1Re 俺喋れてる・・・なんで?
一話のリメイクになります
内容が結構違うので、もしも見比べたいと思う方の為にリメイク前は残しておきます
森の中に鳥の鳴き声が木霊している。
文章だけで取れば清涼な森の中で小鳥が囀っているともとれるだろう。
しかし、今自分の置かれている現状はかけ離れている。
鬱蒼としたジャングルとも熱帯林ともとれる深い森林の中で黒い山が蠢いている。
ガーガーと耳触りな声を響かせながら蠢くそれは都心から田舎の畦道まで、日本でならあらゆるところで見る事のできる鴉にそっくりな鳥だ。
そんな鳥がうず高い山になる程に集まっている理由は一つ。
俺だ。
日本の田んぼでアホらしい死に方をしたと思ったら、気が付いたらこの様だ。
何故か鳥として生まれて、恐らく兄弟や同じ頃に生まれた同類にひたすらに啄まれている。
鳥に啄まれるってこんなに痛かったんだなぁと、そんな現実逃避が出来ているのは痛みが麻痺しているからだ。
何時頃だったか。同類に食われ始めた頃に無理やりなんかの木の実を食わされてからだ。
それ以来体の感覚が痺れて痛みを感じなくなった。
代わりに身動きも取れないし意識も朦朧としている。
いっそ痛みがあれば発狂できたのかもしれない。だが、それすら今の俺には叶わない事だった。
「おらっしぇい!」
突然、野太いシャウトが響いた。それと同時に何か光った様な気がするが、よくわからない。最早眠っているのか起きているの定かではない意識で認識できるのはいままで視界を埋め尽くす程居た同類が居なくなっていた事だけだ。
「い!?クレイヴじゃねぇか・・・共食い現場かよまったく・・・」
野太い声の主がぼやくと同時に体が浮き上がる。持ち上げられたのだろうか。
「ウルベ!スクロール出せ」
「ほい」
また何かが光っている様だが、この光からは何か温かい物を感じる。
少しすると啄まれていた個所が痛みだす。麻酔の成分が切れたのだろうか。
「まったく・・・エリクソルのスクロールは高ぇんだぞ・・・元取れなかったら捌いて飯にしてやる」
「ベルフェはクレイヴを食えるのか?」
「食べたらお腹壊しちゃうよ?」
「冗談に決まってるだろ」
段々と体が動く様になってきた。意識も戻って来て、周りもよく見える。
近くに居るのは三人。一人はチェーンメイルに青地に黄色の刺繍が施されたサーコートと青い宝石の埋め込まれたサークレットを着けている瘦せ型の男だ。ウルベと呼ばれた男なのだろう。先程から遠巻きに俺を見ている。
もう一人がベルフェと呼ばれたフルプレートメイルの偉丈夫とも言える大男だ。性別が分かるのはヘルメットを外しているのですぐに分かった。先程から俺の近くに居るので、恐らくこの男が治療を施してくれたのだろう。
そして最後の一人が体の各所に青い宝石の装飾品を着けている女性だ。白いシャツと赤いスカートの上から厚手のローブを被っている。そのローブには特に大きな宝石装飾が肩にあり、裾にも等間隔で小さな青い宝石装飾が付いていて、三人組の中では一番ゴテゴテしている。
どうやらこの三人組が俺を助けてくれたようだ。
・・・何と言うか典型的な勇者集団といった所だろうか。ウルベと呼ばれた男が攻撃役でベルフェと呼ばれた男がタンク役なのだろう。あとの紅一点は分からないがサポートかなんかをする後衛なんだろう。
「でもこいつ・・・共食いされてたにしては外傷が少なかったような」
「襲われたばっかりだったかベルフェが見落としてただけじゃないか?今見比べようにもエリクソル使った後だからもうわかんないだろ」
「ベルフェは脳筋だからしかたないでしょ」
痛みもほとんど引いて来た。啄まれていた時もそうだが、なぜか傷ができたそばから治っていくのだ。
もちろん治れば治る程空腹と倦怠感を感じるなどの消費があるようだ。
文字通りの千鳥足で何とか立ち上がろうとするが、前のめりに倒れてしまった。
咄嗟に翼で支えようとしてしまい、その衝撃で翼の骨が折れてしまった。鳥の骨は飛行の為にスカスカだから脆いというのはどうやら本当だったようだ。
「でも確かに、あれだけのクレイヴに共食いされた事と言い、気にはなるわね」
「カアリでも心当たりは無いか」
カアリと呼ばれた女性が俺をローブで包んで抱え上げる。宝石装飾がゴツゴツ当たるが、別の柔らかい物も当たるのでプラスマイナスで考えるとプラス寄りだ。
「私が見た事のある文献にはクレイヴなんて鳥型の魔物の一種で、一度の集団産卵で大量の卵が孵化して、病魔を振りまくと噂されてるって書かれてる程度よ?」
「カアリでも知らない事があるんだな」
「私だって万能じゃないわよ。知ってる事より知らない事の方が多いわよきっと」
「ベルフェが脳筋過ぎるんだ」
三人組の会話は歩きながらされている。魔物だのスクロールだのとリアリティの無い話をしているが、もしかしたら中二病をずっと引きずっている人達なのだろうか。
そうだとしてもそのスクロールだので倦怠感が消えたのと、共食いされてた時に傷の再生が速いのも説明が付かない。
もしやここは現実世界の日本ではない?
いやまて、落ち着け。素数を数えるんだ。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18・・・
いやこれは自然数だな。
うん。そうだ。ちょっとくらい不様な死に方をした程度で異世界に、それも人間でも無く鳥に転生なんてたまったものでは無い。もしやかのファッキンクソ鳥が実在していて俺は一生人間に転生する事ができないのだろうか。
しかし待って欲しい。俺はそこまでされる謂われは無い。別にあのクソッタレア〇ホールクソ鳥の生き血を狙うなんてことはした覚えはない。
「取り合えずハヴェルのおっさん所に連れてこうぜ。あのおっさんならまぁこんなんでも引き取ってくれるだろ」
ベルフェの鶴の一声で俺の行く末が決まったようだ。
べ、別に歩く度に柔らかい物が当たるからこれがずっと続けばいいなんて思ってないんだからね!
「・・・・・・・・・」
ウルベがこちらを睨んでいた。
「なにウルベ、私のワンダフルボディがそんなに気になる?」
「・・・いや」
これがワンダフルボディだと!?じゃあ俺はなんだ!
とても柔らかいが、まさかワンダフルボディとは・・・。この大きさ・・・柔らかさ・・・間違いない。GかH以上のサイズだ。
いやまぁバストのカップ数なんてわからんのだが。
「変態じゃねぇか」
ウルベの小声のぼやきが聞こえた。他の二人には聞こえていないようだが俺にははっきりと聞こえた。
変態?このカアリとかいう嬢ちゃんがか?別に痴女っぽい恰好をしてるとは思わないがなぁ・・・。
まさかこの服の下にはとても人目には晒せない物が!?
「フン!」
拳がめり込む音ってゴリィとかメリィとかそんな生易しい物じゃなかった。
っていうか頬骨?が折れた音がした。バキィって。
「ちょ!?どうしたのウルベ!」
「いや、なんでもない」
「いきなり殴りかかって何でもないはねぇだろ。クレイヴ吹っ飛んじまったじゃねぇか」
「そーだそーだおーぼーだ!」
視線が一点に集まった。その先では木の幹にクレーターができていた。
しかし三人組が見ていたのは木の幹のクレーターではなく。
「クレイヴが・・・」
「喋ってる・・・」
「・・・ほんとだ、俺喋れてる・・・なんで?」