勝利の行方
異端審問官ルリジューズは一気に駆け出し、相手との間合いを詰めた。標的は一番近い位置にいるフィナンシェである。
「まず、この魔女から討ち取る。せいぜい地獄で懺悔するがよい」
ルリジューズは巨大なメイスをフィナンシェに向けて振り下ろす。メイスはフィナンシェの頭を完全に捉えたかに見えた。
「野蛮ですわね。そんなもの振り回して」
寸でのところで、フィナンシェは後ろに下がり、ひらりとかわした。
「思ったより素早いな。だが、いつまでかわせるかな」
ルリジューズは、今度はメイスを勢いよくフィナンシェの胸を狙って突いてきた。
「今のは危ないところでしたわ。でも、踏み込みが甘いですわよ。私も反撃しますわ」
フィナンシェは着ている灰色のローブをかすりながらも、なんとか右に避け、ポケットから取り出した小人の指人形をいくつも投げつけた。
「何だ、これは。面妖な! 打ち落としてくれる!」
メイスを振り回し、指人形を全て打ち落とそうとした。
だが、指人形たちはまるで蝶のように空中を舞い始め、メイスを避けながらルリジューズを翻弄する。
「不愉快な人形どもだ。こんなもの無視して本体の魔女を叩く!」
ルリジューズは、さらにフィナンシェとの間合いを詰めようとする。
「無視したら痛い目に遭いますわよ。インデックス、思い知らせてやりなさい!」
人差し指の人形はルリジューズの右手首に噛み付いた。
「くっ、猫に噛まれたようなものだ。大したことはない」
ルリジューズは人差し指の人形を左手で叩き潰した。
「今ですわ。マカロン、攻撃なさい」
「わかってるの。野薔薇さん、力を貸してほしいの」
マカロンは野薔薇の鞭を届きそうもない遠い間合いから、ルリジューズに向けて振るった。
「何だ、あの鞭はこちらに向かって伸びてくるぞ! しかも、いくつにも枝分かれしおっただと、ありえんぞ!」
ルリジューズはあまりの異様な光景に狼狽したが、すぐに正気を取り戻し、迎え撃つべくメイスを構え直した。
「ふん、少し取り乱したが、あんな鞭など、なぎ払ってくれるわ!」
ルリジューズは鞭めがけて渾身の力でメイスを振るう。メイスは枝分かれした鞭のいくつかを叩き斬ったが、何本かを取り残した。残った鞭はメイスに絡みつき、動きを封じ始めた。
「すっかり空気になってたが、僕の出番だな。こいつをお見舞いしてくれる!」
後ろに回り込んだシュトレンはジャックの斧をルリジューズに投げつけた。
「男が拙僧の後ろに回り込んだことなど先刻承知の上、全く甘い!」
ルリジューズは飛んできた斧を軽くかわした。
「こちらの鞭も目障りだ。燃えよ!」
ルリジューズはポケットから取り出した小瓶を鞭に投げつけた。鞭に当たった小瓶は割れ、液体が飛び散ると同時に、炎が上がった。炎の勢いは激しく、野薔薇の鞭をすぐさま焼き尽くす。
「不甲斐無い。魔女どもの力と言っても所詮はこんなものか…」
ルリジューズが氷の微笑を浮かべる。
「まだ私がおりますわよ。いい気になっているのも今のうちだけですわ!」
フィナンシェが美しい顔を引きつらせ、睨みつける。