戦う修道女
マカロンがユニコーンに向かって魔法の豆を投げつける。が、狙いは外れ、ユニコーンの先をだいぶ飛び越え、シュトレンに当たってしまう。
「痛、ノーコンだな。もう少しコントロール、頼むよ」
「ごめんなの。でも、ユニコーンに届かないよりずっとマシなの。作戦は成功なの」
シュトレンから跳ね返った豆はその少し後ろの地面に落ちた。
「お豆さん、しっかり頼むの。すぐに大きくなるの」
マカロンが念じると魔法の豆の木は急速に育ち、ユニコーンの進路正面に立ちはだかった。スピードを出していただけにユニコーンはすぐには止まれない。あえなくユニコーンの角が木の幹に突き刺さり抜けなくなってしまった。ユニコーンは必死に角を抜こうともがくが、角は深く突き刺さっているので、どうにもならない。
「さあ早く、ロープで雁字搦めに縛ってしまぞ!」
シュトレンは大声で叫んだ。
「そうなの、亀甲縛りも思うままなの」
「そんな縛り方なんてはしたないですわ」
「えっ、何でハシタないの? あたし、よくわかんないの」
「白々しいぶりっ子はやめてほしいですわ」
どうにかこうにかユニコーンの足を縛った。噛み付いたり、舌を噛んだりしないよう猿轡もする。頭の方から尻のほうにかけて長い天秤棒を通し、吊るして運ぶ準備をする。
ここまでの行為でユニコーンは、ほぼ身動きが取れなくなった。シュトレンは豆の木の幹を鞄から取り出したジャックの斧でユニコーンの角のまわりの木部を切り抜き、角カバーにした。
突風が吹き、山の木々がざわめく。
うろのある巨木の上から飛び降りる女。気配を押し殺し、木の上でずっと隠れていたらしい。
「クローバー教会 第七支部所属 異端審問官ルリジューズ ここに見参」
赤黒い修道服に身を包み、被っているヴェールからは、まばゆいばかりの縦ロールの金髪をのぞかせている。手には巨大なメイスを抱えている。
「よくぞ、ユニコーンを捕まえてくれた。礼を言うぞ、魔女ども。さあ、ユニコーンをこちらに寄越せ。さすれば、お前たちを楽に死なせてあげよう」
「わかりやすくいうと獲物を横取りした挙句、口封じに殺すってことなの。神が聞いたら呆れるの」
「では、苦しんで死ね!このホーリーウォータースプリンクラーでな」
巨大なメイスを軽々と振り上げる。この女、華奢な体つきからは想像できぬほどの怪力の持ち主だ。美しい女だが、氷のように冷たく感じられた。明るいマリンブルーの瞳も狂信的な目つきであった。
「二人とも気をつけてくださいまし。この女、異端狩りで数々の奇跡を起こしたと評判ですわ。血塗れのルリとも呼ばれてますわよ。着ている赤黒い修道服については、元々は白かったものが異端者の血で染まり赤黒くなったのだ、といわれるくらいですわ」
「説明、ありがとうなの。では、あたしもこの野薔薇の鞭で戦うの」
そう言うとマカロンはポケットから野薔薇の小枝を取り出し、長くしなやかな鞭へと変化させた。
「神の名において鉄槌を下す。不浄のこの地に光あらんことを…。そして、拙僧に神のご加護を」
異端審問官ルリジューズは戦闘態勢に入った。