どうすればよかったのか
一人では導き出せなかった大切なことを佳純から教わる場面です。
よかったら、読んで下さい。
「ツグちゃん、どうしたの? 何かあった?」
佳純は倫心が心配になり、ラリーを中断して声をかけた。
相手の様子を読み取ることが苦手な佳純でも、
今日の倫心がいつもと違うことは分かった。
体育館。
倫心と佳純は、いつものようにバドミントンをしていた。
倫心は集中できず、普段なら打ち返せるシャトルを何度も外してしまう。
ラリーが続かない。
心配した佳純がネット越しに声をかけると、
倫心は嗚咽交じりで「どうすれば…よかったのかな…」と訴え、
その場で泣き出した。
佳純は慌てて倫心のそばに駆け寄り、肩に手をかけ、
「とりあえず座ろう」と壁際に移動し、倫心を座らせた。
倫心は膝を抱え、俯いてしばらく黙っていた。
佳純はなんと声をかけていいか分からず、ただ見守っていた。
「私、悔しくて…」
倫心が俯いたまま、絞り出すように話し始めた。
「悔しかったんだね」
佳純は倫心の言葉をそのまま繰り返す。
「最初に採用した、障がいのある社員さんが会社に来れなくなってしまって…」
「そ、そうなんだ…」
倫心の悩みが予想よりずっと重い内容だったので、佳純は狼狽えた。
「研修で習った通りに、毎日体調報告をしていただいていたの。
何も問題はなかったはず。就業時間も気を付けて
定時で退社していただくように声掛けもしていた」
突然、倫心が顔を上げ、まくしたてるように話し出したので、佳純は驚く。
倫心は感情に任せて話し続けた。
「『ダブルチェック』が配慮事項だったから、
仕事の確認は都度したつもり。それでも不安だったのかな。
人事業務の経験がある方だったの。仕事もすぐにこなせるようになって…。
だからって、色々と任せすぎたのかな…。
最初の1週間は、困りごとはないか毎日聞いていたし。
直接言いづらい時は、チャットでお願いしますとも伝えていた…。
どうすればよかったのかな…」
「居場所を失うのが怖かったんじゃない…」
佳純は、思わず口から出た自分の言葉に狼狽える。
「ごめん、私、ツグちゃんの会社のことは分からないし、
人事の仕事も分からないのに…。ツグちゃんは頑張ったと思う」
「どうしたの…遠慮して…。佳純ちゃんらしくない…。
思ったこと言ってよ」
「もう、人を鬼みたいに…。『空気読めよ』『相手の気持ち考えろ』って、
数えきれないくらい言われきた私でも、遠慮くらいできるよ…。
泣いているツグちゃんに気を使うことくらい、できる」
「佳純ちゃん…。ありがとう。相手の気持ち、ちゃんと考えられてるよ」
倫心の言葉が佳純の心に刺さり、目に涙が浮かぶ。
「佳純ちゃん、聞かせて、『居場所を失うのが怖い』ってどういうこと?
やっぱり、配慮が足りなかったってこと?」
「違う。ツグちゃんのことだから、居場所作りはしっかりしてたと思う。
仕事のことは分からないけど、私はツグちゃんを知っているから」
「佳純ちゃん…」
「でもね、失ったことがある人間には、それだけじゃだめなの。
『なんでも言ってください』って言われたって、
疲れているとか、難しいとか、ありのままを話したら、
『使えない』って思われるって思ったら、
言えないんだよ。『居てくれないと困ります』くらい言ってくれないと
安心できない。怖くて、フェードアウトしちゃう…」
「…そうだよね。私、大切なこと、ちゃんと伝えてなかった…」
「ごめんね。『使えない』って言われた私が…偉そうに…」
「佳純ちゃん、『居てくれないと困ります』。佳純ちゃんが居なかったら、
私、出社できなくなってたかも。ありがとう」
「ツグちゃん…。なんか、羨ましい。飛んじゃったその人が、羨ましい。
いなくなった後に、どうすればよかったか、こんなに考えてくれる人と、
数か月でも一緒に働けて…。後悔しているかもね…。
ツグちゃんの真剣さを見てきたんだから、その人も…」
「私に権限はないけど、諦めたくない。できることはするつもり」
「ツグちゃんらしいね」
「体動かしたい。体力つけたい。試合再開しよう」
「そうだね。せっかく準備したし」
二人はコートに向かった。
読んで頂きありがとうございます。




