言葉に出来ない…だけどちゃんとある
いつも応援ありがとうございます。
おかげさまで先日ランクインしました。
嬉しくて衝動的に続きを投稿しました。冷静になってもしかしたら改訂するかもです・・・。
読んで頂ければ幸いです。
「なんでこんなことに……」
倫心はあまりに非日常な光景を目の当たりにして、判断し行動することを止め、
理由を考えることに逃げたくなった。
工場の発送作業場。
本社から駆けつけた倫心と田中が到着したとき、
そこは修羅場と化していた。
「まじか……」
田中は思わずぼやいた。
床には発送用の梱包材が広範囲に散らばり、
ヒートアップした宮西が、
指導員の川原を鋭く睨みつけている。
川原は宮西をなだめようと必死だった。
「ごめんね。私の言い方が悪かった。お願いだから落ち着いて。体に悪いわ」
「私のこと、馬鹿だって思ってるんでしょ!」
宮西は商品のクリアファイルを床に叩きつけた。
プラスチック特有の乾いた音が、作業場に響き渡る。
川原の表情は血の気が引いて、青ざめていく。
「そんな言い方ないでしょ!川原さんはあなたの為を思って言ったのよ」
「そうよ。それくらい分かるわよね」
様子を見ていた他の女性パート社員たちは、まるで堰を切ったかのように、
口々に川原の味方をし始めた。
「私は障がい者なのよ! みんな優しくしてよ」
宮西は梱包用の包み紙を、次々と破り始める。
「何様のつもり!」
「何をやっても許されると思っているの?」
「態度が悪すぎる。障がいは関係ないわ。人としてどうなのよ」
怒ったパート社員の罵倒が飛び交う。
「私が悪いの。宮西さんは悪くない。皆さん、宮西さんを責めないであげて…」
川原はパート社員たちにも頭を下げる。その声は震えていた。
「まずは皆さんが落ち着きましょう。あちらで話しを聞きますから」
田中は状況を収めるべく、川原の取り巻きのようになっていたパート社員数名を
休憩室に移動するよう促した。
川原はしゃがみ込み、床に散乱した梱包材をかき集め出す。
「とりあえず、川原さんも行きましょう」と田中は、その肩にそっと手を置いた。
項垂れていた川原は、ゆっくりと立ち上がり、
「ごめんね」 と深い憂いを帯びた目で宮西をまっすぐに見つめた。
宮西は川原と目を合わせようとしない。
川原はとぼとぼと田中についていく。
「そっちはよろしく」 田中は振り返りながら倫心に告げ、休憩室へと入っていった。
発送作業場には、倫心と、荒れた宮西、そして散乱した梱包材だけが残された。
「みんな酷い……!」 倫心は宮西の悲痛な叫び声を聞いて、
理由を考えている場合ではないと我に返った。
「宮西さん、大丈夫よ。『みかりんの呼吸』しよう」
とりあえず、宮西の体の為にも興奮状態は良くないと、
応募書類に記載されていた配慮事項を思い出し、倫心は優しく声をかける。
「みかりんの呼吸……みかりんの呼吸、先生が教えてくれた。
4数えて、息を吸って、8数えて吐いて……」
宮西はブツブツとカウントしながら、指示された通りに深呼吸をする。
3度目の深呼吸で、宮西の荒れていた呼吸が落ち着き、目から力が抜け始めた。
「まずは片付けましょう」
「……」 倫心の呼びかけに、宮西は返事をしなかった。立ったまま、俯いている。
「どうして、こんなことしたの?」
「……」 宮西はやはり何も話さない。
倫心は床に散らばったクリアファイルの一つを拾い上げ、宮西の目の高さまで持っていく。
クリアファイルには、ご当地アイドル「彩クリスタルズ」の3人が、笑顔で印刷されていた。
「この子たち、知ってる?」
わずかな沈黙の後、宮西から小さな声が返ってきた。
「知らない……」
倫心は、宮西が言葉を返してくれたことに、ほっと安堵し、小さな喜びを感じた。
「『彩クリスタルズ』っていうアイドルなの。知らないよね。
まだまだマイナーだし。このファイルは、彼女たちのイベントグッズなんだ」
「ふーん」
宮西は不機嫌なまま、それでも倫心と一緒に、散らばったクリアファイルや梱包材を片付け始めた。
倫心は、宮西が言葉ではなく行動で応じてくれたことに、希望を見出した。
倫心は宮西の様子をじっと観察する。
言語化できないだけで、宮西さんにも理由がある。気持ちがある。想いがある。
宝探しだと思って楽しめば良い。焦らず、少しずつ、土を掘るように…。
時には地図を見せてもらい、そっと場所を指してもらっても良い。
どうにかして、見つけだそう。
理由なんて、形式的なものじゃなくてもいい。
ただ、宮西さんの宝物が、今、何色をしているのか、それを確かめたい。
読んで頂きありがとうございます。感想お待ちしてます。




