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愛のかたち  作者: kazu
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若社長

 二○○九年の十月中旬。

 世田谷の住宅街。

民家が建ち並ぶ中に、一軒だけ工場を営む家があった。上空から見ると、少し目立つほどの広さがある敷地。新築の二階建ての前には、五台ほどの車が止められるスペースがある駐車場と、白い壁にスレートの屋根でできた工場が建てられていた。その中には、工作機械が四台設置されている。

そこの世帯主である佐藤銀二は、若くして経営者となって会社を盛り立てていた。そして、創業六年目に差し掛かろうとしていた頃である。

「お早う御座います」

 挨拶と共に、次々に工場に入って来る従業員達の姿が見えた。それに応える様に、

「おお、今日も頼んだぞ」

 笑顔で受け答えをする佐藤だった。

その後事務室に向かった佐藤は、その日に行う仕事の図面をコピーすると、それを持って再び工場の中に入っていった。

「藤堂。この材料がもう直ぐ到着する。明日までに焼き入れに出さないといけないからな。その段取りをしていてくれ」

「はい」

「松本と飯島。お前達は、昨日の作業の続きを頼む。昼には完成するだろうから、その後は午後に到着する製品を仕上げてくれ。これが、その図面だ」

「はい」

「解りました」

 従業員に今日の仕事を指示すると、元気に返事が返って来ていた。

 精密機械での精密部品加工をやっていた工場。現在の不況の中でも、従業員達の生活を維持しなければいけないとの思いで、必死に仕事の確保をする佐藤だったのである。

 その気持ちは、三人の従業員にも伝わっていた。毎日の朝礼が終わると、自分の担当する機械の暖機運転を行う従業員だった。

 機械の電源を入れ、前面にあるモニターを見ながらプログラミングのスタートボタンを押す。すると、工具が装着されていない主軸が回転し始めた。高回転にさせずに、機械を温める程度のゆっくりとした回転数に調整すると、再びスタートボタンを押していた。一つ一つ動作を停止させるステップ運転で、機械の動きを確認しながらの作業を行っていた。それで機械の動きが正常であるかを確認すると、摘みをステップ運転から全自動に変えて始動させるのだ。

 機械が動き始めると、仕事がやり易いように作業台の上を片付け始める。余分な工具はボックスに仕舞って、必要な物だけを揃えて置く。これは、作業効率を上げる為の鉄則である。

 ここでは、一番歳が上の『藤堂彰浩』が、社員の中心となって作業をしていた。社長である佐藤は、その藤堂よりも一つ年上で、同じマシニングセンターという機械を操作していた。ただし、佐藤がオペレーターとして操作していた機械は、加工物の寸法公差がミクロン代まで要求されていた為に、超精密加工が可能な最新の機械だった。藤堂の方は、焼き入れ前の加工を担当していた。

焼き入れとは、鉄を高温の炎で熱して原子を圧縮させる。それに依ってより固い金属にする工程である。プレス金型などは、端子を切断して曲げたりしなければいけないので、強度を必要とする為に、パーツの殆どが焼き入れを行っているのだ。しかし、焼き入れの工程をしてしまうと、切削加工が出来なくなってしまう。その為に、その前工程というものがある。それが、藤堂の行っていた作業だ。

その工程が終わると、取引先である焼き入れ専門業者に依頼して、その加工物を預けていた。

翌日にはその加工物が帰って来るので、その後の仕上げ加工は『松本明』と『飯島浩二』が行う事になっていた。

従業員の中で一番の古株である藤堂は、佐藤が会社を立ち上げた三年後に、この工場に入社して来た。その一年後に、松本と飯島が入社してきたのである。

この工場の売り上げは、会社を運営できるギリギリのラインだった。その結果、従業員達の収入も、やっと生活が出来る程度だった。

 社長である佐藤の職歴はというと、高校卒業後に百名を超える従業員が働く会社に就職する事となった。そこでの仕事ぶりは、真面目で覚えが速かった事で、誰よりも早く加工技術を身に付けていた。 

それが功を称して、そこの幹部達から多大な信頼を受ける様になっていた。

その後、二十一歳の頃から経営者を志していた佐藤は、加工技術のレベルを向上させる為に、敢えて少人数の会社に勤め始めた。

 少人数の会社となれば、各々の責任の重大性が諸に圧し掛かってくる。その重圧感を、自分の責任感に変えて頑張りたいとの思いからだったのだ。そして、更なるレベルの向上に努めていた。

 もう一つの理由としては、そこの工場では様々な種類の精密機械を使っていたのである。その為に、新たな機械の操作を習得できると思ったからである。

日頃から、コツコツと自分を高める為に、努力を惜しまない佐藤だった。佐藤は、加工技術の他にも、製図や材料の質なども一人で勉強していた程だった。そして、近年の自動稼働化になって来た機械技術に対応して、CAD/CAMといったプログラミングの方も自己学習で習得していた。

 そんな佐藤の努力の甲斐あってか、二十八歳にして経営者となったのである。


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