スペシャルコミュニケーションを楽しもう
いつも応援ありがとうございます。
この章では特性に少し触れております。
特性の捉え方、視野の広げ方も描写してみました。
ご一読頂けたら幸いです。
応募者の赤川は、志望動機から話が脱線し、
『彩クリスタルズ』について熱弁を振るい続けている。
面接官の舟木社長と田中、そして倫心は、ただただ圧倒されていた。
田中は手元の履歴書に目をやる。
『赤川海星 26歳、男性。
ADHD(注意欠如・多動症)。精神保健福祉手帳2級。
前職はWEB制作会社社員』
赤川の話は止まらない。
「『彩クリスタルズ』は本当に凄いんです。
三人ともガラス工芸店の娘で、
歌もダンスも高校から始めたのにプロ並みなんですよ。
KOBARUTOちゃんは青、KUROMUちゃんは黄色、
SERENちゃんは赤が担当カラーです。
名前の由来は、ガラスに色を付ける時の金属酸化物からきているんです。
KOBARUTOちゃんの好きな食べ物はブルーハワイのかき氷、
KUROMUちゃんはバナナ、SERENちゃんはリンゴ飴です」
ようやく話が途切れた隙に、田中がすかさず切り込んだ。
「詳しい情報をありがとうございます。
あの、弊社は『彩クリスタルズ』のグッズ制作をしていますが、
仕事はそれだけではありません。他の業務も担当していただくことになりますが、
大丈夫でしょうか」
「はい……。でも、出来れば『彩クリスタルズ』のグッズ制作をやりたいです」
正直すぎる答えに田中はたじろぎつつも、スキルの確認のため質問を続ける。
「最終学歴はPCの専門学校ですね。
WEB制作を学ばれていますが、具体的にはどのような作品を
制作されましたか?」
「本当はPC作業は好きではありませんでした。
母に『発達障がい者はPC作業が向いているから』
と無理やり専門学校に入れられたんです。本当に嫌でした」
舟木社長は、赤川の様子をじっと観察していた。
聞かれてもいないことまではっきりと言う。
その言葉の裏には、一切の建前がない。
忖度や妥協が命取りになるモノづくりの現場において、
この「徹底した正直さ」は、時に長年培った熟練の技術をも凌駕する武器に
なるかもしれない。
「こういう人材も、これからの会社には必要だ。
個性を活かせば救われる…」
舟木が小さく頷く。
「そうだったんですね。それでも、WEB制作会社に就職されていますね」
倫心も質問を投げかけてみる。
「はい。それしか出来なかったからです」
あまりに正直な発言に、面接官全員が一瞬フリーズし、沈黙が落ちた。
空気が読めない、本音と建前を使い分けられない。
ストレートに思ったことを言い、
TPOにそぐわない発言をしてしまう。話が一方的――。
特別な……スペシャルコミュニケーションだ。
スペシャルな特性を、スペシャルだと受け入れて、会話を楽しめばいい。
倫心は視野を広げた。
赤川が放つ剥き出しの言葉たちが、倫心の記憶の湖を激しく揺さぶる。
佳純ちゃんのコミュニケーションも、スペシャルだった。
倫心は心のダムを作り、溢れ出しそうな感情をせき止める。
今、ここで決壊させるわけにはいかなかった。
ミーティングルーム。
倫心と田中は二人の面接を終え、打ち合わせをしていた。
「どうしようかね…。赤川さんのインパクトは強烈だった……。
『彩クリスタルズ』のガチファンだな」
田中が率直な感想を漏らす。
「推し愛が凄かったですね。
うちがグッズを制作していることに辿り着くなんて。
求人票には書いていなかったのに、相当な情熱ですよ」
倫心も感心したように応じた。
「まあ、あれだけ情熱があれば簡単には辞めなさそうだけど……
その情熱をどう活かす?」
「こだわりは強そうですよね。
検品担当なら、グッズの不良を絶対に見逃さないんじゃないでしょうか」
「だな。とりあえず、それぞれの応募者の採用時プランを
作って社長に選んでもらおう。俺たちには決定権はないから」
「わかりました。プランをまとめます」
倫心と田中はミーティングルームを後にした。
帰宅し、自室に戻った倫心はスマホの画面を確認する。
メッセージアプリに、佳純からの連絡はない。
「お母さんと話せた?」「検査は受けたの?」
自分から聞く勇気も持てないままだった。
面接中、心にダムを作って必死に押し込めていた感情が、今、溢れ出す。
佳純ちゃんは幼い頃から「あの子は変わってる」と陰口を叩かれていた。
バドミントン部に入ってからもトラブルが絶えず、
団体戦でミスした部員に「あんたのせいで負けた」と言い放ったこともある。
佳純ちゃんに責める感覚はなかったのだろう。
ただ、事実を伝えているだけ。
特性ゆえに相手の気持ちを推し量れなかっただけ。
大好きなバドミントン選手の話を、
一方的に話し続けていたこともあった。
好きなことに対するこだわりが人一倍強かっただけ。
大学生になると、はっきり言ってくる友人もいた。
「佳純はバドミントンは上手いけど、性格が終わってるよね。
倫心はよく一緒にいられるね」
あの時、自分はなんて答えたっけ…。
多分、へらへらと笑って誤魔化したはずだ。
職場で何があったか、佳純ちゃんは何も言わなかった。
けれど、きっと、いたたまれなくなってフェイドアウトしてしまったのだろう。
自分の放った言葉が意図せず誰かを傷つけ、
凍り付いた空気の中で、どう振る舞えばいいか分からずに……。
空気が読めないからって、傷つかないわけじゃない。
佳純ちゃんも、
「なんで自分はいつもこうなってしまうのか」と、
一人で悩んで苦しかったはずだ。
凹凸のない人間なんていない。
人間の不完全さを埋めるために開発されたAIだって、時にはバグを起こす。
この世に完全な物なんて、存在しないのかもしれない。
でも、そんなことはどうでもいい。
その人の「凸(強み)」を、この場所で活かしきることができれば、
それでいいのだから。
そして、共に働くために。パズルを完成させるために。
私たちは、
お互いの凹凸をほんの少しだけ
整え合う必要がある。
それは決して、
誰かが我慢を強いられる「負荷」ではない。
新しい形へと生まれ変わるための「進化」だ。
「佳純ちゃん、私はここでブーストして待ってるからね」
倫心は決然とした面持ちでPCを立ち上げた。
画面の光が、迷いの消えた瞳を青く照らし出す。
『赤川海星 採用・定着支援プラン』
タイピングする指先に、もう躊躇いはなかった。
赤川が持つ「推し」への純粋な情熱も、
ユニークな強みも、すべて活かしてみせる。
これは単なる採用計画書ではない。
ようやく、必要なピースはすべて揃ったのだ。
凸凹を繋ぎ合わせるための、完璧なプロットだ。
倫心は、すぐに思い知ることになる。
相手の心の扉を開けるパスキーを、誰もが持っているわけではないことを。
プロット通りに運ぶことなど、ただの一度もないということを。
修正のポイント
読んで頂きありがとうございます。




