているのだ。油断はするべきではない。
「準備ができたか?」
「あぁ」
「それじゃ、行こうか」
「お前も来るのか?」
「なに、バックアップと敗走したときの回収係さ。手出しはしねぇよ」
「何から何まですまないな」
「なぁに気にすんな。俺の気まぐれだよ」
ハヴェルと共に採石場跡地から一キロほど離れた場所にベースキャンプを作る。ここでハヴェルが待機して、もしもの場合に直ぐに出れるように準備しておいてくれるそうだ。
「じゃ、行ってくる」
「おう。頑張ってこい」
さて・・・今回何故カグマを討伐する流れになっているのか。もう一度整理してみよう。
最初はオベリスクのアレの実験と解析をするために広い場所が無いかと聞いて、レヒドもハヴェルもこの辺りで一番広い場所としてここを提示してきた。ついでに言うとハヴェルの家がある村。クルベと言うらしいが、そこでも度々現れていたカグマには手を焼いていたそうだ。
そこでレヒドの打算が働き、俺に場所の確保ついでにカグマ討伐をやらせて一石二鳥というわけだ。
「レヒドは商人とかに向いてそうだ」
目的地の跡地に向かって飛びながらそんな事をぼやく。これだけはこっちに転生して良かったと思うことだ。空を飛べると言うのは街道や障害を無視して目的地に真っ直ぐ行けると言う事だな。単純だが大事な事だ。複数人で向かうならそれこそ回りに合わせる必要があるが一人ならそんな事はない。
「今日は風が騒がしいな」
独り言は俺の癖なのだが今回ばかりは口にせざるを得なかった。
何せ風が強くて高度を上げるとかなり流されてしまうのだ。風に乗ることが出来ればなそれだけ早く到着できるのだが、今は左斜め前から吹いている。これはまずい。
ここで魔物とはどういうものかと言うのを説明させてもらおう。もちろんソースはオベリスクの知識だ。
まず。魔物と動物の違いと言うのは筋肉の有無なのだそうだ。魔物には筋肉が無く、代替として魔力で擬似的な筋肉を作り上げている。故に魔物に筋肉は無く、命が尽きると筋肉として使われていた魔力のみが無くなり、皮や骨、あと一部の魔物は脂肪や赤身の様なものを残して死ぬらしい。
そして飛行できる魔物には魔力依存の飛行と魔力に依存しない飛行があるのだ。因みに俺は依存していない。できないとこはないがしていない。
「ん~・・・気を抜くと直ぐに風に飲まれるな」
魔力に依存した飛行はちょっとした結界のような物を張ってそれごと動かして浮遊するのだ。故に風の影響は受けにくい。
しかし、依存していない飛行は普通の鳥などと一緒で翼を使った飛行になる。
つまり魔物と言えど依存しない飛行をしているときは魔力の消費は少ないものの強風の中飛行するのは危険だということだ。
「このタイミングでカグマに遭遇したくはないな」
・・・んんん!?これフラグ立てちゃったか?奇襲されちゃうパターンか!?いやでもカグマは半魔物だ。魔力に依存した飛行はできないはず。
「・・・ぉ・・・ぉ・・・」
あー嫌な予感がする。これ絶対襲撃されるパターンだこれ。まだ採石場跡地まで四百メートルはある。ようやく見えてきたって時に強襲を受けるのはまずい。
まず採石場跡地の影響なのかこの辺りは気流が複雑なのだ。依存していても飛ぶのに苦労しそうなほどに。
「おおおおぉぉぉぉ・・・」
「やべぇよ・・・おいこれやべぇよ・・・」
後方から雄叫びと黒い物が接近してくる。カグマだ。音速手前まで加速して飛んで来る。
「えぇい!フラグになるような事言わなきゃよかった!」
二本の魔力剣を飛ばして様子見ついでに牽制する。
案の定高質化した翼に弾かれる。
「まぁ、そうなるな」
「おおおおぉぉぉぉ!」
流石にここまで接近されるとまずい。避けなければ。あと剣も回収しなきゃ。
パァン!
「ぐっ!?」
いきなりの破裂音と共に衝撃波が発生する。どうやらカグマはすれ違う瞬間に何らかの方法で加速し、ソニックウェーブを発生させたようだ。
体制を立て直す。流石に音速でかっ飛んでったのだから直ぐに突っ込まれる事は無いだろう。
「ふう。いきなり装甲を半分持って行きやがって。こっちからも一発かましてやる」
魔力剣では奴の装甲は貫けない。相対速度が音速を越えても無理だった。おそらくハヴェルの魔導剣でも難しいだろう。
ここまで翼を高質化するだけという力を使いこなしている。単純にして強力。それがカグマの力の真髄なのだろう。
「ならば翼ではない場所を狙えばよい!」
一発や二発で倒せないからと言って一発の力に頼ってはいけない。百発だろうが二百発だろうが通るまで当ててやればよいのだ。
まぁそんな事したらこっちの魔力が尽きるからやらないが。
だが、作戦が無いわけではない。地の利はないが知の利ならばある。
さて。どうしてやろうか。
オベリスクのアレでもカグマの装甲が抜けるとは限らない。だがダメージを与える事はできるだろう。
実際威力は未知数なので魔力が余ってる今のうちに六門位は用意しておこう。昨日作り上げたステルス魔方陣は今のところ成功している。
対策を考えているとカグマがゆっくり近づいてくる。
急な加速に備えて身構える。
「命知らずは立ち去れ」
カグマの口から放たれたのは人の言葉だった。意外ではなかった。カグマは初めて確認されたときにもそう言ったらしいのだから。それこそいままでここを訪れた賞金稼ぎのハンターや冒険者達に嫌というほど言った事だろう。
「勝算があって来たとは思わないのか?」
「去れ。さもなくば追い返すのみ」
カグマにはここを守る義務でもあるのだろうか。なんとしてもここを守るという覚悟を感じる。
「追い返せるもんなら追い返してみな。またしつこくやってくるぜ」
啖呵をきって魔力剣が三秒ほどで弾着する距離まで離れる。
採石場跡地の空はもうすぐほとんどの者が飛ぶことができない空域となるだろう。




