表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

赤い夢で逢いましょう

作者: 伊山杏李

不思議な雰囲気のする物語を書きたくて書いたものです。

気軽に読んでみてください。

 ひんやりと冷たい大理石が並ぶ廊下を、ひとりの少女が走っていた。引きつった表情で、額には汗が浮かんでいる。

 不意に少女は立ち止まると、深呼吸を繰り返した。流れてくる汗を腕で拭う。

「未夢様、どうされたのですか?」

 燕尾服を着た男がどこからともなく現れ、少女を見下ろした。少女は顔を上げその男に視線を向けると、顔を歪ませる。

「しつじさん、おねえちゃんがいないの。いつもは私が来たらすぐに顔を出してくれるのに、今日は出てきてくれなくて」

 男は少女の頭へ手を乗せた。

「お嬢様でしたら、今は夢を見ていらっしゃいます。どこかへ行ってしまったわけではないので大丈夫ですよ」

「おねえちゃんねてるの? だったらしょうがないね。ひとりであそぶよ」

 少女の表情が元に戻るのを確認すると、男は頭から手を離し微笑んだ。少女が踵を返して走っていくのを見届けて、男が呟く。

「お嬢様、未夢様もよろしいでしょうか?」


 未夢と呼ばれた少女は、ひとり長い廊下を走っていた。煌びやかなドレスをひらめかしながら。

 城内には何も音がない。唯一響いている音が、少女の足音だった。


 少女はいつもひとり、だった。もちろん親もいるし、周りの世話をしてくれるような使用人もいる。しかしそれでも少女はひとりだった。

 物心ついた時から親と遊んだ記憶なんてなかった。食事でさえ、月に二、三度一緒に食べるくらいだった。それほど親は忙しく、未夢に構っている暇がなかった。他に遊ぶような友達もいない。だから、ずっと寂しかった。


 ある部屋の前まで来ると少女は立ち止まり、ドアを開けた。部屋の中にはたくさんの人形。少女はベッドに近寄り、置いてあったクマの人形を抱きかかえた。

「わたしは昔からいつもひとり。でもね、おねえちゃんがいてくれる限りは、私ひとりじゃないって思えるんだ。もう、ひとりにはなりたくないもの」

「じゃあ、一生ひとりにならなくていいところへ連れていってあげようか?」

 少女の声に応えるように、部屋の中にもうひとつの声が響く。その声はクマの人形から発せられているようだった。しかし、少女は動じることなく人形を見つめていた。

「ほんと? クマさん、本当にそんな場所があるの?」

「ああ。ずっと友達といることができるよ。ひとりになることなんてないさ」

「わたし、そこに行きたい! ずっとひとりだからさびしいんだよ」

「そうだね。ひとりは寂しいからね」

 人形の言葉が終わると同時に、赤い光が少女を包んだ。ゆっくりと目を閉じていく。赤い光が消えると、少女の姿は消えていた。

「良い夢を」


 窓ひとつなく、完全に陽の光が入らない密室。唯一、たくさん置いてあるろうそくの光が部屋の明かりだった。

「お嬢様。未夢様があちらの世界に行ったみたいですよ」

「あら、本当? お友達が増えたのね!」

 お嬢様と呼ばれた女が明るい声でそう言うと、男は微笑んだ。

「よく知っている未夢様ですし、お嬢様も寂しくないかと」

 ゆっくりと流れるような仕草で、お茶をそそいでいく。ふわっとした香りが広がった。

「ええ、ええ。そうね! なんて素晴らしい日なんでしょう! こんなに嬉しい日なんて今までなかったわ」

 音を立てずに置かれたカップに口をつけ、優雅に飲みほす。

「これで私もひとりじゃないのね」

 真っ赤な唇を歪ませながら、目を閉じていった。

「良い夢を。お嬢様」

 女が飲みほしたカップを持って、男は部屋を出ていった。


閲覧ありがとうございました。

本当はもう少しだけ続きがあります。

ですが、この先の展開は読者のみなさまの想像にお任せしたいと思い、削りました。

いかがだったでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ