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嘘吐き少年Xと狂言少女Yの事件簿  作者: 憂ブロ
ファイル2:4月7日、目前の肉体はクレープの様にたくさんの物でできている
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page11 嘘吐き少年Xは大事な物を見つける

 涼しく静かな春の風が淡い木々の桜を揺らし、その欠片一つ一つをひらりひらりと落としていく。

 辺り一面はどこもかしこも燃え上がるような赤い花で埋め尽くされ、他に見えるのは、草が短く切られた草原の道。または、情熱の花を育てる蜜を運ぶ蜂の黄色。ところどころに見える、花の茎や葉。それぐらいに、見える色は限られていた。

 真っ赤な自然で埋め尽くされたこの街は、情熱の街、サウスタウンと呼ばれ、ここ四葉(よつば)空中都市の4方タウンの一つとして親しまれているようだ。

 どうやらその四葉空中都市というのは地上へ行けるのは真っ白な一つの階段のみで、しかもその階段は異様に長く、登ることも降りることもできないそうだ。


 そしてこの都市は名前の通り四葉の形になっており、西の花びらは薄い紫で『童話の街、ウエストタウン』、北の花びらは真っ青で『知性の街、ノウスタウン』、東の花びらはピンク色で『魔法の街、イーストタウン』、そしてここ、南の花びら、真っ赤な『情熱の街、サウスタウン』。

 中心部は丸くなっており、そこは誰も立ち入ることができず、未だ詳しいことはわかってないらしい。が、そこには真っ白な人間が住んでるとかいう噂もあるのだとか。それ本当に人間なの?

 僕らが住むのは北の花びら、ノウスタウンで、僕とこの野球好き少年、悠太は中心部の周りを通る電車に乗って南のサウスタウンまで来たのだ。

 思えば、南のサウスタウンって、二度手間だなあ。


「どうだ解斗!! 驚いたか!! どうせ学校も知らない解斗のことだ!! ここにも来たことがないんだろう!!」

 悠斗は、緑色の道を辿りながら胸を張って言う。

 この道は、街全体の大きさから見たら細くはあるのだろうけれど、実際は横に8人は手を広げて並べるほど広い道で、僕は悠斗の隣に並んで歩く。更に不思議なことに、この道だけは赤ではなく、どこもかしこも緑。自然が多いせいか、葉っぱの良い香りもする。

「ああ。それにしても、複雑な街だよな。理解するのに何回聞きなおしたか忘れたよ……。」

 悠斗の話し方のせいでもあるが。悠斗、説明するとき何でも野球に繋げるんだもんなぁ。1塁は童話の街……とか言い出すから、最初は何の話かと思ったよ……。


 ま、でもそれほど野球が好きなんだろう。今度お礼に野球のキーホルダーでもあげようかな。

 ……悠斗は、既にたくさん持ってそうだけど。

 緑一色のこの道を進めば進むほどチラチラと人やお店が増えていく。その中の一つに、めぼしい物を見つけた。いや、オーラを感じたというか! 気とか念を感じたというか! ニュータイプ的なアレを感じたというか!

「何だ解斗! いいものでも見つけたのか!」

 僕の幸せオーラを読み取ったのか、悠斗が僕の顔を覗いて何か喋ってるが、そんなことは気にしない。こんなところにいられるか!! 俺はあっちに行くぞ!!!

「ほぉ、クレープか!! 流石解斗、良いチョイスだ!! あ、解斗待て!! 俺も食べるぞ!!」


 あっという間にメニューの看板の前に立ち、メニューを見渡す。

「えーっと……チョコバナナ、抹茶ブラウニー、イチゴカスタード、プリンカスタード、キャラメルバナナ、ブルーベリー、白桃フロマージュ……」

「おう!! 怖いぞ解斗!!」

「色々あるけど……やっぱりクレープはこれだよなぁ。いちごバナナチョコおねがいします!!」

「完全スルーだな解斗!! あ、俺も同じやつおねがいします!」

 はーいいちごバナナチョコお二つ~という声を聞き、自由にお持ち帰りくださいと書いてあったので、メニューの紙をおもちかえりぃ~してベンチに座り、再びメニューを開く……と、異世界に入ってしまいそうなので、ここは我慢だ我慢。我慢や解太郎。目の前に立たれて気づいたが、すっかり悠斗のこと忘れてたよ……。


 悠斗は、やっと戻ってきたかとでも言いたそうな顔をしながら隣に座る。

「よっと。解斗はクレープが好きなのだな!!」

「ああ。でも」

 ……やっぱり食べた記憶はないな……。

 途中で終わった僕の言葉に悠斗は首を傾げていた。

「でも?」

「……いや、何でもないよ。」

 流石に既に癒雨子や矢弥に知られてるとはいえ、安易に記憶のことを話すべきではないからな。


 チラ、と悠斗の方を見ると、少し大きく目を開いて、複雑な表情をしていた。僕と目が合うと、悲しそうな表情のまま目を逸らした。

「そっか。」

 そして暫くの沈黙が続き、何か口を開こうかと思ったその時、屋台の方から「いちごバナナチョコお二つでお待ちのお客様~」という声が聞こえた。

 それを聞いて僕は立ち上がり、悠斗の方を見てなるべく笑顔で言う。もしかしたら顔は引きつっていたかもしれない。それなら無表情のまま言った方がよかったんじゃないかとか、僕にはわからない。

「それじゃ、とってくるから、悠斗は待ってて。」

「ああ。」

 その声からは先ほどまでの元気が失われており、表情も苦しそうな笑顔だった。


 とてとて、とかけて(・・・)取りに行く。屋台の前まで来ると二つのクレープを持った女の店員さんが「お二つで1080円になりまーす」と言った。それに従ってお金を払い、クレープを受け取る。

「レシートになりまーす♪ ありがとうございましたー♪」

 あ、はい。とか適当な返事をしながら、ベンチの方へ戻る。

 意外と、お金を払ってクレープを受け取り、ここに戻ってくるまではあまり時間がかからず、何の言葉も考えることはできなかった。

「あ、悠斗、これ。」

 とにかく現状に合った短い言葉を発することしかできなかった。悠斗にクレープをわたし、自分も一口食べて隣に座る。

 どんなにクレープが美味しくても、今は美味しさを感じることができなかった。


「ああ、ありがとう。お金は?」

 やはり悠斗は真顔で、目を合わせずに聞いてくる。

「僕の奢り。」

 語尾を上げてルンルンしてるように言うと、悠斗が「そうか」と言って間が空く。

 この雰囲気を変えなければ、と何か言葉を探していると、悠斗が口を開いた。

「俺ね、昔から欲しいものがあるんだ。」

 悠斗は無表情のまま言った。

「野球部の部員とか?」

 何か応えるにしても、やはり野球と結び付けないと言葉は出てこなかった。

「それも確かに欲しいな。でも、それよりも、解斗が来るよりずっと昔から欲しいものが、もう一つあるんだ。何だと思う?」


 悠斗の方を見て話を聞いていると、悠斗の表情は優しくて、目を逸らしてしまう。

「野球の、……何か。」

「何かと野球に繋げるなぁ。ま、俺だから仕方ないか。」

 笑って言うが、その言葉を聞いて、何の言葉も出すことができなくなってしまい、僕はただ、苦笑いをするだけだった。

「俺、昔から本当に野球が大好きで、野球のことしか考えれなくて、他にみんながしてた、ゲームとか、おにごっことか、ましてやサッカーなんかは、全然したがらなくてさ。」

 悠斗は昔の記憶をひねり出すように、悪い物を見る顔で語る。幼稚園の頃の記憶は自分にはないので、あまり実感もないせいか、僕はただ話を聞いてるだけだった。


「そしたらさ、みんな、一緒に野球やってたメンバーも、〝飽きた゛とか、〝つまんない奴゛とか俺に言ったんだ。まぁ、当然のことだよな。俺もサッカーしかしない奴とはきっと付き合えない。」

 悠斗は少し笑みを浮かべて語る。その表情は、まるで自分を蔑むようで、感情を言葉にすることはできなくても、自分まで少し心が痛んできていた。

「俺の友達は、野球だけになった。それは、中学になれば変わると思ってたけど、それもまた違った。そして、野球愛が酷くて引かれることもあった。頭のおかしい奴だとな。」

 野球愛については納得はできてしまうような気がするけれど……。でも、悠斗の問いの答えはだんだんと、わかってきていた。


「そういう意味で、近づいてくる奴はいるんだ。でも、そうじゃない。そうじゃ、なくてだな……!」

 悠斗の言葉は途切れ途切れになっていくが、続く言葉はわかっている。言葉をひねり出すのが辛そうで、悠斗が言うのを諦めてしまう前に、言ってしまおうかと思い悠斗の目を見て口を開こうとしたが、悠斗の表情がそれを遮った。

 悠斗は、悲しそうに笑いながら、目元に涙をうっすらと浮かべていた。

「俺、解斗が来たとき、解斗となら友達になれるかもしれないって、思ったんだ。解斗は引かずに突っ込んでくれるからな。」

「それは、褒めてるのか?」

 笑みがこぼれる。


「そうさ。俺は、」

 悠斗は一度正面を見て、再びこちらを見る。

「ずっと前から友達が欲しかった。解斗が、欲しいんだ。」

 ニカッと笑う。それに答えて僕も笑い返す。

「何だ? それは、告白かー? 愛の告白ならお断りだぞ!」

「な、なんだってー!! なんてな。」

 そんな風に冗談を言い合って笑った。意外とノリの良いこと。

「良いよ、悠斗。というか、既に友達だと思ってたけどな。」

 すると、悠斗は嬉しそうにニヤけて目を逸らした。

「えっそ、そうなのか!? 何か恥ずかしいな……じゃあ……。」


 悠斗は今日一番の真面目顔になって言う。

「これからもずっと、友達でいてくれ。」

「ああ。」

 ザザーっという音と共に風が吹き、緑が揺れていた。


「それにしても、それならなんで誤魔化したんだよ!! 解斗ぉ!!」

 クレープをぱくり、とかじり、眉を吊り上げて言う。それは少し俺にもおもちゃ買ってーと言う子供のようで、少し面白かった。とか言えない……。

「ああ、それは、あまり人に知られたくないことだったんだ……。」

 クレープをまた一口。うむ。やはり美味だ。美味しさ倍増。ハァハァ、クレープくぅん! ハァァァァモニィィィィィィ。すると悠斗はむむ。と言ってクレープを紙から外して食べる。

「そうなのか……。それはすまなかったな。知りたがってしまった。」

「いや、いいんだよ。僕も勘違いさせたのが悪かったんだし。……それより、落とすぞ、クレープ。せっかくの美味を台無しにしたら許さないからな。」

 悠斗の持つクレープと、悠斗を交互に睨みつける。


「うむ、紙外すのめんどくさいから仕方ないな!」

 かっかっかっと笑って言う。仕方なくないですよー全くもー。

「落とす方がめんどくさくないんでしょうかねぇ……。あー、そうそう。さっき僕が言おうとしたことはね、」

 思い出して、悠斗にならまぁいいか、と正面を向いて言う。と共に歩くサラリーマンが見える。血のように染みた赤いシャツの一部分が気になってじっと見ていたが、1秒後、ばらばらに崩れ落ちた。

「え」

 目の前のありえない状況に、僕も悠斗もそれしか発することができなかった。そしてそれは、言葉にできない叫びとなって口から出てきた。

「ああああああああああああああああ!!!」


 そして悠斗はクレープを落とし、べちゃ、という音がなる。その方向を見ると、思いたくはなくても、いちごの赤と、チョコの黒さが、目の前の肉の塊達にそっくりだということを自然と連想してしまい、再び叫びとなって緑の道とこの街を埋め尽くした。

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