三日月の巫女が出した試練
「新しい真実の口? リコリスの口のことかえ。そんなもの、あてにならんぞえ。昔、戯れでやっただけだぞえ」
部屋の隅で体を丸めて眠っている大きな黒猫(?)リコリスのほうに目をやった。
「私はまだこの男が信用できません」
フィナンシェがシュトレンを胡散臭そうに見つめる。
「それなら教会が血眼になって探しているユニコーンがホップ山におる。ユニコーンは万能の薬だけでなく、他にも使い道があるからのう。教会も必死じゃて。そのユニコーンを捕まえて里のものにしたら、教会の間者ではない証となるぞえ」
こうして会食を終え、シュトレンはユニコーンを捕獲することになった。
太陽が高く上った昼過ぎ、なだらかなホップ山の中を歩く3人の姿があった。3人ともユニコーン捕獲のため大きな鞄を持っている。
「3人一緒でユニコーンの捕獲とはオババさま、いいところあるの」
マカロンは南国の海ような青く短めの髪をかきあげ、無邪気に喜んでいた。
「そんな言い方はないでしょう。本当ならシュトレン一人で行かなければならないはずですわ。三日月の巫女さまも人が良すぎますわ」
灰色のローブを着た銀髪のフィナンシェが言い返す。大人びた顔立ちで、自分の意見ははっきり言う性格だ。
「シュトレンは、まだ素人なの。魔法も全く使えないの」
マカロンは碧眼の目を吊り上げてフィナンシェに抗議する。
「もういい。とっと、ユニコーンを捕まえる」
シュトレンがきりっとした声をあげる。
「そうなの。もうすぐのユニコーンの棲家に着くの」
ホップ山の中腹にある大きな杉の木のうろにユニコーンのねぐらはあった。
明るいホップ山の中で不思議な気配を感じさせる場所である。
「ユニコーンは雌らしいから、2人が処女でも、伝説みたいに膝の上で眠ってくれるとは限らないな」
シュトレンは少し残念そうに言う。
「そういう話にはあまり触れて欲しくないですわ」
「そうなの。年頃の娘は難しいの」
2人の魔女が揃って抗議する。
「うろの中は暗いの。持ってきたカンテラをつけるの」
マカロンは鞄を下ろし、カンテラを取り出そうとした。
「そんなことしたら、ユニコーンに気付かれますわ」
「じゃあ、どうするの? 暗闇の中で捕まえるの?」
「私のペットに捕まえてもらいます。出てらっしゃい」
そういって彼女は自分の鞄を開けると象のぬいぐるみを取り出した。
「これ、ぬいぐるみなの。大きいユニコーン相手では勝負にならないの!」
「私のペットを疑っているようですわね。プリン、試しにあの木に、あなたの長い鼻を巻きつかせなさい」
そう言われると、象のぬいぐるみの鼻が驚くほど伸び、大人の腕ほどある木の幹に巻きついた。
バキッ
木は見事にへし折れた。本物の象と力は変わらないようだった。
「確かにすごいけど、これだけでは不安すぎるの」
「そうかもしれませんわね。しかし、この象が木のうろの中に入り、攻撃すればかなり有利になりますわ」
「もし、攻撃が与えられず、ユニコーンがうろから出てきたらどうするの? ユニコーンは素早くて獰猛だから、うろの中に入っても攻撃する前にぬいぐるみが負けてしまう可能性もあるの」
「むしろ、うろから出てきて欲しいですわ。怒って飛び出したところを、うろの入り口で待ち構えて3人で協力して持ってきた投網を使ってユニコーンを捕獲するのです」
「作戦としては、悪くないの…。でも…。」
「もう、グダグダ言ってないで作戦開始ですわ!」