ゴーレムと花
「ご覧の通り、私のゴーレムには真理(emeth)と書かれた羊皮紙なんか額に貼ってございません。だから、mを消して、死んだ(meth)に書き換えて泥の塊に戻すなんてことは不可能ですわ。それ故、チョコに踏み潰されて、あの男は終わりですわ。ほーほっほ」
フィナンシェと呼ばれた銀髪の少女は自慢げに高笑いする。
「心配無用なの。あたしはゴーレムを倒せるの」
マカロンと呼ばれた少女はあっけらかんとした表情で言い切った。
「魔法なんかロクに使えないあなたが、どうやって」
「こうやって。えい、これでも喰らうがいいの」
マカロンは腰に着けていた皮袋から豆を取り出し、ゴーレムに投げつけた。
「ほーほっほ。そんなもので、私のチョコが倒せるはずがありませんわ」
「ただの豆じゃないの。魔法の豆なの。ほら、もうゴーレムの体から芽が出たの」
「ふーん。それが何だって言うのかしら。チョコ、あの男を踏み潰しなさい」
「もう、遅いの。お豆さん、ゴーレムに巻きつくの」
マカロンの言う通り、魔法の豆は急速に成長し、ゴーレムに巻きつき始めた。
「私のゴーレムを甘く見ないでほしいですわ。チョコ、そんな豆、振り切ってしまいなさい」
ゴーレムは自分の体に巻きついた豆を振り切ろうとしたが、振り切れたのは一部で大半はそのまま成長を続け、更に巻きついた。
「馬鹿な。ゴーレムの怪力を持ってしても振り切れないなんて、ありえないわ。それに、豆の成長が異常に早すぎますわ」
「無理なの。この魔法の豆の木は巨大なオーガがしがみついても折れないくらい丈夫なの。切るつもりなら、ジャックの斧が必要なの。ゴーレムは作るのに、いい土といい水を使うから魔法の豆も成長が早いの」
マカロンは自信に満ちた顔で魔法の豆の木について解説する。
「そろそろ、終わりなの。さよなら、チョコ。これからは、いい畑の土になってほしいの」
豆の木は天まで届くかと思うほど成長し、ゴーレムは原型を留めることもなく崩れ去った。
「まだ、続けるの。でも、あたしはダーリンを守るの」
マカロンはゴーレムを倒され、呆然とするフィナンシェを睨みつける。
「もう、いいですわ。あなたがあの男にそこまで惚れ込んだなら里につれて帰ります。それにしても、この豆の木の花、綺麗ね。まるで赤いスイートピーみたいですわ」
フィナンシェは観念し、男を魔女の隠れ里に連れて行くこと認めた。
「スイートピーもマメ科の植物なの。似ていても不思議ではないの。里に帰ったらダーリンのことはあたしに任せてほしいの」