page0 嘘吐き少年Xは少女Yに出会う
~前書き~
初めまして。初投稿です。専門知識の無い初心者が書いた小説ですが、世界観にハマっていただけたら幸いです。それではどうぞ!
「解決の方程式を掲げよう。」
* * *
気がつけば、僕は桜と2つの5階建てマンションに囲まれた、声や笑顔が飛び交う広場で、ただ呆然と立っていた。
気がつけば、なんてことを言うと眠りから覚めたりだとか、スタンガンか何かで気絶させられていたりだとか、そんなことを考えてしまうが、そういう感じではない。僕は確かにさっきまでここにいたし、眠っていたとか、そんな記憶はない。
いや、そんな記憶どころか、僕はここに何しに来たのか、どうやって来たのか、そして今まで育ってきた環境、関わってきた人々まで、何も覚えてない。
一瞬で消えたのだ。今までの記憶が。
常識は分かる。言語や知識、自分のプロフィールとか。しかし、そういうものではない。
とは言っても、正直なところ、常識の中で自分の名前だけ、はっきりとは覚えていない。親や友達が自分の名前を呼ぶのすら聞いたことがないし、友達や親の存在すら覚えてない。自分の人間関係を疑ってしまうほどに。僕って友達いたの?
しかしまぁ、完全にぼっちと言い切れるわけでもない。はっきりとは覚えていない、と曖昧な言い方をしたが、それは、誰かはわからないんだけど、名前も何も知らない「誰か」が僕のことをこう言ったということ。
「九州真、九州真解斗。」
それを言ったのがどういう声だったかも覚えていない。そして、それが本当に自分の名前だという自信もないし、確かめる方法も今のところない。そのため、はっきりとは覚えていない。そういう言い方になってしまったのだ。
今は、声も知らない誰かが言った、その「九州真、九州真解斗」という言葉がただ頭の中でループしていた。
まぁ、とりあえずこんなところで突っ立ってても仕方がないので、近くにあったベンチにでも座って考えようと思う。
「さてと、どうしたものか……。」
そう悩みながら唸っていると、ふと赤いチェックの布が目に入る。
「どうしたの?悩み事?」
「うぇっ」
急に話しかけられたので驚いてまるでゲップみたいな声を出してしまった。しかも僕としては初めて人と話すんだけども……。初対面の人に悪い印象を与えてしまうと恐らくお先真っ暗なので一応爽やか笑顔で言い直しておく。
「えっと、すいません。急に話しかけられたもので……。えっと、どうかしました?」
すると、赤毛の前髪を下ろした短いツインテールの同じ齢ぐらいの少女が笑う。それを見ると、それ自体は可憐な少女なのだろうけど、不思議と大人びて見えて、少し心臓が高鳴った。
「そっか、ごめんごめん。明るい広場の中、たった一人で深刻そうな顔して、どうしたものかぁっ……!とか呟くくらいだもんね。それに、どうしたのって、聞いたのはこっちなのに面白いこと言うね。」
そう笑いながら、少女は隣にぽんと座った。今度はさっきの様子とは違い、無邪気な少女のように見えた。しかし、いつまで笑ってるんでしょう、この人。初対面の人をからかうのはよくないと、僕は思います。そんなに笑ってると笑いすぎて有名なあのお面みたいになっちゃいますよ?プフフ。
そう言いたいのを抑えつつ、さっきの状況を思い返してみると、前言撤回する為に焦って忘れていたが、どうしたのか聞かれてたのは僕だったのだった。どうしたのと聞かれてどうしたのって、そりゃあ、笑うよね……。でも笑いすぎですよあなた……。
「そうか、悩んでたのは僕でしたね……って、もしかして最初から最後まで全部口に出てました……?」
もしそうなら僕はとても痛々しい何とか病じゃないか。と、少し恥ずかしくなって聞くと彼女はきょとんとして、
「えっと……最初からかどうかはわからないけど……。」
そう言うと、昨日の夜ご飯を思い出すように上を向き、考える素振りを見せたのち、若干からかうように口を引きつった笑顔で、うんと頷いた。悲しいものを見るようにからかうような目で。やめてください! その目!
というか、今気づいたけど何で僕、タメ口されてる相手に敬語使ってるんだろう……。じゃなくて元気な年寄りでもないのに何であなたは初対面の人に敬語を使わないんですか!!
まぁそんなことはいい。記憶を失ってしまって……とか言って厨二病だと思われるのも嫌だしとりあえずは話を逸らしてごまかそうと思う。そうだ、厨二病だ。
「そうだ。名前、何ていうの?」
これは一見ありきたりに見えそうだが、我ながら自然な流れにもっていけたと思う。さて、回答や如何に。
「君は?」
普通に自然な顔付きで言われた。くっ……!! まさかそうくるとは……っ!!「よくわからないけど九州真解斗だと思う」とかふざけた答え方をすると更にからかって深く聞いてくるに違いない。ここは偽名っ……いや、でもバレたらっ……いや、いけ!!!
「さ……さとうかいと……」
やばい。これはやばい。一番ありきたりなものを言ってしまった。そう思い唇を噛み締めると、僕の嫌な予感は見事的中し、
「噛んでるしありきたりだしバレバレだよ。」
とジト目で彼女が言った。はい。ですよね。わかります。で、でもありきたりでも本当の場合もあるから!!(必死)
嘘を吐いたのが一瞬でバレたと思うと、もうなんだかめんどくさくなり、ため息をついて答えてしまう。
「……九州真解斗。」
しかし、一瞬でもドキッとした相手があんな性格だと思うと、悔しくて双子かなんかじゃないかと疑ってしまうな。星に願っちゃうまである。
他に方法が思いつかなかったとはいえ、勘の良さそうなこの人に名前を言ってしまったことに少し後悔していたが、反応は意外にも普通だった。
「へぇ。変わった苗字だね。私は謎口矢弥。今年から南北三月学園中等部に転入する3年生。解斗も歳、同じくらいじゃない? もしかしたら同じクラスになるかもね。」
はて。と少し頭上に「?」が浮かんだが、すぐ気付いた。そういえば今僕が着ているこの服は、彼女が着ているものと服の形と色が違うぐらいで校章もある、同じ作りだ。
おそらく僕は彼女と同じ学校で、きっとこれが制服なのだろう。できればここでおさらばしたかったが、そうもいかないらしい。しかし、解斗って……。いきなり呼び捨てっていうのもどうなんだよ……。
なーんてことを考えていると、彼女は再び口を開く。
「それにしても、まだ学校が始まったわけでもないのに何で制服着てるの?」
彼女はまたも笑った。この人いつも笑ってますね……。しかし、彼女の言いたいことはわからないでもない。何せ彼女が着ている、おそらく女子用の制服と思われる方はポンチョ型の赤いチェックで、ポップな感じがするからか、普段着としても着こなすことができるようだ。
現に彼女が制服を着ていると気付かなかった僕がいる。それに比べて男子用と思われるこの制服……。制服なのか私服なのか微妙なところに見える。もう少しオシャレなのを用意できなかったものか……。何の捻りもないんだけど……。女子に比べて男子への悪意を感じる!!せめてブレザーにしてくれればなぁ……。
しかし何で制服を着ているのかと言われても、困ったものだ。僕がこの服を着ているのは、恐らく故意ではあるのだろうけど、今の僕にしたら故意じゃないし、「よくわからないけど着てた」とかふざけた答え方をすると、これもまためんどくさいことになりそうなものだ。
そう悩み転げていると、彼女、矢弥がそれ、悩むものなの、と笑った後、ふと思い出したようにケロッとした表情で言った。
「あ、悩むといえば、何で悩んでたの?」
「悩む」で思い出させてしまった!!もう制服とか以前の問題だったね、うん。そもそもはこのことを話したくなく、別の話を持ちかけたのだったが、どうやら逃げる術はないらしい。話せば面倒なことになるし、厨二病だの痛い子だの言われると思い、言いたくなかったのだが……。
特にそれが一般人ではなく滅茶苦茶に笑ってくる矢弥のことだ。どうなるかわからない。下手すれば弱みにされ、いつか動機として提示され、死ぬかもしれない!!!我が生涯に一辺の悔いなし! ……僕の生涯まだ数分だった。
なにはともあれ、こいつにだけは絶対に嘘はつけない……っ!! そう思った解斗なのでしたー。
さてと、冗談はさておき。矢弥にはなんて説明をしたものか……。
そんな風に悩んでいると、困っている僕をニヤけながら見つめる矢弥と目が合い、その笑顔を見たら、この数分の間に慣れてしまったのか、なんだか一緒でもいいように思えてしまって、ついつい吹き出してしまった。
「ま、同じ学校なんだし、これからよろしくな。矢弥。」
何も考えず、そうありたいと思ったがために出た一言。まるで話が噛み合っていなかったので、矢弥はきょとんとしていたが、すぐにさっきまでのとは違った、僕が最初に見た、あの大人びた、可愛いではなく、美しいと言った方が正しい、そんな笑顔をして言った。
「うん。よろしく!解斗!」