居場所作りは正義?
この章では学生時代の倫心と佳純の思い出などが描かれてます。
読んで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
研修の帰り道。いつもと違う電車に揺られながら、倫心は佳純の言葉を反芻していた 。
「居場所なんて、他人に用意してもらうもんじゃない」
その拒絶に近い一言が、今の自分の仕事の根幹を突き刺してくる。
電車の入り口付近では、ジャージ姿の女子学生グループが
大きなスポーツバッグを抱え、楽しげに談笑していた 。
彼女たちの姿は、倫心を佳純との輝かしい日々へと導いていく。
私たちは最初から、「ツーカーペア」ではなかった 。
「後ろカバーして」
「後ろって、どっち?」
そう真顔で聞き返された時は、耳を疑ったものだ 。
「右前出て」
「右前って、誰から見て右?」
そんなやり取りを繰り返すうちに、ようやく気づいたんだ。
佳純ちゃんは曖昧な言葉では、一歩も動けないのだということに 。
そこから、私たちの「仕組み作り」が始まった。
二人でコートの隅から隅まで長さを測り、佳純ちゃんの正確な歩幅を割り出した 。
家に帰ってからはコートの縮小図を書き、緻密な作戦を練る毎日。
何センチ進み、何歩下がるべきか。
佳純ちゃんが迷わず動ける具体的な数値を、必死に探し続けた 。
コートと縮小図に目印のシールを貼り、一つ一つの位置に名前を付ける 。
二人だけに通じる合言葉で指示を出し合った 。
そうして歯車が噛み合った瞬間、ラリーは淀みなく続くようになった 。
相手が読むことのできない、機械のような正確な動きで点を取る 。
あの時の快感は、何物にも代えがたく、誇らしかった 。
神経をすり減らし、どれだけ気を遣っても佳純との縁を切りたくなかったのは、
間違いなくあの日々の輝きがあったからだ 。
今にして思えば、あの頃の私が必死にやっていたことは、
研修で学んだ『構造化』だったのかもしれない 。
けれど、あの時あんなに頑張れたのは、二人で勝ちたいという目標があり、
何よりバドミントンが好きだったからだ 。
責任を伴う「仕事」として、他人の居場所を職場に作る……。
あまりにも重すぎる。
駅に着き、女子学生たちの間を抜けてホームに降りる 。
鼻腔に残った制汗スプレーの香りが、記憶の中の情熱を呼び起こすほどに爽やかすぎて、
倫心は再び、逃れられないめまいに襲われた 。
読んで頂きありがとうございました。




