██の肉 100g21円
暇潰しに散歩していたら、見知らぬスーパーを見つけた。
ふらっと立ち寄ってみれば、昼間からそれなりに混んでいる。
スーパーの精肉コーナーを歩いていると、担当者の元気な声が聞こえてきた。
「安いよ安いよー。セール中だよー。どんどん買ってよー」
たまには肉も良いかもしれない。
そう思った私は、精肉コーナーに並んだ商品をチェックする。
牛、豚、鶏……そんなに安くない。
セールと言っても一割引きのシールが貼られているだけだ。
金欠の私にとってはかなりの出費である。
しかしそんな中、奇妙な商品が目に入った。
パックには「██の肉」と表示されている。
肝心の部分は黒塗りで読めない。
成分表を確認しても同様に黒塗りだった。
ただ、100g21円と異常なまでに安い。
財布事情が厳しい私にとって、これは見逃せないものだった。
私は精肉担当の店員に話しかける。
「あの……」
「なんだいお嬢ちゃん」
「これって何のお肉なんですか?」
私が尋ねると、店員は少し考え込む。
それから屈託のない笑顔で言った。
「██の肉だよ」
「え?」
「だから██の肉だって。他の店じゃ取り扱ってないんだ。買うなら今がチャンスだよ」
店員は嬉々として購入を促してくる。
しかし、肝心の部分が聞こえなかった。
口パクみたいにそこだけ無音になっていたのだ。
(私の耳のせい? そこだけわざと誤魔化すとも思えないし……)
明らかに怪しい。
でも何の肉かしつこく訊くのは申し訳ないし、なんだか怖かったので私は精肉コーナーを離れる。
その時、背後から店員の声が響き渡った。
「よーし、出血大サービスだ! この██の肉を一キロ買うだけで、今日の会計がすべて八割引きになるよー。お得すぎるから買ってってねー」
私はぎょっとして振り返る。
例の肉を一キロ……すなわち210円。
それだけで全商品の会計が八割引きになる。
破格も破格……とんでもないサービスだ。
そうこうしている間に、精肉コーナーに客が集まってくる。
██の肉の肉を取り合っているのだ。
悩んだ末、私もその中に飛び込んだ。
◆
自宅に着いた私は、キッチンでスーパーの袋を開ける。
中にはお惣菜やお菓子と一緒に、一キロの██の肉が詰め込まれていた。
熾烈な争奪戦に勝利し、なんとか買えたのだ。
おかげで他の商品も大幅値引きになってくれた。
あのスーパーは大当たりだ。
これからも通ってみようと思う。
「さて、どう調理しよう……」
なんせ一キロもあるのだ。
色んな料理ができる。
ということで、まずはシンプルなステーキにしてみようと思う。
フライパンで油を熱し、そこにちょうどいい厚さにカットした██の肉を投入する。
しっかり焼き目を付けて裏返し、火が通ったのを確認してから皿に移した。
恐る恐る一口目を食べた私は少し驚く。
「あ、意外と美味しい……」
あれだけ安いのだから、味には期待していなかった。
それなのになかなか悪くない。
高級肉といった感じではないものの、ジューシーで噛み応えがあってくどさもない。
とても食べやすい肉だった。
(これなら他の料理にも合いそう……)
買い物に成功した私はテレビをつける。
ちょうどニュース番組が放送されており、画面には私が昼間に利用したスーパーが映っていた。
精肉コーナーで店長の死体が見つかったらしい。
死体の大部分が行方知らずで、警察が捜索しているのだという。
「物騒だなぁ」
そう呟いた私は、██のステーキをぱくりと食べた。




