プランと研修
この章ではプランと研修内容が書かれています。よろしくお願いいたします。
倫心は、自分が社長室に呼ばれる日が来るなんて思ってもみなかった。
大企業よりはトップの存在が身近であるが、
それでも社長と話すような社員は限られていた。
目の前で社長の翔が、自分が作成した『障がい者スタッフ採用計画』を
じっくりと確認している。
両隣には部長と田中もいるが、作成者の名前は『香山倫心』と記されている。
倫心は緊張でふわふわと落ち着かず、手のひらに汗をかいていた。
「1年~2年かけて『法定雇用率』達成を目指すプランですね」
「は、はい」
倫心はいつもより、甲高い声で返事をする。
「まずは我が社が外部研修でノウハウを学んで、インターンを受け入れて、
条件を検討して、面接をして、採用の流れですね」
「そのようになります。よろしいでしょうか?」
倫心は恐る恐る、確認した。
「はい。研修には私も参加します。一緒にがんばりましょう。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
倫心に続き、部長と田中も挨拶をした。
研修の前日。
倫心はいつもより早めに就寝したが、眠れない。
社長と共に研修を受けると考えるだけで落ち着かなかった。
スマホでヒーリング音楽を聴いてみたり、
読書をしてみたりして、なんとか眠りについた。
研修当日、公共施設の研修室。
倫心と翔と田中が並んで座り、研修を受けている。
自治体主催、中小企業向け「障がい者雇用セミナー」の講義1日目。
本日の内容は『障がい特性について』
倫心は、社長が隣にいるだけで緊張していたが、講義が始まると資料を見ながら、
新しい情報を吸収するのに必死。
『精神障がいの主な特徴』
• 疲れやすい
• 考えがまとまらなくなることがある
• 変化に弱い
• 波がある
『発達障がいの主な特性』
• 感覚過敏や鈍感
• コミュニケーションの困難さ
• 柔軟性の欠如
• 集中力の維持の難しさ(渦集中と無気力を繰り返す)
• 暗黙のルールの理解が困難
• 相手の気持ちを読み取るのが苦手
『知的障害』
・複雑な事柄理解の困難
・計算や読み書きの困難
・ 臨機応変な対応の難しさ:
・ コミュニケーションの困難
欠伸をしている田中が視界に入ったが、倫心は気に留めず、講義のメモを取った。
2日目のテーマは『仕事の切り出しと合理的配慮』
3日目のテーマは『職場定着』
倫心は3日間、10時から16時までの研修をなんとか乗り切った。
最終日、翔が「これ、二人の打ち上げ代」と田中に5,000円を差し出した。
倫心は遠慮したが、田中は「ありがとうございます」と躊躇なく受け取った。
翔は「お疲れ様でした。これからよろしくお願いします」と
挨拶だけして去っていった。
倫心が翔のことを気遣いができる経営者だと感心している横で
田中は「お小遣いゲット」と大人気なく喜んでいた。
「田中さん、社交辞令でも一回は遠慮するもんなんじゃ…」倫心は突っ込みをいれてみる。
「好意は有難く受け取るもんだろ。ってか、これくらいの良いことがないとやってられないよ。
どうする?山分け?」
「家で復習したいんで、テイクアウトを買って帰りましょう」と倫心は提案すると
「了解」と軽い返事をした。
倫心は気になることがあったので、早く一人になりたかった
読んで頂きありがとうございます。