page4 嘘吐き少年Xは嘘を吐く
解ちゃんが嘘をつけばいい。彼女、被害者の癒雨子がそう言った。
「えっ? 僕が?」
「えっ? 解斗が?」
ほぼ同時に矢弥と僕の声が重なる。恐らく考えていることは同じだろう。まあ、あの状況にいたのは僕と矢弥で、癒雨子はいなかったから、癒雨子は知らなくても仕方ないのかもしれない。
「うんっ!! ……えっ? 何かあるのっ?」
癒雨子がきょとんとして尋ねる。それに対し、矢弥が思い出し笑いをしながら答える。
「解斗は無理、無理。私にすら嘘がバレバレだったんだもん。」
必然なのでしょうがないが、思い出すの苦しすぎる。これ。
何か言うと思い、何も不思議に思わず黙っていると、数秒の間が空いた。えっ? 癒雨子さん、そんなに意外でした? ちょっと嬉しいけど心痛むのでやめてください!
すると癒雨子は少し考えて真面目な顔で言った。
「いいよ。解ちゃんに任せる。」
そしてお前、消えるのか……? と言わんばかりな笑顔で言う。
「解ちゃんならきっとできる。」
そう真面目に言われるとこっちも戸惑ってしまう。何せ、顔は笑顔でも口調だけは真面目だ。さっきから聞いている、キャピキャピした声ではなく、文字通り真面目な。
それを聞くと、できる自信はなくても、少なくとも僕に断ることはできなかった。
「わかった。頑張ってみるよ。」
いや、そんな軽い気持ちじゃ到底できない。これは、矢弥に吐く嘘とは別物なのだから。
「いや、絶対に犯人を騙してみせる。」
それを聞くと、癒雨子は安心と確信の表情を浮かべていた。
「うん! 頑張ってーっ! そして私のバッグを奪った犯人を、捕まえちゃってーっ!」
そしてグーを突き出してくる癒雨子にグーで返す。
「ああ。」
一方、矢弥は走り回って疲れたのか、少し顔を赤くしてボーッとしていた。疲れたからとはいえ、そんな顔で見つめられるとドキドキしてしまう。
「矢弥、疲れたか? ベンチに座って休んでていいぞ。」
まぁ僕は大した動いてないし、癒雨子もついていくだけだったはずだからな。それに対し矢弥は考えながら、走り回りながら、たくさんの人に話しかけていた。一番疲れているのは矢弥だろう。
「えっ? 大丈夫だよ?」
「無理すんな。さ、さっきから少し顔が赤いぞ。」
僕の顔を見つめる矢弥のその顔をずっと見ていられず、その場を去ろうと後ろを振り返る。ちょうど犯人を捕まえに行くところだったし。
「……えっ? あ、う、うん。や、休ませてもらうねっ。」
「お、おう。」
うわ、何かこれ、ものすごく恥ずかしい……! 何か変なこと考えられてないだろうか……。僕、今、めっちゃ顔赤いんじゃないの? ……こわい、うわやだ恥ずかしいくそ……。 おい癒雨子ニヤニヤすんな!!
そ、それはさておき……。犯人……!
「は、犯人、な。」
話を切る為に大げさに言い出す。口に出して気づいたが、そうだよな……。こんな一人で舞い上がってる暇じゃなかった。癒雨子は困ってるんだよ。
「……絶対に捕まえる。僕に任せて。」
「うん。勿論っ♪ ね、矢弥たんっ♪」
「う、うんっ。」
その二人の声を聞いて覚悟を決める。そして癒雨子が隣に来る。
「解ちゃん、きっと解ちゃんはわかると思うけど、一応わたしとくねっ。犯人は、この3人の中だよっ。」
お前、宛があったのかよ、と思う暇もなく紙を受け取る。
「ウチと仲の良い3人だよっ。」
そう言う癒雨子に対し、振り向かず紙を眺めながら答える。
「ああ。ありがとう。」
* * *
癒雨子達と別れて数分が経つ。すると、紙に書いてある「アヤシイハンニンイチラン」の中の一人が歩いてくる。黒髪短髪の迷彩柄の服を着た男だ。とりあえずこいつはスルーしておく。
その次に来たのは癒雨子と似たようなデニムのジャケットを着た、髪が肩ぐらいの目が若干死んでる女性だ。うわ、いかにもって感じだな、おい。
紙には他にもう一人いたが、とりあえずこの人に声をかけることにした。
「探し物ですか。」
「あ、はい。ちょっと。」
「それって、もしかしてこれですか?」
僕は右手に持ったハンガーを前に出す。そして僕は続ける。
「最近、ここで犯罪があったんだけど。」
「へえ、物騒ですね。違いますよ。……凶器は見つけたんですか?」
「はい。何だと思います? 盗まれたのは、これに似た物らしいです。」
そう言って肩にかけてるカバンをハンガーを持ってる方の手で指差す。すると女性は少し視線を落とし、僕の手を見る。
「その手に持ってるハンガーかしら。」
「……なんでわかるんですか?」
「何でって、手に持ってるからよ。」
「でも、手に持ってる物なら、こっちもありますよね?」
「見えなかったのよ!……随分と突き詰めてくるけど、私が犯人とでも言いたいの?」
「いえ、ちょっと手伝って頂けますか。推理に。」
「推理?」
「はい。あなたならどうします? このハンガー。」
「そのハンガーで盗めるのなら、この丸い部分を引っ掛けるしかないんじゃない。」
「はあ、そうですか。……でも、普通に近づくんじゃ、周りに気づかれますよね?」
「しつこいわね。紐か何かで縛ればいいじゃない。」
「おお! そうですね! すみません、ありがとうございます!」
そう言って僕は満面の笑みで続ける。
「じゃあ、お礼に、そこで拾った釣り針、いかがですか?」
「あ、ありがとう。」
左手に持った釣り針をその人は笑顔で受け取ろうとしたその時、左手を後ろに反らせる。
「ハッ! バーカ、やらねーよ。」
その女性は目を丸くしていた。本当に、それは嘘をつくまでもなく、ちょろい。ちょろすぎる。
「こんなのいるかよ。犯人以外の奴がよ。」
そして僕は白けた顔から笑顔に表情を変えて、決め台詞のように言う。
「まんまと嘘にハマってくれて、ありがとね。癒雨子の親友のはずの、井川みずきさん。」