ミレフォリエの人生の転機
起承転結もなくゆるいお話
サウザンドリーフ侯爵家に生まれて十五年、夫婦仲のよろしい父母や兄姉に愛されて、使用人の質も良く、見た目もあまやかで勉学によく励み体術にも優れ、おそろしいまでの幸せを享受し健やかに生きていたミレフォリエは、午後の予定をキャンセルする旨を後ろで殺意満面で震える侍女に伝えた。当人も扇がぎしりと鳴るほどにからだをこわばらせたが、それは婚約者である第三王子が浮気をしている現場を見たからではない、その相手が数十年ぶりに神より遣わされた聖女であるという事実に怒り狂ったためである。
侯爵家に生まれ、ふたつ年上の第三王子と自我のないころに婚約を結ばれたのはまあいい。生まれによる義務だ。すでに立太子しておられる第一王子や辺境伯領に婿入りが決まっている第二王子、隣国の公爵家に嫁ぐ予定の第一王女、国内の公爵家に嫁ぐ予定の第二王女とそれぞれ政略なりなんなりと王家は忙しい。しかし三大公爵家には第三王子に釣り合う年代の女子がいなかったせいもあって、侯爵家へとその婚約が降りてきた。ゆくゆくは侯爵家の保有するパインドア伯爵位を継ぐ予定である──のだけれども、と、ミレフォリエははしたなくも嘆息する。
第三王子はこの婚姻が不服なのだ。
なぜなら王子だというのに伯爵位しか賜れないからだ。
第一王子はゆくゆくこの国の国王になり、第二王子は国の守護神と言われる北の辺境伯へと婿入りだというのに、おのれはただの伯爵位になるのかという不満はひしひしと感じてはいたが、まさかまさか不服だからといって数十年ぶりに遣わされた聖女と浮気だとは呆れる。そして呆れを超えて怒りに震えているのは、神が、あのような、あばずれた下品な女を、我が国に遣わされたのだ、という事実によるものである。なんというふざけた話だろうか。婚約者のいる男と恥じらいもなく、しかも大それたことに王都の大聖堂の敷地内でくちづけを交わす品のない女を神はこの国に遣わしたのだ。ミレフォリエは敬虔な信者だった。教会には休みのたびに通い、小遣いからの寄進もしていた。王都の学園に通うための寮の部屋にも領地の城の部屋にも神の像はあり、第三王子の様子から婚約が流れたら将来は神に仕えてもいいなあなどと思って実際自室の像に呟いてさえいたほどなのに、神はよりにもよって我が国にあのような畜生を遣わしたのだ。
午後に領地の大聖堂へ行こうかしらなどという気持ちは消え失せた。それに自室に神の像があることすら悍ましくてならなかった。すぐに戻ってあれは焼いてしまわねばならない。
「ミレフォリエさま、これ以上あのような穢らわしいものを見ていてはおからだに障ります。馬車をすぐに用意いたしますので、どうぞ」
「ええ、そうして、ああいやだわ悍ましいこと」
侍女の言葉を待つまでもなく専属騎士はすでに場を辞していた。馬車場に着くころには万全の体制だろう。
ハンカチでくちもとを押さえながら這這の体で領地へ戻ると、その様子を見た使用人からすぐに侍女や家礼へと話は届き、慌てふためいた母親と姉がノックもなしにミレフォリエの部屋へと雪崩れ込んできた。普段走ったりしない淑女なので多少息の乱れはあったが、それよりもなによりも、自室で神をファイヤーさせている敬虔なミレフォリエを見て母親は卒倒し、姉は広い公爵家の城すべてに響き渡るような悲鳴をあげた。いっせいに庭の餌場からかわいらしい鳥は飛びたったし、逞しい番犬は呼応するかのように雄叫びをあげ、今度は仲良く婚約者とティータイムを楽しんでいたはずの嫡男までもが部屋の様子を見にきて、炎に包まれる神の像を見てヒュッと息を呑んだ。婚約者の伯爵令嬢にいたっては怯えるように嫡男の背に縋りついた。
そのようなサウザンドリーフ侯爵家族の様子にミレフォリエの侍女はすました顔で「お嬢さまは信心を捨てざるを得なかったのです」と学園で見た光景を事細かに説明した。ミレフォリエの敬虔さを知っていた面面はそこまで神を敬愛していたのにと、ミレフォリエかわいさに同じくして信心を捨てることとなった。嫡男の婚約者に強要はしないが、結婚式に神殿を使用することはキャンセルになりそうで、最近流行りのリゾート婚(人気のパインドア伯爵領のビーチ)にしようと決めた。そっと告げれば実は憧れてましたの、などと恐怖に勝る喜びがあったのか頬がほんのりと赤くなる婚約者にかわいいなあとやにさげている嫡男の横から黒炭となった神像が速やかに片付けられていた。
とりあえず王宮で職務中の父親に早馬を出して、とりあえずのミレフォリエと侍女が見た内容と婚約を必ずや白紙に戻させるようにと書いた手紙を託す。第一王子の結婚が間近の関係で、この夏は王宮での職務に就いている侯爵はまず一枚目の手紙を見て飛び上がり、二枚目以降の詳細を見て侯爵位を有するだけの矜持でもって笑顔のまま殺意の気配を溢れさせた。そして己の仕事の進捗を確認し、問題がないことをその場にいたものたちにも確認したところで神殿へと使いを出した。サウザンドリーフ侯爵家の家族愛の深さを知っている面面は、ああこれはとうとうやらかしたのだなと第三王子に呆れつつ、侯爵家がなくなるか第三王子の廃嫡かの勝敗予想遊戯の配当率を脳裏に浮かべて、せめてもの憂いがないように粛粛と仕事を進めるのだった。
襲撃かと思うような声とともに現れたサウザンドリーフ侯爵家の先触れに首を傾いだ大司教は、司教から侯爵御みずからのお出ましだという連絡を受けて、これは参拝などという生ぬるいものではないなということを察した。そもそも大司教も大のお気に入りのサウザンドリーフ侯爵令嬢が本日の参拝を取りやめたという連絡が来た時点で、なにやら不穏さを感じて神の御前で祈りを捧げていたほどだ。
サウザンドリーフ領は侯爵家が信心深いこともあり、他の領地よりもはるかに信徒は多い。大聖堂がサウザンドリーフ家の住まう城から程近く、小さな教会も広大な領地の領民が訪れやすいようにと概ね徒歩圏内にあるという多さで、また寄進率も群を抜いて他領地よりも多い。もともとは王都の大聖堂の左側に位置していたサウザンドリーフ領は、はるか昔に悪魔の来たる方角の守護とした武人が切り開いた地である。それゆえの信心深さではあったが、侯爵の先触れとほぼ同時に侯爵夫人からの届けものがあったらしいのだがそれが黒炭だったと報告があった。なにやら不吉である。大司教は王都の大聖堂へと使いを出した。サウザンドリーフ領と王都は隣接しており、大聖堂同士は早馬を出せば小一時間の近さである。王都にいたにもかかわらず、まずは領地の大聖堂へと赴いたということはまだ理性があるはずだと大司教は、少しばかりの希望を見い出す。まあそれも、侯爵の顔を見るまでのわずかな時間に過ぎなかったのだけれど。
さて。大司教はもちろん信心深い。やがては王都の大聖堂へと抜擢されるのではないかと噂されてもいるが、実はずっと断り続けている。なぜってサウザンドリーフ領ほど敬虔な信徒は他にはないからだ。侯爵家の家族もそうで、特にミレフォリエ嬢に至ってはまだ舌足らずな挨拶をしていた時分からその姿を見てきた。王都で聖女が見つかったと聞いたときにはミレフォリエ嬢に違いあるまいと疑いもしなかったほどだ。
なので手紙の詳細を見て大司教は飛び上がったのちに侯爵の到着も許しも得ずままに王都へと使いを出したのだけれども。
悪魔の来たる方角は確かにサウザンドリーフ領の方角だったな、と、遠い目になる大司教の面前に厳つい護衛とともに悪魔も逃げ出す迫力で現れた侯爵に、そばにいた司祭は気絶した。かろうじて意識を保っている司教がそれを運んでやる手配をしているのを横目に、まずは大司教としてくちを開いた。
「神の御意志ではないでしょうか」
「………聞こう」
「わたくしは聖女と聞けばミレフォリエ・サウザンドリーフ嬢に違いあるまいと思ったほどに敬虔な信徒であられる。神は言葉少ない。ゆえにその言葉を賜る器をひとの世に与えられる。第三王子がミレフォリエさまに相応しいかどうかを神が試したのでは?」
「道理が通らん。ならばミレフォリエこそ聖女に相応しいと神が示すべきではないか。婚前前に性的な接触を図るような堕落しきった女を神が選んだのだというのなら神はその過ちを認めなければならないと思わないかね。ちなみにこの黒炭はかつての神の像だ。我が娘ミレフォリエはその敬虔さゆえに神を信じるに値しないと、神を棄てるに至ってしまった」
「なんと……それほどまでに深い悲しみを……」
悲しみではなく怒りの結果なのだが侯爵はまあいいかと頷いておいた。
「大司教、我がサウザンドリーフはかの神のあり方を許せそうにもない。これより領内に告知を出すが、我が領地では神の信仰を一度捨てることとなる。大司教には教皇へと通達を願う」
「そ…れは……しかし、」
「なぜ我が領地が神を棄てるに至ったかを必ず教皇に伝えていただきたいのだよ。教皇と、王都の大司教にもだ。王への通達はわたしが行う」
大司教がのどを鳴らしてから頭を下げる。侯爵はそれを見て踵を返した。すでに王都にあるタウンハウスの引き払いも告げてあり、今ごろ妻である侯爵夫人によって行儀見習いに来ている伯爵以下の子息令嬢たちへと棄教の旨と格家への説明書や詫び状を認めたものを用意していることだろう。使用人たちへの紹介状の手配などやることは多岐に渡るだろうが、畜生を遣わした神にこうべを垂れることに比べれば大した問題ではない。
嫡男の婚姻に問題がありそうなので、そちらを優先すべきかと馬車を伯爵家へと走らせる。これはミレフォリエとその親である侯爵夫妻の問題であるので嫡男は関係がないことを伝えるためだ。幸い嫡男は優秀ではあるので、さっさと爵位を渡してどこかの小さな領地をもらい移り住んでしまえばいい。なので我が領地では一度神を棄てると告げたのだ、そのあたりは大司教が汲んでくれるだろう。
その後王都にある王城では大変な騒ぎとなった。もちろん第三王子が呼ばれ、隣には問題の聖女も所在なく佇んでいる。氷点下を超えて汚物に向ける目を向けられるふたりはおさまらない震えに今にも脚を折ってしまいそうだった。
「サウザンドリーフ侯爵よりの知らせに相違ないな?」
第三王子は父親の底冷えた声に身を震わせた。その隣では数十年ぶりの聖女が眼球をぐるりと回して気絶した。気付け薬が来るまでの束の間の安息ではあるだろうが、今このときばかりはうらやましい。第三王子ののどがひたすらに唾液を欲しがって動く。
「しかしち……へ、陛下、」
「──遅ればせながら馳せ参じましてございます。サウザンドリーフ侯爵、そしてその娘ミレフォリエ、拝謁の栄に浴し光栄至極に存じます」
「顔を上げよ。そして此度のこと深く反省の念を覚えざるを得ん」
王族の言葉を遮ったことを咎めるでもない王の態度にその場にいたものは全ての理解をした。第三王子の王籍離脱は決定している。本人もそのことに気づくだけの頭はあったのか顔色が一気に変わった。それを見たミレフォリエは畜生と触れ合った気狂いとの縁談はなくなるのだなと内心安堵していた。パインドア領を賜って兄嫁予定と遊び倒したかったので、領地は欲しいなと思ってはいるが、それは心痛を理由に父親にゴネればなんとかなるだろうと皮算用をする。
そのまま視線をちらりと移せば王都大聖堂におられる大司教が、真っ青な顔色で立っている。かのものがあの畜生を聖女であるとの神託を受けたのだと大大的に発表したのだ。直接会い、あの畜生を聖女だと見たのだからあの大司教も畜生の仲間なのでは?
そんなミレフォリエの殺意をうっすらと感じ取った侯爵は、娘かわいさにまずは決まりきっていただろう婚約を取りやめにするよう求めた。これは王みずからが王籍を剥奪する旨をくちにしていたから当然のことではある。そしてそれに関わる賠償云云はこの後に別室で詰めることを約束し、ミレフォリエの棄教についての話に移った。
「ま、まことの話ですかな」
大司教の震える声にミレフォリエは「ええ」と返事をする。その声音がこの顔とからだから発せられるのかと思われるような嫌悪に満ちたもので、気付け薬を嗅がされて不愉快な目覚めをした聖女がまた気絶しそうなところを、司祭が気付け薬を押し付けて正気づかせる。
「あのような畜生を聖女と定めるようなもの、神であるはずがございません」
「ち、くしょう?」
「婚約者のいる異性と粘膜を触れ合わせるようなものを聖女と?」
言われたことに驚き目を見開いた聖女が顔を変える。
「どういうことよ! ちく、畜生ですって!? このわたしを、この聖女を!? だいたい粘膜ってなによ、たかだかキスでいちいちひとを娼婦よりも下に見るだなんて!」
「娼婦の方を馬鹿にしないでいただきたいわ。彼女たちは職業をまっとうしておられますの。私生活で娼婦の方は性をばら撒きませんわ。口吸いを他人の、婚約者とは、いたしません。悍ましい」
心の底から悍ましいと思っているに違いないと誰もが納得するほどの声音と目線で聖女を見やるミレフォリエに、第三王子が怯みつつもその程度の、と声を荒げた。
「婚約者だろうが! その程度の触れ合いも許さず我は貞淑でございますみたいな態度にはうんざりなんだよ! 聖女はそんなやさぐれていたわたしを慰めてくれていただけだ!」
「王族と婚姻を結ぶ人間が性に不埒でいいと思っておられるのですか? 王子教育では性欲を婚約者を使って婚姻前に発散せよと教えられているのですか? 教師を呼んでくださる? 殿下ではお話になりませんわ」
すでに言葉も目線も氷点下である。
「そんな態度だから殿下も愛想をつかしたのよ」
「畜生がわたくしに意見を? その舌は必要かしら」
ミレフォリエの睨め付けに聖女が震え上がる。たかだか侯爵家の娘に怯えるような女が聖女とは笑える。
信仰の厚い娘の神経を逆撫でるばかりの阿呆ふたりを捨て置いて、侯爵は「でありますので」と王へと向き直る。
「サウザンドリーフ領は現在棄教するに至りましたので、ここに報告に上がった次第です。わたくしが息子に爵位継承を行ったのちに再びの信仰はあるやも知れませんが、そこは神のみぞ知るといったところでありますね」
「お待ち、お待ちください、侯爵! 神をお捨てになると!?」
「はは、大司教、焦ることはない、我が領の話であるし、領民に棄教を迫ることはない。ただね、これほどまでに信心深かった娘が嫌悪しているのだよ、そこの(とても聞かせられないよ)の女のせいでね」
きちんと娘の耳を覆って発した侯爵の言葉に大司教は恐れ慄いてよろめき、その場にいたものも青ざめて震え上がっていた。
「教皇への通達はしていただけましたかね? こちらから誠意を持って話をせねばなりませんから、いつお目通りがかなうのか分かり次第お教えください。そしてこのような問題を起こしましたゆえ、わたくし個人としましてもなんらかの処分は免れないと覚悟して参りました。まずは幽閉ですか? 蟄居ですかな? すべてを通り越しての処刑でしょうか」
「え? ぇ? 処刑?」
「声まで(規制)なのだな、(規制)にくちを開く権利を誰ぞ与えたか? 黙っていろ」
「な……っ、なに、」
あまりの罵詈雑言に聖女は舌がもつれて言葉も出ないらしい。ミレフォリエはその姿にやはり畜生ともなるとひとの言葉を操るのは難しいのだなと納得した。あのような畜生と触れ合える第三王子の悍ましさも再確認していたところで、王が深く息をついた。少ない時間で老いたかのように見える。心労は凄まじかろうな、ミレフォリエも人生で初めて感じた怒りで疲れを感じたので、恐れ多くもその心労を内心で慮った。
「侯爵、息女との婚約はこちらの有責にて白紙にいたそう。棄教の件も理解した。教皇との話し合いは必要だが、それを罪に問うことを今はせぬ。しばし王城に滞留はできるか?」
「もちろんでございます」
「そこのそれらを別に部屋へ入れて外には出すな。処分は教皇が来られてからになる。処分が決まるまで身を傷つけてはならぬが、逆らうようであれば指先から減らせ」
ひゅ、と、ふたりが息を呑む。
ミレフォリエは父と王に頭を下げてから、パインドア領で一生楽しく暮らせそうだなと口角を緩めた。
結果として、王都の大司教が降格になり、第三王子はサウザンドリーフ領から一番離れた痩せ地を男爵位とともに賜り聖女と移り住むこととなった。降格の王都の大司教もその男爵領へと移り住み、小さな教会に住まうことになった。第三とはいえ王子で、婚約の意味もわからぬ阿呆が十数年傅かれて生きてきた尊き身であるわたしがなぜとゴネてはいたが、王都に蟄居の場合はこれ以上臣下や民草に迷惑をかけないよう鉄棒でアキレス腱を貫き繋いでの幽閉になるなと伝えれば、ふたりは畜生なりに意味を理解したのかおとなしく男爵位と領地を賜って移住した。
侯爵は嫡男に侯爵位を譲り、しかししばらくは補佐もあるのでサウザンドリーフ領で過ごすことになった。サウザンドリーフ領は唯一神ではなくなり、それまでの神を敬うもよし、無宗教でもよし、それまでは日陰の身であった万物に神は宿るという教えの八百万教も大きく台頭し、三種へと別れた。宗派の変更は自由だが、他宗教への誹謗中傷や無理な勧誘は厳しい罰則を制定し、多少の問題はありつつもまわりはじめている。
領主は無宗教よりの唯一神信仰となった。ミレフォリエの身の上は領内に広く知られ、聖女は神の過ちであるという説や、神からの試練であったという説、神が愚かな王子から領主子女を救うための生贄を与えた説など、諸説が生まれて百年以上先の未来で研究対象となるが、とりあえずミレフォリエは無宗教派となった。そして神も過ちを犯すのですなあというサウザンドリーフ領に骨を埋める覚悟を表明した大司教の言葉により一理あると呟き、その考えを軟化させた。
ミレフォリエに与えられたパインドア領は唯一神信仰でなくなったがために、それまでのリゾート婚がさらに自由度を増して人気を博すこととなった。もちろん畜生どもは気持ちが悪いのであの男爵領に住まうものたちは受け入れなかった。領内への出入りも禁止した、なぜって悍ましいので。
そんなミレフォリエでも領内で良い出会いがあった。兄嫁の知り合いを紹介されて、同じような価値観でもあった伯爵家の次男である。聖女の行いを耳にしてその悍ましさにやはり棄教した人物らしく、話をしていくうちに互いに好ましさを感じたので父に報告をして、その後つつがなく婚約に至った。
聖女を名乗った畜生の前に聖女の認定をされていた老女が亡くなったという知らせは王国内に知らされ、その老女を世話していた血もつながらない娘が新たな聖女として認定された。彼女は畜生とは違って本物の聖女だったのでミレフォリエも唯一神への態度を軟化させた。その後も無宗教ではあったし、神像を身近に置くことはしなかったが聖女とサウザンドリーフ領の大司教への敬意は持つことができるようになった。
かの男爵領は聖女を名乗る畜生が頑張って、我こそが神の遣いなどと宣ったので邪教と正式に認定されて男爵領は呪われた地と認識され、やがてその血を絶やすに至った。その知らせを後年耳にしたミレフォリエはさもありなんと頷き、呪われた地は焼くべきだと夫にも告げたものだ。
侯爵家に生まれ、伯爵位を得て、齢七十を迎えるミレフォリエは無宗教ながらも楽しく健やかに生きて、子どもや孫にも愛されて、幸せで穏やかな一日を今日も過ごしている。




