死闘の果てに
「ほう、それでは少しは楽しませてくれるのか?」
ルリジューズは自分の縦ロールの金髪に付着した野薔薇の鞭の灰を払いのけながら尋ねた。
「それどころか、天に召されるようにして差し上げますわ。指の5つ子たち、今こそ一つに」
フィナンシェが掛け声をかけると、指人形たちは空中の一点に集まり始めた。
「もう、5つ子ではない。1体、潰れているからな。潰れたものはどうするのだ? 」
ルリジューズは素朴な疑問を呈した。
「回収され、新しい人形の一部になりますわ」
人形たちを操るためにフィナンシェは両手を組み、念じながら答える。
「ただ、人形たちが手を繋いで扇型になっているだけのようだが…」
ルリジューズは人形たちの大した変化のない状態に失望し始めた。
「聞いて驚け! 見て泣き叫べ! 我ら、フィナンシェ様の親衛隊、五本指の… 」
指人形たちは一つにまとまって手のような形になり、自己紹介を始めた。
「下らん! 消えるがいい!」
興が醒めたルリジューズは容赦なく、手の人形にメイスを叩きつけようとした。
「ちゃんと我らの台詞を聞けー。最後まで聞かないとゲンコツだぞ!」
手の人形は攻撃をギリギリでかわし、ルリジューズの不条理に怒鳴った。
「黙れ! 余興はこれまでだ。」
ルリジューズはメイスを構え直す。
「もう怒った! ギッタン、ギッタンにしてやる!」
手の人形は、こぶしのような形態を取るとルリジューズの顔面めがけて体当たりをした。さながら、ロケットパンチのようであった。
「うぐぅ、先ほどよりも断然に動きが速い。不覚であった」
手の人形はメイスの攻撃を避けながら、ルリジューズの顔面を捉え、痛手を負わせた。
「今ですわ。プリン、鼻を伸ばしなさい」
フィナンシェが叫ぶと、魔法の豆の木の陰に潜んでいた、動く象のぬいぐるみプリンが飛び出る。そして、プリンの長い鼻がルリジューズの両手に絡みつく。
「くっ、抜かったわ。まだ、ぬいぐるみもおったな」
ルリジューズは自分の迂闊さを恥じた。
「今だ! チャンスだ! 攻撃再開!」
シュトレンはメイスの攻撃の届かない位置から、空気になっていたときに拾い集めた礫を投げつける。
「あたしも戦うの! これでも食らうの!」
マカロンは自分の胸元から取り出した小玉スイカをルリジューズに投げつける。小玉スイカはルリジューズに命中し、スイカは割れて飛び散ると同時に、中から無数の蜂が飛び出した。居場所を失って怒った蜂はルリジューズを狙って毒針を打ち込もうとする。
「石ころだけでなく、蜂までも…。仕方ない。あの手で行くか。」
魔女たちの攻撃に耐えながらルリジューズはしゃがみこんで、自分で足を強く踏んだ。すると、靴のつま先から仕込みナイフが飛び出し、そのナイフでぬいぐるみの鼻を斬った。
「パオーンッ(涙)」
プリンは悲鳴を上げたが、ぬいぐるみなので血は出ない。先ほど長い鼻から出した墨も使い果たしたため、少しナイフが黒くなっただけであった。
拘束が解けるとルリジューズはユニコーンのそばに駆け寄った。
「分が悪いようだ。ここらで引き上げるとしよう。だが、こいつは貰っていく」
拘束され倒れているユニコーンを巨大なメイスで保護カバーつきの角めがけて振り下ろし、へし折った。ルリジューズは折れた角を手早く拾い上げる。
「では、さらばだ。みやげ代わりにこれでもやろう」
ルリジューズは修道服の袖から取り出した煙玉を地面に投げつけた。煙があたり一面に広がり、極端に視界が不良になった。
「ゲフン、ゲフン。あと、もうちょっとのところで逃げられちゃったの」
マカロンは咳き込みながら逃げられたことを残念がる。
「見事なものですわね。引き際をよくわかってらっしゃいますわ」
フィナンシェは敵の戦略にしきりに感心している。
「ところで、このユニコーンどうする? 角はへし折られたせいであんまり残ってないのだが…」
ただの薄汚れた白馬に近い無残なユニコーンの姿を眺めながら、シュトレンは寂しげにつぶやいた。
「オババさま、角以外にも利用価値があるって言ってたの。だから、お持ち帰りなの」
「その通りですわ。それに、普通ならユニコーンの角は折られたら生えてこないらしいのですが、三日月の巫女様なら再生する術を知っているかもしれませんわ」
「これ、持ち帰るのにゴーレム使えないか?」
シュトレンは人力で持ち帰るのが億劫になったので、何気なく提案した。




