一話 とある引きこもりの残念系
僕は文芸部部室の前で呆然と立ち尽くしていた……。
今日はいつものように何となく部室に立ち寄っただけっだったのに……。
リア充をRPG‐7で爆発させて高笑いする妄想をしていたはずだったのに……。
何故、どうしてなど疑問の言葉が脳内で浮かんでは消える。
それほどまでに衝撃的な光景だった。
僕、黒葉 岬の視線の先には一人の少女が居る。
少女の名は一 楪。
枝毛のない黒髪のロングに色白の肌、極めつけはモデルも泣いて逃げ出すであろう、整いすぎた顔。
外見だけは儚く美しい深窓令嬢に見えるのだが、彼女は――
「あら、黒葉君、二ヶ月ぶりね。元気にしていたかしら。
ちなみに私はパソコンがないせいで酷く手が震えるわ」
――引きこもりの所謂オタクと呼ばれる人間だった。しかも記憶が正しければぼっち。
彼女は二ヶ月前から面倒くさいという理由で不登校になっていた。
教師が彼女の家へ説得へ行っても来ないほどだった。
そんな彼女が学校に来ているだと? ありえない。
まさか僕の頭がどうにかしてしまったのではないだろうか...…。
頭を抱えながら自問自答していると...…
「黒羽君、シカトしないで貰えるかしら。とても傷付いてしまったわ」
傷付いた素振りを全く見せずに一が言った。
「あ、す、すまん。一が学校来たのに驚いて...…。シカトするつもりはなかったんだが」
「良いわ。許してあげる。そんなことよりパソコンがないせいで酷く手が震えるわ」
...…大事なことなので二回言いましたというやつなのだろうか。よくわからないけれど一応しゃべるか。
「手が震えるって禁断症状じゃねえか! 病院行け! つーか二回言わなくても聞いてたから」
「大事なことなので二回言ったのよ」
「これっぽっちも大事じゃねぇ! むしろどうでもいいわ! 」
「あら、黒葉君。鯨が飛んでいるわよ」
「話を露骨にすり替えてんじゃねぇよ! しかも鯨が飛ぶってどこのファンタジーだよ! 」
「黒葉君。あなたは一体いつから鯨が飛んでいると錯覚していたのかしら。気持ちが悪いわね」
「お前が言い始めたんだろうが! しかもさりげなくディスるのやめてもらえませんかね! 」
「大声出すのやめて貰えるかしら。とても不快だわ」
「誰のせいだと思ってんだ! 「あなたよ」お前だよ! 」
とても疲れた...…。精神的ダメージがすごいことになってるよ。
精神的苦痛が肉体的苦痛にまでなっているまである。
「はぁ、一、本題に入るがどうしてずっと休んでいたのに学校へ来る気になったんだ? 」
「飲み物を買ってきてくれるのなら説明してあげてもよろしくってよ?」
「何でお前のためにパシらなきゃいけねぇんだよ! しかもどんだけ上から目線なんだ! 」
「嫌ならいいのよ?説明も省けるし」
「はいはい、わかりましたよ。行きますよ。で、何が飲みたいんだ?」
「何でもいいわよ。まぁ、敢えて言うならカフェオレを買ってきてくれるかしら。カフェオレを」
分かりやすいなー。すげーアピールしてんじゃん。
「わかった。カフェオレだな?」
「ええ、HRがもうすぐ始まってしまうから早く買ってきて頂戴」
ホントに上から目線だなぁ。若干イラっとしているけれど、そんなことが気にならなくなるほど、僕は彼女が、学校に来た理由を知りたかった。
「じゃ、行ってくるわ。あ、そうそう。どうして、ここ、えーっと文芸部の部室に居たんだ?」
「何となくよ」
「そっか、まぁ、お前一応文芸部の部員だからな。活動してるとこ見たことないけど」
「フフッ、そんなことより早くパシってきなさいな。それと学校に来た理由は少し長くなると思うから昼休みに
話すわね」
「はいはい」
こうして僕は自動販売機のある購買のもとへ向かっていった。