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嘘吐き少年Xと狂言少女Yの事件簿  作者: 憂ブロ
ファイル1:4月1日、癒しのバッグは桜の花びらのように消え行く
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page1 嘘吐き少年Xは癒しと桜を見る

 少し勘の良い、というより僕が嘘をつけないタイプなだけかもしれないが、そんな少女、矢弥(やや)と出会い、ズッ友宣言をして数分が立つ。

 矢弥によると今日は4月1日。満開まではいかないが、満開まで咲いてないこの中途半端さがそれとなく綺麗にも見える桜を多くの人が見に来ていたようだ。

 一方、僕と矢弥はあの後ベンチに座って桜を見ながら、例の話をしていた。結局、間、間をつつかれて、僕は隠しきれずに隅から隅まで全部話してしまったのだった。

「不思議な話だなぁ……。認知症なの? 年だねぇ。くくく……。」

「認知症で忘れるレベルじゃないからこれ!!」


 矢弥がほぇーと驚いたように言うおかしな一言に僕がツッコミを入れる。……ツッコミっていうか、普通のこと言っただけなんですけど? しかも僕が年なら同学年なんだからあなたも年なんですよ?

「話聞く限り、手がかりなんてものはまんざらなさそうだし……。」

 矢弥が(あご)に手を当てながら、うぬぬと考える様子を見せる。笑ってるだけかと思っていたが、案外真面目に聞いてくれているようだ。

「まぁ、僕の問題だし、あんまり深く悩む必要は無いからな。」

 僕からしたら、常に笑っていそうなこの少女が真面目に考えてくれているというだけで、僕は十分に嬉しかった。

「いや、普通はこれ、記憶喪失とかさぁ。深く悩むことだよ。認知症なら別だけどね。」

 べっと舌を出し、てへぺろよろしく、星が出るような笑顔を見せた。


「本当、矢弥って表情豊かだよな……。」

「本当、豊かだねーっ♪」

 突然矢弥の声とはかけ離れた、キャピキャピした明るい声が聞こえる。その方向を向くと、片方に髪を縛った、まさに学校にいたらモテそうなあざとかわいい系女子が、にっこり笑顔で立っていた。

「おもしろそうな話ーっ! ウチも混ぜてよーっ!」

 どこの猫の形した蟻だよ。ま、まさか念能力で僕の脳を治療してくれるの? それとも蟻の触覚でクチュクチュするの? やめてこわい。

「いいよー。こっちおいで。」

 すると矢弥は僕の方に寄り、ちょうど一人座れるくらいのスペースが空いた部分をぽんぽんと叩く。


「あははっ!ありがとーっ!あ、ウチ、相田(あいだ)癒雨子(ゆうこ)!癒しの雨の、ゆっこちゃんだよーっ♪よろよろー!」

 え……何……途中の……は……? 何かカードゲームでイメージするくらい痛いものを見た気がする。

「九州真解斗だ。数字の九にアメリカ州の州に真剣の真に謎を解くの(とく)に十書いてちょんちょんだ。」

 自分で突っ込むのもなんだが長くなってしまった……。あ、ちなみに字は自分で考えたこじつけだ。言った本人がどういう字を想像しているか知らないからな。

 それを聞きながら癒雨子と矢弥が手に字を書いていた。え、いや、別にそこまでして覚えなくてもいいんですよ……?間違ってたらアレですしおすし……。


「なるほど九州(きゅうしゅう)に真ゲスの真に怪盗キ○ドの本名ね……。あ、ちなみに私は謎口矢弥。謎に口に矢に弥生だよ。」

 矢弥が笑って言う。

「ふむふむー。九州に真中ら○らの真に謎は全て解けた!の(とく)に……斗、だねーっ!」

 癒雨子も笑って言う。

「僕が最初に言ったやつの方が覚えやすいし短いと思うんですけど!!! あとキッドの本名は解く方じゃなくて怪しい方だ!! 泥棒が解いてどうすんだよ! それにゆっこさん、出てこないのはわかるけど諦めないで!?」

 ツッコミどころが多すぎて全部言えなかったよ……。イエナカッタ……。しかも最後ら辺ニキビのCMみたいになった。つか今気づいたけど何で九州だけ共通なんだよ。イラっとくるぜ。


「ふふふん……よろしくねーっ!解ちゃんに矢弥たーんっ♪」

「よろしくねー。ゆうちゃん。」

「おう。よろしくな。つか、面白い話なんてしてないんだが……。」

 僕の記憶喪失についての普通に真面目な話なんですが……。しかも矢弥、お前、しれっと仲間に入れたけど、僕的にはあまり多くの人に知られたくないことなんですよ?

「十分面白い話じゃん? 記憶喪失だよ? 記憶喪失。」

「言うな……。お願いだからあまり多くの人に広めないで……。」

 しれっと大きな声で言う矢弥に僕が小声で伝える。矢弥の言葉を、話を聞いていた癒雨子には届いていたようだが、大きな声とはいえ、この公園は広い。不幸中の幸いで、他の人の耳には入ってないようだ。


「え? そうなの? ごめんごめん。今度からは言わないよ。」

「……うん……頼むよ……。」

 矢弥はきょとんとして言う。本当にわからなくて言っていたようだ。無自覚かよ……! 天然じゃねぇか。まぁしかし、わかってくれた分には、まぁいいと思うけどな。

「へぇーっ!!記憶喪失かぁーっ!」

 癒雨子が目をキラキラさせながら口に人差し指を当てている。

「羨ましいことは何もないぞ。」

 しかし僕の言ったことが耳に入ってないのか、目をキラキラさせたまま言う。

「いやぁーっ!いいねいいねっ!マンガみたいだねーっ!」

 さっきから明るすぎるよ!? どんだけポジティブなんだよ!?


「ふむふむなるほど記憶喪失かーっ! よし、それじゃあウチが、解ちゃんのためになんとかしちゃうよーっ♪」

「えっお前、なんとかできるのか!?」

 見た目や性格からは全く想像のつかないことで、思わず立ち上がる。すると癒雨子はウインクをし、

「っと、そ・の・ま・え・にっ! ウチの相談を聞いてくれるかな?」

「は……?」

 期待したが故、身体から力が抜けて再びベンチに座り込む。

「何で、今……。」

「いやぁ……言うタイミングが……ね。もともとウチと同じ学校の制服のキミ達に相談したくて話しかけたんだけど……。」


 そう言って、癒雨子はえへへ、と照れ笑いをする。

「同じ学校なの!? やったー!! ねっ、解斗!!」

「はぁ、お前もか。まぁいい。後でちゃんと、記憶についてのこと、聞かせてくれよ。」

 すると癒雨子は普通の笑顔に戻る。まぁ同じ学校なら、いつでも話は聞けるだろう。

「うんうんっ! 了解了解っ!」

「それにしたって、相談って一体何? なんか、悩みがありそうには見えないけど……。」

「そうだな。どうしたんだ?」

 悩みがあったにしても、こいつならさっきみたいにマンガみたいとか思いそうなものだけどな。まぁそう思って悩みを聞いても本人に悪いので、しっかりと心構えを整える。


 そして、癒雨子はしぶしぶ口を開いた。

「実はね……ウチ……。」

「おう……。」

「うん……。」

 さっきの明るい口ぶりと違った慎重な話し方のせいで緊張してしまう。そして、癒雨子の口から言葉が吐き出される。

「物を盗まれたの。ここに、来たとき。」

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