メタメリズム
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改訂しました・・・。
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休憩室。
急な残業を終え、疲れ果てたパート社員たちは田中と共に休憩室へとなだれ込んだ。
宮西が破損させてしまった、アイドルグッズのクリアファイルを急いで印刷し直し、
当日の発送になんとか間に合わせたのだ。
パート社員達は疲労感と不満を田中にぶつける。
「もう、くたくたよ」
「全部、あの子のせいよ」
「なんなの、あの態度は?許して良いの!?」
「障がい者だから特別なの?」
「皆さん、お疲れさまです。残業代を
割り増し出来るか社長と交渉しますから」
田中はなんとかパート社員達の気持ちを納めようと
試みる。
「あの子は特別扱いなの?」
「何をしても許されるの?
「田中さん、どうにかしてよ!」
「そうよ。川原さんが可哀そうよ!」
田中はパート社員たちの勢いに押され、
冷静さを失いだじろぎながら
「えーと……メタメリズム…みたいな」
とぼそりと言った
「はあ?」
高齢の吉田が聞き返す。
「皆さん、サンプルの印刷物を必ず室内照明
だけではなくて、外に出て、色味を確認
しますよね。メタメリズムです。
当たる光で色味が違ってしまうからです。
当てる光をかえませんか?」
「私が悪いの、私の光の当て方が悪かったの」
川原が泣き出した。
「川原さんを責めたくて言ったのでありません」
田中が慌てて言葉を紡ぐ。
「ドラマじゃあるまいし、
失敗しない人なんていませんよ。
皆同じです。
失敗から学んで、進化していけば良いんです。
人事部にも障がい者社員がいます。
無理させ過ぎて、危うく飛ばされそうに
なりました。
そこから、相手をちゃんと見るように
なりました。
正直、今でも『めんどくせー』
『担当、外れたい』って思ってますよ。
でもやっぱり、どちらかを選べと
言われたら、一緒に仕事する前の自分より、
今の自分の方が良いんですよ。
なんか余白がある今の自分の方が……なんか
……色々・・・。
彼女が新しいアクセサリーつけてるの
気付いちゃって…
『いいじゃん』って褒めてみたら、
ご機嫌になったし、
愚痴を漏らす友達に対しても、
今までだったら『ダサい』で終ってたけど、
ちゃんと聞けるようになった。
この間この歳で『お前、変わったな』って
言われた。なんか・・・なんか・・・」
田中は言葉がまとまらず、しどろもどろになる。
「そうね。今の田中さんの方が、なんか…良いわ」
「それはそう……」
「皆一緒か……私も昔インクの分量間違えて
不良品を100個作ったことある……」
「私は発送ミスして、営業さんに
商品届けてもらった……」
吉田が川原の肩に手をかける。
「川原さんも…田中さんの良いこと言った。
印刷物と一緒よね。当てる光をかえましょう。
どんな光なら、宮西さんが輝くか聞かないと」
「そうですよね」
川原が涙を拭いて、顔を上げた。
「私、宮西さんとちゃんと話したい」
その目には、確かな決意がこもっていた。
本社人事室。
田中は人事室に戻ると倫心が電話対応していた。
「はい。車で伺います。よろしくお願いします。
失礼します」
気を引き締めて、倫心はゆっくり受話器を置く。
「ああ、疲れた」
田中はぐったりと椅子に座りこみ、
ネクタイを緩め
「そっちはどう?」と倫心に聞いた。
「なんとか、落ち着いてもらって、
今日は片づけだけして、退社して頂きました。
宮西さんからは結局、理由は聞けませんでした。
みなさんはどうでしたか?」
「商品の納品はなんとか間に合った。
パートさん達も宮西さんと話し合いたいって
なったよ。もちろん、川原さんも」
「よかった。話し合わないとですね。
でもその前に宝探しの旅に出ないと」
「はあ?」
「先程、ご両親には了承を頂きました」
「え?」
「もちろん、社長にも報告済みです。
社有車の使用許可も取ってあります」
「そういうことじゃなくて、
宝探しって何?どこに行くの?」
宮西家リビング。
倫心は宮西家を訪問し、一人でリビングの
ソファーに座り、待っていた。
なんとなく周りを見渡す。
一見すると清潔で洗練された空間。
壁の不自然な位置に貼られたタペストリー。
フローリングの傷。
おしゃれな飾り棚に飾られたトロフィー、
額入りの表彰状、家族写真、
その中に倫心が送付した
『採用通知書』もあった。
トロフィーの刻まれた名前はおそらく
宮西の兄妹のものだろ・・・。
もしかしたら・・・。
倫心は思案を巡らせていると美香里の母、
真理がお茶を持ってキッチンからやってきた。
「お待たせいたしました」
真理はお茶を倫心の前におき
「この度は美香里がご迷惑をおかけいたしまして
申し訳ございません」
と頭を下げた。
「お母様頭を上げて下さい。こちらの対応にも
問題がありました。申し訳ございません。」
倫心も頭を下げる。
「その後、美香里さんのご様子はいかがでしょうか」
「ずっと、部屋にこもっています・・・。
やっぱり、無理だったんですよね。
皆さんと一緒に働くなんて・・・」
「・・・・」
倫心は落胆している真理にかける言葉が見つからない。
少し話題を変えるために飾り棚のトロフィーに
目をむける
「あちらのトロフィーは何の大会ものですか?」
「ああ、あれは長男が剣道の大会でとったものです」
「宮西さんのお兄様。あちらは
英検準1級の合格証ですよね」
「ええ、まあ、お恥ずかしい・・・。
高校生の次女が舞い上がって飾ってしまって…
見せびらかすものではないですよね・・・」
「弊社の採用通知書も飾って頂いて・・・」
「・・・美香里が飾りました・・・
妹の真似をしたんだと思います・・・」
「飾って頂いて嬉しいです」
「決して言い訳するつもりではありませんが
美香里は同じになりたかったんだと思います。
生まれた時から『特別』で…。特別支援学級、
特別支援学校。兄妹は先回りして世話を焼く…」
倫心の脳裏に川原の「お世話係」の文字が浮かぶ。
「特別扱いされないと生きていけないことも
あの子なり分かっていると思います。
でも、同じになりたい憧れがある。
だから、就職活動だけはあきらめなかった」
倫心は『採用通知書』に目をやる。
金色のトロフィーの輝きの横で、
少しだけ端が折れた採用通知書の白い紙が、
まるで彼女の震える自信そのもののように見えた。
「『特別』に過剰反応して、
家でも暴れることがあります。自分のモヤモヤを認識して、
言語化して、発信することはIQ70の美香里は
難しい・・・。だから、的はずれなことを言って
叫ぶんです」
倫心の脳裏に「私は障がい者なのよ。優しくしてよ」と叫んだ美香里の姿がフラッシュバックする。
「家族は無理して、一般の会社で働かなくてもいいと思ってます」
「・・・」
「もう十分です。御社は美香里の夢をかなえてくれた。あの『採用通知証』があれば十分です」
「十分ではありません。弊社に・・・
私にもう一度チャンスを下さい。
美香里さんとお話しをさせてください」
北岡さんの時のようにこじらせるわけにはいかない。
倫心は決意を固める。
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