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愛のかたち  作者: kazu
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そんな気持ちは、従業員達にも十分に伝わっていた。いつも、仕事が遅い時間にまで続く時などは、全員で完成するまで頑張っていた。不況で仕事が入ってこない時などは、逆に従業員達が社長である佐藤の事を心配して、元気づける為に一緒に居酒屋などに誘い出していた程だった。

そんな従業員達。それも、佐藤に一番歳が近い藤堂は、ある時にとんでもないものを見てしまったのである。

 それは、恵子が近所に住んでいる泉を家に連れ込んでいた事だった。

 そこの従業員達も、泉が近くに住んでいた事は知っていた。何故なら、昼間から仕事もしないで近所をうろついていた泉を、仕事の合間に目撃していたからである。そんな泉が恵子と腕を組んで家に入って行くところを、藤堂が休憩中に見てしまったのである。

 そして、藤堂は余りの佐藤への思いが強かった事で、思い掛けない行動をとったのだ。

 ある日、恵子が泉を連れて来た時、藤堂が二人を呼び止めた。

「奥さん。あなたがやっている事がどんな事なのか。解ってやっているのですか」

 そう言って、工場の方からやって来た藤堂。それを見た泉は、

「けっ、儲けもしない事をやっている連中だな。お前っ、俺にこんな事、やって言いと思っているのか」

 そう言って威嚇してきたのである。

泉は、街の暴力団とも繋がりがあったのだ。ただし、チンピラ風情とだけだったが、パチンコ屋に入りびたりの泉に、調子いい事を言って近付いては、お金をせびっていただけだった。それを威張って話す泉だったのである。

 だが、藤堂は引く事は無かった。そして、

「いい加減に目を覚まして下さい。そうでないと社長が…… 見ていられません」

 その場で頭を下げる藤堂だった。だが、それを見た恵子は、

「あなたには関係の無い事でしょう。そんな事をする暇があったら、仕事をしなさいよ。そうすれば、あいつも喜ぶでしょうから」

 そう言い放つと、泉を連れて家の中に入って行ったのである。

 藤堂はその時、初めて解った気がした。現状は、全て恵子が悪かったのだと…… 泉のせいではなく、恵子が原因だと言う事を。

 藤堂は、営業の為に外出していた佐藤が戻った時、全てを話した。

 その時、全く動揺を見せない佐藤だったのだ。

 佐藤自身、恵子がやっていた事を既に知っていたのである。そして、今までの全ての不倫の事も、全て解っていたのだ。

 人間と言うものは、敏感に反応する。特に、自分に危険を感じた時、それが自分でも解らずに行動してしまう時があるのだ。

 体と脳が危機を察知して、それを無意識に行動として表すのである。佐藤もそうだった様に、自分ではそんなつもりではなくても、身体が勝手に恵子を監視していたのだ。

 例えば、恵子の普段の行動を監視してしまう佐藤が居た。

 日頃の言動の変化から自分に対しての気の使い方を覗ったり、携帯電話の話す状況やメールの遣り取り。夜中にメールが来たりメールを送ったりする行動。そして、真夜中なのにメールが送信されてきたりする不可解さ。

 他にも、恵子の行動パターン。例えば、自分が出掛ける時に恵子の靴の位置を憶えていて、帰宅時にチェックをする。その時に恵子の靴が移動して居たら、それを何気なく問い掛ける。その時の恵子の表情や応対を警戒して見ていたりする。もしも、何処にも行っていない等と言った場合は、その次の行動を観察したりするのだ。

 毎日が疑いの眼差しで、それを勘付かれない様に監視していた。

 激しい時には、窓の鍵を確認したり冷蔵庫の中身をチェックしたりして、人の出入りを観察したりもした。そして、佐藤の勘が的中していったのである。閉まっている筈のサッシの鍵が開いていたり、食材が何時の間にか無くなっていたりしたのだ。

 それだけではなく、佐藤の下着や洋服も、気が付いた時には無くなっていた。自分の大切にしているゴルフクラブや釣りの道具なども、何時の間にか無くなっていた。佐藤の部屋に置いていたパソコンなども弄られていていた。

 その度に、誰かが家に来ている事を察知した佐藤だったのである。

 その上、佐藤の携帯電話には、見知らぬメールが多数送られるようにもなっていた。それは、泉が佐藤の携帯電話を盗み見して、メールアドレスを様々なサイトに公開していたのである。そんな嫌がらせまで受けていたのである。

 そう言った出来事から、佐藤は既に離婚を決意していたのだ。その為に、恵子の不倫の事を聞いても何とも思わなかったのである。


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