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法定雇用率達成を目指して共生について考えてみたら、みんなが進化した  作者: 青海


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合理的配慮…その前に

北岡は息苦しいくらいの緊張で体中が硬直していた。


衝動的にセーリングプリント株式会社に電話をしたが

社会人として非常識な無断欠勤をしてしまった事実を考えると

相手が良く思っていないことは予想が出来た。


コール音が頭の中で鳴り響く、怖くなって、

電話を切ろうと思ったら 人事の田中が電話に出た。


「あの…」 北岡は緊張でうまく言葉を発することが出来ない。

「北岡さんですよね?」


「はい」北岡はなんとか返事をした。

「連絡ありがとうございます。体調はいかがですか?」

「あの…。ご迷惑をおかけして、大変申し訳ございません。ええと…」

「一度、お話ししましょう。出社出来そうですか?」

「は、はい」

「スケジュール決まったら、メールします。確認して返信下さい。」

「かしこまりました」

「失礼します」 田中は言葉に詰まっている北岡を気遣い電話を手短に終わらせた。



隣の席で田中の電話を見守っていた倫心は胸をなでおろす。

「連絡がとれて良かった」安堵から本音が漏れる。

「だな。社長に報告しよう」 倫心と田中は社長室へむかった。



翌日。 会議用に配置されたセーリングプリント株式会社会議室。

下座から北岡、倫心、田中が着座し 社長の入室を待っていた。

机や椅子の配置は違うが北岡が面接を受けた部屋と同じだった。

「始まった部屋で終わる話しをするのか」 北岡は心の中でつぶやく。


舟木社長が入室してきた。

北岡達3人は立ち上がりそれぞれ「お疲れ様です。」とあいさつをする。

舟木が上座に座ったのを確かめて、3人も着座する。

「舟木社長、本日はお忙しいなかお時間を作って頂きありがとうございます。

この度はご迷惑をおかけしまして大変申し訳ございません。

処分は甘んじてお受けします」 北岡が声を震わせながら謝罪し、頭を下げる。

「北岡さん、頭を上げて下さい。体調はもう大丈夫ですか」

舟木は笑顔で北岡を気遣う。

「は、はい」北岡は舟木の反応が思っていたのと違ったため、困惑する。

「人事社員から聞きました。今までの面談では

『問題ないです』『大丈夫です』しかおっしゃらなかったと。

評価が怖かったのではないですか」

「…」 核心をつかれて北岡は言葉を失う…。

「試用期間は北岡さんが『使えるかどうか』を判断するための期間ではないことを

最初にお伝えしなかった私達に過失があります。申し訳ござません」

舟木社長は頭を下げた。

「社長…」 北岡は激しく動揺した。

一社員に社長が頭を下げるなんて思ってもいなかった。


「私も初めてのことで頭でかっちになっていました。 目の前の北岡さんに

何が必要だったのか分かっていませんでした。 申し訳ございません」

倫心が舟木社長に続いて頭を下げる。

「北岡さん、仕事出来るから、つい、頼み過ぎてしまって…大変でしたよね 。

申し訳ございませんでした」 田中も頭をさげた。

「…過失があるのは私の方です。きちんと相談すべきでした。

出社出来なくる前に…。自己管理が出来ていませんでした。申し訳ございません。」

北岡は想定外の反応が続いて、動揺しながらも本来の目的を思い出し謝罪した。

「最初の一人のあなたを簡単にあきらめたくありません」 舟木は宣言する。

舟木の宣言を聞いて、倫心が働き方の具体案を提示した。


「提案があります。週1回、在宅勤務の日を作るのはどうでしょう」

「え?」

「北岡さんはマニュアル作りが得意ですね。あと労務処理は俺より速い。

仕事量をその日の体調に合わせて決めて行きましょう 。

負担なく能力を活かす働き方を一緒に考えさせて下さい」

田中も仕事量の改善を打診する。

「失敗から学ばなければいけないのは皆一緒です。完璧な人間なんていませんよ。

北岡さんはどうしたいですか」

「もう一度チャンスを頂けるなら働きたいです。よろしくお願いいたします。」

失いたくない率直な気持ちを北岡は告げた。

「はい。共に成長しましょう」 舟木社長は北岡の気持ちを汲み取り笑顔を向ける。


倫心は入社してはじめて、この会社に就職して良かったと心から思った。

舟木社長は人として尊敬できる人物だった…。

会社を潰さないでお給料をくれればそれで良いと関心すらなかった…。


会社のためなんて古臭いと思っていたが

この社長の力になれることがあれば全力で貢献したいと今は思える。



「ありがとうございます。…また、『こんなはずじゃなかった』と

絶望しながら 帰ると思っていました。」 北岡は感謝から自己防衛が剥がれる。


「『こんなはずじゃなかった』って一度も思わずに大人になった人間もいないと

思います」 倫心は高揚感から自分語りをはじめる。


「見えないと思いますけど…これでも中学から大学までバドミントン部でした。

バドミントン選手になりたかったんです。でもなれませんでした。

就職しなくていけない現実をなかなか受け入れられませんでした。

分かったようなことを言うつもりは決してありません。あくまで個人の見解です 。

みんな不完全だし、失敗するし…。もやもやするし…。

だから、補いあって共に生きていけば良いと思います」

「香山さん、バドミントン部だったんですか?意外…。帰宅部かと思ってました」

田中が感動シーンを台無しにするような感想を大声で言う。

「えっ?帰宅部はさすがにひどくないですか。せめて、マネージャーとか」


人事課社員のやり取りを、静かに見つめていた舟木が口を開く。

「北岡さん、相談して、新しい働き方を探して下さい。


もう、絶対に一人で抱え込まないで下さいね」

北岡は深く、今度は心からの決意を込めて頭を下げた。


「はい。よろしくお願いいたします。」

「よろしくお願いします」倫心と田中も改めて挨拶をする。


『あいさつは心を開く鍵』

と新入社員研修で教わった気がしなくもない…と倫心は思い出していた。

北岡が心を開いてくれたかどうかはまだ分からないが

もう一度共に働けることになった。


ここからまたスタートすれば良い。

さっきまで重苦しかった会議室の空気が、やっと循環し始めたように思えた。



体育館。


倫心と佳純は壁に寄りかかるように座り、おしゃべりしていた。

「帰宅部ってひどくない?」 倫心は先日の田中の発言の愚痴を佳純に吐き出す。

「まあ、倫心ちゃんは小柄で細いから、一見運動やってそうに見えないかも…」

佳純はいつも通り思ったままを言う。共感が苦手なのだ。

「そうだよね」と倫心は笑った。


「倫心ちゃん、佳純に何を言ったの」

倫心は聞き慣れない声が突然耳に入り、驚いて声のする方を見上げた。

「おばさん」

「お母さん、何しにきたの?」 声の主は佳純の母だった。

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