あなたの気持ちは全部宝物
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描いてみました。
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よろしくお願いいたします。感想お待ちしてます。
「眠くなったら、寝ても良いですからね。」
倫心は助手席に座る宮西に優しく声をかけた。
宮西は前日、工場でヒートアップしてしまった気まずさから
倫心に対してまだ不機嫌な態度を崩せずにいた。
倫心と宮西は社有車で移動中だ。
目的地は『秋の紅葉祭り』の会場。
ご当地アイドル『彩クリスタルズ』のミニライブが催されるイベントである。
休日出勤はイベント視察のためだった。
『彩クリスタルズ』は、ガラス工芸が盛んな地域を盛り上げるために結成された
ご当地アイドルだ。
SNSや地方イベントを中心に活動しており、まだ知名度はそれほど高くない。
しかし、グッツ制作の発注をくれる彼女達の運営会社は
セーリングプリントの大切な取引先だ。
二時間後、イベント会場の駐車場に到着した倫心は、
隣でぐっすりと眠っていた宮西を優しく起こした。
「宮西さん、起きて下さい。着きましたよ。」
「え?着いたの」 宮西は欠伸をしながら答える。
車を降りると、ひんやりとした秋の空気が二人の肌を撫でた。
視界いっぱいに広がる木々の紅葉が鮮やかに目に映る。
「葉っぱがきれい」 宮西の口から自然と感嘆の声が出る。
紅葉に照らされて赤らんだ横顔を見て、倫心はそっと胸を撫で下ろす。
『秋の紅葉祭り』のゲートをくぐると、色とりどりの屋台が立ち並び、
香ばしい匂いや甘い匂いが混じり合って食欲をそそった。
家族連れやカップルで賑わい、あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「すごい人ですね」倫心は目を細めて人混みを見渡した。
宮西はまだどこか不機嫌そうな顔をしていたが、
祭りの活気に少しだけ興味を引かれているようだった。
「彩クリスタルズのステージはあっちみたいですね」
倫心は案内板を指差しながら、宮西に声をかけた。
ステージ前には既に多くの人が集まっており、
色鮮やかなサイリウムが揺れている。
「思ったより沢山の人が応援してる」宮西がポツリと呟いた。
ファンの数は四十人ほどであったが、倫心もまた、
想定した人数より多くのファンがいることに驚いていた。
二人はステージから少し離れた場所から、
『彩クリスタルズ』のパフォーマンスを視察することにした。
キラキラと輝く衣装を身につけたメンバーたちが、歌声とダンスで観客を魅了する。
彼女たちの首元では、モチーフであるクリスタルのチョーカーが光を放っていた。
歌の合間には、メンバーが地元のガラス工芸の魅力を語るコーナーもあり、
会場は温かい拍手に包まれた。
ステージが終わると、『彩クリスタルズ』の物販コーナーは大行列になっていた。
そこには昨日、宮西が床に投げつけてしまった物と同じデザインのクリアファイルが
売られていた。
「あっ…」 クリアファイルに気が付いた宮西が声を漏らす。
倫心は何も言わず、宮西の様子を見守った。
クリアファイルを手にしたファンは皆、心底嬉しそうだ。
「かわいい」
「もったいなくて使えない。飾っておこうかな」
ファンの歓喜の声が聞こえてくる。
その光景をじっと見ていた宮西は
「ごめんなさい」 と涙をこぼし始めた。
「私、怖かったの。会社で働くの初めてで…みんな、すごくて…」
倫心は宮西の宝物を見つけ出した。
「そうだったのね。静かなところで話そうか。」
倫心は宮西の肩を支えるようにして、ライブ会場を後にした。
会場から離れた、誰もいないベンチに倫心と宮西は腰かける。
「話してくれてありがとう」
「…」 倫心は宮西の顔を覗きこんだ。
「不安だったのよね。怖かったね…」
「うん」
「あんなこと本当はしたくなかったよね?」
宮西は黙ったまま頷いた。倫心は反応を確かめると
「そしたら、これからはその気持ちをちゃんと川原さんや私に教えて下さい」
とゆっくり伝えた。
「いいの?わがままって言わない?」 宮西は疑いの視線を倫心に向けた。
「言わないよ。だって、宮西さんの気持ちは宝物だもの。
大切にしないとね」
「宝物?」
「宮西さんの宝物ってなあに?」
「ユルンルンのぬいぐるみ」
「そうなんだ。ユルンルンが好きなんだね。ユルンルンはお家にあるの?」
「うん。ユルンルンを宮西さんが大切にしなくなって、ほっといたら、
汚れて汚くなってしまう。そしたらユルンルンは可愛くなくなってしまうかも
しれないよね?」
「そんなの嫌だ」
「そうだよね。宮西さんのどんな気持ちもユルンルンと同じ。宝物」
「ユルルンと同じ、宝物…」
「そう、大切にしないと、汚くなってしまう。別の物になってしまう。
分かるよね?」
「…うん…。これからはちゃんと言う」
「お願いします」
「…宝物…ファンの人、みんな嬉しそうだった…」
「そうだね。みんな笑顔だったね」
「あのファイルはファンの人達の宝物なるのかな?」
「きっとそうだね」
「私が包んだり、箱に入れたり、貼ったり出来るようになったら、
また喜んでくれるかな」
「きっと、喜んでくれるよ。宮西さんの仕事はとってもすごいお仕事。
宝物を包んで、沢山の人を笑顔にするお仕事だよ」
「私、お仕事がんばる。沢山の人に喜んでもらいたい。
でも…川原さんと喧嘩しちゃった…どうしよう…。」
「どうしようか…」
「喧嘩をしたら…『ごめんなさい』って謝る。お母さんが教えてくれた」
「そうだね。『ごめんなさい』しよう。川原さんは優しいからきっと許してくれる」
倫心は宮西の宝物は、色見本の色には例えられないが、
明度も彩度も透明度も高いということだけは、確信が持てた。
読んで頂きありがとうございます。
仕事をしながらの投稿ですので、定期的にとはいきませんが
書くことは好きなので、新章が出来次第投稿します。
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