みんなで一緒に考えましょう
続きを書きました。仕事をしていて日々思うことを言語化してみました。
読んで頂けたら嬉しいです
「あの、どこに向かってるんですか?」
田中の後をついて行くように歩いていた倫心は、素朴な疑問をぶつける。
「本当は誰にも教えたくないんだけど…」 田中は周りに人がいないのを、
コントのようなオーバーリアクションで確かめてから言った。
「会社の近くに隠れ家的なカフェがあるんだよ。行ってみない?」
「え、あ、はい。お任せします」 倫心は少し引き気味に答えた。
どうも、田中の言動は倫心には不自然に見えてしまう。
急にため口になるのにも、何年たっても慣れない…。
ランチに一緒に行くと決めたのだから、付いていくしかない。
田中と倫心は、雑居ビルの地下にある、一人では入りにくいような佇まいの店に入った。
倫心はつい立ち止まり、店内をキョロキョロ見渡してしまった。
置かれている雑貨全てが個性的で、洋風でも和風でもない、独自の空間を演出していた。
「香山さん、こっち」 倫心は名前を呼ばれて、田中が座っている店の奥にある席に向かった。
ランチメニューは定食が2種類。とりあえず、田中と同じものを倫心も注文した。
「そういえば香山さん、バドミントン部だったんだよね」
田中は、倫心が考えないようにして一旦脇に置いておいた事柄を、
再び意識の中央に戻すような発言をする。
「は、はい」
「今でもバドミントンするの?」
「まあ、時々…」 倫心の表情が曇る。今はバドミントンの話をしたくはなかった。
「妹に『前髪切った』って言ったら、機嫌が良くなった。
親父に『なんか、いいことあった?』って聞いたら、
嬉しそうにべらべら一方的に自慢話を聞かされた」
倫心は田中の突然始まった脈絡のない話に、戸惑いながらも耳を傾ける。
「何が言いたいかっていうと、ポケモンでいうところの進化をしちゃったの。俺」
「進化…」
当然、国民的人気のアニメキャラクターが話題に出てきたが、倫心はなんとか話を合わせる。
「…なんか全部、俺が周りの変化に気づくようになったのって、北岡さんがきてからだよ。
はじめは正直、面倒な仕事の担当になって…なんで俺?って思ったけど…進化できたから、
良かったのかもって今は思う…で、進化した俺が気づいちゃったから聞いちゃう。
今日の香山さんはちょっと変、どうしたんですか? 言いたくないならいいんですけど…」
田中は最後の方で敬語に戻った。
倫心は田中が敬語に戻ったことで少しだけ安心して、思い切ってモヤモヤを打ち明ける。
「あの…こんなこと…田中さんにしか聞けないんですけど」
倫心が思い詰めたような表情になったので、田中は身構える。
「今から少し、変なこと聞きます。率直なご意見お願いします」
「は、はい」
「私の北岡さんに対する態度…問題ないですか?」
「問題?」
「憐れんでいるような言動になってないですか。上から目線になってないですか。
私は対等なつもりだけど、自分では分からないし…」
「そんなことか…」 田中が微笑しながら言ったので、倫心はイラつく。
「そんなことって…」 「ごめん…だって…なんて言うか…おかしくて」
「何がですか?」
「香山さんは香山さんだよ。びっくりするくらいに誰に対しても香山さん。
俺からすれば天然だから、悩む必要ないじゃんと思う。
誰も香山さんのようにはできない。
北岡さんからも何も言われてない。そのままで良いと思います」
「そのままって…」
「対等とか、平等とか、相手を理解するとか…そんなの答えなんてないじゃん。
一緒にいるためにはどうするか、一緒に考えていくしかなくない?」
「言われてみれば…そうですよね…」
倫心は田中の言葉で、答えのないことを考えてしまっていたことに気付く。
店員が定食を運んできた。
倫心は緊張からメニューを見ずに注文したので、
目の前のハンバーグを見てプレゼントを開けたようなワクワク感が湧いた。
倫心はハンバーグが好物だ。 「美味しそう」 思わず本音が漏れる。
「頂きます」 田中は食べ始めている。
苦手だと思っていた会社の先輩が自分を気遣ってくれた。
思い込みは良くないと倫心は脳内で反省会をしながら、ハンバーグをほうばった。
帰宅した倫心は佳純へメッセージを送った。
佳純のメッセージ
『昨日は巻き込んでしまって本当にごめん。色々落ち着くまで、
バドミントンは出来ないかな……。 ちゃんとお母さんを説得するから、
それまで待っててくれる?』
倫心のメッセージ
『もちろん、待ってるよ。佳純ちゃんが居てくれないと私が困ります。
一緒に出来ることがあったら、いつでも言ってね』
倫心は胸のつかえがとれて、良い脱力感に包まれる。
佳純も倫心から返信がきて、胸をなでおろしていた。
そして、母と…自分と…向き合わないとと覚悟した。
読んで頂きありがとうございます。近日中に更新予定です。
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